ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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 この話は魔法少女リリカルなのはGODサウンドステージMを元に書いた話となります。なので、そちらを聞いたことがない方には所々分かりにくいところがあるかもしれませんことを、ご了承いただけるとこれ幸い。
時期的にはサウンドステージMとAの間となります。


EXTRA.王様と臣下、盟友

 ある晴れた日、とある一軒家の玄関には膝下ほどの高さで遺跡にでもありそうな、いかにも(・・・・)な正方形を型どる物体が鎮座している。ちょうど急いでる人間には見えにくい大きさだ。

 そう、そろそろ朝食が出来そうなので外にいる同じ家に住まう住人を呼びに行こうとした人間なんて、上手いこと足の小指をぶつけてしまいそうだ。

 

「――いッッッ!?」

 

 痛打した、ものの見事に足の小指をぶつけた。そんな不運な灰色の髪の少女は目に涙を溜めて吠えた。

 

「レヴィィィィィィぃぃいい! あれほど玄関にものを置くなと言ったであろうがぁぁぁ!」

 

 ぶつけた片足を上げてヒョコヒョコと外にいる、この正方形を置いたであろう犯人を叱りに行く少女は気づかなかった――その正方形の物体から妙な音が鳴り始めていることに。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 11月、この頃少し寒くなってきました。約二ヶ月掛かったがついに完成した。俺たちのデバイスが、俺とアリシアのデバイスがである。

 

「カートリッジシステム搭載“フォーチュンドロップ”完成だよ!」

「同じく、超初心者用デバイス改め……なんだっけか、えー……仮名“ウィークワンド”!」

 

 アリシアのデバイスは銃を模している。カートリッジはリボルバーとして組み込まれており、取り回しの良さに重点が置かれている。

 俺のデバイスは直訳で弱者の杖、思いつかなかったから……いや、すまんってアリシア。でもパニッシュメントとかトワイライトとか勘弁してくれ、名前負けも甚だしいだろうが。

 

「でも、さすがにデバイス名を“太郎”にしようとしたときは、私のスパナが返り血にまみれるところだったよ」

「実際振り回したもんな、太郎がいなきゃ死んでた」

「仮名として! ウィークワンドね! ……やー、でもスパナの件は徹夜明けで沸点が低かったからごめんね」

「俺も正直徹夜明けで考えるのめんどくさかった、すまん」

 

 スパナを振り回すアリシアと、ひたすらシールドを張り続ける俺の異常な光景は、お互いのためこれ以上掘り下げるのは止めよう。

 ただ、シールドに張り付きスパナを乱打する姿は鬼神じゃねぇのかと錯覚するレベルだった。まぁ、精魂込めて作ったデバイスに“太郎”はないな。

 ついでにウィークワンドって名前も不満らしく、現状仮名としてつけている状態だ。

 

「あっ、そういえば、近頃事件が起きたんだって」

「事件くらい、いつでも起きてないか?」

「んー、そうなんだけど今回のは結構特殊なケースみたいでね。局員がひとり被害にあったみたいなんだけど、発見されたときにリンカーコアがかなり消耗してたみたい」

「リンカーコアって消耗するもんなんか。なに魔法の使いすぎ?」

「ううん。限界を超えた魔法の行使で消耗することもあるけど、今回は違うね。無理矢理削られたような感じみたい、命に別状はないって聞いたけどね」

 

 聞いたって……プレシアだろうなぁ、割りと俺もニュースとか見てるけどそんなのやってなかった。察するにまだ一般には伝えられてない情報なんだろう。

 プレシアがどう知ったかは知らないけど、裁判中でも既にある程度の人脈とかつくってんだろうなぁ……あの悪い笑みがありありと思い浮かべられる。

 

「まぁ、辺境世界で起こったことだからミッドは関係ないだろうけど気をつけなさいって母さんが言ってたよ」

「了解……だけど俺ら削るほどリンカーコアが」

「ナッシング! 削られたら無くなりそうだよね」

「魔力を失ったアリシア・テスタロッサ。しかし、彼女は新たな力を手に入れた!」

「スパナ系フィジカル少女アリシア参上! 今宵のスパナは血に餓えてるよ!」

 

 なんかグロい。それにお前フィジカルっていうほど動けないじゃん。

 今のアリシアのバリアジャケットは改造が施されて、シンプルなノースリーブの白いシャツにエメラルドのネクタイとスカートだ。

 しかし、スパナ系フィジカル少女になると真っ赤になってそうだ。ナニで赤く染まるかは知らないったら知らない。

 

「バリアジャケットといえば、ナナシのやつも弄ろうよ。そのままとか無個性だよ」

「じゃあ……無個性な黒髪黒目を活かした和服にする。あんまミッドじゃ見ないから個性は出るだろ」

「オッケー。あとナナシほどの黒髪黒目って、何気に珍しいからね?」

 

 ホントに真っ黒らしい。ふむ、魔法ものだったら闇属性とか得意そう……あ、ここ魔法ある世界だったけど、俺大して魔法使えねぇ。何か悲しい現実をひとつ実感した気分だ。

 

「じゃ、水色の浴衣に藍色の帯で設定しとくね」

「デザインは任せた」

「任せろー、バリバリー。バリアジャケットだけにね!」

「5点、出直してこい」

 

 それから少したちバリアジャケットの設定を変更したワンドを受けとる。

 まだお昼過ぎなので、さっそく新デバイスの性能を確認するため外へと出ることにした。

 ミッド市内で好き勝手に魔法撃っちゃうと局員が比喩なく飛んでくるので、魔法の使用許可のおりるところへ向かう。

 

 ――と、

 

「……え?」

「……はっ!?」

 

 気づけば高々度、遥か上空にいた。自分でも何言ってんのかわからんけど、外に出て数歩歩いたらお空にいた。

 

「きゃぁぁぁ!? 何これ!?」

「知らねぇぇぇ!? てか怖い怖い怖い! 落ちてる!」

「ナナシ、セットアップ!」

「セットアップってなに?」

「今さら何言ってるの!? デバイスを起動して!」

 

 あ、一般的なデバイス起動の掛け声がセットアップだったっけ……そのとき思いついた言葉で起動させてたわ。

 

「「セットアップ!」」

 

 その掛け声とともに俺たちは光に包まれ――変身シーンを細かく説明する暇もなく落下を続けていた。

 何だこれ、転送テロか!?

 

「ぶっつけ本番だけど、カートリッジロードして全力でプロテクション張って!」

「飛行魔法じゃ駄目なのか!?」

「ここまで落下、下方向にベクトルが向いてるのを無理矢理変更するのは、私たちレベルの飛行魔法じゃ無理! ただ落下スピードの減衰くらいにはなるかもしれないから一応使っといて!」

「了解! カートリッジロード!」

 

 俺はワンドの先端より少し下に位置するカートリッジを一発ロードし、アリシアもリボルバーを回転させ同じく一発ロードする。

 ついでに飛行魔法を使うけど気持ち落下が遅くなったか……? ぐらいの効果しかない。

 

「ナナシ、プロテクション! 自爆魔法使わないでよ!」

「わぁってるっての!」

 

 そして、ふたり同時に円形のプロテクションを全力で張る。グングン下に落ちてるが、どうも落下地点は湖になりそうだ。

 

「地面よりマシ……なことないか?」

「高度から水に叩きつけられたらコンクリートに落ちるのと変わらないよ!」

「だよなぁ!」

「いいからプロテクション維持に集中! 割りと命の危機!」

「オーライ!」

 

 近づいてくる湖、引き攣ってくる俺たちの顔。正直チビりそうです。

 そしてプロテクションで包まれた俺たちは盛大に水柱を上げて湖へと叩きつけられた。

 ここで知ったことがひとつ。プロテクションでは中への衝撃って殺しきれないのね、プロテクション内部が滅茶苦茶揺れた。

 結果、アリシアと俺は全力全開のヘッドバットを繰り出し、お互いに気を失うこととなる。

 

 ――デバイスから排出された空カートリッジが虚しく俺たちの頭を叩いた。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 額が超痛い。気だるい身体を動かし額を触れば腫れてたんこぶが出来ている。

 何やったんだっけか、フェイトと模擬戦してやられた……ではないな。倦怠感がかなりあるが、状況確認のため渋々目を開くと知らん奴らがいた。

 赤、ピンク、灰、茶色、水色、黄色。全部髪の色だがカラフルだな。

 あっ、思い出した。気がつけば何故かパラシュートなしの高々度からのスカイダイビングをするはめになって……アリシアどこだ。

 

「む、目が覚めたか」

「どうも、時間はわからないけどこんにちわ。突然でなんだけど、俺と一緒に金色が落ちていませんでした?」

「隣で寝られている方が恐らくそうかと」

「……あー、はい。デコにたんこぶ作って気持ち良さそうに寝やがって。起きろ起きろ」

 

 ぶっちゃけ知らない人にこれだけ囲まれてると気まずい。起きてくれアリシア、あと五光年じゃねぇよ、それ距離だから。五光年進む時間ってことなら長い! どっちにしろ起きろー!

 

「んぁー、おはようナナシ……あれ、ここどこ?」

「ザ・ドッキリ☆突然上空からのスカイダイビングからの池ポチャしたの覚えてる?」

「んん……あ、思い出した。あれは池ポチャってレベルじゃなかった、よく生きてたね、私たち」

「全くだ」

「あの~、お話の途中で申し訳ないけどいいかしらぁ?」

 

 あ、忘れてた……どこかで見覚えあるかのような見た目の人もいるけど、恐らくこの6人が助けてくれたんだろう。

 

「私はアリシア・テスタロッサ。で、こっちはナナシ」

「改めましてどうも、なにやら助けていただいたようで感謝」

 

 あのままじゃ、結局溺れてただろうし助かった。あそこまで綺麗に頭突きをかますとは想定外すぎた。

 

「いえいえ、私はアミティエ・フローリアン。そしてこちらが妹のキリエ・フローリアン。アミタとキリエとお呼びください!」

「はぁ~い、キリエよ」

「我はディアーチェ。王だ」

「ユーリです、よろしくお願いします」

「僕はレヴィ! こっちはシュテるん!」

「私はシュテルと申します、以後お見知りおきを」

 

 年齢は高校生くらいとおぼしきふたりはアミタとキリエ。灰色の髪の少女がディアーチェもとい王、隣の黄色の髪の子がユーリね……王?

 えーと、あと水色のツインテールなのがレヴィで茶髪のショートヘアなのがシュテルね。

 

「多いね……というかレヴィがフェイトとそっくりさん」

「あ、そうだな……そっちのディ、いや王様は車椅子少女もとい八神にそっくり」

「おや、初対面で王様と呼んでいただけましたね我が王」

「ふっ、上に立つべきもののオーラを放っている我だからこそよ! ……と貴様ら子鴉と知り合いか?」

 

 ディアーチェはあれか。ちょっと痛い……いや、尊大な子なのか。王様って呼べたのは完全に適応力が上がってるからだと思う。

 

「子鴉って……?」

「あなたのおっしゃった八神という少女のことです。下の名ははやて」

「あぁ、俺だけだけど知り合いだな。そういや王様似てるね。レヴィはフェイト似だし……シュテルもほのかになのはと似てるような似てないような?」

「そっちのアリシアって子はオリジナル……じゃなくてへいとと同じ名字!」

「え、私? というかへいと……? あ、フェイトか!」

「それ!」

 

 おろ、ここの皆はフェイトや八神と知り合いなのか。  いや、でもフェイトと八神は繋がりがないよな……あれ? それぞれとたまたま別々で知り合い?

 

「んんー? フェイトと八神は知り合いじゃないし、でも王様やレヴィたちはフェイトと八神と知り合いで……えー、あれー?」

「ナナシの頭から煙が!?」

「おぉ!」

「わわ!? 大変です!」

 

 こんがらがってきた。いや、治療魔法はいいから……そうそうバカは治らないってオイ、アリシア。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 少し前に私たちが戦った世界とは別世界からナノハたちが来たばかりでしたが……これは更にややこしい事態かもしれませんね。

 理のマテリアルとして確認してきましょう。

 

「つかぬことをお伺いしますがアリシアさんはフェイトさんとご家族でしょうか?」

「そうだよ、小さいけど私がお姉ちゃんだからね!」

「あれ、オリジナルのお姉ちゃんってモゴゴ!?」

「少し黙っておれ、レヴィ」

「ナイスフォローです、我が王」

 

 私たちの知っているフェイト・テスタロッサの姉、アリシアという人物は死んでいます。

 そして横にいるナナシという男の発言を聞くに、闇の書事件の前から来たのでしょう。

 ……それにしても、私たちの知る世界とはかなり異なる世界から来たようですね。

 

「ユーリ、すみませんがおふたりのコブの手当てをお願いします」

「わかりました!」

「気になさらず、唾つけとけば治りますんで」

 

 たんこぶに唾をつけてどうするんですか。なにか効果があったでしょうか? 私の知る限りでは無かったはずですが。

 

「コブに唾って効果あるんでしょうか……?」

「あれ、そういやどうなんだろうね?」

 

 ただ適当なだけでしたか……

 

「じゃ、ユーリ、私お願い!」

「はい!」

「ユーリ、僕もー!」

「えー、レヴィは怪我してないじゃないですか~」

 

 さて、治療を始めたユーリを傍目に王とアミタ、キリエと話を始めます。

 

 伝えたことはアリシアやナナシが間違いなく私たちが生まれ、なのはたちと戦った世界とは別の平行世界、いわゆるパラレルワールドから来たであろうこと。

 そして、私が生まれる原因となる闇の書事件の前か最中から来たこと。ナノハとフェイトを知ってるということは、既にふたりは友達になっているんでしょう。

 

「フェイトさんのお姉さんが生きている世界ですか……」

「……ここに跳ばされたのは我が朝にオーパーツを蹴ったせいであろうな。しかし、本当にまた跳ばされてくる者がおるとはな」

 

 ええ、レヴィが遺跡の最新部から持ち帰ったものを、また放置していたものですね。蹴った衝撃で起動してしまったんでしょうが、また別世界の人間を跳ばしてくるとは驚きです。

 ――そのうち私たちもどこかへ跳ばされるときが来るかもしれませんね。

 

「んー、私たちはナナシって子も知らないわよねぇ~」

「ええ、キリエの言う通りです。ですから前回跳ばされてきた平行世界のナノハたちより私たちの詳細については伏せておいた方がいいかと……闇の書自体についても触れずに行きましょう」

「あのー、それなんですけどレヴィが……」

 

 アミタが指差す方向を見るとレヴィたちが外に出ており、レヴィがバルニフィカスで魔法を披露していました……念話で先に釘を刺しておくべきでした。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 レヴィが魔法を披露してくれるというので外に出たのだが、アリシアが興奮しっぱなし。

 いや、レヴィのデバイスがフェイトのバルディッシュに、そのままカートリッジつけたようなやつだったのだが、それを見てからテンションが徹夜明けのソレと変わらなくなってる。

 

「いくぞ、超必殺! 雷光両断剣!」

「す、凄いよナナシ! フェイトのデバイスと同型だけど形態変更までしてるよ! レヴィー! 詳しく見せてぇぇぇ!」

「あー、すご……おっとー、アリシアミサイルがレヴィに直撃。しかし、バリアジャケットに生身で当たったせいでアリシア選手、頭を押さえ痛がっております。見事な自爆ですねユーリさん」

「え、えぇ!? あの、治療しなくて大丈夫なんでしょうか?」

 

 必要ないんじゃないかなぁ、ドーパミンとか溢れてそうだし。ほら、ものともせずバルニフィカスを見始めてるし。

 

「あ、ユーリ飴食べる?」

 

 そういや買ったはいいけど放置してたペロペロキャンディーがあった。作業中に食えなくて結局大量に残ったままだった。

 

「あ、ありがとうございます」

「あー! 僕もー! 水色ある!?」

「ソーダならあるけど」

「これこれー!」

 

 レヴィがバルニフィカスをポイして飴を食いに来た。おい、あの状態のアリシアにデバイス投げ渡すとか危なそうなんだがいいのか? バルニフィカスが泣いてんぞ。

 うーん、それにしてもフェイトと声も似てるんだけど性格は全然違うよな。あっちは少し人見知りというか引っ込み思案なところがあるんだけどレヴィは人懐っこい感じだし超活発だ。

 

「申し訳ありません」

「あら、シュテルにディアーチェ。ふたりも飴いる?」

「いただきます」

「うむ、いただこう。それで少し話をいいか? あっちでデバイスに夢中なヒヨッコもだ」

「オーキドーキー」

 

 アリシアの首根っこをつかんで引っ張ってくる。話しかけても反応しないんですもん。

 

「はい」

「おい、ヒヨッコ」

「……むむ、剣の形態に変えるためにこの機構が変わってて」

「おい、ヒヨッコ!」

「あー! なにするの!? ……って王様どうしたの?」

 

 ディアーチェがバルニフィカスをもぎ取り、ようやく現実に意識が戻ってきたアリシア。相変わらず没頭するとホントに周り見えなくなるよね。

 

「……ごめん」

「それでよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「単刀直入に言えば、おふたりがここに跳ばされたのは私たちのせいなので元の世界にはこちらが責任をもって送り帰します」

「今、アミタと桃色が解析をしておるので暫し待て」

 

 ほうほう、まぁ帰れるなら問題ないです。で、理由は……へー、王様がオーパーツを蹴っちゃったのか。

 

「そ、それで次が本題だ! 我らの容姿が似かよってる者がいることには理由がある」

「ですが、それは貴方たちがこれから体験することが原因なのですが、私たちが話すことによって未来が変わると不都合が生じるかもしれません」

「わかった。だから詳しくは話せないってことだね! それはいいからデバイスをもうちょっと詳しく調べさせて!」

「……好きにするがよい」

「ひゃっほう!」

 

 王様から許可が降りるやいなや瞬時にバルニフィカスの解析を始めるアリシア。目がマジになっているから、ほっとくといつまでもやってるんだろうなぁ……俺も徹夜してるとき、ああなってると思うと何だかな。客観的に見るとわかる事実ってこういうことか。

 

「申し訳ない。うちのアリシアが」

「いえ、お気になさらず」

 

 それから、色々と話した。シュテルたちがいた平行世界では、アリシアは生き返れなかったらしいし、そもそも俺はいなかったと。うーん、そのあたりは俺があの世界にいった理由が特殊すぎるのも原因なんだろうな。

 レヴィはペロペロキャンディ(水色)が好きらしいので全部あげたら大喜びであった。他の色のも渡しといた、俺たちは結局あっても食べなかったからね。

 

 

 お礼にとレヴィとユーリに遺跡に連れていかれたのは楽しかったのだが、モンスターが現れたときには死ぬかと思った。

 

「ナナシさんは戦闘に向いてないんですね」

「そもそも魔力がミソッカスで……いや、年下のユーリに守ってもらってごめん」

「いえ、問題ないですよー」

 

 そうは言われても小学校低学年くらいの見た目の子の後ろに隠れて、守ってもらってるというのは中々に悲しい光景である。

 なお、レヴィはというと

 

「ハァァァ! 必殺! 雷刃滅殺極光斬(らいじんめっさつきょっこうざん)!」

 

 アハハー、元気だなー。間違いなく現状のフェイトより強いなこれ。衝撃波でモンスターを拘束したあとに雷を纏った大剣(ザンバー)で斬り伏せてるけど迫力が凄い。本当に必殺である。

 

「いえーい! 強くて凄くてカッコイイ! そう、ボク最強!」

「わぁー、凄いですレヴィ」

「いぇーい! レヴィ、カッコいいぞー! 最強ぅぅー!」

「ワハハハ! もっと誉めてもいいんだぞー!」

 

 若干、アホの子っぽいが強さは本物である。

 それにしてもレヴィ見てると、フェイトにカートリッジシステムをつけた場合の未来像を見てるみたいで、背筋に冷や汗が垂れる。

 

 そんな間、アリシアはシュテルにデバイスを見せてもらっていたそうな……俺たちが遺跡散策から帰ってもまだ見てた。ごめん、シュテル。

 でもデバイスの名前がルシフェリオンってカッコいいよね。

 

「そういう貴様のデバイス名はなんなのだ?」

弱者の杖(ウィークワンド)

「……自虐が過ぎぬか?」

「だよねー、もっとカッコいいのにしてあげないとデバイスも可愛そうだぞ!」

「そうは言われてもな、うーん」

 

 たしかにデバイスに失礼ではあるか。けど正直名前つけるの苦手なんだよな、自分に見合ってなさそうなものとなると余計に。

 

「では僭越ながら私たちが付けてもよろしいでしょうか?」

「お任せー、その方がいい名前つくしデバイスもアリシアも喜ぶから」

「そうですか。話によれば、おふたりのデバイスはミッド式としてカートリッジを組み込み安定したとしたら恐らく初」

「始まりってところだね!」

「新しい技術の夜明けといったところか」

 

 アリシアが聞いたら喜びそうな評価だ。当の本人は涎を垂らしそうな勢いでルシフェリオンを見てるけど。

 

「夜明けの者、という意味でデイブレイカーという名でどうでしょうか?」

「ん、いいね夜明けの者(デイブレイカー)。俺の考えたのよりうんといい」

「光栄です」

「我らが考えたのだから当然よな!」

「もっとカッコいいのでもいいのにー」

「私は素敵だと思いますよ?」

 

 あとでアリシアにも伝えよう、締まらない顔してデバイスにテンション振り切ってる乙女力のない感じだけどきっと喜ぶだろう。

 それからルシフェリオンを見終わったらアリシアが、ディアーチェのデバイスも見せてもらおうとして断られたりしてた。ほらほら、無理言わないの。やー、じゃないから。

 

「退化するなー、駄々っ子か」

「やー、他のも見たいー!」

「無茶言わない、ほれ王様も引いてんぞ」

 

 引いてるというか非常にめんどくさそうなものを見る目だ。

 

「やー!」

了解(ヤー)とな。ようやく聞き分けたか」

No(やー)だよ!」

「我もNo(やー)だ」

了解(ヤー)!?」

「ややこしいわ! 駄目だと言っておる! 貴様らがこれから関わる出来事に影響するかもしれんものを易々と見せれるか!」

 

 単純にこのデバイスに対してちょっと変態的になってるアリシアに渡したくないわけでは無かったのか……そこまで気を回してもらえるのは、かなり尊敬する。

 同じ気持ちなのかアリシアも関心よりも感心が上回ったのか、ディアーチェに尊敬の念を込めた視線を送っている。

 

「王様ってば、そこまで私たちのことを考えてくれてたなんて言ってくれればすぐ諦めたのに……!」

「待て、我をそんな風に見るな! 別に我は貴様が心配でそう言ったわけではないからな、貴様らが楽を出来んように言ったにすぎん!」

「またまたー、そんなこと言っちゃってー」

「ええい、やめよ! 寄るな、ニマニマするなヒヨッコぉぉぉ!」

 

 だるるーん、とディアーチェに寄りかかるアリシアにそれを鬱陶しそうに引き剥がそうとするディアーチェ。傍目から見れば中々に仲睦まじい感じだ。

 

「一応言っとくけどあれは王様の照れ隠しだからねー、君たちへの影響を心配してるんだよ?」

「あー、何となくわかっているから大丈夫。いい子だよね、王様」

「心外な評価をするでないわー!」

「王様大好きー!」

「僕もー!」

「私もです、ディアーチェ!」

「ぬぉぉぉぉ!?」

 

 元から抱きついてるアリシアに追加してレヴィ、ユーリが飛び込みディアーチェが人の波に飲まれた。波というには少なすぎるが、勢いじゃ負けず劣らずだ。

 

「そういや、ユーリは王様のこと名前呼びだね」

「ええ、私たちは臣下。ユーリは盟友ですので」

「ふーん、そういうものなのか」

 

 深くは突っ込まない。未来に影響とか自分がいる時点でなんとも言えないけど、詳細は聞かず何となくで把握できればいいのだ、何となくで。

 

 それに王様に臣下と盟友と言ってるけど皆、そんな上の者と下の者なんて隔たりは無く仲良い感じだ。けど、確かにシュテルやレヴィは王様のディアーチェを慕った上で敬っている雰囲気もあり、不思議な関係だと思う。

 

「それは貴方たちもだと思うんですが」

「俺とアリシア?」

「ええ、異性同士なんてことは置いておきますがどうにも距離感が独特ですね」

「まぁ独特な体験をした仲だからかねぇ、あとはイタズラ共犯仲か」

「ボカしますね」

「ボカシを明かす気がないからなー」

 

 こればっかりは誰にも言わないと決めてるもんで、多分きっと恐らく。ま、自分のことに関してはペラペラっと口開いちまいそうだけどアリシアのことは言わんよ。

 

「ふふっ、そうですか。私も深くは聞きません……さて、そろそろ夕食の時間ですが我が王の料理は絶品ですので楽しみにしておいてください」

「おう……ってことはまず王様助けなきゃな。アリシアー、離れろー」

「ええ、レヴィ、ユーリ離れてください。夕食の準備をします」

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 夕食は滅茶苦茶美味しかった。王様パない、アリシアと褒め称えたら赤くなって怒られた。褒められるのに馴れてないのね。

 

「あ、いたいた! 元の世界の座標特定できました!」

「前回よりは短いけど、やっぱり時間がかかったわね~」

 

 あら、帰宅の時間か。帰宅というか帰世界? 何でもいいけど楽しかった。

 

「それじゃあ、お世話になりました。デバイスに名前も付けてもらってありがとね。遺跡探索も楽しかった」

「いえ、気に入っていただけたなら何よりです」

「また来れたら行こうねナナシん!」

 

 ナナシん? シュテルん的な渾名か。

 

「デバイス見せてくれてありがとう! 夕食も美味しかったし王様最高!」

「ええい、さっさと帰るがよい! このヒヨッコ!」

「ディアーチェは本当は嬉しいと思ってるんですよ?」

「ユ、ユーリ!?」

 

 じゃ、宴もたけなわ。名残惜しさもあるんだけど帰りますか。

 

「ではでは! ナナシさんにアリシアさん、また会いましょう!」

「今度会えたらゆっくりお話しましょうね~」

 

 次の瞬間視界が霞み――世界が変わった。

 

 あたりが暗いし夜か? なにか夢を見てたような……

 

 

▽▽▽▽

 

 

「……あ、記憶封鎖忘れてましたぁぁぁ!?」

「あらん、それを忘れてたから前回より早く終わったのね~」

「なな、何をしてるかこのたわけぇぇぇぇ!」

「でぃ、ディアーチェ落ち着いてください!」

「幸いなのは一切闇の書や我々の出自には触れてなかったことですね」

「きっと大丈夫だよー」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 うん、夢みたいだけど夢じゃなかったな。あんな濃い面子忘れないし夢なわけなかったわ。

 

「あー、楽しかったねー。今日はデバイスの試験はもう無理だろうけどそれ以上に良いものが見れたよ」

「俺もだわ」

「これから、もしもフェイトやなのはのデバイスにカートリッジを付けることがあるなら手際良くできるよー!」

 

 手のひらをワキワキさせながら言うな。手つきが完全にイヤらしいぞ。

 

「そういやデバイスに名前つけてもらったの?」

「ああ、デイブレイカー。新しい技術の夜明けって」

「おおー、いいね! なんか照れ臭い気もするけど」

 

 いいんじゃない? ミッドではカートリッジシステムを付けることも普及してないし間違ってはないだろ。

 

「なんにせよ、また会えるといいな」

「そうだねー、私も王様たちともっと話したいし」

 

 ――是非ともまた、ディアーチェにはオーパーツを蹴って欲しいと思う俺たちであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
大変長々しい話になったうえに人によっては「このキャラ誰?」なお話となってしまい申し訳ないです。
一万字越えたのは初めてですね。
PSPソフトのなのはGODやINNOCENTを知っておられる方にはキャラ自体はご存知マテリアルズたちです。

こう、なるべくGODのネタバレにもならないよう注意したつもりですが、そのせいでわかりにくいところがあったら重ね重ねすみません。

この話自体は本編には大きな影響を与えないですが、この話を入れるならここしかない!ってな感じで書きました。

あとデイブレイカーは英文法的に確実に間違いかと思いますが雰囲気です。

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