現代人 in エド in ONEPIECE 作:アディオス
どうにもならない事に直面すると、人は諦める節がある。
深く考えれば何か良い案が出るかもしれないその現場で、少しだけ思考を巡らせて答えが出ないとする。すると何故か、どうする事も出来ないと認識するのだ。
探究心が大きい科学者にとって、その思考は愚かにも程がある。目の前の事しか見えていない、違う方向から見ると、見えていなかった物が見えるかもしれないのに、何故そうしてすぐ諦めるのか。そう思うかもしれない。
だが、人というのはそういうものだ。思考を放棄した間は例え問題を先延ばしにしているとは言え、安らかな時間になる。心の何処かで安心するのだ。あぁ、もう何もしなくて良いと、他人に任せようと思う。
こういう危機感がない現実逃避しているとも言うこの考え方は、今の俺にも言えていた。
いやまぁ、これは別に思考放棄してもいい案件だとは思うのだけど。
「船長、何故ここに」
「ん?おー!エドか!何処行ってたんだよ!」
「それは、こっちの台詞なんだが」
ばくばく、もぐもぐ。
店長のおっちゃんが出す料理を、片っ端から平らげていく我らが船長、モンキー・D・ルフィ。
そんな彼の斜め前は、巨大なボールでも通ったのかと思うぐらいには丸い穴が開いていた。奥を見ると隣に並んでいた民家までも風穴を開けているみたいで、思わずため息が出る。
この風穴を作ったのはルフィだ。飯屋ー!と言って出て行ったのにも関わらず、俺より後に飯屋を見つけたらしい。腹が減っては戦はできぬ、早く食べたい一心で能力を最大限に使い突っ込んできた結果が、風穴。
これって損害賠償とか出ないよな?出る?俺じゃねぇから、払いたくないんだが……あぁ、ナミの怒り顔が見える……怖い。
海賊なんだから逃げれば良いと思うが、もと日本人な俺にとっては良心が痛む。ほんの少しだけなので、そこまで罪悪感はないが。
ここまで考えて思考放棄をして、冒頭に戻る。怠惰でも愚考でも良いだろう、これは考えたくなくなる物だ。俺は何も見てない、みてない、ミテナイ。
「そういや、船長。ナミが探してたぜ?まぁ実際に探してたの俺なんだが。一人で飛び出すなってよ」
「ん!ふぉか!ふぇもふぉー!おふぇ、はふぁふぇってたんふぁよー!」
「飲み込んでから喋ろよ」
「……んぐ!そうか!でもよー!おれ、腹減ってたんだよー!」
「言い直さなくても、ニュアンスでわかるわ」
はぁと溜息を吐きながら、最後の一口となったピラフを食べる。
ご馳走様。そっと机の上にお代を置いて立ち上がり、ルフィの方へと向いた。
目の端では、風穴の向こうから白いダウンコートを着た薄い水色の髪をした男性が立ち上がろうとしている。その前では、黒髪の男が此方へ歩いて来ていた。死んだと見せかけて実は寝ていた野郎だ。
「先行くけど、一つ言う事が」
「なんふぁ?」
「さっきお前が吹き飛ばしたやつ、ローグタウンで追いかけて来ていた大佐だからな、気をつけろよ。ルフィ」
それを聞いてきょとんとしながらも口を動かしている、ルフィにくつくつと笑いながらも、踵を翻す。まぁ、麦わらの一味である俺も例外ではなく、気をつけないといけないのだが、あの男の一番の狙いはルフィだ。
この場はさっさと退散するに限る。
「麦わらぁあああああ!!!!!」
「げぇっ!?煙の奴!?!?」
さてさて、戻るか。全力で。
飯屋を出た瞬間に聞こえて来たその怒声に、俺は慌ててドライヴを展開し、その上に着地。音に迫る速さでその場を後にしたのだった。
「えぇえええええ!?!?ルフィのお兄さん!?!?」
ルフィを大佐が追いかけ、その大佐の部下達もルフィを追いかけ、何故か此方に逃げてくるルフィから逃げる俺という謎の大行進ならぬ、大逃走が終わった後。
何とか仲間と合流し、何故か逃げるのに協力してきた突然死の男と、船で再開する。
……超展開だな。
まぁその突然死の男がルフィの兄という超展開も今しがたあったのだが。いやね?原作を知ってる身としては気づかなかったという方が俺は驚いてる。何であの特徴的な帽子と半裸という時点で気づくべきだった。顔見た瞬間に思い出したけども……あの、悲劇もな。
こういう何かのきっかけがなきゃ思い出せなくなるぐらいに記憶が薄れているのか何て考えてしまうが、今はその事は放置しておこう。記憶なんて一度消えてしまえば、戻すのは難しいからな。
「それで、その白ひげのとこの火拳が何故こんなところに?弟を探してってわけじゃないだろ?」
そう言うと、彼は此方を見て少し目を見開く。ん?何かしたか?俺。
「お前さっき飯屋で!」
「今気づいたのかよ……」
どうやら相手さんは気づいてなかったらしい。マジかよお前。
ハァと、呆れたように溜息を吐く。兄弟揃って馬鹿なのだろうか。
「いやー!迷惑かけたな!すまん!」
「今謝るのかよ……まぁいいが」
それに、迷惑っていうほどかけられたわけでもない。ただ、横で食事してた誰かが気絶してその周りが死んだ!と騒ぎ立てただけである。もし謝るのなら、周りの野次馬達に毒でも盛られたと冤罪かけられそうになっていた店主にだ。
謝ってきたルフィの兄、ポートガス・D・エースはけらけらと笑う。何が面白いのやら。
「ルフィに会いに来たのは勿論会いたかったのもあるが、まぁついでだ」
「「「ついでかよ!!!」」」
ついでって酷い兄だな。
「おれはある男を追っている。絶対に殴らなきゃならねぇ相手だ」
帽子を深く被りそう呟く。雰囲気が変わったからか、ウソップがゴクリと唾を飲み込んでいた。
「その足取りを追っていたら、お前の噂を聞きつけたってわけだ。ルフィ、会えて嬉しいぜ……強くなったな」
ニカっと笑うその姿は本当にルフィそっくりで、血を繋がっていないのを疑うほどだ。
環境が人を形作るのもあるが、兄弟で育ったからこそここまで似たんだろう。まぁ、エースの方がルフィより冷静で大人ではあるが。
ルフィもニカリと笑い返して、嬉しそうに頬を染める。
「しっしっし!」
良い兄弟だな。オレにはそんなものいなかったので共感はできないが、世間一般の目から見てそう思う。
そんなこんなで弟に再開した兄は、俺たちの目的地が一緒という事で同行することになった。まぁ今は海軍に追われているからそれを巻いてからになるけどな。
麦わらのルフィよりも大物な彼は海軍達を一人で引きつけると言う。ルフィ以外がそれに同意し、一緒に行くというルフィを俺がドライヴで甲板に縫い付けてエースを送り出した。
「久しぶりに会えて嬉しいのはわかるが、後でたくさん話ができる。今は我慢の時だぜ?船長」
ドライヴによって押さえつけられた首は地面とぴったりくっついているが、それでもルフィは首を縦に振った。ゴム人間だから首が潰れていても平気なのは知っているが相変わらず奇妙な絵面だ。
ビビの案内の下、ナミの号令によってゴーイングメリー号は進み始めた。
「で、俺たちが向かうのは何つー場所だ?」
遠くで舞い上がる火柱を見ながらそう呟くと、ルフィ以外の全員が驚いたようにこちらを見た。いや、驚きもあるが呆れも混じってるなこれ。
「どうした?」
「どうした?じゃねぇよ!ナミさんの素敵な号令が聞こえなかったのか!?」
「聞いてなかった」
「おぅおぅ!良い度胸だな!おい!」
決して手は出さず足を出すであろうこの船のコックは、スーツの袖を腕まくりしながら此方に歩み寄って来る。その表情は怒り。愛し野ナミさんの言葉を聞いてなかったからか。
せっかく腕まくりしたのに案の定脚技を繰り出して来る彼の足をかわしながら、答えてくれそうなやつを探して辺りを見渡す。
「で、何処に向かってんだ?」
「そーだ!どこに行くんだ!?」
俺のドライヴによって地面に縫い付けられていたはずのルフィまで参加して、二人して皆に問いかける。更にみんなが呆れたような気がした。
「ユバの町よ、ルフィさん。それにエドさん」
呆れている麦わらの一味の中から一人歩み出る。綺麗な空色の髪をしたその女はこの国の王女である。そんな彼女は苦笑しながらもそう目的地を告げた。
「ユバ?」
「ってーと、何処だ?」
船長と二人で首を傾げる。二人共アラバスタの地理を把握してなさすぎていた。俺は興味がないから、ルフィは元々地理を覚えるという事が出来ないから。
馬鹿!!とナミに二人して殴られて地に伏せる。少し甲板がベキッと音がなった気がするが気のせいだと思いたい。というより受け身を取れなかったのでとても顔面が痛い。
「ユバは反乱軍の拠点にしてある町なの。そこに行けばきっと合流できるわ」
全然話を聞いてなかったせいで知らなかったが、これでわかった。王国は七武海クロコダイルの手の内か。一見平和に見えるこのナノハナでも何処かで何かが可笑しいのかもしれない。ブロックワークスのブの影も見えなかった。これは強く根付いてるんだろう。あぁ賞金首狩りの組織かと思えば、ボスとその側近は賞金首。まぁボスは海賊狩りを正式に認めてられている海賊だが。
王国存亡の危機。これは一筋縄ではいかない旅になりそうだ。
うん、とてもとても。
「(面白いれェ旅になりそうだな……ククッ)」
ルフィ追いかけてきた海軍もいるしな。ストーカーかよ、怖。
ルフィが立ち上がりユバ!と呟いている。いや呟いている声量なのかはどうかわからんが、まぁそれはさておき。彼は新しい町にワクワクするのか、笑顔になっていた。甲板に躍り出て両手を精一杯広げる。
「よぉーっし!出発だァ!!いざ、ユバへ!!!!」
「うるっさい!!海軍に聞こえたらどうすんのよ!!!!!」
「ぐへっ!」
拳骨によりルフィの首を思いっきり飛ばしたナミの方が五月蝿いだなんて、誰も怖くて言えなかった。
エタッテナイ、エタッテナイ。エタッテナイヨ、ホントダヨ。一年以上経ッテタトカ、嘘二決マッテルヨネ?