現代人 in エド in ONEPIECE   作:アディオス

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航海士と共にこの国の王と相対する13話

 

 

 

 

「あれ、エド?」

「ん?ナミか?」

 

雪が降り積もる廊下に出た直後、少し離れた場所にナミの姿が見えた。どうやら同じように病室から出てきたらしい。コートを着たナミの頬は少し赤くなっているので、完全に熱は下がっていないようだ。

近くに寄って話を聞いてみると、どうにも爆発音が聞こえ、心配になり出てきたそうだ。どうせルフィ達が暴れてるんだろうけど、と苦笑するナミはどこか楽しげだった。

 

「さぁ、どうだろうな。敵が来て、やられたのかも知れねぇぜ?」

「ルフィ達に限ってそんな事ないわよ。彼奴らの生命力は化け物並みよ?」

「クックック、確かに。ま、実際ルフィは悪魔の実を食べた化け物だしな」

「でしょ?」

 

クツクツと笑う俺に、ナミもクスクスと笑う。

俺もそうだが、ナミも心配しながら心の何処かで彼奴らは大丈夫だと信じている。だからこそ、俺が不謹慎な事を言ってもナミは笑ってられるし、俺もそれに同意できる。

彼奴らの生命力の強さは原作においてもそうだ。もうボロボロになって死にそうでも生きている。まぁ、主人公格なのだから死んでは困るが……主人公の義兄が死ぬ漫画の世界である。何が起こるかは、俺というイレギュラーもいる時点でわからない。

そもそも、俺という存在はどういうものなのかも、最近曖昧になってきている気がする。まるで、用済みかのように俺の前の世界での記憶は薄れていくのだ。原作知識は覚えている部分だけ、薄れてはいかずに残っているが。

イレギュラー。不規則な存在だからこそ、俺は……いずれ消えゆく存在なのかもな……。

 

「エド……?」

 

暗い思考の海に心配そうな声が聞こえてくる。

力強いソプラノは、波を打って俺の耳へと届いた。

 

「あ、いや、考え事してただけだ」

 

そう言って首を振る。何時もの顔を作り、なんて事ないように振る舞う。

俺の不安は仲間に知らせてはいけない気がする。俺というイレギュラー……それにこの身体の本来の持ち主であるエドもこの世界においてはイレギュラーだ。

そ、と呟いたナミは、寒いわねと腕をさすった。話題が逸れたのはいい事だが、此方から顔は見えないので少し不安になる。

本当に何でもない事を伝えようと、ナミに声をかけようとするが、突然聞こえてきた叫び声にも怒号にも似た声が耳を劈いた。

 

「な、なななっなんじゃこりゃぁああ!!」

 

それは下から聞こえてきたもので、ナミと同時にそちらへ向く。

そこには暖かそうな服に身を包んだ、豊かな身体をした男がいた。何故か下顎がでかく、それは鉄に覆われていたが。

はて?誰だろうか?二人同時に首を傾げた。

どうしても顔が良いと言えない部類のそいつは、一度ても見れば忘れないような顔をしていた。この城に来るまでの間、そしてここに来た時までの間で、この顔を見た事はない。

 

「どうなってんだ?なんで、俺サマの城がこんな雪だらけになっている?」

 

下から聞こえてきた声は不満たらたらのようで、現にそいつは眉間に皺を寄せていた。

俺サマの城?確かにそう言ったかこいつ。

 

ってことはだ。

 

「あいつが国王か」

 

アポロだかなんだか知らねぇが、あいつが国王って事には違いない。

確かにイッシー20なんていう、この国の医者二十人を引き連れて何処か旅に出かけたらしい。ドルトンさんがそう言ってた。

国民から忌み嫌われる国王は、駄王らしく独裁政治を行ってたらしいな。確か第一憲法が“国王の言うことは絶対”という、王様ゲームかよと突っ込みたくなるようなアホ丸出しな内容だった。うん、よく見たらアホそうな面してんな、オイ。

俺の呟きを聞き取ったナミは目を丸くして、国王を凝視した。そのままあの駄王に穴が開けばいいのにな。

 

「あいつが国王!?あり得ない……」

「ん?誰だ!我が城にいる奴は!」

 

声を荒げたナミの言う事には全力で同意したいが、どうやら見つかったらしい。

ギロリと睨んでくる眼力は凄いか、いかんせんその容姿のせいで迫力が足りない。思わずニヤニヤしてしまう。本人は至って真剣なんだろうが、俺には笑ってしまう程滑稽だ。

 

「ちょ、エド何笑ってるの」

「いや、あいつの顔が滑稽すぎてだな。ククッ」

「一応アレでも王様よ?」

「確かにアレでも王だが、この国の民に嫌われている駄王だ。別にこの国の住人ではないし、笑ってもいいだろ」

「エドって、性格悪いわよね」

「クックック。悪いな、元からだ」

 

ハァとため息を吐いて、やれやれと首を振るナミの仕草はどこか演技っぽく、その顔は笑っていた。どうやら、俺の意見には賛成らしい。ナミも元は海賊専用の泥棒とあってか性格が悪い。ま、それがいいところでもあるが。

 

「貴様ら……まさか!麦わらの仲間か!?」

 

此方を指差し声を荒げる国王。

是と首を縦に振ってもいいが、それでは面白くない。あの反応、どうやらルフィと敵対したらしいな。まぁ、駄王があの将来の海賊王のお眼鏡に叶うわけがないし、そもそも此奴と友達になるなんて面汚しというか、汚点になる。

オレもこういうバカは大嫌いだ。

しかし、感情だけで動いてはいけない。時には利己的に、相手を利用しなくてはな。ククク。

 

「さぁ?私は知りませんが、麦わらとは誰のことなんです?」

「〈ちょっ!?エド!?〉」

 

ナミが隣で小声で驚いていたが、目線と仕草でここは俺に合わせるように伝える。

目を見開くナミだが、俺に何か策があるんだろうと小さく頷いた。納得してくれるのは有難いが、正直策なんてなにもない。ただ、あの国王が何故一人で城に入ってきたかを突き止めるためだ。

一応、王なのだなら側近でもいるはずなのに、彼奴にはそれらがいない。一人で突っ走るタイプだということもありそうだが、それだと余計に側近がいないのが気になる。いくら、駄目な王だろうと、一人にしてはいけないしな。

 

「麦わらとは、“麦わらのルフィ”という奴のことだが……知らないのか?」

「あ、あぁー!最近巷で賑わせてくれるあのルーキー海賊ですね。知ってますよ!」

 

一瞬悩んだあとで、笑顔で肯定する。隣にいるナミが、誰だこいつ、みたいな視線を送ってくるが無視だ無視。

俺は国王の機嫌を取るように、笑顔でいながら階段を降りる。降りる理由としては国王より目線が上では失礼だからということで十分だろう。この国王はバカそうはので、会話中に動くなどという無礼を知らずに許してくれるはずだ。

ナミは俺の後ろをついてきていた。

 

「うむ!そいつだ。で?貴様らは麦わらの仲間か?」

「いえいえ。私はしがない科学者。とても海賊などと野蛮なことはできませんよ?」

「……そうか。しかし!貴様は何故、ここにいる?ここは我が城だ!何人たりとも俺サマの許可なしでは入っちゃぁダメだ!」

「いやー、すみません。ここに魔女がいると聞きましてね、科学者として気になりここにいたんですよ。齢百を超える人間の身体が気になりまして」

「ハッ!科学者というやつは、相変わらず変な奴らばかりだな!一言で言えば、キモイぞ」

「はははっ、面目ない。それが科学者というものですから」

 

あははははっ、と後頭部を片手で押さえながら、冴えない科学者を演じておく。ま、研究者ともいうが。

いやはや、国王の最後の言葉には少しこめかみに血管が浮かんだほど、オレにとっては屈辱的だっだ。キモイだと?確かについさっき作った理由は、百を超えるババァの身体が気になるという言葉を誤れば誤解を生みそうな内容だったが、キモイはないだろう、キモイは。

それに、他の科学者様たちにも失礼だ。これだから、この手のバカは嫌いなんだ。

階段を降り、国王の眼の前まで来た俺はその腰にある見るからに怪しそうな鍵を見つける。うむ、こういうのはナミの方が得意だろう。目配せをしておく。

はたして、気づくだろうかと不安になった俺だが、力強く頷いたナミを見て安心する。大丈夫そうだ。

ナミが俺より一歩前に出て、同じように笑顔を作った。

 

「それで、王様?王は何故、ここに?最近までは国にいなかったらしいですが」

「さすがに懐かしくなってな、戻っきてた次第だ!」

 

ほう?

それだけではないだろうに、よくしれっと嘘を吐けるな。

懐かしくなって戻ってきただけなら、何故そんなに忙しなさそうなんだ?何故、この巨大な扉の前にいる?

……何かあるな。

 

「〈ドライヴ、スキャンモード〉」

 

小さくそう呟くと、背中に浮遊していたドライヴ達が一斉に扉の前へと飛んでいく。

薄紫色の閃光を走らせ、扉の前をグルグルと往復していた。

急に動き出したそれに、駄王もナミも驚き一斉にこちらを見る。ナミの方には、この隙に奪えと促す。ナミはサッとさりげなく王に近づいていく。

 

「な、なんだ!?何をしている!?」

「いえいえ、ちょっとした調査ですよ。気になったので、調べているだけです」

「は?何を言っている?」

 

いや、理由。

この世界の人間は機械に疎いのか。疎くないのか、よくわからんな。このドライヴの行動、俺の言動でわかるだろうに。

この宝物庫らしき中身を調べているという事に。

 

「……どうやら、宝物庫じゃなかったらしいな。残念だったな、ナミ」

「なーんだ。じゃぁ、これは要らないの?」

「いーや?必要だ。戦力を削ぐ意味でな」

 

ニヤリと笑いあう俺たち。王の後方に佇むナミの手にはキラリと光る鍵があった。

 

「なっ!?それは俺サマの!」

 

大きな下顎をあんぐりと開けて驚く駄王。よほど驚いたらしい。さしずめ、いつの間に!?とやら考えているのだろうが、油断しまくりなお前が悪いとでも言っておこうか。バカめ。

悪どい笑みを浮かべながら、俺は間抜けな王を嗤う。

 

「ククク。残念だったなぁ?オウサマ?この武器庫に用があったんだろうが、鍵がなきゃ入れない。さぁ?どうする?」

 

ぐぬぬと悔しがる駄王にクツクツと嗤ってやる。実に気分がいい。人をからかうってのは楽しいもんだな!

この扉の向こうが武器だらけなのはわかった。何を狙ってかは知らないが、大方戦力上昇のためだろう。ルフィとサンジは強いからな。原作でも麦わらの一味の三強である。こんな雑魚にやられるはずがない。

暫く悔しがっていた王様だったが、俺とナミを見ると鼻で笑いやがった。ピキリとこめかみに力が入る。

 

「ハッ!カバめ!取り返したらいいだけだろうが!」

 

そう言うと王様は、その大きな口をニヤリと曲げた。

 

「バクバク工場(ファクトリー)!“スリムアップワポル”!!」

 

あ、ワポルって名前だったのか。

ワポルは自身のがま口を大きく開け、頭から自分を食べ始めた。…………oh。

中々にショッキングな映像だが、血も出てないしまぁグロくはない。最終的にワポルが下顎になり、バケツのような形になったと思うと、ボコボコと変形し始めた。

詳細は割愛するが、結論から言うとワポルがスリムになって背が伸びた。な、何を言っているのかわからねぇと思うが(以下略。

文字通りスリムアップしたワポルはニヤリと笑ってナミの方へと走って行った。身体が軽くなったのか、それは素早くナミも驚いて硬直していたので、仕方なく俺はテレポートしてナミとワポルの間に出る。ワポルの驚愕したような顔を見ながら、ニヤリと笑いドライヴの電磁波越しに殴ってやる。この世界に合った俺の筋力に合わせて、ドライヴによって拳の威力は上がっている。ワポルは軽く吹っ飛んでいき、壁にぶち当たった。

 

「大丈夫か?ナミ」

「うん、平気。だけど、エドって強かったのね。私より弱そうなのに」

「クックック。オレが強いのは当たり前だろ。何せ、このドライヴがあるんだからなァ」

 

何を当たり前なことを言ってるんだろうか。

如何わしそうなナミの目線に首を傾げながらも、壁まで吹っ飛んだワポルが起き上がってきたのを確認する。どうやら、一発でやられるような雑魚ではないらしい。

起き上がったワポルは怒りを顔に浮かべながら、此方へと歩み寄ってくる。因みにまだスリムアップ中だ。体型が良くなっても、素材が良くないのかあまりイケメンではないな。逆に残念感たっぷりである。元の方がいいな、うん。

 

「貴様!良くもこの俺サマを吹っ飛ば「いたぁあああああああっ!!」んなっ!?」

 

俺を睨みながら何か言おうとしていたワポルだが、途中で言葉が遮られる。遮った声の主は、うぉおおおお!と叫びながら此方に向かってきている。言わずの知れた、我らが船長だ。

 

「「ルフィ!!」」

「やっぱり仲間だったのか!」

 

ワポルが何かほざいているが、俺たちはそれどころではなかった。ルフィがワポルをぶっ飛ばすと決めたんだろう。ものすごい形相で、ワポルぅうううう!と叫んでるのだから。どうやら俺たちは眼中にないらしい。

 

「ゴムゴムのぉおおお」

 

ヤバイ。直感でそう思う。

ナミと共にワポルから離れて避難する。するとすぐさま、ルフィがロケット!と叫びながら突っ込んできたのだから、冷や汗ものである。あれ、離れてなきゃ巻き添え食らってたよな?

というかワポルが何気にあれを躱してるのが、非常に癪なんだが。

 

「カバめ!そんな一直線な攻撃当たるかっての!」

 

その割には顔が驚いたような表情だけど、そこんところどうなんですかね。えぇ。

ワポルは俺とナミを見てから、突っ込んで壁にめり込んだルフィを見る。それから軽く舌打ちをして、走り出していった。どうやら階段を上るようで、元のワポルの体型では通れなさそうな場所もスイスイと移動していった。

……武器庫を諦めたか、それとも別のアテがあるか。多分両方だろう。

 

「あ!待て!邪魔口!!」

 

いつの間にか壁から頭を引っこ抜いたルフィは、ワポルを追いかけて消えていった。実に速い、走るスピードが。

取り敢えず、ルフィが追いかけていったことで俺たちは何もすることが無くなったわけだ。ルフィに感謝すべきか、獲物を取られたと怒るべきか。後者はあり得ないとして、前者も当てはまらない。

 

…………ま、いっか。

 

「ナミすわぁん!無事だったんですねー!って!エドゴラァ!何ナミさんを連れ出してるんだ!!ナミさんはまだお身体が---」

 

テケテケのように走ってきたサンジに、ありもしない罪を着せられかけたので、腹いせにドライヴをその腰へと直撃させておく。

死んだように動かなくなったサンジを尻目に、ルフィが去っていった方向を見る。原作知識は少しあれど、流石に内容まではちゃんと覚えていない。ここではチョッパーが仲間になるが、さてあの王様はどうなるのだろう。

クックック。面しれぇ事になればいいがなァ。

 

「え、エド何笑ってんだ、テメェ」

「いや、ついな」

 

しかし、サンジよ。なんでお前、テケテケみたいに走ってたんだ?すげぇ気になる。

 

「腰が砕けたんだよ。テメェのせいで更に悪化したけどな!」

 

あ、ゴメン。

 

 

 

 

 




エドが人懐っこい笑顔浮かべながら敬語で話してきたら、まず頭打ったか確認しますね。

しっかし、このペースで行くとドラム編終わるの後一、二話ぐらいかな?

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