ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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25.入浴剤

 学校帰りにフェイトがなのはとはやてをテスタロッサ家に引き連れて来た。何やら自慢気ななのは。なにやら休み前テストなるものを受けたらしいが、今日返されたとのこと。

 なのはが突きつけるように国語のテストを見せてきた。そういや前に国語の話してたな。

 

「0点、なにやってたの?」

「70点だよ!?」

「なのはちゃん、指で7が隠れとるで」

「あぁ!?」

 

 ふむ、ギリギリとはいえ目標は達成したようだ。内容を見れば相変わらず熟語、ことわざが弱い感じだけど全滅はしてない。間違ってる問題も惜しいものがチラホラと見られる。

 うんうん、頑張ったんだろう。だけど、

 

「よかったな、国語苦手の汚名挽回だね」

「うん!」

「………………ふはっ」

「なのは、そこは汚名返上だよ……?」

 

 ふはは、まだまだのようだな。

 なのはがピシッと石像のように固まる。今まさに名誉返上、汚名挽回したようだ。はやてとアリシアが笑いをこらえようとするがブフォッと何度か吹き出す。

 みるみる顔を赤くしこちらを睨んでくるなのはさん。

 

「もー!」

 

 なのはがポカポカ叩こうとするが先制攻撃、もとい口撃、押しきれ連続口撃。

 

「やったね、これで次のテストも慢心せずに心堅石穿モットーに虎視眈々と上位を狙って大器晩成出来るよう頑張れ!」

「しんけ……こし、たいば……え?」

「開始5秒、ナナシの四文字熟語三連撃になのは選手対応できずフリーズ! 敗因はなんだったのでしょうか解説の――フェイトさん?」

「わ、私!? ……えっと国語力がなのはよりナナシが高かったこと?」

「うぅ……認めたくない、認めたくないよぅ」

 

 なんでだ、汚名挽回させんぞ、いっそのこと卍解させんぞ。

 ――汚名卍解! 魔法少女じゃなくて死神だったのかなのは。バリアジャケットを俺の浴衣みたいにして、友情努力勝利をモットーにした漫画の死神っぽくしようか?

 

「いらないから」

「待機状態は刀にして」

「それ待機できてないから! やる気満々だよ!?」

「シグナムさんあたりは喜びそうだけど」

「やめてぇや、うちの家族から銃刀法違反者出るんは嫌やで」

 

 手元の手帳にレヴァンティン待機状態改造案を書き始めてたアリシアがピタッと止まる。というかシグナムのなら改造しないでも常にデバイスのまま持っとけばいいじゃん。鞘まで付いてるんだし。

 関係ないけど手元の手帳って頭痛が痛いみたいだよね。

 

「結局なにしに来たのさ?」

「取り敢えず目標の70点取れましたって報告やな」

 

 教えてもらった手前、報告しておこうって話になったらしい、律儀ね。なのはが持ってきてくれた翠屋のシュークリームを頂くため家にあがってもらう。

 と、リビングで子犬モードのアルフがいた。そう狼じゃなくて、子犬モードだ。なんでも狼でいるよりも燃費が良いらしく海鳴にいるときには基本的に子犬モードでいる。

 

「アルフさんお久しぶりです」

「おー、なのはじゃんかぁ。今日はどうしたんだい?」

「シュークリーム持ってきてくれたんだってさー」

 

 いや、テストを見せに……なのはに口を塞がれる。いいじゃん、70点。良くも悪くもない中途半端な平均点くらいの70点、パッとしないね。砲撃当てた相手はパッとするのに、主に消滅させる的な意味で。俺の記憶は一時的にだけど消滅したぞ。

 

「記憶が戻ってたなら消滅じゃなくない?」

「おっと……なのはに国語で一本獲られるわけにはいかない。なにか反撃の糸口を見つけねば」

「見つけなくていいよ!」

 

 捻り出した結果、一時的にってつけてたじゃんということに気づいた。はやてにこれでどうだとジャッジを求める。

 

「消滅って跡形もなくなることやしなぁ……ええとこイーブンやろ」

「畜生……チクショウ……!」

「ここまで悔しがられると素直に喜べないよ……」

「あ、アハハ。取り敢えずみんな座ってよ、飲み物取ってくるから」

 

 フェイトとアリシアがジュースを持ってきてくれたので皆でシュークリームをいただく。しかし美味しいな、はやても料理は上手いけどさすがプロというか翠屋の菓子はまた一段と旨い。

 アルフも人型(低燃費系幼女モード)で一緒に食べているが……

 

「人型のときもちっさくなるんだな」

「んー? まぁこっちの方が燃費がいいんだよ。フェイトへの負担もかなり減らせるしね」

「そうか、使い魔と契約したら魔力が持ってかれるんだったな」

「あんたが契約すると行き倒れになってそうだよね」

 

 そんな気がするな。使い魔に供給する魔力で魔力切れ起こしてぶっ倒れるとかありそうで泣けてくる。

 少し羨ましいと思っていたんだけど、俺には無理そうだ……

 

「クッソゥ、八神家からザッフィーを連れ出してやる」

「ザフィーラは使い魔ちゃうし、うちの子は渡さんでー」

「仕方ない、こうなったら無限書庫で絶賛過労死しそうなユーノを連れ出すしかないか」

「ユーノくんは人だから、フェレットの姿が本体じゃないから」

 

 八方塞がりだった。別にそこまで使い魔欲しいわけじゃないけど無理と言われればやりたくな……あ、これ悪ガキの発想だわ。

 と、何故かアリシアが肩に手を置いてきた。なにさ?

 

「私たちにはデバイスがあるよ……」

「そうだな、こうなったら全自立式のデバイス作ってやろうか」

「ぬいぐるみにでも突っ込んでファンシーな見た目にしよう」

「そこの生ける暴走列車二両、管理局のおじさんがそのデバイス使ってるとこ想像してみ?」

 

 髭生えた武骨なおっさんがくまさんやウサギのぬいぐるみ持ってリリカルマジカル変身☆

 ……世紀末かな?

 犯罪率は減りそうだけど一般市民の精神もガリガリ削られそうなのでやめよう。

 

「待って、なんでかけ声がそれなの!?」

「前に無限書庫でユーノに会ったときに、なのはがよく言ってたって聞いた」

「ユーノくん……!」

 

 ちなみにその頃が一番魔法少女らしかったとも聞いたよ。フェイトと戦い始めたあたりから魔法が魔砲に、リリカルマジカルじゃなくてマジカルキャノンになったとか。

 

「魔砲って……キャノンって……」

「そういや、なんでなのはってば日本語は苦手なのにミッド語は得意なの?」

「ミッド語っちゅーか、こっちで言う英語やな」

「え、だって日本語よりシンプルなんだもん」

 

 おい、日本人。確かに英語だとYouで終わるものも日本語だと貴方、君、貴殿、そなた、あんた、お前etc……といくらでも出てくる。出てくるけどさ、第一言語じゃん。生まれたときから付き合ってる言葉じゃん。

 

「そ、そういうナナシ君は英語どうなの!?」

「露骨な話題の逸らし方だが乗ってやろうじゃないか」

「あんた、いつも一言余計だからプレシアに焼かれそうになるんだよ」

 

 知ってた。そしてなのはは英語の問題文を出してくるが完全に忘れている。ミッド語と英語――ほとんど同じなんだぜ? 今さっき話してたじゃん。

 

「How have you been?(調子はどう?)」

「I'm tired.(疲れてる)」

「Why?(なんで)」

「Because I'm teaching Japanese to my friend.(なぜって友達に国語を教えてるから)」

 

 うぐっとなのはが言葉に詰まる。あれかな、きっと俺が英語出来たことに驚いてるだけで受け答えに問題があったとかじゃないだろう。

 

「いやー、でも心配だなぁ。なのはさんや、英語合ってた?」

「つ、疲れてる理由以外合ってると思うよ?」

「ちなみに日本語訳すると友達に勉強を教えているからってなるんだけど。どうマイフレンド」

「なんでナナシくんは英語まで……あっ! ミッド語と英語ってほとんど同じ……!?」

「Hey.What feeling now? What feeling now?(ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?)」

「もぉぉぉ! 絶対、絶対見返してやるんだから……!」

 

 まぁ、いつかは出来るんじゃないかね。こっちはフェイトの教科書たまに覗き見してる程度だし。対してなのはは何だかんだ根をあげそうになりつつも持ち前の不屈の心で必死に勉強し少しずつだが点数を伸ばしてる。

 褒めないけどね! 語彙力で勝ってる間は教える側に居てやる。

 

「けど英語の教科書とかではなかなか奇抜な文章が多いんは不思議よなぁ……」

「ま、そういう有り得ない例文を使ってるのは印象に残りやすくして覚えやすくするためだからな」

「へー、そんなんだ」

「ナナシ博識だね」

「…………ナナシが嘘ついてる顔してる」

 

 案外思いつきの嘘でも信じてもらえるよね。最後にアリシアが余計な一言を言ったせいで、俺に視線が集まってるけど気にしない。はやてとなのはが頬を引っ張るけど気にし――痛い痛い、ごめんなさい嘘です!

 

「ナナシって妙に信憑性ある嘘を言うからわからないよね」

「えー、フェイトたちが純粋すぎる気がするよ。私は普通にわかったし」

「そのせいで俺のほっぺたが大惨事だ」

「でも嘘ばっか言うとったら狼少年みたいになるでー」

 

 あぁ、あの狼が来たと嘘ばっかり言ってたら最後本当に狼が来たときに信じてもらえず、最期になっちゃった少年のお話か。

 

「じゃあ、逆狼少年になろう」

「逆ってなんだい?」

「本当のことばかり言って信頼度を上げておいて、最後の最後に大嘘をついて裏切る」

「ゲームにおりそうやな、終盤で裏切るキャラ」

「でも魔力ランクEのあんたが裏切ったところで」

「それ以上はやめよう、私にも流れ弾がくるよ」

 

 そんな会話をしているとふとメールが来た。ちょいと席を外して見てみるとスカさんからだった。

 

from:ジェイル・スカリエッティ

件名:娘が12人になりました。

本文:仮定の話だがポッドに浮かんだ脳みそを綺麗にするとしたら君ならどうする?

 

 意味がわからないし、件名の方が重要っぽい。まぁ適当に返信すればいいか……取り敢えず、ご出産、おめでとうございます、と。あ、生んだわけじゃないだろうし出産は消すか。

 脳みそを綺麗にする? 知らん。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ヴーヴーとスカリエッティの携帯が振動する。

 ついさっきナナシへと送ったメールが返ってきたようだ。

 

from:ナナシ

件名:おめでとうございます。

本文:入浴剤でもいれればいいんじゃないですかね?

 ps.なんでメアド知ってんの?

 

「ほう……」

 

 返信されたメールを見てスカリエッティの頬はニヤリとつり上がる。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 とある管理局の偉い脳みそ三つは凄く焦っていた。己の信ずる正義のために下準備をしている最中に予期せぬ事態に陥ったのだ。

 

「スカリエッティめ……!」

 

 その原因はジェイル・スカリエッティ。脳みそ三つ(以下三脳)が生み出した世紀の科学者なのだが、最近まで手足と動かしていたスカリエッティとの連絡が途絶えた。

 何度連絡を取ろうとしてもソープやデリヘルにしか繋がらなくなっている。そんなものに繋げてどうしろというのか、間違いなく身体のない自分達への遠回しな嫌がらせだと三脳は確信していた。

 それに保険のために用意していた“首輪”も機能しない。起動させようとするとエロいサイトに繋がって身に覚えのない請求が山ほど来た。

 

「どうかなされましたか?」

 

 その室内、三脳が存在する部屋には一人の女性がいた。その女性はポッドの管理などを任されているのだが、三脳たちの様子を見て質問を投げ掛けた。

 質問をしつつポッドに近づいた。

 

「いや、なんでもない。気にせずにいてくれ……待て、何をしている?」

 

 ガシャンッとポッドに梯子をかけた女性はポッド上に登り蓋を開ける。

 

「待て待て待て! 何をしようとしている!?」

「止まれ! 止まれ!」

「その手に持っているものはなんだ!?」

「何と言われましても……入浴剤ですが?」

「入浴剤ですが? じゃあないだろ! 貴様それをどうするつもりだ!?」

「どうと言われれば……こうですが」

 

 サラサラサラーと粉末状の入浴剤が三脳のポッドに入れられる。しかもシュワシュワいっている。

 この女、炭酸の入浴剤入れやがった。

 そんな大惨事の元凶である女性が自らの顔を撫でるように手のひらを当てると――

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉ!? なっ、き、貴様!?」

 

 スカリエッティの次女ドゥーエの顔となった。

 

「ドクターからの指示ですみません、久々のお風呂楽しんでくださいね。ではさよならー」

 

 なったのはいいがアッサリと出ていった、手をひらひら~と振ってにこやかにサヨナラして行った。普段、最高評議会と呼ばれている三脳の世話をしている女性になりきってやったこと――入浴剤を入れたのみである。

 

 颯爽とドゥーエが去っていった部屋に取り残されたのは、シュワシュワする炭酸まみれになった三脳だけであった。

 

 

 

 

 ――1時間後。

 

「正義のためにとは言え危ないことはいけないのぅ……」

「儂ら年寄りは若者たちの行く末を見守るくらいがちょうどよいじゃろ……」

「茶でもすすって見てればよい……と言っても脳みそには無理じゃがな、ハハハ」

 

 綺麗な脳みそが出来上がっていた。

 

 ~fin~




ここまで読んでくださった方に感謝を。
活動報告でも書いてましたが、ちょいと熱やらなんやらでなかなか書けなくてすみません。
まだ熱あるで、また期間が開くやも。あと中々粗い気するんで違和感あったらすまない……すまない。

三脳退場、縁側で孫を見守るかのようにゆっくりしててね。

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