アースラ内には色々な設備がある。航行に必要なものを除いても食堂や軽い娯楽施設などまで選り取り見取り。
そんなアースラにいる俺は設備のひとつである模擬戦用のフィールドにいた。対面にはニコやかななのはとフェイト。こっちには姉としての意地、男としての意地だけでここまで来たアリシアと俺、ついでに助っ人もといお助けデバイスのリインがいる。
「……ついにデイブレイカーが日の目を見るときが来たな」
「それ、私たちの夜明けを壊さない?」
「あー……ならアリシアのフォーチュンドロップは俺たちの幸運落とさねぇ?」
「お前たち、せめて気だけでも明るく持たないか?」
その通りだ、俺とアリシアはリインに頷き正面の二人に向かい合い宣言する。
「よっしゃあ! 全力を賭してかかってこい!」
「私たちの力、見せてあげるよ!」
「うん! お互い全力全開でやろうね!」
「久しぶりに姉さんたちと模擬戦、今回はなのはもいるからすごく楽しみだよ!」
死ぬー、後ろのリインに涙目で振り返ると困ったように眉を潜めていた。
「どうしてお前たちはそう極端なんだ……?」
何でかなー、今日ほどこの性格を後悔したことはないけど直すには手遅れだわ。症状的にも、タイミング的にも。
実はアリシアと作戦たてようとしたんだ、昨日の夜に。簡単に三桁以上のアイデアが出たけど、一緒に三桁以上の負けパターンが出た。どうやっても勝ち目が見つからん。
なのはは空戦機動が飛び抜けているわけではないので、なんとか攻撃を当てることが出来る。けど、防御の堅さが半端ではなくカウンターで叩き込まれる砲撃の威力は俺とアリシアの顔から表情が消える。
それに通常の魔力弾の操作の精密さ、その数も確実に俺たちが捌ける量を越えておりサンドバックになる未来しか見えない。
対して、フェイトは簡単だ。俺たちでもユニゾンした全力を当てれば、数撃で落とせる紙装甲……当てれば。
当たらない、超速い、速いとかじゃなくて
んでもって結論は、攻撃当たるかもしれない奴は鉄壁の砲台で、攻撃を当てたら落とせるかもしれない奴は超高速なスピードキチ。
「なにこれ、クソゲー」
「わかりきってたことじゃん。ほら始まるよ……始めは私がユニゾンでいいんだよね?」
「いえっす、リインよろしく」
「任せろ、可能なかぎり頑張ろう」
デイブレイカーをセットアップし、浴衣姿となる俺。このまま、祭りにでも行きてぇ。他の3人もセットアップし、戦闘準備が整ってしまう。
――そして、鳴り響く開始のブザー。誰よりも早く動いたのはフェイト。
しかし、あいにくその程度なら読めていたので出し惜しみなく
出し惜しみなくというか、広域攻撃しないとあの速度のフェイト狙えないだけなんだけどな!
「ユニゾンイン!」
その攻防の間にアリシアとリインはユニゾン、そして第一にとった行動は――俺の襟首をつかんで真横に思いっきり跳んだ。
直後、ボッと空気を焼くかのような音が通りすぎたのはアリシアが跳んだ音か。否、目の端に映るピンクのあんにゃろうのせいだ。当たり前だけど躊躇いなく撃つなぁおい!
「
「全くだ!」
そして休む暇なく舞い上がった煙を突っ切ってフェイトそん参上! なのはが魔力弾と砲撃での支援、フェイトがアタッカーね。
振りかぶられた鎌に対し、総ステータスが向上しているアリシアがシールドを張るがそっちじゃねぇ! 目の前にいたはずのフェイトが真後ろに現れ鎌を振りきる。
「どっ、せぇ!」
間一髪デイブレイカーで受けとめるが重い。段ボールに入ってたフェイトとか目じゃないな、このまま押しきられると思ったが何故かフェイトは身を翻し横へと飛んだ……あ、ヤバい。
「アリシア! プロテクション!」
「もう張ってるっわとぉぉぉぉ! なのはが重いぃぃぃ!」
「アリシアちゃん失礼じゃないかな!?」
「ぎゃーっ、重さが増したよ!?」
フェイトが押しきれる勝負を投げ捨てたのは、なのはの砲撃が来たからだ。ユニゾンしてるアリシアがなんとか止めているが足がプルプルしてきている。
このままどうなるかは火を見るより明らかなので、苦し紛れの一手を撃つ。打つのではなく、撃つのだ。
デイブレイカーのカートリッジを1つ弾き出し、心の準備。
「俺は出来る子、俺は出来る子」
「ナナシ何やってるの!? 早くぅ!」
「あいよぉ! ……ままよ!」
なるようになれと、アリシアのプロテクションから横に飛び出し、狙いもまともにつけずにデイブレイカーをなのはへ向ける。
――そして撃つのは、恐らく俺の遠距離最大威力の魔法。
「クイックバスター!」
《Quick Buster》
なのはのディバインバスターのオマージュ、オブラートを破り捨てて言うならパクり魔法。
俺の最大威力って言っても所詮魔力ランクE、バリア貫通力や魔力ダメージはディバインバスターと比べるまでもなく圧倒的に下である。
しかしなのはのように
速射されたそれは砲撃で身動きのとれないなのはの足元で爆散した。
「きゃあ!?」
「なのは!」
結果、ダメージは通らないがなのはは体勢を崩しバスターは途切れた。ついでに、嫌がらせのごとく土を浴びせることとなったけど許してほしい。
睨むなよ、ほらスマイルスマイル。
「もー! ナナシくんのそれはスマイルっていうか潮笑いだよ!」
「しお、笑い……?」
んー? しお、塩……潮で笑い。あ、嘲笑うか。
「なのは、それ嘲笑うか
「えっ、あれ?」
「なのは……」
「えっと、これはその……ええっとね……!」
フェイトにまでちょっと残念そうな顔を向けられて焦りに焦るなのは。
それはそうとして、少し離れたところでアリシアったらユニゾン解除して休憩してやがる。てか、灰になってて、リインが手で扇いであげてるのが見える。
「小学生が無茶して難しい言葉使うから……」
「な、ナナシくんだって年齢変わらないじゃん!」
「フハハー、それでも国語が苦手ななのはにゃ負けぬわ! それこそ、潮笑いが漏れるぜ」
そう言ってプッスーと笑うと、みるみる膨れてくるなのはの頬。
そしてジャキッという効果音とともに構えられるレイジングハートさんには底知れぬ威圧感……あ、からかいすぎた。
「リイィィィン!」
ばたんキューしてるアリシアが運ばれるのを見送ってるリインを必死に呼ぶ……え、アリシアが運ばれてるだと?
「魔力切れ、あとは頑張ってくれとイイ顔で言ってた」
「あんにゃろう……!」
「半分はお前が遊んでいたせいでプロテクションを張る時間が長くなったせいなんだが……」
つい、いつものノリで……いやそんなこと言ってる暇じゃない。制限時間1分とか気にするときでもない。レイジングハートさんの矛先には目を逸らしたくなる魔力が溜まってきている。
「ディバイィィィィン――!」
「ユニゾン――イン!」
「バスタァァァァー!」
ユニゾンし生えた3対の翼で真上に飛び退くと同時、俺がいた場所はピンクに蹂躙された。
なのは激おこである、激おこプンプンファイナルディバインバスター相手は死ぬ。国語が苦手なのは事実なのに砲撃で誤魔化すとはなんてやつだ。
『潮笑いとからかうからだろう……』
「ぷっすー」
「あぁ! また笑ったぁ! フェイトちゃんいくよ!」
「えっ、あ、うん!」
あ、なのはがさらに怒って状況についてこれてなかったフェイトまで参戦してきた。
リインのせいだ、どうしてくれる。
『責任転嫁をされても困――そっちにいくな!』
「へっ?」
普段は空戦なんぞできない。ただユニゾンにより生えた翼で調子のって飛んでた俺は、忠告を受けるも止まれず――ガチンッ!
小気味よい音たてて発動しくさったライトニングバインドに見事に引っ掛かり、捕獲された。あ、状況についてこれてなかった訳じゃなくてバインド設置してたのか。フェイトったら、案外抜け目ないね。
「いくよ、ナナシくん! これが全力全開、私たちのコンビネーション!」
「待て待て待て! おい! オーバーキル過ぎんぞ……!?」
『……始めるときに全力を賭としてかかってこいって言ったのだーれだ?』
「言ったのおーれだ! ちょっ……オワタ」
駄目だ、バインドブレイクとか出来ないしなんかピリピリするしこれ。
……もう、ユニゾンも限界だ。目の前のマジカルにラジカルな状況に似合わぬ、ポンッというコミカルな音とともにリインが出てくる。
さすが1分、何もできなかったぜ!
「ゼハッ! ゼハッ! り、リイン……お前だけでも逃げろ……!」
「いや、私だけ逃げるなど」
「いいんだ、あんなもの……はぁはぁ、二度も受ける必要ないんだッ!」
闇の書の暴走プログラムを引き剥がすためにお前は一度受けたじゃないか……こんなもの二度も受けてみろ、確実にトラウマになる! そうなれば、八神にも申し訳がたたないじゃないか。
「くっ、だがっ!」
「いいから、逃げろぉぉオオ!」
「ッ! すまない!」
そうして去っていくリインの背を見送る……正面では既になのはとフェイトたちの姿が光で見えないほどの魔力が集束し始めている。
ピンクと金色が訓練場という普段は味気ない空間に、綺麗なグラデーションを描いている。
思い返せば色んなことがあった。転生……たしか転生だったよな? 次元漂流だったか? まぁ、どっちかをしたあのときから思えば今の状況は考えられなかったな。
寝床すらなかったあのときは大変だった。魔法を初めて見たときには一度死んじゃったしな……あのフェイトには悪いことした。
そのあとは八神と図書館で出会って、なのはとフェイトとの戦闘に巻き込まれて――
「全力全開!」
「疾風迅雷!」
あ、時間切れッスか。
「「ブラストシュート!!」」
何て言うのかな? 光の洪水、いや濁流? ピンクと金色の壁か。俺とフェイトたちの僅かな空間を彩りながら押し寄せてくる。やけに遅いな――違うか、精神的に極限的すぎてスローモーションに見えているだけだな。
「ナナシの人生、ここまでのようだ――御免」
痛いとかじゃなかった、徹夜を幾度となく繰り返したあの疲労がまとめて襲ってくるかのような――――
▽▽▽▽
えらく頭が痛いし、全身の倦怠感が強い。なんで寝てたっけ? この頃は普通に徹夜せず過ごしてたんだが……あ、ここアースラだ。
「あ、ナナシ起きた!」
「身体は大丈夫か……?」
「お、アリシアにリインおはよう……どうした?」
「記憶が……トんでる……!?」
「え、記憶喪失とかなにそれ怖い。俺に何があった」
ない頭を捻り思い出す。昨日は八神家でリインに何かお願いしたし、今日はアースラに何しに来たか。
徹夜なしで倦怠感あるってことは魔力がないのか……それでリインがいるってことは、だな……これ思い出さない方が幸せな気がしてきた。しかし、ジワジワと記憶が戻ってくる。
「俺ユニゾン出来て調子のってフェイトとでも模擬戦した?」
「ううん、なのはとフェイトだよ」
「そしてお前はユニゾンが解けた状態でブラストカラミティを受けて……」
「俺、馬鹿じゃねぇの?」
何があったのかふたりに聞いたけど、なかなかに馬鹿である。戦闘的には俺が、国語的にはなのはがな!
さすがに潮笑いが漏れるぜ。ぷぷっ!
「うーん、このナナシの成長しなさ」
「え、なにが?」
「いやぁ、ナナシはそのままでいてね。見てて面白いし」
「さすがの俺も成長くらいしたいんだが」
なのはたちはクロノに叱られてるそうな。さすがにやりすぎだと、訓練ルームに轟いた衝撃はアースラ内に響き渡り危うく警報まで鳴りかけたと。
あとそんなもんミソッカス魔力な俺に撃つなと、精神的に弱いと発狂するぞって。
「どんだけだよ」
「魔力ダメージとはいったい何なのか疑問に思うな」
「ナナシ、リインはよくトラウマに……いや、ナナシは自己防衛的に記憶無くしちゃったけど」
「ピンクとな、金色の壁が押し寄せてくるんだ……その寸前にな、全部がスローになってな」
「無理に思い出さなくていいから!?」
まぁ今は生き残れたことに感謝しよう。
「さて、今日は主が腕によりをかけて晩御飯を用意してくれるらしい。それでテスタロッサ家も来ないかと言っておられたがどうだ?」
「行く! ナナシにはやての料理は美味しかったって聞いてるよ!」
「プレシアさんにも連絡いれとかないとな――うわ、もう返信来たぞ。プレシアさんも行けるって」
その後、なのはも行くことが決まった。その日の晩はとても賑やかな夕食となったのは言うまでもない。
▽▽▽▽
夜、八神家は、
「あの、プレシア女史。テスタロッサ――いや、フェイト・テスタロッサの件は申し訳なかったと思っている……怒気を収めて貰えないか……」
「ふふふ、大丈夫よ。フェイトも気にしてないって言ってるから全然気にしてないわ、ええ全然大丈夫よ」
「おい、ナナシ助けてくれ……!」
「シグナムさん、何でこっち来る。フェイトかアリシアにヘルプ求めろよ!」
「はやて、自分の親をこう言うのもなんだけど……あれが親バカだよ」
「あははー、何や凄いなぁ」
「か、母さん私は本当に気にしてないからやめて!」
「なのは、あっちで飯食おう」
「あ、ヴィータちゃん待ってー」
「私もあっちで食べることに……」
「逃がさんぞシャマル」
――本当に賑やかな夕食となった。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
危うく魂的なナニかと分離しかけたナナシ。
リインと傍目には茶番やったりしてたけど本人たちはいたって真剣。
あと四次元空間は倉庫、戦闘用じゃない。いいね?彼はもう無印編で頑張ったから。