現代人 in エド in ONEPIECE   作:アディオス

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砂漠の国で殺人現場に遭遇する15話

 

 

 

暑い。

 

それがここアラバスタに着いた時の感想だった。

ビビが言うには、このオアシスの一つナノハナはまだマシな方だと言う。砂漠のど真ん中よりは全然涼しいというのだから、砂漠に入ったら俺死ぬかもしれない。

街での買い出やら何やらをサンジとチョッパーに任せて影でぐったりと壁に背を預ける。

大方、この服装のせいだろう。長袖のTシャツに半袖の上着だ。手袋もしているし長ズボンだしで、どう見てもこの場所に向いていない。いや、半袖じゃない時点で肌に焼けるような痛みがないだけ、まだマシと言えるか。

けど、それ暑さは別だ。ドライヴのクーリング機能を今オンにしているが、それでも暑いぐらいだ。科学者に労働は向いていないのだから、勘弁してくれと思う。いやまぁ、室内の快適な環境に慣れきってしまった、というのもあるが。

というか腹が減った。何処かの誰かのおかげで飯がまともに食べれない日々が続いていたのだ。腹が減ってしょうがない。ご飯屋に行きたい。

……あ、行っても良いかもしれない。

飯屋に行けば腹ごしらえもでき、室内である為に涼しめる。一石二鳥ではないだろうか。

元々顔が広まっているからという理由で買い出しから外されたが、人々の記憶力はそう良くはない。幾ら9000万の賞金首だからと言って、すれ違う人の顔を見ているとは限らない。そもそも、ローグタウンでも賞金稼ぎに言われてやっと気づいたというところがあったし、そうウロチョロしても気づかれないだろう。

うんうん。考えたら益々良い案だと思ってしまう。よし、行くか。

俺は立ち上がり、街の方へ歩き出そうとする。しかし、右肩を掴んだ手が俺の進行を阻んだ。

 

「何処へ行くのかしら?」

 

ナミか。

 

「いや、少し飯屋に」

 

振り返りながら、そう答える。

ナミの顔を見ると、余計な事はするなという思いがありありと顔に表れていた。どうやらお怒りらしい。

 

「ご飯ならサンジ君達が買ってきてくれるから、わざわざ行かなくてもいいわよ?」

「待てねぇな。それに、暑いから涼みに行きたいんだよ」

「日陰ならそこにあるじゃない」

「空調の効いた室内が良い」

 

俺の言葉を聞いたナミは溜息を吐いて、腕を組んだ。話を聞かない此奴をどうやって説き伏せようか、と考えている顔だ。交渉が得意なナミらしい表情だが、俺にはちょっとその顔をされている意味がわからない。別に良いじゃないか、ルフィみたく飛び出していかないだけマシだと思って頂きたい。

 

「暑いなら、その上着脱げば良いと思うけど。とにかく、一人での行動は駄目。そもそもあんた目立つし」

 

ん?

 

「どこが?」

「その服装と後ろの機械を見てからもう一度言ってみなさいよ」

 

呆れたような目をして頭を振る。

確かにこの服装とドライヴは目立つだろう。服装にしては変人だと扱われるだけで大丈夫だと思うが、このドライヴが一番目立つ。何せ浮いている機械だ。機械自体、あまり見かけない世の中なために確かに不思議に思われるかもしれない。だけど、それだけだ。変なもの浮かせてんな、だけで済む。

 

人ってのは思ったより無関心なのだから。

 

けどそう言っても、ナミは許してくれなさそうだ。仕方がない。服装はどうにもできないが、ドライヴはどうにかできる。この機械は見た目の小ささより、多機能である。だから。

 

「ドライヴ、不可視モードだ」

 

俺の口からドライヴへの命令が放たれると、ドライヴは了解したと言う様にくるりと回ってから、消えていった。

それを見届けた俺はナミの方へ振り返ると、ナミは唖然とした表情で俺の後ろをガン見していた。いや、そんなに見なくても。周りを見ても、居残りメンバー全員ナミと同じ顔をしている。そこまで驚くことだっただろうか。首を傾げる。

 

「……便利だなと常々思ってたが、そりゃ反則だろ」

 

ふと、ゾロがそう言った。

確かにそうかもしれない。不可視にすれば、何処から攻撃が来るのかわからなくなるからな。俺は頭の中で命令して、操作しているから場所がわかるが、普通はそうはいかないだろう。

まぁ、人外だらけのこの世界ならば、風の切る音で場所がわかるとか言いそうな奴、一人二人はいそうだ。

 

「で、此奴が消えれば、ただの変な服着た変人になるだろ。行っていいよな?」

「……はぁ、あんたってちょっとずれてるわよね。まぁいいわ、けど頼み事頼まれてくれる?」

「なんだ?」

「ルフィよ。連れ戻してきてくれる?」

 

あ?

 

「睨まない、睨まない。彼奴、どこ行ったかわからないのよね。帰ってくるとは思うんだけど、保険をかけようと思って」

 

だからね、お願い?

そう言ってナミは両手を合わせて少し屈んだ。あざとさを最大限生かす姿勢である。整った顔や胸の大きさも相まって、大抵の男は落とせるポーズだろう。サンジならイチコロだ。

まぁ、彼はいつも愛の奴隷だが。

ナミの言っている事は、飯を目当てに走り出したルフィをこの街の中から見つけ出し、連れ戻す事。安易ではない事は明白だった。

 

「わかったわかった。やれば良いんだろ……ったく、面倒だな」

「ありがとー!じゃぁ、行って良いわよ!」

 

笑顔で手を振る彼女に、ケッとそっぽを向きながら歩き出す。ドライヴは隠しているので、乗ることは出来ないので徒歩になる。

凄く面倒だが、仕方がない。まぁ、ルフィを捜すのは後でいいだろう。先に飯屋だ、腹が減った。自分大好き人間だと言ってくれても構わない。というか、海賊とはそういうものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間の姿が見えなくなるぐらいになると、首を振って捜すふりを止めて、直ぐそばの人間に話し掛ける。俺はここの地理を何も知らない。ましてや、地図なんて持ってないし。

 

「おい、そこのお前」

「はいっ?!」

 

少し年の言った所謂中年だと思われるおっさんは、俺の声を聞くと振り返り、そして上擦った声で答えた。いや、そんな驚かんでも。

しかし、相手の表情からするに驚いてるのではなく、ビビっているという表現の方があっている。

ビビられてんのか、俺。目付き悪いから?16なんだけどな。

 

「ここから近い飯屋は、どこにあるか知ってるか?」

「へ……あ、あぁ。そこの角を曲がって真っ直ぐの突き当たりに」

 

中年男性が指差した場所を見て確認する。思ったより直ぐそこにありそうだ。これはラッキーだな。

見知らぬ親切な男性にありがとな、とだけ伝えてまた歩き出す。情報収集は大事だな。こうして飯屋の場所もわかるんだから。

角を曲がり、真っ直ぐ歩く。少し遠いが、T字路になっている場所に飯屋であろう看板があった。ナイフとフォークとはわかりやすい。

この世界に来て何故か読める字が書いてある看板を見ながら、扉を潜る。まぁ扉って言って良いのかわからない作りではあるが。ここが入り口なのだろう。いらっしゃいませ、という店員の声が聞こえた。

周りを見渡し、テーブル席が埋まっているのがわかると誰も着いてないカウンター席へと座る。真ん中よりも少し左にずれた場所だ。

 

「いらっしゃい。何にします?」

 

人の良さそうなおっちゃんが臆せず話しかけて来た。接客業だからこういう柄の悪い奴でも慣れてるのだろう、さっきはビビられたのに。俺、一応見た目は子供だぜ?

メニュー表の一覧を見る。なるべく量が多くて、手軽なのが良い。普通に考えて、ピラフやチャーハンなんだろうが……いや、チャーハンて。

 

まぁ、良いか。

 

「ピラフ、大盛りで。あと、飲み物も適当に頼むぜ」

「あいよ」

 

眩しい笑顔を向けて来たおっちゃんは、早速とばかりにコンロの火を点けて、油を引いている。いつも思うが、こうして見るとこの世界の基準がわからない。

良くある転生モノでは、異世界へ行く話だが、その話は大抵ファンタジーであり、中世に一番近い文明がある。つまりは、こういうコンロなどが無い……はず。

なのに、この世界じゃこうしてコンロもあるし、コンクリートっぽいのもあるし、銃火器とかもある。銃弾を作る技術があるんだぜ?悪魔の実とかいう、魔法みたいな能力もあるのに。

 

俺の背中にあるドライヴもな。

 

こいつが本当に良くわからない。

本当はイレギュラー、つまり異物であるはずだ。俺自身もそうだが、この身体もそうである。この世界の物語にはいないはずの、別世界の登場人物、そして人間。

エド自体がこの世界の人間ではなくて、何か理由があってこの世界に迷い込み、俺がこの世界に来たからこの身体に入って乗っ取ってしまった、という可能性もあるが……それは無いだろうな。

オレはこの世界で生まれて、この世界で育ったのだから。

 

「(そういや、あいつ。しっかりとやってるんだろうな……)」

 

どうだろうか。

オレがこの計画を言い出した時、反対していたからな。君の人格がなくなったらどうするの、とかなんとかほざきやがって。

心配しすぎなんだっつーの。順調なんだから良いだろうに。

彼奴らと関わるのは想定外だったが、ここまでは順調だ。ドライヴもちゃんとやってくれてるしな。

それに何より、今の生活は結構面白い。帰ったら、自慢してやろう。こんな所に閉じ籠っているより、良い経験だった!とな。

くくっ、女王サマはどんな顔するのやら。まぁ、今のままじゃオレの目的は達成されてないから、何か言ってくるんだろう。そもそもまだ帰らねぇから、そんな心配もいらないか。

 

「お待たせ。熱々だよ、気をつけて食べな」

 

色々と考えている間に、熱々のピラフが出て来た。油が光に反射して良い感じに、味わいを出している。というか、湯気から来る匂いですでにうまそうなんだが。

スプーンで一口すくって、口に運ぶ。はふり。熱さが口の中で広がったが、火傷することなく味わえた。うん、美味いな!

 

「美味い。ありがとな、おっさん」

「嬉しいこと言うじゃねぇか。ほれ、頼まれてた飲み物だ。ピラフに合うもの、用意しといたぜ」

「おぉ」

 

カランと氷が揺れる。うーん、見てるだけで涼めるな。ここも、日陰になってるからか涼しいし。良い所紹介してもらった。飯も美味い。サンジの飯には劣る気がするが。

まぁ、俺はそこまで料理に詳しいわけじゃ無い。ただ、美味いか、美味くないかだけ判断できる一般の舌の持ち主だ。

そもそも、元シェフのサンジと比べるのは駄目か。

 

「隣良いか?」

 

熱々なピラフをゆっくりと味わい、熱くなった口の中を一旦冷ましていた時だ。ふと、声が掛けられる。

声の質からして若い男性と思われるが、特に気にならないのでそちらを見ずに頷く。スプーンを動かし、味がついた米を頬張る。

 

「おっちゃん、チャーハンくれ。肉たっぷりな」

「あいよ!」

 

どかりと勢い良く座った男性は、あー腹減ったー等と、うちの船長のような台詞を吐く。

ちらりと視線だけを動かす。やはり、好奇心というものには勝てない。どんな奴なのか気になった。

男性の服装は上半身裸で、短パンを履いており、小さな短剣を携えていた。赤く大きなハット帽子が癖のある髪を抑えている。ルフィと同じ黒髪だった。

この世界は黒髪の人口率が高い。色素が抜けている薄い金髪というのもいない。なのに、元々人体が持つべき色素ではない髪色をした者達がいる。俺は勿論の事、サンジやゾロ、ナミも王女サマもそうだ。色鮮やかすぎて、ルフィが平凡に見える。キャラの濃さでは、人一倍だが。

因みに俺の髪の毛だが、色素が抜けて白髪になったわけではなく元々からで、更には紫色が少し入っているように見える事から、含めたのだが……それは良いとしよう。

暫くして男性の元にチャーハンが運ばれる。テカテカと輝き、スプーンで掬うとパラパラと米粒が落ちる。一口。男の口内にそれが運ばれる。

 

「……!うっ、め!」

 

そこからはもう良い食いっぷりで、見ていて清々しい程だった。本当に船長と似たような食い方だ。特にスプーンの持ち方とか。

子供のように鷲掴みしてるところから、箸とか持てるのか不安になるが、持てなくても大丈夫そうだ。ここは作法とか、そんなに無さそうだし。高級レストランとかはわからんが。

その男性からは目線を逸らし、二分の一程になったピラフをまた一口頬張る。隣の彼とは食事のスピードが違うが、飯は遅く食べる程腹が膨れやすい。そんなに金を持っているわけでは無いし、俺自体少食である。なので、このゆっくりとした食事になるわけだが。

さてと、ただ飯を食べるってのも暇なのでドライヴに記録させたデータを見るとする。勿論、透明なままだ。

この島の前の前に寄った島であるリトルガーデン。古代の植物や生き物たちがそのまま生きていた奇跡の島。あの島自体が生きた化石と言える島だが……どうにも、興味深い島だ。

リトルガーデンは昔の生物がそのまま何千年と経った島なんだろうが、それは人の手が入らなかった証拠でもあるし、自然災害に動物達が耐えた証拠でもある。一応人の分類に入る巨人種がいたが、あれは別だ。

つまり、何が言いたいのかというと、この世界の祖先と俺がいた地球の祖先は似たようなものであり、その事からこの世界は、地球のもう一つの可能性である、という可能性が高い。所謂、根本的なものから違う並行世界というわけで。

だいぶ前の話にも繋がるが、この世界は何ともちぐはぐな世界だと思う。よく分からないのもあるが、面白い。

リトルガーデンでの記録データを振り返りながら、そう考え笑う。もっと、この世界を見てみたくなったな。

 

「(あ。違う銀河系っていう可能性もあるな)」

 

いやはや、謎は深い。

その時、隣から鈍い音と高い音が混ざったような音がした。存外、大きい音だったそれは俺や、この飯屋にいる客人と店長であろうおっちゃんを振り向かせるのに十分で。

音の元凶であろう半裸の男性を見ると、そいつは顔面をチャーハンがまだ残る食器に突っ込んでいた。

 

……し、死んでる!

 

 

 

 




空調ってあるんだろうか、なんて思いながらも投稿。
あの服装で砂漠に行ったら死にそうなエドだけど、ドライヴが何とかする感があるなぁ。

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