IS 諦めた少年   作:マーシィー

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これはもしも彼に理解者がいたら?そんなもしもの話。


分岐点はセシリア戦。あの時山田先生が様子を見に来ていたら?そこから始ります。


このお話はにじファン時代に賛否が分かれたお話なのでまた新しく書き直すかもしれません。


このお話を読む前に他の話を読むことをオススメします。


IS 諦めた少年 IF グットエンド

 あの日、そう彼とオルコットさんがクラス代表を決める試合をした日。あの日から私と彼の関係が始ったのです。

 

 

 

 

 

 

 クラス代表を決める試合が有った日の夕方、私は彼の部屋を訪れていました。何故訪れたのかと言うとオルコットさんとの試合後彼はその後に有った織斑君とオルコットさんの試合を見ずにすぐに出て行ってしまったからです。

 

 試合後に彼は織斑先生と篠ノ之さんに酷い事を言われていました。専用機持ちの代表候補生と量産機で少し前まで一般人だった二人が戦ったらどうなるかなんて誰にでも分かるはずです。

 

 彼は世界で二人目の男性適合者とは言ってもそれだけであり、そんな彼に過度な期待を寄せるのはおかしいと私は思っていました。ですがその事を私は指摘できませんでした。

 

 私はこの時まで、教師としての自分に自信が持てていませんでした。幼い見た目である事、同僚である織斑先生の存在感など、どうしても私は自信が持てませんでした。

 

 そんな私が彼に取ったこの時の行動。それは周りの人達から見たら小さな出来事だったのかもしれません。ですが少なくとも私と彼にとっては、そう世界が一転するほど出来事だったのです。

 

 

 

 

 

 私が彼の部屋に到着してドアをノックした時、何の反応もありませんでした。

 

「すみません、私です。聞こえていますか?」

 

 何度か声をかけながらドアをノックしてみても何の反応も無くただ私の声が虚しく響くだけでした。

 

「まだ、帰ってきていないんですか?」

 

 そう言いながらふとドアノブに手が掛かったら

 

「……開いてる」

 

 彼の部屋のドアにカギが掛かっておらず、少しだけドアが開いたのです。そして少しだけ開いた事により部屋の中の音が聞こえてきました。それは本当小さな音ですぐに閉めていたら聞こえなかったほど小さな音でした。

 

「……ッゥ…ァァ」

 

 その音、いやその声は泣いている声(・・・・・・)でした。

 

「ッ、すみません、入りますよ」

 

 彼が泣いている。声を押し殺して。そう認識してしまった私は彼の返事も待たず彼の部屋に入っていきました。

 

 そこで見たものは荒れた部屋と部屋の隅で毛布を被り蹲りながら泣いている彼の姿でした。

 

「……」

 

 私は彼の姿を見てどうしていいのか分からず部屋に入ってきたのに何もできずに戸惑うだけでした。

 

「……なん、の用ですか」

 

 彼は私が入ってきた事に気がつき顔を伏せたまま声をかけて来ました。ただその声はさっきまで泣いていたせいで微かに震えていおり、擦れるような声でした。

 

「あ、あの私、は……」

 

 彼に何しに来たのかと、問われ私はとっさに答えることができませんでした。

 

「……用が無いなら出てってください」

 

 私が何も答えずに戸惑っていると彼は立ち上がり私を部屋の外に追い出そうとしました。

 

「ま、待ってください。私は貴方に用が……」

 

「用?」

 

 私が彼にそう言った時、彼は不意に立ち止まり顔を伏せました。

 

「……山田先生も、他の人みたいに見比べるんですか」

 

「……え?」

 

 私は彼が何を言っているのか分かりませんでした。

 

「先生も俺と一夏を見比べるんですか」

 

「な、何を言って…」

 

「どいつもこいつも!!何をしても何をやっても皆誰かと俺を見比べて!!俺を見下すんだ!!」

 

「お、落ち着いて「黙れよ!!」ッ」

 

 顔を上げた彼の顔は涙で濡れ何度も目を擦ったのか目元は赤く腫れあがっていました。

 

「どうせあんただってもっとがんばりましょうとか言いに来ただけだろ!!」

 

 怒鳴り声のような悲鳴のような声を出す彼。

 

「俺は!!何度も何度も渡された教科書を読んで何度も何度も勉強して!!寝る時間も遊ぶ時間も減らして頑張ったのに、何が「無駄な動きが多すぎだ、ばか者」だ!!俺がどれだけ頑張ったのかもしらないで、俺が、どれだけ悔しかったのかも、しらないで……」

 

 握り締めた彼の拳からは血が流れ落ち床に染みを作り上げていました。

 

「……もう出てってくださいよ。それで俺に関わらないでください。もう誰かに見下されるのは嫌なんです」

 

 私は何も言えませんでした。彼がここまで思いつめていた事。彼がここまで追い詰められていた事に。

 

「私は……」

 

「もう何も聞きたくないです。出てってください」

 

 彼はそう言って私を部屋から押し出そうとしました。もしここで私が彼に負けて押し出されていたら彼も私も変われることなく今まで通り、いや今まで以下になっていたかもれません。

 

 私は今でも思います。この時こそが私の教師として本当の自信を持てたときだと。

 

「待って、待ってください。私はそんな事を言いに来たんじゃありません」

 

 私を部屋から押し出そうとする彼を止めながら彼の顔を真っ直ぐと見ながらそう言いました。

 

「……」

 

「私は貴方が心配ななって来たんです」

 

「…嘘だ」

 

「嘘じゃありません」

 

「嘘だ、そう言って本当は俺の事を見下して笑うんだ」

 

「笑いません。私は貴方の事で笑う気なんてありません」

 

「嘘だ、嘘だ、嘘だ!!俺にそんな事する人なんて、居るわけが!?」

 

 私は彼の言葉をさえぎり彼を優しく抱きしめました。

 

「今ままで貴方がどんな目に会ってきたのかは私には分かりません。でも、ね。私は教師で貴方は私の生徒なんです。生徒が苦しんでいる時に助けるのが教師の、私の仕事です」

 

 私は言った通り彼が今まで感じてきた事は分かりません。ですがそれがとても辛く苦しい事だったという事は彼の表情を見れば分かります。

 

「せ、んせいは、俺の事笑わないの?」

 

「努力している生徒を笑う事なんて私はしません」

 

「お、俺と誰かを見比べない?」

 

「貴方と同じ人なんてこの世に居ないんです。だから見比べる事なんてしません」

 

「……先生を、信じてもいいんですか」

 

「はい。信じてください。私は貴方の教師なんだから」

 

 私の言葉を最後に彼は張り詰めていた糸が切れるように泣き出しました。今まで溜め込んでいたもの全てを吐き出すように。

 

「ウウゥワアアァァァァーーーーーン!!もう嫌だ!!怒られるのも見比べられるのも嫌なんだ!!」

 

「大丈夫。これからは先生が貴方を助けますから」

 

 それからしばらくな間私は泣きじゃくる彼を優しく抱きしめながら彼の頭を撫で続けました。

 

 

 

 

 泣きつかれた彼をベットの上に運び寝かした時に見た彼の表情は私が見てきた中で一番穏やかな表情をしていました。

 

 こうして私と彼の関係が始ったのです……教師と生徒と言う意味ですよ?

 

 

 

 次の日から私達はできる限り一緒に勉強をする事にしました。一応学園側には「情緒不安定な彼の為にできる限りサポートする」と言う事にして彼と一緒に居れるようにしました。

 

 そして私が彼と勉強する事になって私は彼がとても努力家なのを知りました。彼はまだISに関わって日が浅いのにもうノートを5冊以上埋め尽くしているのです。それも隙間なくびっしりと。

 

 彼が言うには「俺は何度も何度も書かないと覚えれないから」といいましたがそれでもこれだけの量をこなすのは相当な努力が要るはずです。その事を褒めたら彼は泣き出してしまいました。私が慌ててどうしたのかと聞くと、今まで努力してきた事を褒められたのは初めてだといいそれが嬉しくて泣いてしまったと聞きました。

 

 そんなうれし泣きする彼を私は手のかかる弟のように思いながら彼が泣き止むまで頭を撫でていました。

 

 彼が泣き止んでから再び始めた勉強では彼に覚え方のコツを教えながらゆっくりと進めていきました。そうして彼と勉強して思った事は彼は決して物覚えが悪いわけではないという物でした。

 

 確かに彼は何度も書かないと覚えれないようでしたが、一度覚え方のコツとノートの書き方を教えた所彼は見る見る内に色んな事を覚えていきました。たぶん幼少の頃に周りと比較されてしまった事が原因で無意識の内に自分自身で物覚えが悪いと思い込んでしまったのでしょう。

 

 今では彼は他のクラスメイトと同じぐらい、もしくは少し先の内容まで覚えていました。そのおかげか彼はクラス内で自分の居場所を少しずつ見つけていき今ではクラスの皆に混ざって会話ができるぐらいに自信がついたようです。

 

 彼に自信がついたように私にも教師としての自信がついていきました。私が教える事に笑顔で応え、そしてゆっくりですがしっかりと覚えていく彼。そんな彼の姿を見て私も自然と自信がついていきました。そしてその自信は私自身を変えていきました。

 

 彼と勉強し始めてから他の生徒や先生方に「雰囲気が変わった」と言われるようになりました。そのおかげか数人ですが私に勉強を教えて欲しいと言ってくる生徒がきました。何故、と聞いて見たら「今の山田先生は何か、頼れる気がするから」と言われ、年甲斐もなくはしゃぎそうになってしまったのを覚えています。

 

 そうして少しずつけれども確実に実力をつけていった彼。少しづつ少しづつ、一歩一歩ゆっくりでもしっかりと前に向かっていくその姿は私にとって掛け買いのないものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ私は、この年になっても(・・・・・・・・)彼を待ち続けているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が替わりクラスに転入生が二人来てそれぞれがトラブルを起こしながらも月日は進み学年別トーナメントが開催される日になりました。

 

 彼はこのトーナメントで転入生の一人ボーデヴィッヒさんと組む事となりました。以外な組み合わせと私は思い彼に聞いて見ると彼は頬を掻きちょっと照れくさそうにしながらこう言いました。「俺も先生みたいに誰かを導ける人になりたいから」と。

 

 彼はクラスで孤立しているボーデヴィッヒさんを見て私が彼にしたように彼もボーデヴィッヒさんを導く、いえクラスに溶け込めるようにしてあげたいと言ったのです。それを聞いた私はとても恥ずかしく、そしてとても嬉しかったです。感極まって彼に抱きついてしまったのは私と彼の二人だけの秘密です。

 

 

 そして彼とボーデヴィッヒさんが織斑君とデュノア君と試合をした時、私達の時間は終わりを迎える事となったのです。

 

 

 

 

 

 彼がボーデヴィッヒさんと過ごして時間は短かったですがそれでもとりあえずのチームワークを取れるぐらいにはなっていましたが所々粗が目立ち織斑君たちに押されていきました。そして織斑君たちは量産機に乗った彼よりも専用機に乗ったボーデヴィッヒさんを先に倒すようにしたようで二人掛りで一気に攻め込んでいきました。

 

 彼も必死になって戦いましたが状況は悪く彼とボーデヴィッヒさんは押されていき遂にボーデヴィッヒさんが撃墜されそうになった時異変は起きました。ボーデヴィッヒさんのISの装甲が泥のように溶け出し姿かたちを変えて彼たちに襲い掛かりました。

 

 彼と織斑君たちは突然の出来事に動作が止まってしまいました。その隙を突いて変異したISは彼らに襲い掛かりホンの少しの時間で織斑君とデュノア君を撃墜してしまいました。

 

 私はすぐにアリーナに居る彼に避難するように言いました。ですが彼は私のいう事を聞かずその場にとどまり変異したISと戦ったのです。彼は言いました。「ここで逃げたら俺は前に進めなくなる。それに今逃げたら誰がボーデヴィッヒを助けるんだ!!」と。

 

 そして彼と変異したISの戦いが始りました。変異したISは容赦なく彼に襲い掛かり彼のシールドエネルギーを削り取って行きました。ですが彼も私が教えた事を忠実にこなし変異したISにダメージを与えていきました。そして彼はギリギリ、本当にギリギリの差で変異したISに勝つ事ができたのです。途中で動けないながらも援護射撃をしたデュノア君とデュノア君から射撃武器を借りた織斑君の援護もあり本当に、ギリギリで彼は勝ったのです。そう、ギリギリ(・・・・)で。

 

 

「はっはっ、勝った……勝ったんだ。俺、勝てたんだ」

 

 彼は動かなくなった敵を見て地面に膝を付きました。練習で何度も乗ってなれたとは言え彼はホンの少し前まで彼は素人でありたった10分にも満たない戦闘でも彼には途轍もない疲労が起こっていた。

 

「勝てたんだね僕達」

 

「デュノア、大丈夫か?織斑も」

 

「ああ、何とか俺は大丈夫だ」

 

 彼が二人の方を向き立ち上がった時、彼の胸部から刃が()飛びだした。

 

「え?……ガ、フッ、な、んで……」

 

 振り向いた彼が見たものは半壊しボロボロになりながらも彼に刃を付きたてた敵の姿だった。

 

「い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 デュノア君の悲鳴がアリーナに響き渡りました……

 

 

 

 後にわかった事ですがあの変異したISの刃には織斑君のISの単一仕様と同じ能力があったらしいのです。ただしその力はオリジナルと比べると一割にも届かない力しかなくたとえこの能力で切られたとしてもシールドエネルギーを突破する事は不可能でした。本来なら。

 

 あの時の彼のISのシールドエネルギーは本当にギリギリしか残っておらず後ほんの少し、ほんの少しだけシールドエネルギーが多ければあの刃が貫通する事はなかったのです。

 

 

 

 

 

 あの戦闘の後彼はすぐさま治療室に運ばれ治療を受けました。治療を受けている間私は治療室の前でただ待つだけしかできませんでした。何時間がたったでしょうが。私はただひたすら彼の安否を祈っていました。そして治療室から医師の方が出てきた時私はすぐさま駆け寄り彼の安否を聞こうとしたのですがそれよりも先に医師の方に彼に会うように言われました。どうやら彼が私を呼んでいるとの事で私はすぐさま彼の元に向かいました。

 

 彼は治療室のベットの上青白い顔で呼吸器をつけており私はすぐさま彼に駆け寄り声をかけました。

 

「私の声が聞こえますか!?」

 

「……やま、だ先生?」

 

「そうです、先生です」

 

 目を虚ろにして手を伸ばす彼。その手を私は掴みました。

 

「先生、俺……」

 

「静かに、今は休みましょう」

 

 握った手は冷たく彼が出す声はかすれて小さな声になっていきました。

 

「俺、がんばったよ。先生に、褒めて欲しくて、認めて欲しくて……」

 

「ええ、貴方はがんばりました。私が認めます」

 

 彼の手から力がだんだんと抜けていく。

 

「うれ、しいな……先生に、褒められたや……」

 

「何度だって、何度だって褒めてあげます!!だから!!」

 

 もう彼の手からぬくもりは感じられず、冷たく、硬くなり。

 

「せ、ん……お、れ……」

 

 虚ろな瞳で私を見る。

 

「もっと……いっしょ……いた、か……」

 

 彼の手が私の手の中から離れる。

 

「い、いや、いや、いやああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が意識を失ってから十年の月日がたちました。

 

 彼はあの後意識を失ったもののギリギリで命を保ちゆっくりとですが回復に向かっていきました。ただ彼の意識だけは戻らずに。

 

 私はそんな彼の世話をあの時から教師の仕事を続けながらずっと見てきました。顔には皺が増え肌は艶が消えていきましたが私は沢山の生徒達を育てていきました。彼に尊敬される先生であるために。

 

 

「今日はいい天気でしたね~」

 

 今日も仕事が終わり彼の世話をしにきました。

 

「……アレからもう十年もたってしまいましたね」

 

 あの時から変わらず眠り続ける彼。

 

「私は、貴方に尊敬される先生になれましたか?」

 

 彼の手を握りながらそう声をかける。

 

「貴方が早く起きないと私おばあちゃんになってしまいますよ?」

 

 眠り続ける彼とそれを見続ける私。

 

「……また一緒に勉強しましょう。私あの時よりも教え方が上手くなったんですよ」

 

 開けていた窓から風が吹き、外の空気が入り込む。

 

「早く起きないと、先生怒っちゃいますよ?」

 

 彼の手を握る力が強くなる。

 

「私は、何時までも待ってますよ。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……せん、せい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……先生を待たせる悪い子は補習ですよ、  君」

 

 涙をこぼしながらも私は笑顔で彼に抱きついた。

 

 




ストックが切れました。

次回はこのお話の書き直しか、別の人の視点だと思います。

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