俺とアリシアが、レイジングハートやバルディッシュを強化した理由。
というか、その理由の事件。それの中心にあるものをようやくクロノから聞いた。
――“闇の書”。主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージ……だったのだが、歴代の持ち主の頭がすごぶるいいくせして、考えることがおかしいタイプの人間によって改変された。
「改変というより改悪だね、“ナハト”かぁ……」
「旅する機能が転生する機能に、復元機能が無限再生機能になったんね……転生だなんて親近感わくな」
「そして本当の名前、改悪される前の名前が“夜天の書”。リンカーコアを蒐集することで、魔法をコピーする機能付きってのは怖いね」
怖いな、既になのはが蒐集されてるってことはスターライトブレイカーを撃てるわけだ。プレシアとか蒐集されちゃったら、もうどうしようもない。
蒐集をするという守護騎士は4人おり、それも一人一人が一般局員が束になっても勝てないほどの強さらしい。
「そうだねー。だから、なるべく母さんもアースラに来てて一人にならないようにしてもらってるんだって」
「俺たちも、一応の形でアースラにいるしな」
デバイス弄ってからそのまま滞在の流れだった。こんなミソッカス狙うか、怪しいけど念のためらしい。ミソッカスだから、襲撃されたら場合どうしよもないし。
「でも、このナハトって改悪プログラム外せば綺麗な闇の書……もとい夜天の書になるんだよな?」
「出来れば、の話だけどね。私たちには絶対無理だよ、闇の書の防衛プログラムが凍結されたうえで何世紀かかけたら出来るかもしれないけど 」
「不可能じゃねぇか」
と、そこでアースラ内のアラートが鳴り響いた。管理外世界にふたり、守護騎士が現れたようである。
なのはとフェイトが先行して向かうとのこと。俺たちもメインフロアに行くことにした。やっこさんのデバイスも見れたら対策たてれるかもしれんしね。
そしてたどり着いたメインフロア。
――メインフロアには鬼がいた。いや、あれは鬼神である。
俺たちが着いたとき目にしたものは、ディスプレイに映る、胸からリンカーコアを抜き取られたフェイト……それを見たプレシアがかつてない殺気を振り撒き次元跳躍魔法を放つところであった。
リンディさんが止めるが圧倒的に遅い、速さが足りない。大魔導師と自称するに値する魔力量、合わせて狂気的な親バカが可能とさせる魔法陣の展開速度。
アリシア蘇生のために、アースラに放った手加減ありのサンダーレイジなど目ではない。ただ、漏れ出す魔力だけで、空間が歪められているのではないかと錯覚してしまう……たぶん魔力のせい、殺気のせいじゃないはず。手心も手加減も何もかもを取り払った全力で全壊させんとす一撃が放たれると本能で察する。
さすがに色々マズイと感じた俺とアリシアも止めようと動くがやはりスロウリィ、圧倒的に速さが足りない。
数歩踏み出したところで――諦めて俺はアリシアの耳を塞ぐことにした。
「私の愛娘に手を出した■■■を×―×―しなさい! サンダーレイジO.D.J――!」
もうひとりの愛娘がいるところで何てこと言いやがる!? 自主規制ものだ、教育に悪いだろ……ってかサンダーレイジって広域攻撃魔法じゃ、範囲攻撃でフェイトも巻き込まれるぞ!?
画面を急いで見ると、フェイトのリンカーコアを抜き出した仮面の男が紫電に貫かれている……が、親バカの成せる技だろうか。フェイトだけ綺麗に避けて、仮面の男が雷に蹂躙され続けている。おー、陸に打ち上げられた魚類の如く跳ね回ってる……死んでないよな?
撃ち終わったがいなや、プレシアは息を荒くしながらも、ツカツカと転送ポッドに乗り姿を消す。
「アリシアさん! 貴女のお母さんを止めて!」
「無茶だよリンディさん! 私ってEランクだよ!?」
「ランクとか関係なく、娘の貴女しか止めれるとは思えないの……!」
「うぐぅ、ナナシ着いてきて!」
「行きたくないなぁ、俺なんてギリギリのEランクだぞ」
そうは言っても行かないとダメだよなぁ、プレシアったら仮面の男を■■して××しちゃいそうだもんな。逝きたくないなぁ。
アリシアにズルズルと引きずられながら転送ポッドに乗せられる――転送される瞬間のリンディさんやクロノたちの、出荷される食用家畜を見るような目が印象的だった。どなどなー、子牛の出荷よー。
……おっかしいな、この世界って、カラッとした天候してる砂漠じゃなかったっけ?
局地的に暗雲が立ち込めてて、雷落ちまくってんだけどなんでかな。
「現実逃避しなーい、母さんもさすがにそろそろ限界来るだろうし早く止めないと」
「次元跳躍魔法使ったうえに、あれだけぶっぱなしてたらな……」
フェイトを抱き抱えたプレシアが目に見えて疲労しているのがわかる、距離が少し離れているが肩で息をしているのがわかるのだ。
いや、しかし一撃目のアレが直撃したのに仮面の男はまだ動けているのか……? そう思い、動き続ける男をよく見ると。
仮面の男が……ふたり? ふたりいるぞ。傷ついたひとりを背負ってプレシアの猛攻を必死に避け続けている。
プレシアも疲労のせいか狙いが甘くなってきているかね。
「はぁん、見た目が全く一緒なところから、ひとりに見せかけて実はふたりでしたーって嫌らしい手を使うつもりだったな?」
「そんなことはいいから母さん止めるよー」
「イヤダナー、俺が話しかけたら撃ち抜かれそう」
外見、年下の女の子の後ろに隠れて移動するカッコ悪い男。チクショウ、俺だよ。
「母さん!」
アリシアが不意打ちで後ろから抱きつく。それにより、ピタッと動きが止まった。
その間に仮面の男が転送しようとしてるので、牽制にフォトンバレットを数発撃ち込んでみたら、倍速で倍量で強力な直射型魔法を撃ち込まれた。
しかし、俺が反撃を予想してなかったとでも?
――してませんでした。腹を撃ち抜かれて後ろにブッ飛んだ。ギャフン!
馬鹿め! こっちは本体だ!
「無茶しすぎだよ! 母さん自身にはそんな膨大な魔力があるわけじゃないんだから! それにフェイトも医務室に連れていってあげないと」
――そう、あんなレベルの魔力ぶっぱなすわりに、プレシア自身が膨大な魔力を持っている訳ではない。なにかしらの媒体からエネルギー供給を受けることで、自身の魔力に運用できる特殊技能があるのだという。
は、腹が……おっえぷ。
「ハァ、ハァ……えぇ、そうね。少し熱くなりすぎたわ。遠距離からの効率のよいエネルギー供給についても研究しないといけないわね……」
「あ、一応エネルギー供給してたんだ……」
「腹痛ぇ……ゴフッゴフ!」
あー、逃げられた。くそぅ、魔力ダメージだったのが幸いだったけど……フェイトもなのはと同じことをやられてたなら無事なはずだけど、念のため早く医務室に連れていってあげよう。
「……ナナシ立てる?」
「ごめん、手貸してほしい」
「はいはいっと」
「よっ、と!」
「考えなしのナナシー、母さんの攻撃をあれだけ避け続けてた相手に敵うわけないじゃん」
いやさ、体力削れてたらワンチャンねぇかなって。無かったわ。
両手両足縛って目隠ししてもらって、五分五分の勝負だと思う。
もう少し戦闘訓練するか悩む……伸びしろは知れてるけどな!
▽▽▽▽
結局、仮面の男には逃げ切られた。転送先を魔力から追っていたらしいのだが、途中でプッツリ途切れてしまったらしい。
そして、驚きの新事実。あの仮面の男は今回の事件、闇の書の守護騎士じゃないとのこと。
本当の守護騎士はプレシアの雷撃を探知した瞬間に、転送で逃げたらしい。その速さは韋駄天を彷彿とさせるスピーディーなものだったと聞く。
「そして、ちゃっかりフェイトのリンカーコアは吸収していったと……」
「うん……姉としては怒るべきだけど、やることやってから
「ある意味俺たちに一番あったスタイルだな」
てか、守護騎士の映像見るつもりだったのに結局見れてない。もう、写真でもいいから見せてくれよ。
翌日、眠っていたフェイトは目を覚まし休養としてゆっくりしていたところ、なのはがやってきた。
「こんにちはー、フェイトちゃん、体調はどう?」
「あ、なのは。いらっしゃい、うん、もうだいぶん良いよ……母さんが来てくれたおかげで、リンカーコアも蒐集されきってなかったみたい」
「凄かったって聞いたよ、いいお母さんだよね!」
「サンダーレイジで仮面の男を狙い撃ちですよ。魔力ダメージとか関係ないんじゃないかってくらい、身体から煙上がってた」
「聞いてたより、えげつなかったの……」
ピョンピョン上がってたなのはのツインテールが、シュンと下がった。
「あ、フェイトちゃんも病み上がりなんだけど、明日すずかちゃんのお友だちのお見舞いに行こうって今日話してて……どうかな?」
「あ、行くよ。もう、私は大丈夫だし。その子はどうしたの?」
「今日、急に倒れちゃったみたいで……大事をとって入院したみたいなの。はやてちゃんってお名前なんだけど」
…………え? なのは今、はやてって言ったか? はやてが倒れて入院したって言いました?
関西弁でノリがいい感じで、料理美味しいわ嫁力
「そ、そこまでは言ってないよ! ……ナナシくん知り合いなの?」
「生息地が八神家と図書館なはやてなら知り合いだけど……」
入院したなら連絡くらい入れろよ……! あ、連絡先交換してねぇや。てか、携帯無かった。
「ナナシくんも知り合いなら一緒に行かない? 海鳴大学病院に入院してるみたいで――」
海鳴大学病院ね、見舞いには行きたいんだけどな……
「うーむ」
「ナナシが見舞いは行きたいけど、知らない子に混ざっていくのが嫌で悩んでるのがありありとわかるね!」
「エスパーか」
その通りだよ、知らない女子に囲まれたままアウェーな感じになるのは気まずいしヤだ。
「えー、ナナシくんも一緒に行こうよ!」
「そうだね、何だかんだではやてのお見舞いには行きたいし、知り合いとして入院した何て知ったなら行くべきだよな」
「うんうん! だから」
「だが断る。今から行ってきます」
ええー!? ってなのはが元気よくプンスカなってるけど無視する。お前は女子の中、男子がひとりの浮き具合を知らんからそんなこと言えるのだ。
まだ、夕方。面会時間ギリギリにはつけるでしょ。
「行ってくる」
「お土産よろしくー」
「忘れてるだろうけど、今テスタロッサ家は海鳴市にあるからな?」
「あっ……お土産話よろしく」
「お見舞いに行くだけでそんなもんできるかっての」
アリシアとごちゃごちゃ喋ってから、アースラの転送ポッドの使用許可を貰い、テスタロッサ家のポッドへと転送される。
海鳴大学病院に行く道すがら、お菓子を買い込み四次元空間に入れていく。この倉庫ホント便利。
▽▽▽▽
さて、病室は看護師さんに聞けた。友達って言ったけど間違ってないはず……友達だよな?
あれ、もしかしたら俺って八神に変な奴としか思われてない可能性もある気がする。
目を逸らしたくなる可能性からは、素直に目を逸らしておこう。
っと、ここか。
「コンコンコンコン! 旅のものです! 入れてくだ」
「僕ー、病院内では静かにねー」
「あ、すみません」
なんか、ボケてネタ振りしたくなった衝動が押さえきれず……余裕で看護師さんに注意された。
改めてノックすることにする。
「もしもし、俺俺、魔法使い。今あなたの部屋の前にいるの」
「もしもし、私私、はやてや。今あんたの後ろにいるんやけど、てかツッコミどころ多すぎや」
「ふぉぉぉぅぅ!?」
後ろから八神に不意打ちされた。振り向けば、車椅子に乗った八神が笑顔で手を振っている。笑顔っていうより「うちの勝ちや」って感じの誇らしげなドヤ顔だけど。
「八神ひとり?」
「そうやでー、まぁま、何もないとこやけど入ってーな」
「ま、病室だしね」
「あはは、そやね」
今は八神ひとりで、あとでシャマルさんが来るらしい。どうやら病院の外にいたのは、自販売機に飲み物を買いに行っていたようだ。
「それで今日はどうしたん?」
「風のなの三郎さんからの噂で八神が入院したと聞いてだな、お見舞いにきた」
「わー、わざわざありがとうなぁ……又三郎やなくて、なの三郎?」
「なの三郎」
明日会えると思うよ、お供をつれて何人かで来るはずだから。
「身体はどう? 倒れたって聞いたけど、どこか痛むのか?」
「そんな心配せんでもええって、ちょっと胸のあたりが痛んだだけやし」
「うーん、魔法使いらしく治してやれれば良かったんだけど」
俺は目に見える外傷しか治せないのよね、しかも軽症にかぎる。胸の痛みなんてとても治せん、ここで治せりゃかっこいいのにね。
だから、代わりといってはなんだけど。
「八神、手出して」
「手ぇか?」
「うん、砲撃も雷撃も撃てない魔法使いからのお見舞いをあげるから」
「……普通、魔法使いって砲撃も雷撃も撃たんのちゃう?」
「いやいや、今どきバリバリ撃ってくるから。世界を越えて撃ったりするから」
では、先ほど買ったお見舞いの品を渡すことにする。四次元空間から八神にお菓子を落としまくる。
「わー、今度は飴だけやないお菓子の雨かぁ…………って多い! 多いで!」
ベッドの上が、お菓子で埋もれそうなくらい落としまくってやった。どないしようかな、これって顔で八神がベッド上のお菓子を眺めてる。
「食べきれなかったらヴィータとかに分けてあげれば喜ぶと思うよ」
「あ、そうやね。でもこんなにたくさん、ありがとうね?」
「いえいえ、イッツ・ア・
実際は買い込んだものだけど、敢えてそんなことはバラさない。
「うん、
「種はあるけど仕掛けは、俺もわからんマジック!」
「うーん、手品師としては三流や」
「魔法使いだからいいんだよ」
四次元空間が魔法に分類されるかは微妙だけど……ま、俺は本当に魔法使いというか正確には魔導師だし間違ってないだろ。まだ、泥棒にはなってない。
それにしても、そろそろ12月半ばを過ぎる。クリスマスまでには、事件も解決できて八神も退院できてるといいと思うこの頃である。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
プレシアって条件付きとはいえランクSSになれるんですよ、ぶっちぎりです。