東方かぐや姫 竹取ボーボボの物語   作:にゃもし。

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 月の使者たちを追い返したボーボボたちは懐かしい顔ぶれと共に宴会を始める。
 そこへメリーが息を切らせてやって来た。

「――結界の境目が開いています!!」

 ……と。



1300年後の未来に通じる時空の穴

 

 

 宇宙船との戦闘で二度と動けなくなった人型兵器のザイガス。その近く。

 メリーに案内された場所には紙を指で突き刺して開けたような穴が浮かんでいた。

 リボンこそないものの紫が能力を行使する際に現れるモノと極めて似ている。

 ただし子供がやっと通れるぐらいの大きさしかない。

 これでは全員が通り抜けることなど……

 いや、コイツら三人はバラバラになったり、体の大きさを変えることができる。

 このままだとメリーだけがこの時代に取り残されてしまう。

 

 

「輝夜、ここは俺に任せてもらおうか」

 

 

 私たちを背にして仁王立ちをする首領パッチ。

 隣に並ぶようにして天の助も立つ。

 

 

「天岩戸(あまのいわと)神話を知っているか?」

 

 

 天の助が語る「天岩戸神話」

 太陽の神が岩戸に隠れたために世界から光がなくなり暗闇に包まれた異変。

 困った神々たちは岩戸の前で宴会を始めて騒ぎを起こす。

 太陽神が外の様子を見るために開けた瞬間、神々の一柱が手を引っ張って外に出した逸話。

 確か女神の一柱が岩の前で脱いで…

 

 

 それを再現するつもりなのか女装姿の二人が音楽に合わせて衣服を一枚一枚脱いでいく。

 それに比例して小さくなっていく結界の境目…

 

 

「やめなさい、バカども」

 

 

 永琳が二人の頭上に鉄拳を振り下ろして阻止させた。

 痛む頭を押さえながら首領パッチは疑問をぶつける。

 

 

「ところでよう、この時空の穴っぽいモンの先が

 俺たちのいる時代に通じるとは限らないんじゃないのか…?」

 

 

「匂いと肌触りで判断できます。間違いありません。

 この結界の境目は私のいる時代に繋がっています!」

 

 

 よほど自信があるのか強い口調で断言する。

 でも匂いと肌触り、って……

 

 

「――確かにこの奥から今まで嗅いだことない匂いを感じ取れるわね。

 少なくともこの時代のモノではないのは確実…

 それにこの時空の穴は月の使者たちとの大規模な戦闘行為、その余波で生じたモノみたいね」

 

 

 つぶさに観察していた紫が「これが塞いだら次はない」そう宣った。

 居たよ、ここにプロフェッショナルが…

 

 

「ナマモノが脱いだせいで小さくなってしまったが、まだ消えたわけではない」

 

 

 ボーボボが顎に手を当てて思案する素振りを見せて少々。

 いい案が思い付いたのかポンと手を打って爽やかな笑顔を見せると

 頭上に大きな豆電球が出てきて黄色く光る。

 

 

「――いやダメだ。いくらバカ二人でもあんな目に遭わすなんて…」

 

 

 一転して悔しそうな表情を見せると頭上の豆電球が光を失い蜃気楼のように掻き消える。

 一体何を思い付いたボーボボ…

 

 

「俺が脱いでも効果がないなら仕方ない、他の奴で試してもらうか…」

 

 

 首領パッチがてゐの方に顔を向けて真顔で提案を述べてみる。

 

 

 

 

「ちょっと試しに脱いでみてくれ」

 

 

 

 

 言葉を放った瞬間、てゐから踵落としを頭頂部に受けて地面に埋まる首領パッチ。

 さらに土を被せられ、その上に十字架を立てられた。

 彼女は普段見せないような真面目な表情になると…

 

 

「時空の穴が繋がった今こそが「幸運」を使う時かもしれないね。

 ここで得た繋がりを代償にして「帰還」のために()「幸運」を使うかい?」

 

 

 ボーボボたち三人とメリーに向けて問う。

 今この機会を逃せば、次に繋ぐのはいつになるのか分からない。

 

 

「当然だ、俺たちはこの時のために苦労をしたんだからな…」

 

 

 答えるボーボボに、強く頷く二人。

 だがメリーは寂しそうに小さく呟く。

 

 

「でも、皆さんとはもう二度と会えなくなるんですよね…」

 

 

 隣の町に遊びに行くような感覚では行けない。何しろ時代が違うのだ。

 不老不死や妖怪なら兎も角、大多数の人間とはここで二度と会えなくなる。

 

 

「――かといって、この時代に留まるわけにはいかないだろう。

 俺たちは俺たちがいるべき場所に帰るべきだ。

 そしてここは俺たちが帰るべき場所ではない…」

 

 

「ボーボボの言う通りですよ。過去は大事ですが、それ以上に未来が大事ですよ。

 メリー、貴女にも貴女の帰りを待っている大事な方がいるんじゃありませんか?」

 

 

 天の助に言われ、その言葉に軽く頷くメリー。

 

 

「――なら私たちはここで立ち止まるわけにはいけませんね。

 名残惜しいですが祭りには終わりはつきものです。

 皆さん、帰りましょう。私たちが本来いるべき時代へ」

 

 

 何故か天の助が締め括った。

 

 

 

 

「私は稲羽の素兎(いなばのしろうさぎ)の因幡てゐ。

 和邇(わに)に毛皮を剥ぎ取られてしまったが…

 隠岐の島から和邇の背を足場にして稲羽に渡ることができた。

 それ故か私にはどんなに遠く離れていても…

 

 

 『故郷に帰れる』

 

 

 ――という権能がある!

 それが喩え「時間」という名の壁でも道でも!

 私の「幸運」は時を越えて時代すらも跳んで、帰還への道を創る!」

 

 

 結界の裂け目を背に、天を仰ぐように両手を大きく広げると

 宙に浮いた穴を起点に亀裂が入り四方八方に伸びていき…

 やがてガラスが割れるように砕けて穴が大きく広がる。

 

 

「メリー…?」

 

 

 その奥には二人の女性が呆然とした表情でメリーを眺めていた。

 帽子を被った黒髪の少女と髪やら衣類等を含め全身を赤一色で統一した女性。

 二人がいる場所は妙な機械やら部品やらで乱雑して散らかっていた。

 メリーの名を口にした所から知り合いなのだろうが…

 メリーと視線を交わして次に私たち、さらにボーボボたちに視線を移すと――

 

 

「妖怪か!?」

 

 

 赤髪の女性が雑多に積み上げられた機械の山から何かを取り出す。

 銃のような装飾が施された金属でできた一本の右腕。

 それを腰だめに構えて銃口のような穴が空いている手の平をボーボボたちに向けている。

 それは私たちにとって見覚えのある物だった。

 彼女がその腕の正体とその兵器の名を口にする。

 

 

「メリー、離れていなさい。

 この試作品「プラズマ・クラスター」で一網打尽にするから…」

 

 

 やっぱしニンジャ=ゲッコウの腕だった!

 

 

「教授! ストップ! その人たちは味方です!」

 

 

 メリーがボーボボたちと彼女らの間に割って入り止めようとするが…

 銃口の奥で蒼白い光が灯され、教授と呼ばれた女性は慌てて発射口を上に向ける。

 その直後に極太の白い光線が発射。

 ボーボボのアフロを掠めて弓なりに斜め上に進んでいき、竹林の一部が焼失。

 勢いは止まらず高速で飛来、遥か先の山とぶつかり――上の部分がごっそりと欠ける。

 さらに突き進んで天へと消えていった…

 その破壊力に呆然と見つめることしかできない。

 

 

「いきなし、ぶっぱなすな!」

 

 

 突如、セーラー姿の少女が乱入。手に持ったパイプ椅子で教授を殴り倒す。

 頭から痛そうな音を響かせて床に倒れ伏せ、そのままピクリとも動かなくなる。

 何とも言えない静寂が場を包んだ後に思い出したかのように永琳はボーボボたちに…

 

 

「よくわからないけど、あの空間はそこの人間の娘の帰るべき場所のようね。

 空間が繋がっている今のうちに渡った方がいいんじゃないのかしら?」

 

 

「――だが、どう見ても幻想郷ではないぞ!

 俺たち三人がやって来た年代とは別の可能性もあるぞ! いいのか!?」

 

 

 さすがのボーボボでも躊躇するのか、その問いに紫が答える。

 

 

「1300年後に通じる穴が発生するなんて二度とないと考えていいでしょう。

 未来の私たちがあなた達を回収する。安心して行きなさい」

 

 

 紫の顔をじっと見つめてから一つ頷くと穴の方へと歩み寄る。

 その後を首領パッチ、天の助、最後にメリーと続く。

 

 

「え? コイツらも来るの!? なんで!?」

 

 

 黒髪の少女は人外の存在に驚き当然の疑問を言うが…

 

 

「ゴメン蓮子。今は時間がないから後で話す…」

 

 

 それだけ言うと済まなそうな顔をしながら入っていく。

 今後のあの人たちの苦労を考えると本当にすいません。

 時空の穴が段々と狭く、小さくなっていく。

 別れ間際に天の助と首領パッチが何かを投げて渡し、受け止める。

 「ぬ」の文字がびっしりと書かれた一枚の布切れに橙色の円錐。

 何故か二人ともキリッとした表情で…

 

 

「ぬのハンカチだ。寂しくて泣いた時はこれで涙を拭うといい」

 

 

「首領パッチエキスが入った飲み物だ。腹立つことがあったらコレ飲んで忘れろ」

 

 

 …どっちもいらない。

 特に首領パッチエキスのは「首領パッチ・ウィルス」の元になった液体だから

 飲んだら最後、首領パッチと同じ思考になるのでは…?

 ああ、相手に飲ませることを前提にした武器と思えばこれ以上に心強い物はないか。

 

 

「ありがとう二人とも、大事にとっておきます」

 

 

 笑顔でお礼を言うと何故か「えっ!?」とした表情で返す。

 どうやら感謝されるとは思わなかったようだ。

 普通はゴミ箱に直行されてしまうだろうが、こちらは最低でも1300年間は会えなくなる。

 どんな物でもあれ、やはし形として残せる物があれば…

 最後に背中を向けたままボーボボが私に声をかけてきた。

 

 

「あばよダチ公、なーんて気のきいたことは言わないぜ。行ってくるぜダチ公。それと――」

 

 

 

 

――未来で待ってるぜ。

 

 

 

 

 こちらに振り向き口の端を上げて親指を立てて見せる。

 ひたすら手を振るボーボボたちと私たち。

 

 

 ええ、未来で待っていなさい。

 

 

 やがて穴が完全に閉じると辺りが暗くなり静かになる。

 イナバたちの中にはすすり泣く者も、妖怪とはいえ1000年以上も生きられるとは限らない。

 特に力のない者は…因幡てゐは神格を持っているからこそなのだろうが

 そして浦島太郎が連れてきたモヒカンたちも…乙女のように地べたに座って泣いている…

 

 

 どうしようか、これ…?

 私がモヒカンたちを指差すが紫と藍、永琳は揃って首を横に振る…「ほっとけ」と。

 

 

 こうして私――輝夜は地上に残り、ボーボボたちとは別れた。

 

 

 これが「かぐや姫」

 または「竹取翁の物語」と呼ばれているお伽噺の語られなかった最後の部分。

 

 

 

 

 モヒカンたちを引き連れた浦島太郎が去り、縁のある妖怪たちがいなくなり

 今、迷いの竹林にいるのはてゐとその部下のイナバたちと永琳…

 そして永遠亭の門扉の前、星空の下に私がいる。

 随分と寂しくなったものだ。

 

 

 

 

 幾千もの星を眺めた、美しかった。

 星たちはその姿を夜にしか見せてくれない。

 それ故に私は夜が好きだ。

 満天の星空は、それはまるで夜が輝いているようで…

 私は輝夜。蓬莱山の輝夜。月の姫だった者。

 

 

 夜空にぽっかりと丸い月が浮かんでいた。

 

 

「たかだが1300年。待ってみせましょう」

 

 

 誰に言った言葉…? などとは、言うまでもない。

 知らぬ間に時が過ぎて東の空が明るく白色に染まり始まる。

 

 

「なんと見事な夜明けかな…?」

 

 

 私は笑みを浮かべてそれだけを言うと永遠亭の中へと入っていった。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 最後の部分は「僕の血を吸わないで」のヒロインに言った主人公の台詞を
 ちょこっと変えて書きました。
 この台詞、輝夜にぴったしだなぁと前々から思っていたので…

 この作品の一話目を書いているときは「菫子」の存在を知らなかった私。
 結果、こうなりました。ボーボボたちもいなくなりました。
 でもまだ終わりじゃない。

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。

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