現代人 in エド in ONEPIECE   作:アディオス

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神が住まう天にて彼は邂逅を望んでいる24話

 

 

 

 

遥か上空10,000メートルに位置する空に浮かぶ神が住む島、スカイピア。

エンジェル島と呼ばれる空島の側にある広大な土地には神が住み、神官達が守っている通称神の島、アッパーヤード。神官や罪人以外は踏み込んではいけない禁断の土地に一人の少女が鞄を抱きしめ歩いていた。

豊かな栄養によって立派に育った巨大な木々の根を慣れたように渡りながら、巨木の中にある一つの洞穴へと入っていった。

 

「…………へへ」

 

膝をつき、一所懸命に砂を搔き集める少女は鞄の中にそれを仕舞う。

その行動の意味は空島に住む者達なら誰もが理解し、空島に住んでいない者達は誰もが理解できない行動であった。

土。それは大地を覆う木々を支えるモノ。そして空島にはないものである。この神の島にしかない土を空島の者達はこう呼ぶ。大地(ヴァース)、と。

今日の分の大地(ヴァース)を集めた少女は、自身が属する族の長にバレない為に早めに帰らなくてはいけないと立ち上がる。ここは誰もが憧れる島ではあるが、少女の一族にとっては謂わば敵地。元々ここの民だと言えど、今や神の土地。子供の身であるから故に全く歯が立たないと知っているからこそ、こうして神官達に見つからないようにこっそりと来ている。

鞄を抱き上げ、洞穴から外を覗き左右を見渡す。誰もいない、そう確認してから少女は帰るために走り出した。

いつもはこうして何もなく帰れる。けれどそれは幸運が続いただけであり、今日は少女にとって不運の日であるらしい。

何も予兆もなく目の前に現れた人物に足を止めた。地面に転がっていた石を踏んでしまい顔を顰めた。しかし少女には自身の足を労っている余裕はない。

 

「ふむ。この土地に人が入る事はないと聞いていましたが……例外もあるようですね」

「……っ」

 

灰色の髪を持つその男は胡散臭い笑みを浮かべて腰を折る。少女は鞄を必死に隠すように少しずつ後退していく。その顔には怯えが混じっており、しかしながらその瞳の中には敵意が含んでいた。

 

「良い目をしていますね。人間というのはそのような複雑な表情をする……全く面白いものだ」

 

その男は最近神官達と話すところを目撃されている男だ。

 

『神官が一人増えた……?』

『あぁ、最近アッパーヤードで灰色の髪を持つ男が目撃されている。多分、新たな神官だろう』

『四人だけでも厄介なのに、また新しいのかい!』

『……それでも、おれ達がする事は変わらない。我らシャンディアの土地を取り戻す事だ』

 

「(この人!ワイパー達が言ってた!)」

 

一気に表情が強張る。新たな神官となればその強さは半端無いものだ。何も力を持たないただの少女が立ち向かえる筈もない。

それでも死ぬ訳にはいかない。生き残る為に少女は必死に頭を動かした。

 

「……見逃して」

「おや、神の地に勝手に踏み込んでおいて“見逃して”とは……度胸があるのですね。しかしそれを神官達が許すとでも?」

「…………思ってないわ」

「そうでしょうね、ワタシも思いません。しかしそうですね……見逃してあげましょう」

「え」

 

少女は思わず顔を上げた。ダメ元で言ったが本当に見逃してもらえるとは思っていなかったからだ。

彼女は怪訝そうな表情を浮かべながらも、その中に期待と不安を混じらせる。そんな表情を見て男は嬉しそうに笑った。

 

「えぇ。貴女は良い感情をお持ちだ。特別に、ですよ。そもそもあの神を名乗る男が見逃している時点で、見逃さないなんて選択肢ワタシにはありませんし」

 

肩を竦めた男はその豪華なローブの様なものを揺らして踵を返した。

 

「それにワタシ、ここの神官ではないですからね。代理人ではありましたけれど、それはもう昔の話。信仰する神も違いますから、貴女を罪人として罰する権限は持ち合わせていない」

「(……!!神官じゃない!?)」

 

それはアッパーヤードを取り戻そうとするシャンディアにとって重要な情報だ。少女は驚き、そして生まれながらに持つ力によって彼の言葉が嘘ではないと信じた。

彼女の脳には神官と目の前の男が対峙しているような場面が見えたからだ。それがいつの話なのかは彼女もわからない。強すぎるが故に近未来も過去も読み取ってしまうのだから。

 

「ふむ。神官じゃないのに何故この土地にいるのか不思議なのだろうが……簡単な事ですよ。ある目的のためです。その為ならばこの地にいた方が手っ取り早い。幸い、ここの神には承諾を得ましたしね」

 

コツコツと靴を鳴らして歩いていた彼は突然振り返り、笑いかける。その笑みはどこか胡散臭く、しかし嬉しいという感情が滲み出ていた。

 

「お喋りはここまでにしましょう。貴女もまだ捕まりたくはないでしょう。早く仲間の下へ帰ると良い。信用できる人間がいるというのは存外悪いものでもないですから」

 

では、とお辞儀した男は少女が瞬きをした瞬間に消えた。

え?と戸惑いの声を出して辺りを見渡すがどこにもあの特徴的な服装をした男はおらず、少女は気味が悪いと顔を歪めた。

しかし見逃してくれたのは事実だ。今日の分は集めたのだから早々に帰ろうと、彼女も踵を返して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幼いながらも大地への憧れと一族故の正義を併せ持つ心。力は無いが、良い心だ。君を思い出すな…………エルス」

 

振り子がゆらゆらと揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラバスタを出て数日。新たなにバロックワークス元秘書でありクロコダイルの参謀ミス・オールサンデーが仲間に加わった以外はとても穏やかな日々だ。

まぁ言うなれば彼女は穏やかじゃないってことなのだけど。

甲板の椅子で寛ぐ彼女はずっと同じ本を読み続けている。見た目がそっくりなのでそう見えるがよくよく見ればタイトルが少し変わっていたりしていた。と言っても、続刊のようだけれど。

ミス・オールサンデー改め、ニコ・ロビン。

悪魔の子と呼ばれ、齢八歳にて賞金首になった悪魔の実の能力者。その額実に8000万である。俺より下だけど、八歳の時にかけられたってのがミソだ。

海軍は海軍にとって脅威となり得るものを賞金首にする。現代でもそうだった。賞金首と言ったら浸透はしていないが、指名手配という名前の賞金首ならば、駅やら市役所やらで顔写真を見かける。つまりはその指名手配をかけている警察、公的機関はこの世界での海軍。そして指名手配犯は賞金首に該当する。

こう考えると齢八歳の力もない子供が8000万という高額な賞金をかけられる程になるには相応の理由がないといけない。つまり彼女自身不可抗力なのではないだろうか、と……原作を知らない場合の俺はそう考える。

オレだって何もしてないのに賞金首になった。いや覚えはあるが納得はしていない。それこそ不可抗力であると断言できる。まぁやり直したいかと聞かれても、YESとは答えないけど。

 

「ところでお前、オレの事をどこで知った」

 

昼食待ちであるこの時間、少しだけ暇だからと衝動のある二階から甲板の一階に向けて声を発する。本に視線を向けていた彼女はゆるりとページをめくり、視線の動きで一行ほど読んだとわかったとき、その魅惑的な口を開いた。

 

「学者の間では有名な噂があった。このグランドラインの何処かに何十年何百年もの未来の科学が発展した街があった、と」

 

過去形で紡がれるそれらはオレにとっては毒とも同じで、淡々と紡がれるが故にちくちくと針を介して注入されていく。

 

「今の技術力では到底真似できない代物が沢山あったと聴いていたわ。それはあらゆる学者にとって夢の街。今までの常識が通じない街だった。けれどその技術は門外不出、街から島から出る人なんて一人もいなかった。けれど異端児がいた。彼、もしくは彼女が島の外に出て剰え外で島で培った技術を使って研究を開始してしまった」

 

そして、海軍にバレてしまった。

 

「その街は技術を門外不出にする事を海軍と約束する事によって科学の街というのが成り立っていた。過ぎた科学力は時に生み出した人をも滅ぼす。わかるかしら?その時の人類にその科学力は不要だったの。けれど、一人の人間が破ってしまった」

 

ぺらり、ページをめくる。

 

「そしてその人間が住んでいた街は地図から消えた。一度その場所に行ってみたけれど、一面の焼け野原。跡形もなかったわ」

 

どうして……どうしてその話を今するのだろうか。

俺が聞いたのは何で俺の事を知っているのか、どこで聴いたのかという事だ。何もどこかの街のどこかの人間の終わりなんて聞いていない。

けれど、ちくちくと刺す猛毒の針は実在していて……彼女の言いたいことがわかってしまうこの賢い頭が少し恨めしかった。

 

「さて……どうして貴方を知ったのか。その街にあったの、焼け爛れた一枚の写真立て。そこに写る白髪の少年と女性……そして顔の部分が焼かれて誰かわからない男性。その時は特に気にしなかったわ。ただ本当に人がいたのね、っていうぐらいで」

 

ぱたりと本を閉じた。立ち上がりながら彼女はこちらを見据える。

 

「でもその十数年後、その写真を忘れた頃に貴方の指名手配書が配られた。全くの無名のルーキー、いきなりの9000万という大金をかけられた男の子。その特徴的な髪の毛、どこかで見たことあると思ったわ」

 

これで答えになる?なんて笑って階段を上がってくる彼女を睨みつけるしかできなくなった。まさかその事を知っている人間がいるなんて知らなかったからとても驚いている。

同じような境遇だからだろうか。しかしその性質は全くの正反対なのだろうけど。

 

「あぁ、貴方に一つ問いたい事があったわ」

「…………なんだ」

 

絶対ロクでもないと考えながら返事をする。

 

「その焼かれた街の話、正確には百五十年程前の話なのだけれど……どうして貴方はここにいるのかしらね……?」

 

にこりとにこやかに笑う彼女に冷や汗が噴き出る。即座にドライヴが反応して無かったことにしてくれているが、今はその反応はいらなかった。

ニコ・ロビンから目を離し、水平線を見つめる。水平線があるという事はやはりこの惑星は丸いのだろう。

 

「さてね。オレがその餓鬼だという保証もないだろ」

「そうね、そういう事にしておきましょう」

 

コイツ……。

クスリと笑ってから食堂に入り、サンジの愛の言葉をヒラリと交わす女。本当に洒落にならない。

 

「(賢い女ってのはこれだから)」

 

嫌いだ。

 

チッと舌打ちをして己も食堂の中に入る為に扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、考古学者でも真実は知らないんだな。

その街が焼かれた理由が門外不出の技術を持っていた人間がいたからじゃなく、その人間がしていた事によるという事を。

 

「(禁忌ってのは何処にでも存在する。空白の100年のようにな……)」

 

まぁそれ以外理由はないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来ではなく過去を求めたからこそ、オレ達は消された。

 

 

 

 




姐さん、めっちゃ喋るじゃん……この時のロビンてずっと黙ってるイメージだったんだけどなぁ……(目逸らし)

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