現代人 in エド in ONEPIECE 作:アディオス
「「「「ここが……っ、空島ァ!!!!」」」」
そうして数時間後、俺たちは無事に空島へと着いていた。突き上げる海流、ノックアップストリームに乗るだなんて天地ひっくり返る程の衝撃と驚きで心臓が飛び出て死ぬかと思う程だったが、こうして空島に出てしまえばそんなもの忘れた。
空に浮かぶ島だなんてロマン溢れる場所に出て浮かれない海賊がいるだろうか。否、いない(反語)
「どこ見渡しても雲、雲、雲!!空以外雲だわ!」
ナミもテンション上がっているらしい。海雲に飛び降りて浜と思われる雲へと走って行った。ルフィ、チョッパー、ウソップは言わずもがな。俺?既に浜の上だが?
ただ濡れるのは嫌なのでドライヴで降りたがな。だけれど靴を脱がなくてもわかるこのふわふわ加減、ハマる!
「しっかりと持てるほどの質量はあるのに、性質は雲そのもの。クックック、面白れェ。単純だからこそ面白い」
そんな事を言いながら浜辺の雲を取っては固め、取っては固めを繰り返す。ふわっふわのくっつかない綿あめを固めている様な気分だ。雲を手で掴むなんてこの空島でこそ味わえる感触……あぁ、あの空島なんてないって笑ってたやつらが哀れに思えてきた。
そうして結構デカイ雪だるま、否雲だるまを作り出し満足していると、隣ではチョッパーが可愛らしいものを作っており、その向こうではウソップが大人気ないものを作り出していた。
「名付けて!ウソップと愉快な仲間たち!」
そのまんまじゃねぇか。
中心に王冠を被ったウソップが腕を組んで立ち、その後ろに麦わらの一味が勢ぞろいしている。どう見てもウソップの野望ダダ漏れだな。リアリティ溢れるところはウソップの器用さを醸し出している。雪まつりとか参加したら優勝できそうな程の腕前だ。
まぁ、オレが後ろってのもムカつくので壊させてもらうが。ドライヴで一番にウソップの顔を潰し、二番目に見ていられない俺が潰し、他はサンジが蹴り殺した。
「何すんだよ!!エド!サンジ!おれの力作だったのに!!」
「「どこがだッ!!!」」
たった数十分で作ったやつは力作とは言えんぞ!ウソップ!!!
そんなこんなでみんなとわちゃわちゃしていると、ふとハープの音が響き渡った。ハープなんてお洒落な楽器、音楽家でもない麦わらの一味の誰もが弾かないもの。即ち第三者の仕業である。
ハープの音が聞こえてきた方を皆が自然に見る。そこには背丈程のハープを見事に演奏する金髪の女性がいた。
そこまでは普通だ。いや浜辺でハープとか普通なのかはわからないが普通だ。問題は。
「天使だ……」
ポツリとサンジが呟く。サンジが好きそうな綺麗な女性だったから天使だと比喩したのではなく、彼女の背には羽が生えていたのだ。ただその生え方から鳥の様に翼という機能はなくただ単に飾りとして生えていると推測できる生え方であったが。
純白の翼を持つ彼女は自身が注目されていると気づくと、キリの良いところで演奏をやめて立ち上がった。ゆらりと頭の二本の飾りの様なものが揺れた。
「ヘソ」
え。
「皆さん、空島は初めてでいらっしゃいますか?」
スルーか?
めちゃくちゃ良い微笑みで変な事言い出すから何かと思ったら、天使(仮)は普通に話し始めた。態度から察するにこの空島の住民なんだろう。ようこそ、エンジェル島へとかなんとか言っている。羽生えてるからエンジェルってか、そのまんまじゃねぇか。
この場所はエンジェルビーチと言う場所らしく、彼女の家の近くで良くこの場所でハープを演奏しているらしい。らしいらしいばっかだが、ここに来たばかりなので彼女の言っていることが本当かはわからない。何かと個人情報を話すので、この島での案内役かぁなんてぼーっと見る。
横目に隣にいたサンジを見ると、彼は既に目をハートにしてクネクネしていた。気持ち悪いのでドライヴで突き飛ばしておく。
「すいませーん!そこどいてくださーい!!すいません!」
「父上!」
ん?父上?
振り返ると海雲の上を水上スキーの様なもので此方に来るおっさんの姿が。変な触覚である髪以外は眩しい頭を持つその人は、糸目ながらも必死な形相で此方を見ていた。
「何あれ!?帆もないのに海の上を進んでる!」
「それにとても速いわね。何が動力源なのかしら」
ナミが興奮したように叫び、ロビンが冷静にその水上スキーを分析する。
いや、喜ぶのは良いが……あれ。
「こっち向かってきてねぇか?」
俺の呟きと共に皆が皆顔を青くして慌てて避け始めた。俺も慌ててふわふわしたビーチの上を走って、その水上スキーを避ける。避けた途端に大きな音を立てて通ったそれに安堵の息を吐く。父上と呼ばれた彼はビーチ奥にある木へとぶつかり、よろよろと起き上がった。事故とは言え無傷でいるおっさんに少し感心する。あの勢いだ、何かしら怪我してもおかしくないだろうに。
「すいません、皆さん大丈夫でしたか?」
「いや、おっさんこそ大丈夫かよ」
ウソップの言うとおりである。
「父上!」
「あぁコニスさん、ヘソ」
「えぇ。ヘソ、父上」
…………もう突っ込むまいぞ?ボケ担当なはずのルフィでさえ突っ込んでるけど、もう俺は突っ込むまいぞ?
彼らは父と娘という関係だそうだ。おっさんがパガヤ、天使(仮)はコニスという名前だった。穏やかな二人で、空島に疎い俺たちを自分たちの家へと招いてくれた。下じゃあまりあり得ない現象だ。初めて会った人、しかも海賊を招くなんて。空島には海賊という概念がないのかもしれない。
ただ、ナミだけはウェイバーと呼ばれるパガヤが乗ってきた乗り物を大層気に入ったらしく、パガヤの家に行かず乗って遊ぶらしい。まぁ初めて乗るなら楽しいだろうな。俺はドライヴがあってもう慣れてしまったので、あの楽しさはもう味わえないけれど。
「良いなぁ、ナミ。なんであんな乗れんだ!おれも乗りてぇ!」
「並外れた観察眼を持つナミだからこそ乗れるんだろ」
「何だよそれ!おれもあるぞ!観察眼!」
「ウェイバー乗りこなせてない時点でねぇよ」
ナミの前に試し乗りをして見事に海に落ちたルフィが羨ましそうにナミを見つめるが、呆れながら止めておけと止めた。ルフィは戦闘センスはピカイチだが、その他のことについてはまるでダメである。ここまで不器用な人間いるか?と首を傾げる程だが、まぁ妙なカリスマがあるのだからどこへ行ってもやっていけそうだ。
麦わらの一味全員からお前は無理だと烙印を押されたルフィは半分拗ねながらパガヤの家へと上がっていく。相変わらず靴を脱ぐ習慣はなく、玄関と部屋の高低差はない外国風の家。外見はエドだが、中身に日本人の俺が混じってる時点で少し慣れない。まぁどっちでも良いのだが、玄関上がると靴を脱ごうとしてしまうのはどうにかしたいとは思う。
そこそこ広いパガヤの自宅を見渡しながらリビングに通される。サンジは空島の料理に興味があるのか、キッチンに行くパガヤについて行った。他はリビングで待機である。
「皆さんは青海人なのですのよね?」
紅茶を入れてくれたコニスが首を傾げながらそう質問してきた。サンジが見たらあざとい……とかなんとか言って惚けていただろう。可愛く顔の整った奴にしか許されない、小首傾げ上目遣いだ。
いや、それはどうでも良い。せいかいじん、とはどういう意味だろう?じんと言うからには人の文字は入っていそうなので、異世界人みたいな名称であることがわかる。例えが異世界なのはなんとなくだ。
「せいかいじん……?」
「せいかいじんってなんだ?」
チョッパーがあざとく首を傾げながら鸚鵡返しに聞き返す。あざとい、実にあざとい。女性がすれば、ふーんという反応しかできないのに可愛い小動物がやればあざと可愛いやばい可愛いになる。チョッパーは癒し、はっきりわかんだね。
「青い海の人と書いて青海人です。空島に住んでいない下の海に住んでいる方々の総称で……」
「そういう事なら青海人だな!な!ルフィ!」
「おう!せーかーじんだ!」
わかってねぇだろコイツ。
「ふふっ。皆さんはどうやってこの空島、エンジェル島へ?やはり、他の空島を経由してきたのですのよね?どんなところでした?」
他の空島?
空島ってここ以外にもあるのか。あまり知らなかった事実だがそれを知らないのは俺だけではなく、ここにいる麦わらの一味全員だ。例外なく驚いた顔した皆はコニスに少し詰め寄って、他の空島ってあるのか!?と叫んでいた。まぁロビンとゾロ以外の男衆だが。俺は勿論内心でしか驚いていないので加わっていない。
「え、えぇ。そもそも青海から空島へ行くにはルートが決まっていると、そう聞いたことが……?詳しくは知らないのですが」
そう言ったコニスの目は嘘を吐いている様には見えなかった。つまりだ、突き上げる海流、ノックアップストリームに乗って命がけでこなくても行けたかも知れないという事だ。
「そういや、クリケットのおっさんもそんなこと言ってたな。全員が死ぬか、一人が生き残るかっていう」
よく生き残ったな!おれたち!と小さな悲鳴をあげたウソップに苦笑しながら、そのルートについて考える。クリケットに言わせるとノックアップストリームに乗る方法は全員死ぬか全員生き残るかの二択だが、もう一つの正規のルートと思われるのは一人しか生き残らないルートらしい。それなら奇跡的に雲とノックアップストリームが重なった時に来たのだからと、全員の命をかける方へ出たんだが……コニスの反応からすれば一般的ではないのだろうな。まぁ来るためにもタイミングを計るのが大事だし、あの化け物海流に乗ろうなんて言う馬鹿は普通はいないだろう。俺たちのところにはいすぎだわけだが。
多分、他の奴がしたら十中八九死ぬルートである。
「俺たちはノックアップストリームに乗って来た」
「ノックアップストリーム、ですか?」
「あぁ!突き上げる海流さ!海水が海から飛び出し、雲を突き抜ける。それにおれたちは乗ったわけだ!」
「凄かったよなー!あれ!もう一回乗ってみてぇなぁ」
「ふふ、下に戻ればもう一回は乗れるんじゃないかしら?」
「おれはもう御免だ」
「コニスは知ってるのか?」
「え、えぇ。話には聞いています。このエンジェル島には度々青海の物が流れてくるのですが、その原因が青海にはあるのでは?と住人の間で偶に話題に上がります」
へぇ、そんな話が。
なるほど、ノックアップストリームを知らなくても青海を知っているのなら原因があるはずだと疑うのか。見た事はないが、青海と空島の間には隔たりがあると知っている。それこそ、最初にたどり着いた海雲以上の。
しっかし、空島と青海って全然交流ないんだな。まぁ上空10,000メートルなら仕方ないと言えるだろうが。例えこの世界にライト兄弟がいたとしても見つける事は困難だろう。ラピュタよりは優しい場所にあるけど。
ちらりと外を見ながらそんなことを考える。ベランダから見える景色は良いもので、ここが一等地であることがわかる。片親なのに収入がそれなりにあるんだな。
「しっかしよー、ナミが乗ってるアレ、一体どう言う原理なんだ?エドみたいに変なのじゃないんだろ?」
「ウソップテメェ、オレのドライヴを変な物扱いすんじゃねぇ。解剖すんぞ」
「怖ッ!?」
「あれは
コニスの言葉にはてなマークを浮かべる面々。そりゃぁ青海にはないものだからわからないだろう。ジャヤにだけはあるようだけど。それでも俺が全部買った奴は数十年分はあるのに十数個しかなかった。
「えっと、例えばこの
そうやってルフィに渡された貝。見覚えのある渦巻き状にウソップは何か気づいた様にこちらを見た。ニヤリと笑ってやる。
ウソップのあほー!と貝に向かってルフィは言った後に、コニスに言われるがまま殻長を押した。
『ウソップのあほー!』
「ウソップが貝に馬鹿にされた!?」
「いやお前だよ!」
「この様にトーンダイヤルは音を溜める性質があります。ブレスダイヤルは空気を、
他にどれだけあるのか聞いてみれば結構ある事を知った。その用途は様々で、空島ではダイヤルなしでは生活が成り立たないほど。便利な器具として浸透している様だ。
へぇと感心しているとウソップがこそこそと近づいて来た。
「〈お前が買って来てくれたやつ、この“ダイヤル”ってやつじゃ……?〉」
「あぁ、そうだが?」
小声で尋ねられたが、別に隠すことでもないので肯定するとウソップは驚いたように見てきた。
「おま!あれダイヤルだって知ってたのか!?」
「いーや、知らなかったぜ?ただ“空から落ちて来た”って言われたからな。空島のだろうと見当をつけていただけだ」
ダイヤルなんて言葉知らなかったというか忘れてたし。こんなものもあったなーという程度だ。確か空島のじゃ?と思って買っただけである。ウソップが喜びそうだから買ったのも本心だ。
そう言ったら嘘だー?と怪訝な目を向けられたが、本当だ。珍しい俺のデレを素直に受け止められないのか、この長っ鼻。
「持ってるんですか?ダイヤルを」
「あぁ、エドが買って来てくれたんだ」
「なんの因果か青海の骨董屋で見つけたもんでな、面白い珍しいで買ったんだよ。空から降って来たっつうんで、空島のだろうと当たりをつけてな」
そう説明するとコニスは興味深そうに話を聞いてくれる。きっと空島で育った彼女は青海の話が面白いのだろう。ウソップのいつもの法螺話(半分事実)を食い入るように聞いている。お淑やかに見せかけて本当はやんちゃなのかもしれない。
「ロビンちゅわ〜ん♡野郎共ー、昼メシだぜ」
温度差が激しすぎてグッピーが死ぬって、サンジ。
飯ー!!と大喜びしてソファに座るルフィとウソップ、そしてチョッパーの後に続こうとして、ふと後ろを振り向く。
「(まだ楽しんでやがる)」
小さな虫ほどの大きさにしか見えないナミは飽きていないのかずっとウェイバーに乗っている。その事に呆れながらため息を吐いて、改めて彼らの後に続いた。
なんか、平和だな。
一ヶ月空きましたね……うん、一年じゃないだけマシ!!