IS 諦めた少年   作:マーシィー

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原作主人公視点のお話。

この話を含めて後三話でこの作品は終了予定です。


IS 諦めた少年 織斑一夏編

 織斑一夏

 

 

 女性しか乗る事のできないISを世界で始めて動かした“男性”でありIS乗りとして世界最強の称号である「ブリュンヒルデ」を持つ織斑千冬の弟でありISを作り上げ現在の世界を作り上げた天災篠ノ之束の数少ないお気に入りの一人である。

 

 まるで「主人公」のような生い立ちを持つ一夏。そんな彼の次に見つかった二番目の“男性”IS適合者である彼は一夏とは変わり目だった生い立ちのないごく普通の少年だった。

 

 

 だがその“ごく普通”であった彼の死は人を、国を、世界をも巻き込むほどの影響を齎したのである。

 

 

 

 初めて彼を見た一夏の印象は「暗い奴」だった。周りが自分と彼以外全員女性という事もあり居心地が悪いのは分かっていたが一夏には何か違う意味で暗いと感じていた。とは言えこのIS学園にてたった二人しかいない男性という事も有り話しかけたのだが、返ってくるのはどれも気の抜けた返事ばかりでありさらに彼の目には一夏の事をどこか敵視しているように見えた。

 

 初めて会う男性から向けられる敵意。この時の一夏には何故彼が自分を敵視するのか分からなかった。もしもこの時何故彼が自分を敵視しているのかを少しでも理解できたのなら、彼と一夏の人生は変わっていたのかもしれない……。

 

 

 一夏が彼と出会ってしばらくしたある日、クラス代表を決める事となった。その際一夏の名前は出る物の彼の名前は一度も出る事はなかった。この時一夏は彼の名前を言おうとしたのだがその前にクラスメイトであるセシリア・オルコットの侮辱発言に怒り口喧嘩を始めてしまった。

 結局クラス代表は一夏とセシリア、そして何故か名前が上がらなかった彼との試合で決める事となってしまった。

 

 名前が上がらなかった彼が何故代表決定戦に出るのか、不思議に思いつつも二人しかいない男性と戦えるのなら、とこの時一夏は気楽に考えていた。

 

 一夏は気が付かない。どれだけ自分が恵まれているのかを。優秀な姉に綺麗な幼馴染。世界で始めての男性適合者と言う称号に初心者にも拘らずに与えられた専用機。それ以外にも様々な事に恵まれているのにそのことに気が付かない。そしてそのことが当たり前だと、それが普通だと、思ってしまっていた。それが彼にどの様に写っていたのか、彼がどれだけ欲しがっていた物なのかを分からないまま……。

 

 試合当日、本来ならば一夏とセシリアが先に戦うはずだったのだが、一夏の専用機の搬入が遅れてしまい、先に彼がセシリアと戦う事となった。

 

 彼とセシリアの戦いは十分と持たずに終ってしまった。BT兵器であるブルーティアーズに終始翻弄され彼は殆ど何も出来ないまま倒されてしまったのである。

 

 試合が終って彼が戻ってきた時、一夏は声をかけようとしたが先の試合を見て如何声をかけようかと迷っているうちに自身の姉と幼馴染が彼に声をかけた。その声を聞いた一夏は(厳しい事言うなあ、二人とも……)と普段の二人を知っているため二人が言った言葉に対してそこまで深く考える事はなかった。

 

 だがら一夏は気が付かなかった。二人の性格も普段の態度も知らない彼にとって二人が言った言葉がどれだけ辛く厳しく、そして屈辱的に聞こえていたのかなど……

 

 

 クラス代表戦後、彼と一夏との間には溝が出来てしまっていた。いや一夏だけではないクラス全体と彼との間には溝が出来てしまっていた。クラス内で彼は浮いた存在になってしまい誰が話しかけても殆どが空返事で特に一夏が話しかけようとすると決まってどこかに行ってしまう。

 最初こそ一夏は何度となく話しかけたがそのほとんどを無視同然に返されてしまい結局事件が起きる時まで彼と一夏がまともに話す事は無かった。

 

 そしてクラス全体と溝が出来たまま月日は過ぎていき遂にあの事件が起きてしまう。 

 

 

 

「ア、アァ……」

 

「な、何だ!?」

 

 タッグトーナメント戦で一夏とシャルロットがラウラと戦いそれも終わりに近づいた時、それは起こった。ラウラのISの装甲が突如として変異しラウラを覆っていく。

 

「何が起こっているの!?」

 

「分からん。でもあれが異常なのは分かる」

 

 変異が終った時そこにいたのはラウラのISではなく一夏が憧れ誇りに思っている姉の専用機「暮桜」を黒く塗りつぶしたような機体だった。

 

「な!?」

 

 強く憧れていた姉への思いを穢すような機体に一夏はキレた。

 

「ふざけるなああぁぁぁぁーーーー!!」

 

「い、一夏!?」

 

 周りの事を考えもせずにただがむしゃらに切りかかる。それを見慣れた姉の動きでかわし、逸らし、防ぐ。それを見るたびに一夏には姉を穢されるような思いがあった。

 

「お前が!!千冬姉の!!動きをするなああぁぁぁーーーー!!!」

 

「一夏、落ち着いてよ!!」

 

 シャルロットの呼び声も虚しく一夏は止まらない。シャルロットが援護しようとしても二機は至近距離で斬り合いかつ高速で移動をしているために下手に攻撃する事もできなかった。そして元々試合が終りかけていた事もあり少なくなっていたシールドエネルギーは一夏の無理な動きと、零落白夜の使用によりゼロになってしまった。

 

「白式!?」

 

 突如として動かなくなった自分の愛機に驚き隙を見せてしまった一夏。そこに強烈な蹴りを入れてくる黒い暮桜。

 

「う、があぁぁ!!」

 

「一夏!!」

 

 蹴り飛ばされた一夏に気を取られ気が付いた時には黒い暮桜に懐に入り込まれ黒く染まった刀で何度も切りつけられシールドエネルギーをゼロにされ、一夏と同じく蹴り飛ばされるシャルロット。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「シャル!!」

 

 二人を倒した黒い暮桜は一度二人を見た後、背を向け壁際に向かっていった。向かった先には立ちすくむ彼の姿があった。

 

「止めろ、止めてくれ」

 

 そして一夏に見せ付けるかのように黒く染まった刀を振り上げ

 

「やめろおおおぉぉぉぉーーーーーーー!!」

 

 振り下ろした直後、彼の首からおびただしい量の血が吹き出て黒い暮桜を赤く染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑、貴様の専用機に制限が掛かる事が決まった」

 

 彼の死から数日がたったある日一夏は姉である織斑千冬から突然そう告げられた。

 

「制限、ってなんでですか」

 

「……先日の事件を受けてIS委員会の上層部が決めた事だ。貴様の専用機の単一機能は無期限で封印される事となった」

 

「な、なんでだよ!!千冬姉!!」

 

「……先日の事件で彼が何故死んだのか。それを考えれば分かるだろう」

 

「ッ!」

 

 彼が死んだのはあの暴走したISに一夏の専用機である白式が使用できる単一機能「零落白夜」の劣化版が仕込まれていた事が一番の原因だった。

 劣化版とは言えシールドエネルギーを無効化する機能によって彼が乗っていた量産機のシールドエネルギーを無効化し彼を死に至らしめたのだ。

 劣化版でさえこの成果を出せるのである。これが正規版である「零落白夜」ならばどの様な事になるのかは想像がついてしまう。

 

「分かっただろう。貴様の単一機能は相手を“殺す”事ができる力なのだ」

 

 そう告げられた一夏の表情は絶望という言葉以外に表現ができない物だった。

 

「……一夏、すまない。私にはどうする事もできなかった」

 

 告げられた事に呆然とする一夏に千冬は顔を伏せそう呟きながらその場を後にした。

 

 

 

 自身の得た“人を守る力”と信じたものが“人を殺す力”として周りの人たちから見られてしまった事に絶望する一夏。だが彼に襲い掛かる事実はこれだけではなかった。

 

 

 

 

 「零落白夜」の使用禁止を受けてからしばらくの間一夏の顔から普段の明るい表情は無くなり暗く沈んだ表情しかなかった。周りのクラスメイト達も一夏を元気つけようとしたのだがことが事にどう声をかけていいのか分から無かった。そのことでクラス全体が沈んだ雰囲気になっていた。

 そして彼が死んでからはじめてのISを使用した授業で一夏は更なる絶望をえる事となる。

 

「では授業の最後に模擬戦をしてもらう……。一夏、出来るか?」

 

「……はい。出来ます」

 

 何所か沈んだ表情の一夏。

 

「無理はしなくていいぞ」

 

「いや……やらせてください」

 

「……無理はするなよ」

 

 そして始る模擬戦。一夏の対戦相手はシャルロットだった。

 

「一夏本当に大丈夫なの?顔色が悪いよ」

 

「大丈夫だ、シャル……大丈夫だから」

 

「一夏……」

 

 何所か無理をしながら浮かべる笑顔にシャルは不安を覚えるも武器を構え模擬戦を始める。その不安は的中する事ととなる。

 模擬戦が始りシャルは弾幕を張る。一夏はそんなシャルに対して弾幕が途切れる一瞬の隙を突いて瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に接近し雪片弐式を振りかぶり

 

「ウッ……ゴハッ!!」

 

 嘔吐した。

 

「一夏!?」

 

 攻撃を中断して駆け寄るシャルが見たのは不自然な呼吸を繰り返し青ざめた表情の一夏だった。

 

「一夏!!しっかりして一夏!!」

 

 

 

「ウゥ……ハッ!!」

 

「目が覚めたか一夏」

 

 一夏が目を覚ました時最初に見たのは千冬の顔だった。

 

「ち、ふゆ姉?……俺は」

 

「一夏、お前は何所まで思えている」

 

「お、れは……確かシャルと模擬戦をして隙を見て攻撃しようとして、それで……ウゥ」

 

 一夏の脳裏に彼の死にぎわがフラッシュバックする。

 

「大丈夫か、一夏」

 

 傍により一夏の背中をさする千冬。

 

「千冬姉……俺」

 

「一夏何があったんだ」

 

 一夏は背中をさすられながら自身の両手を見る。その両手は震えていた。

 

「雪片弐式で攻撃しようとした時……あの時の事が頭に浮かんだんだ」

 

「あの時?」

 

「アイツが死んだ時の事が」

 

「ッ!!」

 

 震える両手で顔を隠し俯く一夏。

 

「あの時俺は何も出来なかった。アイツが、千冬姉のニセモノに殺された時俺は何も出来なかったんだ」

 

「一夏」

 

「ISが有れば、白式が有れば皆を守れるって思ってたのに」

 

「一夏」

 

「なのに、俺は、俺は「一夏!!」ッ!!」

 

 一夏の声をさえぎり千冬は一夏を強く抱きしめる。

 

「すまない、すまない一夏。私が、私がもっと彼の事を考えていればあんな事は起こらなかった。それにお前を苦しめる事も無かった」

 

「千冬姉……」

 

 二人はお互いに抱き合い涙を流す。だが二人がどれだけ彼に謝ろうとしても彼はもういない。ゆえに二人は彼に謝る事もできず、許される事もされずただ彼に対して罪の意識を持ち続ける事となる。

 

 

 そして彼が残した日記を見て一夏は自分がどれだけ彼に怨まれていたのかを理解する……




単一機能封印。
ISに対するトラウマ勃発。
守れると思っていた力は実は殺す力だったという事実。

原作主人公三重苦に悩まされるお話でした。

この話を書き上げるのに半年以上掛かってしまった。もっと早く書けるようになりたい……

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