現代人 in エド in ONEPIECE 作:アディオス
おぃっすー、エドだ。
こういう挨拶も久しぶりな気がするな。
あの後やっとの事でナミ達を見つけて、ユバにたどり着いた。けれどそこには反乱軍のはの影もなく、度重なる砂嵐によって荒れた町だけが残っていた。そこに唯一残っていた老人が反乱軍のリーダー、コーダの父親で、彼が言うには反乱軍は拠点をここではなくカトレアという一番初めにいたナノハナから馬車で数時間の場所にある街に移したらしい。
とんだ大回りになってしまい、ユバで一晩休んでからさぁ!カトレアに行くぞ!というところでルフィがボイコットを起こした。今ココ。
「やめた」
「る、ルフィさん……?」
「おいおい、おまえの我儘に付き合ってる場合じゃねぇんだよ」
座り込んだルフィにビビとサンジが呼びかけるが頑固として動かない。こうと言ったらそうするルフィだ、きっとルフィなりの考えがあるのだろう。
麦わら帽子を掴んで深く被り直した彼は、なぁといつもの大声とは違う低い平坦な声を出す。ずっと馬鹿な場面しか見せてこないルフィの真剣な眼差しは人を萎縮させる。
「反乱軍を止めたとして、クロコダイルが止まんのか」
「それは……」
「反乱軍を止めに行くのはわかってる……けどな、そこに行ってもおれ達がすることはないだろ」
「…………」
おれ達は海賊だ。
「反乱軍も、国王軍も!国の為にだなんて関係ねぇ!!!おれは海賊だ!おれがやりたいようにやる!!」
ルフィが顔を上げた。
「おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだよッ!!!!」
「っ!!」
それはルフィの目的。
ルフィはクロコダイルをぶっ飛ばしに、ビビはクロコダイルの陰謀を知り嵌められている反乱軍を止めに。それぞれの目的の為にこの島に来た。
確かにビビの目的の為なら反乱軍の下へ行くのが一番だろう。しかしそれでクロコダイルが止まるとは思えない。クロコダイルは自身の社員にすら自分の正体を明かさない用意周到すぎる海賊。自分が海軍に捕まる可能性を排除しての事だろうが、海賊にしては狡猾だ。まるで川を渡る草食動物をゆっくりと待つ鰐のように。
そもそもの話……いくら王女の言葉だとしても鬱憤を貯めに貯めた反乱軍を止められるとは思えないな。真実を話したとしても“それがどうした”と一蹴されそうだ。
「それは!わかってる!ルフィさんがクロコダイルをぶっ飛ばしたいのも……でもわたしは、今までずっと彼らを止める為に……っ」
「なぁビビ、何で一人で命賭けてんだ」
「……え」
「何で一人で命賭けてんだって言ってんだ。おまえは全部救いたいと思ってる、反乱軍も国王軍も国のみんなも!なぁ、おまえ一人命賭けて……それで救えると思ってんのか。少し甘いんじゃねぇのか」
「っ……!!」
「誰も死なずになんて無理だ。人は死ぬぞ」
人は死ぬ。当然の真理だ。だって生きているんだからな。
死なないとなるとそれは正真正銘の化け物であり人ではないだろう。人である限り、生物である限りいつかは死ぬものだ。その時期が人それぞれなだけで。
ビビは叫ぶ。それがどうした!とそんなのわかってる!と。けれど彼女は救いたいのだ、みんなを、国の全員を。何も知らず巻き込まれた彼らを憐れみ慈しみ、救いたいと思った。女神ではないのにそれを行おうとしている彼女は確かに甘い。でもその甘さと優しさが彼女の強みなのではないかと、俺は思う。
まぁ合理的ではないがな。
「だから一人で何でもかんでも抱え込むんじゃねぇ!!おれ達がいるじゃねぇか!!!おれ達の命ぐらい!一緒に賭けてみろよ!!!!」
それはルフィの心の叫び。
「仲間だろッ!!!!!!!!」
お前は一人ではないんだよ、ビビ。
「うっ……!うぅっ、ぅあぁああああっ」
脇目も振らず泣き続けるビビに、ナミが抱き寄せ、他の男共は静観する。ルフィはやっと泣いたと笑い、俺もルフィの荒療治に苦笑する。
この日、一人の王女が一人の女性として本当に仲間になった瞬間であった。
ま、そんな感じで俺達は今レインベースにいる。
ユバの街からさらに上。クロコダイルが経営するというレインディナーズがある場所、レインベース。かの王下七武海はこの場所を拠点にしているらしい。バロックワークスのボスとしてではなく、ただの王下七武海としては有名なので所在が掴めやすいと思っていたが、これはビビが王宮にいた時から知っていた事実らしい。
まぁ王下七武海がいるから、こんな発展した街になったのだろうが。
「街の中だからか、あまり暑くないな……」
「砂漠の上じゃないもの。太陽の熱を遮るものが多いから、必然的に比較的涼しくなるのよ」
「ビビ」
ぽつりと呟くといつの間にか隣に立っていたビビがそう返してきた。
水だぁああああ!と叫んで水を求めて駆け出し行ったルフィとウソップを見送り、人目のつかないところで休んでいた俺達。あの二人で大丈夫だろうかと、心配になりながらもビビとの会話に勤しむ。
こうして話していると本当に王女なのかどうか疑わしくなる。それほど活発であるし、気さくだ。エージェントとして会った時からそれは感じていたことだけれど。
「夢と希望の街、レインベース。カジノを中心としたオアシス。悪趣味なバナナワニが辺りを見渡すように佇んでいるのが特徴ね」
「バナナワニ……?」
「アラバスタ固有種よ。頭にバナナのようなコブがあるからバナナワニって呼ばれてるけど、彼ら草食じゃないわ。寧ろ獰猛な肉食獣。成獣で平均30メートル程になるのよ」
「そりゃぁ、おっかないなァ」
「元々レインディナーズができる前はバナナワニが生息する湖がある場所だったの。その獰猛さから誰もオアシスにできないでいたんだけど」
「クロコダイルが来て作っちまったってわけか。まぁ王下七武海ならバナナワニぐらいぶっ飛ばせるだろうしな」
「そう、オアシスが一つ増えたんですもの。民衆は感謝したわ……けれど王宮ではある懸念があった」
「バナナワニの居場所か」
「えぇ。バナナワニにとっては住処を奪われたも同然。快適な生簀を用意されたってその怒りは収まらなかった。彼ら頭が良いんですもの、閉じ込められたと認識したのね。でも反逆を起こしたバナナワニをクロコダイルは鎮めた。今では彼らはクロコダイルの言いなりだわ」
レインベースの歴史をビビから聴きながら辺りを見渡す。来た時は涼しいと思ったこの場所も慣れた今では暑い。パタパタと服を動かしながら、何処からか声が聞こえた方を探る。
「……て……ぇ…………ぁ……!」
何処からだろうか。怒声のようなものが聞こえる。更には民衆がざわざわし始めた。見る先は先程ルフィとウソップが走って行った方角。
「……あの馬鹿野郎ども……っ」
一つの可能性に行き着いて人知れずため息を吐く。他のクルーは気づかなかったが、ビビだけは俺の変化に気づいた。どうしたの?と声を掛けてくるが、頭を振って大丈夫だとアピールする。
それよりも今は。
「ビビ、逃げる準備を」
「えっ」
「早くしろ!」
「え、えぇ!」
段々とはっきり聞こえてくる怒声に思いっきり舌打ちする。俺の予想が正しければ、またハプニングの予感だ。いやナノハナでやらかした俺が文句言える立場ではないが……長旅で疲れてるのにどうしてこう厄介事を持ってくるのだろうか。
「面倒くせェッだろッ!」
曲がり角で姿が見えた瞬間にジャンプしてドライヴに乗る。ルフィが笑顔で手を振り、ウソップが青ざめた顔で走っているのを確認してドライヴを発進させた。
風を切って一瞬で距離を詰めた俺はもう一回ジャンプして回転。逆さのままで展開させたドライヴが発する電磁波を蹴りつける。そこからでてくるのは電磁砲だ。ルフィ達とそれを追いかける海軍を分断するように着弾させた。
飛び散る海軍といきなりの事で叫ぶウソップ、笑うルフィと場はカオスと化する。ま、それが狙いだけれど。
「足止めは俺がする!早く行け!」
「悪いな!エド!」
「す、すすすぐ来いよ!!エド!」
二人の言葉にサムズアップしながら、俺の下を抜けようとする海軍達に牽制の電磁砲を放つ。余っているドライヴ達で紫電を放ち、横を通り抜けようとした海軍も止めた。
紫電の方は武器に伝達したのだろう。殆どのやつが右手を抑えて武器を手離していた。
「クククッ、アハハハハハッ!!どうしたァ!?かかって来いよ!!雑魚ども!そんなんじゃ我が麦わら海賊団が船長、麦わらのルフィの首なんて取れやしねぇぞォ!!」
オレの首もな!
後ろから何あの悪役なんて聞こえてくるが知らねぇな!海賊って悪役だからノーカンだ!
「誰が」
その時海軍の群れの中から一際でかい海兵が出てきた。スモーカーだ。不敵に笑った顔はとても海軍には見えないが、あれでも大佐でモクモクの実の能力者である。
ただ、なぜその半身を煙に変えてるんでしょうか。
「雑魚だってェ!?狂気の科学者!!」
うわ!飛んできやがった!
十手を振りかざしてきたスモーカーから離れるようにドライヴを操作する。その際、隙を突いて抜けようとしてきた海軍を電磁砲で牽制。目の前の敵に目がいって他の事を忘れてはいけない。これは鉄則である。
「クハハハハハッ!!テメェの事は言ってねぇよ!執念深いスモーカー大佐ァ!」
「狂気の科学者エド!スモーカー大佐から聞いてましたが、本当に麦わらの一味に加わっていたとは!」
スモーカーの十手をかわしながら下を見ると太刀だと思われる刀を持つ眼鏡をかけた女がこちらを見上げていた。藍色の髪に合わせたような藍色の上着。動きやすいようにしているのかジーパンを履いている。あれがたしぎ曹長だろう。苦手な相手だとゾロが言っていた。
なんで苦手なのかは知らないけどな。
「たしぎィ!!麦わらを追いかけろ!」
「ですが!」
「俺は此奴を捕まえてから行く!」
「……はっ!了解しました!」
走り出したたしぎ曹長に慌てて牽制の電磁砲をお見舞いするも難なくかわされ、後ろを見るとルフィ達が慌てて走り出していた。いやまだ逃げてなかったのかよ!!これじゃ時間稼ぎに牽制した意味ないじゃねぇか!!
「ククッ。オレを捕まえるたァ、いい度胸だな。スモーカーァ」
「ハッ!どんなカラクリかは知らねぇがな、そんなおもちゃ壊してとっとと捕まえてやる」
「ハ?」
は?おもちゃ?今、ドライヴをおもちゃと言いやがったのか?此奴。
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。オレが作り出した最高傑作のドライヴをおもちゃ扱いしやがった事に怒りが抑え切れない。
まだまだ進化できるドライヴだが、ここまでくるのにも相当記述がいる。それこそこれを一から作れるのはオレだけと自負できるほどのなァ。
あーぁ、オレを怒らしてくれちゃってー。
「その言葉、撤回させてやるよ」
「何をッ!?」
ドライヴを操作して更に上の空へと躍り出る。そしてくるりと半回転して重力による自由落下に身を任せながら、仲間達を追いかけ二手に分かれようとする海軍を見据える。右手を上げて、クヒッと笑う。
狙うは敵のみだ。
「ニュートロン」
数メートル先、ちょうど二手に分かれる道の裂け目、そこに素早くドライヴが飛んでいき……そして強力な電磁波を発生させた。
人が宙に浮く。走っていた海兵達が急に浮き始め、そして一箇所に集まり始めた。それは地獄行きの切符。巻き込まれれば最後、ただでは済まないモノ。
「なっなんだ!?身体が宙に浮いてッ!」
「ぐぁっ!刀が当たって……!」
「うわぁあああー!!!」
「どうなってんだよ!コレ!?」
たしぎ曹長は流石実力者と言えば良いのか、愛刀を地面に突き刺し耐えている。それが正解だ。急なことに反応できなかった一般兵達はお気の毒だが、ここでリタイアしてもらおう。
海兵
「ぼぉーん」
口角を歪めながらそう言った瞬間、爆発が起きた。中心地は勿論海兵達の塊だ。
くるりと半回転して地面すれすれでドライヴに乗る。地面に向けていた顔を上げれば、血を流し気絶した海兵達が地面に降り注ぐ。首折れなきゃ良いけど、なんて心にありもしない心配をした。
ニュートロンボム。エルソードでエド第一次職、ナソードルーラーでの最終会得スキル。ま、十五レベルで第二次職になれるのでそこまで多用するようなスキルでも無い。前方にドライヴを展開、それを中心に電磁波を円状に広げて周りの敵を吸い込み爆発するスキル。消費SPが300に対して、少々威力が低いのが難点だが敵を一箇所に集めるってのが便利だったりする。
しかしながら、このニュートロンボム。ゲームでは吸引時間が一秒にも満たないぐらいだったが、かなり上空から落ちていたオレの落下時間は約二秒間。そう思うと一秒ぐらいは超えているのでは無いかという程の吸引時間だった。やはり現実では調整が効くんだろうな。
そうでなきゃ困るけど。
「(あ、ちょっと残ってしまったか)」
百人ほどいた海兵が数十人まで減っていた。海兵全員を吸いきれなかったのが残念だが、時間稼ぎとしては充分だろう。唖然とするたしぎ曹長とスモーカー大佐に振り向いて、優雅に一礼する。
ククと嘲笑ってやった。
「さて、テメェがオレの地雷を踏み抜いてくれたおかげで数を減らせた。感謝する」
ビキリとスモーカーのこめかみに青筋が入った気がするが気のせいってことにして……俺は逃げるぜ!
「んじゃ、必死になって追ってくるんだなァ!雑魚の海兵さん達よ!!」
この街に来てだいぶ冷えたドライヴを使ってルフィ達を追いかけた。目指すはレインディナーズだ!
「エぇぇええええドぉおおおおオオオ!!!!」
逃げ始めてから数秒後の事、後ろから地鳴りのような怒鳴り声が聞こえてびくっとしてしまったが、振り返らずに向かう。ここで止めてしまったら捕まる未来しか見えない。逃げる一択だ。俺は基本、小心者なんでね!!
いやほんと、なんで俺がエドになってしまったんだか!全然性格が違ぇのなんのってな!
「……本当になァ」
クク、と口角が上がった。
クハハハハッ!俺を呼ん(呼んでません)
スキル名がニュートロンボムと気づいたここ最近。エドは「ニュートロン……ぼぉーん」か「ニュートロン……ぼぉーむ」か、どっちを言ってるんだろうと考えたけれど、前者の方が絶対に良いと前者を採用。
採用と言えば、今度採用試験あるんだ。あがり症&緊張で頭真っ白になるタイプなのに受かるかどうか。