1300年後の未来に通じる時空の穴。
因幡てゐの権能で未来へと帰っていく仲間たち。
その背をただただ見送る。
「――未来で待っているぜ」
それから1300年が経った。
「――こうして輝夜たちは永遠亭に残り、彼らは元の時代に帰りましたとさ…」
「めでたし、めでたし」そう締め括ってお話を終える。
何処からともなく拍手が起こり、やがて全員が手を叩いて称賛の声を上げる。
今、私がいるのは寺子屋の一室。観客は寺子屋に通う幻想郷の子供たちと数人の大人。
中には人間じゃないのも交じっているが、それを気に留める無粋な者はいない。
ボーボボたちが迷いの竹林から姿を消して1200年余り。
紫たちが創りだした結界に永遠亭が引き込まれ、幻想郷の一部として取り込まれた。
それから更に100年ほど経った時。
ボーボボたちが存命しているであろう時代に永遠亭にかけた「永遠の術」を解除。
永遠亭の止まっていた時間が動き出し、私たちは久方ぶりに迷いの竹林の外に出た。
こうして私は人里を含む幻想郷の各地に足を運んでいる。
今回は人里の寺子屋で子供たちを相手に昔話を聞かしているとこである。
私一人では心配なのか永琳の命令で鈴仙もついてきたが…
「ちょっと、どういうことよ!? そこの牛女!!!!」
教室の扉が思いっきり開かれて現れたのは金髪のカツラを被った首領パッチ。
彼は牛女、もとい寺子屋の教師をやっている慧音(けいね)を指差すと…
「私の受け持った教室の生徒が何で「たわし」の付喪神なのよ!?
私以外「たわし」じゃないの!? 当たり前だけどね!!」
彼の背に隠れるようにして人間のような足が生えた「たわし」が足元に群がっていた。
そのうちの一体が首領パッチに声を掛ける。
「首領パッチ先生、それよりも授業を再開しましょうよ」
「ああん!? うっさいわね! あんたらは台所の頑固な汚れでも取ってりゃいいのよ!!」
「なんだと!? キサマぁ、俺たち「たわし」の存在意義を否定するつもりか!?」
たわしって鍋とか食器を洗浄するための道具だよね…?
怒り狂った首領パッチとたわしの軍団が衝突。
しかし多勢に無勢、一分も経たないうちに首領パッチはボロボロになって倒れ…
両足を太いロープで縛られて引き摺るようにして何処へと運ばれていった。
「うちの寺子屋にはたわしの付喪神はいない筈なんだがな…」
去っていくたわしの軍団、その背を見送りながら慧音が呟いた。
それじゃ首領パッチとアレは無断で入ってきたというのか…
「やれやれ人騒がせな連中だな」
教壇の上にはいつの間にか天の助が立っていた。
その下、席にはゆっくりたちが「ゆーゆー」とゆっくり特有の声で鳴く。
彼は満足そうに大きく頷くと…
「素晴らしい英語の発音です。
これなら海外に行っても通用するでしょう」
英語だったの!?
というか何でいるの!?
そして海外に行く必要あるの!?
「あの~すいません? バスケがしたいんですけど?」
教室の外にある広場にはカンガルーみたいな生き物たちと一緒にボーボボが立っていた。
そして広場でバスケとやらを始めるボーボボと謎生物。
傍目には二人一組でキャッチボールをしているにしか見えない。
もはやわけわからん。
永遠亭の外を飛び出して私が真っ先にやったのはボーボボたちの捜索である。
さほど苦労をかけずに見つかったが私たちが見つけたのは過去に飛ぶ前のボーボボたちだった。
当然のことながら彼らは私たちのことを覚えてなかった。
自分たちを知らないことに何とも言えない寂しさを感じたがそれでももう一度会えたのは幸い。
いずれ彼らは遠くない未来で過去へと飛ぶのだろう。
因みにその時は荷車にゆっくりを乗せて売っていた。
私は懐かしさもあってゆっくりもこたんを購入。値段は30万円だった。
「おーい、ボーボボ!
ちょっと車を作ってみたから試運転してみないか?」
数人の河童が手を振って呼んでいた。
その後ろには見覚えのある銀色の自動車。
もしかしなくても今日だったのか…
ボーボボたちは何度死んでも普通に生き返る。
河童にしてみれば安心できる被験者といえよう。
「わーい、行く行く」と河童の元に駆け寄っていくボーボボたち三人。
いつの間にかに首領パッチも戻ってきていた。
「ちょっと待て、実験するなら人の迷惑がかからない所でやってくれ」
すかさず慧音が注意をする。
ここは子供たちがいる寺子屋。
万が一にでも子供たちに被害がでればたまったものではないだろう。
「――ならば私が移動させましょうか…?」
空間に縦に線が走り、次に線が二つに割れて広がり穴となる。
その奥から上半身を身を乗り出すようにして紫が出てくる。
彼女はそれだけを言うとボーボボたちの足下に紫色の穴が現れてボーボボたちを飲み込む。
そして私と鈴仙も…
移動した先は迷いの竹林。ザイガスがいる場所。
その近くには先ほどの乗用車と製作者である河童たちとボーボボたち。
どこから聞きつけてきたのか永琳とてゐもその場にいた。
河童たちは紫と永琳の明らかな格上の存在にビビるも試運転の準備を進める。
やがて竹林の一角に河童たちの機械で溢れかえる。
何かを調べるための機械なのだろうが見た目からでは何のための機械かわからない。
準備が終わり車に乗り込むボーボボたち三人。
エンジンが唸り声を上げ、車体が小刻みに揺れ始める。
操縦席にあるハンドルを握りしめながらボーボボが発進の合図を叫ぶ。
「ヤマト発進!!!!」
少し遅れて車の中から音楽が大音量で流れ、周囲の音を掻き消す。
軍歌を思わせるような勇ましい歌と音楽。母なる星のために敵陣へと旅立つ船の歌。
そしてボーボボたちを乗せた車がフワリと宙に浮いて、そのまま上昇。高度を上げていく。
暫く河童たちがポカンとした表情で見上げるが、慌てたリーダー格の河童が問い詰める。
「ちょ、ちょっと!? 何で宙に浮いているのさ!?
そんな機能つけた覚えなんてないよ!」
「いや俺たち免許証持っていないからさ、公道を走るわけにはいかないだろ?
だからこうやって宙に浮いて空を飛ぶのさ?」
開いた窓から首領パッチがさも当然のようにキラキラした瞳で答える。
いつから迷いの竹林は公道扱いになった?
過去に軍用の装甲車で走ったことがあったのだが、重量制限でもあるのだろうか…?
「そんで、このあと何をすればいいんだ?」
ハンドルを握ったボーボボが河童たちに問い掛ける。
ボーボボたちの奇行に慣れているのかツインテールの河童が…
「そうだね。まずは操縦席に赤い四角い大きなボタンがあるだろ?」
「お、これのことだな」と何も考えずに押す首領パッチ。
「それは「自爆装置」のボタンだから決して押さないように!」
河童が大声で注意を呼び掛けるも既に首領パッチが押した後。
風の音と、葉と葉が擦れる音だけが暫し流れる。
「「ええぇぇ――――――――っ!!?」」
「ふざけんじゃねぇよ! 押しちまったじゃねぇ―かっ!?
んな危険なモン、一般乗用車につけんじゃねぇよ!!!!」
言っていることは至極真っ当だが、後先考えずに押すのもどうかと思う。
河童も首領パッチに負けず劣らない大声で意味のわからない反論、拳を強く握って力説する。
「何を言う『ロケットパンチ』『ドリル』『自爆装置』はメカニックの三大ロマンなんだぞ!?」
「ああん!? そんなモン知るか!?
自爆装置よりも俺たちの安全のが先だろうが!?
最悪オレだけでも助けろや!!!!」
首領パッチが怒りながらもまともなツッコミを入れてくる。珍しい。最後は余計だが…
でもあの三人だから自爆装置をつけたのかもしれない。
「落ち着け首領パッチ、爆発する前に脱出すればいいだけの話だ。
こうやって扉を開けて外に飛び出せば――――」
逆上して頭に血が上った首領パッチとは逆に天の助は冷静に対処方法を述べて実行に移す。
扉に手をかけてガチャガチャと鳴らすが一向に開く気配がない。焦る天の助。
更に開いていた窓が閉まり、その上に金属質のシャッターが降りてきて外から見えなくなる。
そして車の中から聞こえてくる物を叩くような音と叫び声と怒鳴り声に甲高い悲鳴。
「隊長、安全装置は問題なく作動してますね」
搭乗者に対する安全はどうでもいいのか、河童たちの考えがいまいち理解できない。
河童が見ているモニターにはもはや諦めたのか飲み物を片手に笑顔で乾杯をしている三人。
――と思ったら急にキレた首領パッチが飲みかけの飲み物を操縦席に叩きつけた。
液体が機械の隙間に入っていき放電が発生。狭い車内に飛び散って三人に直撃して感電。
車のボディから閃光が発しられ視界が真っ白に染まる。次に雷が轟き嘶くような爆音。
光と音が収まった頃にはボーボボたちを乗せた車の姿がどこにもなかった。
ボーボボたちは無事に過去に飛んだのだろうか…?
「一応、依頼通りに仕込んだけど……本当にこれで良かったのかい?」
河童が声をかけたのは紫。仕掛人はコイツのようだ。
「ええ、上々。貴女たちの仕事は終わりました」
「ご苦労様」そう言うと河童たちの足下に穴を生み出して次々と落としていく。
穴の底から水面に落ちる音と、紫に対しての悪態を吐く声が聞こえてくる。
それも紫が穴を閉じて聞こえなくなるが…
「――では約束を守るために
紫が無邪気な少女のように笑う。
過去に送り込んでおいて迎えに行くのも妙な話だが、鈴仙を除いた私たちは深く頷いた。
(´・ω・)にゃもし。
前話が最終話の形の一つだったりする。
でもそれだとボーボボらしくないので、こんな感じに続きました。
輝夜が二次創作でヒキコモリ=ニートという扱いに疑問を感じる今日この頃。
余程のことがない限り次が最終話デス。
何気にこの回でようやっと鈴仙が出てきたがセリフがない。ゴメンね。
ここまで読んでくれて、ありがとうです。