月で幾千もの夜を過ごした。
幾万もの星を眺めた。
それはまるで夜が輝いているようで…
私が眺める空には常に青い星があった。
今は地上で夜空を、月を眺めている私がいる。
誰もが寝静まる夜中。
私は外にいる。竹林の奥深くに私はいる。
無敵要塞ザイガスのすぐ外。門扉の横。
どこから声を出しているのか、ザイガスが声をかけてくる。
『姫様、帰ル?』
「さあ…? でも月に連れてかれるもしれないわね…」
いくら不死身でも、いくら非常識な連中でも… 月には敵わない。
「紫? 見ているんでしょ?」
「ええ… 今、貴女の後ろにいるわよ」
振り向くと藍を連れた紫が静かに佇んでいた。
ほとんど寝ているとこしか見ない彼女。
妖怪らしく夜は元気のようで…
神出鬼没で妖怪らしい部分と妖怪らしくない部分を持った妖怪。
彼女は欠けた月を目を細くして眺めてから私に顔を向けると…
「月の本隊が来るのは二週間後ってとこね。貴女は月に帰るのかしら?」
月の文明には誰も敵わない。
月の住人は地上の住人など何とも思わないわ。
「貴女も月の住人でしょ?」
「どこかの誰かさんは「ぶっ潰す」と物騒なことを仰ってましたけど?」
抵抗はする。でも… 戦って負けたら諦める。それだけの話よ。
「あの方たちはどうなるのかしねぇ?」
死にはしないわよ。でも私と引き換えに手を出さないようにさせる。
「月の民が地上の住人の安全を願うなんて、変な話ね」
人間の中に変人がいるように、
妖怪の中に妖怪らしくないのがいるように、
月の民にも変わり者がいる――そういうことよ、きっと…
「類は類呼ぶ、友呼ぶ、仲間を呼ぶ。呼ばれもしないのにやって来る」
ええ、まったくハタ迷惑な連中よ。人の都合なんて考えもしない。
でも彼らはバカを本気に真面目にやっている。自分に正直に生きている。
我慢して生きるのがアホらしく思えてくるくらいに…
「そうね、あれは知性を持った生物というよりは…
そこら辺にいる本能の赴くままに生きる野生生物のが近いわね。
おまけに不死身で理解不能の力を持っているからタチが悪い」
彼らの中では人間も妖怪も月の民も関係ないでしょうね。
「だから彼らは仲間である貴女を助ける。仲間だから助ける。
物凄く単純でわかりやすい理由よね」
ブッブー、残念♪ おしいけど、それは間違いよ?
紫が私の予想した答えを述べたことに「ぷー、くすくす」とおかしく笑う。
彼女は形のいい柳眉逆立てて問い詰めた。
「それじゃ答えは何かしら?」
ハジケたいからよ。
「……………………は?」
その
――静寂。
そして私は彼女にお願いをする。