現代人 in エド in ONEPIECE   作:アディオス

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神官は騎士は医者は科学者は誰な30話

 

 

 

 

「ブルーヘン……?」

 

何言ってんだ、こいつ。

急に現れ、神官の奴を悠々と追い詰めていた俺を蹴り一つで飛ばしたそいつはそう言った。正直意味がわからない。

訝しみながらもその人物を観察する。くせ毛が目立つ灰色の髪に、白を基調としたローブの下は緑色のノースリーブを着ている。そいつはゆらゆらと揺れる……なんだアレ、武器か?まぁ武器か何かだろうな、そんなものを持って優雅に佇んでいた。

柔軟な笑みを浮かべているが、何故かそれが無性にイラっとさせる。眉を顰める俺に彼はクスクスと笑った。

 

「えぇ、花が咲くという意味なんですよ。しかし今はそれはどうでもいい事です。エド、ワタシは貴方に用があるのです」

 

は?俺?

少なくともお前みたいな目立つやつ、俺は知らねぇぞ。“原作”にも居なかったし、キャラクターデザインが凝ってるから映画の出演者か?と思っても空島にいる意味なんてわからないし……何よりお前なんて知らない(二回目)

 

「俺は用なんてねぇぞ」

「いいえ、ワタシにはあるんですよ。古代人さん」

「ッ!?」

 

妙に親しげにそう話してくるアインチェイス・イスマエルと名乗った人物はまだ巨木の側から離れてなかった俺の目と鼻の先に現れた。いきなりの事に驚いて拳を振り上げるが霧のように消えて少し離れた場所にいた。どうなってんだ、これ。

 

「人をおちょくるのも大概にしろよ、テメェ。お前なんて知らない、親しげに話しかけんな気色悪い」

 

恐怖より、好奇心より嫌悪感の方が勝る。こいつと話したくない、こいつと話すのはおかしい。何より。

 

「その見下した態度が気に入らねぇ!」

 

最大出力で飛び出し相手に肉薄する。喰らえ!と上段の蹴りをお見舞いする。勿論、ドライブでの補助を受けた上でだ。並の人ならば骨折して内臓破裂しても仕方ないほどの蹴り、今の俺の本気の攻撃だった。

そいつは俺の行動に驚いたのか、もろに受けて飛んでいく。俺と同じように巨木に打ち付けられた。砂埃が舞うけれど、これで倒せたなんてこと思えない。オレ様を吹っ飛ばすほどに強力な攻撃をする奴だ、こんな程度手渡しくたばる訳がなかった。

 

「驚いたじゃないですか」

 

後ろからの声。

 

「チィッ!」

 

振り上げる拳。

 

「もう喰らいませんよ」

 

空振り三振!バッターアウト!!

連続で攻撃するが全て外れる。さっき当たった一発が奇跡だったように。

そいつはくすくすと余裕を崩す事なく笑う。だから当たりませんよ、と嘲笑う。

 

「クソッ!」

 

正直移動する瞬間を目で追えていない。止まった時に攻撃しようと拳や脚を動かした瞬間に居なくなっているのだ。

 

次元が違いすぎる。

 

その事実に行き着くのに数秒も要らなかった。

 

「別にワタシは貴方と戦いに来た訳じゃないんですよ、古代人さん」

「なら、なんだってんだ」

 

攻撃の手をやめた俺に伴うように静止したそいつはゆらりと手に持つペンデュラムを揺らした。あ、あれペンデュラムか。形が特殊過ぎてわからなかった。なんでそう思ったかもわからないんだけど。

相変わらずいけ好かない態度でアインチェイスは真っ直ぐとこちらを見た。

 

「連れ戻しに来たんです」

 

は?

 

「は?」

 

連れ戻しに来た?

意味がわからない。いや、意味はわかるが理由がわからない。何故俺を?俺を連れ戻しに来たなんてそんな冗談言うんだ。他人の真意なんてわからないもんだけどさ。

何言ってんだ、と呆けた表情から睨みつけるように敵を見る。お前なんて知らないと言っているのに、ホイホイとついて行くと思っているのだろうか。

 

「貴方が飛び出してから早数ヶ月。探しましたよ、苦労しました。時間軸を飛び越えるなんて事、そう易々と行使できませんし」

 

そう考えたら貴方、凄いですよね。なんて言うアインチェイスを怪訝な表情を隠しもせず見ながら、言葉の真意を考える。

時間軸を飛び越えるなんて事、は文字通りあいつが時間を飛び越えてきたと言うこと。そして、貴方凄いですよね、はその飛び越えることをして俺もできていたという事。さらに飛び出して早数ヶ月……俺は元々この時間軸にいなかったと言うことか……?

いやいやふざけんな。俺はオレだ。ローグタウンでルフィと会って麦わらの一味に加わった“狂気の科学者”エドだ。アインチェイス・イスマエルなんて知らないし、会ったことすらねぇ。何故こいつはこんなにも親しげなんだ。気持ち悪い、気色悪い。

 

「意味がわからないという顔をしてますね。えぇ、ワタシも意味がわかりません。貴方……何故、第一次職(ナソードルーラー)なんです?」

 

何を、言っている?

 

「当たり前だろ。ここにはドライヴを強化するようなモノは一切ない。研究したくてもできないわけだ。なのに転職?ハッ!できるわけねぇだろ」

 

鼻で笑いながら粒子弾を作り出す。それをあのムカつく顔に向けて放ったが当然だと躱される。アインチェイスの後ろにある一つの巨木に当たり、轟音と共にそれは木を円状に削った。

 

「それは時代があっていないからです。機械を作るという技術が広まっていないこの時代ではナソードもいないというもの。なら、貴方の武器を強化するのは困難でしょう」

 

そりゃそうだ。わかっているなら何故問うた。ナソードはこの時代の技術じゃない。遥か古代の文明の遺産である。なんらかの形で残っていたとしても動く事はない。動力がないからだ。

この前見つけたナソードだって動力であるエルを内包していたが、その力は失われていた。ならば時代と共にエルの力は失われたと言っていい。オレならばエルの代わりとなるものを考え改造できるが、この時代の人間にはそれができない。確かにネジやら何やらはあるけれど、それとナソードは少し別物だ。配線の配置の仕方が違うし、そもそも素材が違う。ナソードの事を知らずに改造すればただの鉄屑。かと言って、何も手を加えなければナソードはガラクタに成り下がる。

ナソードはこの時代のものじゃない。だから換えが効かない。例えドライヴが壊れたとしても直せることは無いのだ。

え?それにしては乱暴に扱ってる?そりゃお前、俺の唯一の武器を使わずにどうやって戦うって言うのか。ナソードがそんじゃそこらの武器で壊れる事がない事も、凡ゆる対応ができる汎用性故にどんな環境においてもショートする事もないのを知っている。つまり信頼しているんだ。武器に対して、ったら可笑しく思えるだろうが。

まぁ話が逸れたが、つまりだ。壊れたものを直せる材料がないのならば、強化するための材料もないのだ。そりゃ転職なんてできない。

 

「知ってんならわざわざ問うな…………いや待て、テメェ何故ナソードの事を知っている?」

 

気がついてしまった。SAN値チェック案件かもしれない。

え、待って。マジで待って。ONE PIECEにこんな優男みたいな奴見た事ないし、かと言って今じゃあまり覚えてないけど。それでも知らない。こんな派手な服装をしたモブがいるはずもないだろう。めちゃくちゃ強いし……俺が知っている原作以降の登場人物ならばあり得るかもしれないが。

 

…………あ?

 

待てよ?

 

俺が知っている原作以降(・・・・・・・・・・・)……?

これが指している原作はなんだ?ONE PIECEだ。なら……ELSWORDは?

 

「(こっちに来る前、エルソードにはエドが実装されたばかりだった。第二次職までしか実装されてない……)」

 

それも三つある内の二つまでったらわかるだろうか?それぐらい初期だった。つまり、つまりだ……エルソードがまだ続いていたとしたら……新しいキャラが出ていてもおかしくはない。

オンラインゲームは新規プレイヤーを増やすと同時に今までいる古参プレイヤーを飽きさせてはいけない。そうしないとお金を落としてくれず、サービス終了になってしまう。だからこそ飽きさせず、そして新しくユーザーを増やす為に引き込ませる為に新要素を追加する。その追加はストーリーや、マップ、はたまたイベント開催など様々なものがあるが、キャラを作るのではなく選ばせるエルソードでは新キャラの追加も入ってくる。それこそエドが実装されたように。

 

要は何を言いたいのかというと。

 

 

【目の前のアインチェイス・イスマエルと名乗った男はエド以降に出て来た新キャラ説】

 

検証しなくちゃ。

 

「(いや、どうやってだよ)」

 

混乱しすぎてネタが出て来やがる。

 

「何故、ですか」

 

アインチェイスはきょとりと首を傾げて、くすくす笑う。面白おかしそうに、嘲笑うかのように。

 

「知らないはずがないでしょう?一緒に旅した仲間なんですから」

 

あー!!!これダウトーー!!!!!!新キャラ説通りましたーー!!!そして俺のSAN値が大ピンチ!!!!!

 

「とにかく、楽しくお喋りしている時間はありません」

 

油断していた所為か、俺が感知する前に目の前に現れたアインチェイスは俺の腕を掴んだ。敵に捕まったという失態を犯し、慌てて振り解こうとするが全くビクともせず。何故こんなにも差が出ているのかはわからないが、絶体絶命では!?!?

 

「離せッ!!」

「無理です。貴方が何故ナソードルーラーに戻ったのか、何故彼らと共にいるのかも全て彼女の下へ帰った後、全て聞きますか「待たれよ!!!!」らってなんですか」

 

ドライヴの推進力を持ってしても脱出出来ずに焦りを感じた頃、アインチェイスの後ろか誰かが水玉模様の鳥に乗って突進してきた。わかっていたのかアインチェイスは難なく躱したが、その際に腕の力が緩んだのがわかったのですぐさまドライヴを全力で走らせチョッパーの下まで離脱した。

掴まれていた腕が痛み、チョッパーに見せるように言われるがそれどころではない。

 

「あれは……」

「空の騎士だ!!」

 

チョッパーが助けに来てくれた!と喜んでいたので、あの大きな笛の音はやはりチョッパーが空の騎士から渡された笛を吹いた音だったのだと理解する。

この空島に来る前というか、空に昇った後の雲海でよく分からんゲリラに襲われていたところを助けてくれた爺さんだ。自身を空の騎士と名乗り、ウマウマの実を食べた鳥だったか。ペガサスの様なものになれると見せてくれたが、模様のせいで微妙だったんだよな。

いやそれよりも、だ。あの爺さんも強い事には強いが、多分アインチェイスには敵わない。だって今見てても、あの神官と力が拮抗しているのだからそれより遥かに強い彼奴相手では到底かなわないだろう。つまり退くしかないのだ。船ここだけどな!!

 

「ここは退け!神官シュラよ!貴殿を討ち取る気はない!」

「討ち取るのはゴットだけってか!?そんな事させると思うか!?あぁ!?ガン・フォール!貴様を野放しにするのは神官の名折れだ!!」

 

正直シュラを押さえておいてくれるのは嬉しいが、かと言って勝てるかと言えばNOである。九死に一生を得れば万々歳なのだが……生きてればやり直しは幾らでも効く。

というかあの爺さんガン・フォールって名前なのか。初めて知ったって……一応空島編は見たのだけどな。

 

「って!エド!腕見せて、腕!」

 

ガン・フォールとシュラの戦いを魅入るように見ていた俺だがチョッパーの声に引き戻される。焦ったように腕を見せてとせがむチョッパーの頭を帽子越しに撫でながら、また後でと告げる。疑問を浮かべる彼に苦笑し、遠くにいる派手な野郎を睨んだ。

 

「彼奴がいるからな」

「あっ……」

 

チョッパーも気づいたらしい。俺の後ろに隠れるように回る。反対側に飛び出していて隠れられてはいないが。

 

「……今日の所は退くとしましょう。貴方を今のまま連れて言ってもダメでしょうし……彼女にもまだと言われてましたしね。ここの神にさえ明日にしろと……残念で仕方ありませんが」

 

此方を笑顔で見るその顔は胡散臭くて、鳥肌が立って気持ち悪いと思うけれど、その瞳だけはどこか寂しそうだった。

 

「最後に質問いいですかね」

「…………何だ?」

「貴方、どうしてこの海賊団と一緒にいるんです?」

 

それはさっき聞きたがっていたことだろう。彼女の下へ帰る時にまとめて聞くと言っていたくせに、もう聞くらしい。まぁ答えるが。

俺の答えは単純明快。

 

「誘われたからだ。仲間になるか、とな」

 

あの時はワンピ世界に来たばかりで、テンションでカバーしてたけど少し混乱していた。主人公に会えた興奮でなんとか大丈夫だったが、本当は自分が賞金首となっている事、エドという身体になっていた事と驚きが一身に来て不安もあった。行くあてもない、知っている世界だけど知らない場所を行くのも勇気がいった。そんな中、状況が状況だけど誘ってくれた船長には、ルフィには感謝している。自分より高額な賞金首なのに、面白そうだからって理由だけで誘い仲間にしてくれて、ドラムでは信じて仲間を預けてくれた。

何でお前みたいな狂気の科学者が?なんて思われるのかもしれない。でもそれでも言える。彼が誘ってくれなきゃ、俺はどうしようもなかったと思う。

 

「気がついたら一人だった俺を誘ってくれた。だからこそ一緒にいる。そうでなきゃ仲間になってない」

「そう……ですか」

 

思ったままに答えると彼は目を伏せた後、少し哀しそうな表情を浮かべる。

 

「今の貴方は、どっちなんでしょうね」

 

は……?

どういう……?

 

「では、また明日会いましょう」

 

先程の表情は一瞬のうちに消え、いつもの胡散臭い笑顔へと戻った。そして彼は優雅にお辞儀するとするりと消えて、残されたのは俺とチョッパー、そして空の騎士と神官のみであった。

 

「なんなん、だよ。アイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方も◼︎◼︎◼︎のところへ行ってきたらどうなんですか、古代人さん』

『その呼び方やめろ。テメェこそ、いつもみてぇに猫被って犬の様に尻尾ふってきたらどうだ?』

 

 

 

 

なぁ?アイン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちわりぃ……」

 

おれ(・・)知らない(知っている)記憶が頭の中をよぎって気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッ。

 

[記憶の消去率73%。復興率56%]

 

[エピソード記憶の復興を確に、ん---エラーが発生しました。一部記憶に障害が出ています。エピソード記憶の復興を中断。意味記憶の復興に移行します]

 

ピピピッ。

 

[エラーを検索中……発見いたしました。情報媒体からの抽出ではなく、融合を確認]

 

【ERROR】

 

[応急処置として融合をそのまま実行。エラーの元となる情報を抽出します……確認。支障はありません、続行します]

 

【ERROR】

 

[それでは帰還をお待ちしております]

 

[Master AD◼︎]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ERROR】

 

[気持ち悪りぃ]

 

 

 




誰が誰なんだか、わからなくなってきた。

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