IS 諦めた少年   作:マーシィー

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IS 諦めた少年 織斑千冬編

 織斑千冬

 

 彼女の名前を知らない女性は居ないといっていいだろう。彼女の名前はISを生み出した篠ノ之束と同様に世界中の女性、特にISに関わる物ならば憧れといっていいほどの知名度が有る。

 

 世界初のISを使用した大会、モンド・グロッソにおいて優勝し最強の称号「ブリュンヒルデ」を手に入れ、公式のデータでは全ての試合において無敗を誇るまさにIS操縦者として最強と言わしめる実力者である。

 

 

 

 

 だが、彼女が優れているのはIS操縦に対して、である。決して人として優れているのではない。

 

 

 

 

 

 彼女が彼を初めて知ったのは一夏がIS学園に入学してくる頃である。その時、彼女は無意識とは言え彼に対して弟である一夏と同様の期待をしてしまったのである。

 

 

 弟である一夏と他人である彼が同じな訳がある筈が無いと言うのに……

 

 

 彼女が彼と実際に会って見て思った事は、覇気が無いと言うものだった。一夏は周りを女性に囲まれているとは言えシッカリとしていたのに対して彼は何か、諦めた雰囲気を出していたからである。

 

 その後の生活態度を見ても何所か彼は覇気が無かった。いつもいつも何かにおびえているような雰囲気をだし何と言うかいろいろと諦めている様子だった。

 

 私はそれを見て彼をどうにかしないといけないと考え彼に発破をかけることにした。いくら覇気が無いといっても彼も男だ。一夏のように、とは行かないが何か切欠があれば彼も変わるだろうとこの時私は気楽に考えてしまっていた。

 

 この考えが、後に彼を追い詰めていきあの事件を引き起こしてしまうとは思いも知れずに……。

 

 

 私のクラスのクラス代表を決める時、オルコットと一夏が騒ぎを起こしたが彼は自分には関係ないといわんばかりにさめた目つきで騒ぎを見つめていた。確かに代表を決める時彼の名前は挙がることは無かった。だが私はいい機会だと思った。代表候補生と戦える事など滅多な事ではないし、彼に少しでもクラスと関わらせようと思い私の独断で彼も代表を決める戦いに出場させた。

 

 彼は私が出場させるといった時心底不可解な表情を浮かべていた。そしてその後職員室に何度も来て「俺は推薦されて無いし立候補もしていない。だから代表を決める戦いには出たくない」と言ってきた。

 

 私はそのたびに彼に「すでに決まってしまったことだ。覚悟を決めろ」と言った。確かに私の独断でした事だがそれは彼のためであり彼が変わる切欠を与えたかったのだ。

 

 今思えばこの時の私はなんと独断的でそれでどうして生徒の事を考えているなどといえたのだろうか。彼がどれだけ苦しんでいたのかも気がつく事ができなかったのに……。

 

 

 代表を決める戦い当日、一夏の専用機が試合開始直前になってやっと来るというアクシデントが起きてしまい仕方が無く彼を先に戦わせることにした。本当なら先に一夏とオルコットの試合を見せてから戦わせたかったのだがアリーナを使用できる時間は限られており一夏の「初期化」と「最適化」を待っていたらアリーナを使用できなくなってしまうから先に戦わせることにしたのだ。

 

 試合の結果は彼の惨敗だった。本来なら私は教師として、いや人として彼に言うべき言葉は「無駄な動きが多すぎだ、ばか者」などと言う彼の事を貶すような言葉ではなく、むしろ無理やりこの試合に出させてしまった事に対する謝罪をするべきだったのだ。

 

 今思えば私のこの一言が彼があの時とった行動の切欠になったのかもしれない。だかそれを確認する方法はすでにこの世に存在しない……

 

 

 彼はクラス代表戦の後クラスから孤立してしまった。誰からも話されることは無く彼も誰かに話をする事は無かった。私はそれを見て何とか改善しようとしたが私が話しかけても彼の目を見ると私に対して軽蔑、憎悪、悪意など負の感情しか見られなかった。

 

 その後も何とか機会をうかがい話しかけても返ってくる言葉はどれもこれも同じような返事だけで話しかけるたびに彼が私に対して敵意しか持っていないことが分かる反応だった。

 

 私はそこまで来てようやく私がした事が彼にとってプラスになるどころかマイナスにしかなっていないという事がようやく分かった。だがわかった所ですでに時遅く彼の心は硬く閉ざされてしまっていった。

 

 

 そして学年別トーナメントが始り、あの事件が起こってしまった。

 

 

 学年別トーナメントで彼は私の教え子であるラウラと一緒に出場していた。意外な組み合わせだと思ったがただ単にクラスで最後までパートナーを作らなかった者どうしがくっついただけでありそれだけだった。もし彼が別の誰かと組んでいたのならあの事件は起こらなかったのではないかと今でもそう思ってしまう。

 

 試合が始まって彼が取った行動は開始位置から壁際に移動しそこから試合を見ているだけと言うものだった。壁際から援護するわけでもなくただ何もせずにラウラと相手の試合を見ているだけだった。

 

 私はそんな彼を見た私は心底後悔した。彼があんな風に何もしないようにしてしまったのは私のせいではないのかと……。だがそんな後悔は無意味だった。

 

 なぜならこの後起こる事件で私は一生償えない罪を背負う事なりそして今思っている後悔がどれだけ浅いものなのかを思い知らされる事となる。

 

 

 

 

 

 ラウラと彼が一夏とデュノアのペアと試合をした時ついに事件は起こった。

 

 序盤は今までの試合と同じでラウラ一人で一夏とデュノアの二人を相手にとっていたが流石に今までずっと一人で戦っていたラウラが押され遂には一夏の一撃で負けそうになった。その時ラウラのISに異変が起きた。

 

 ラウラのISの装甲が泥のように溶けて形を変えたのだ。そしてその姿はかつて私が使用していた暮桜にそっくりだったのだ。その私のニセモノは二対一にも拘らず一夏とデュノアを倒してしまった。そしてその凶刃を彼に向けたのだ。

 

 

 黒い暮桜はまるで彼から見た私の姿のようにその刃を彼に向け振り上げ……

 

 

「止めろ、その姿で彼に手を出すなああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 私が叫んだ後彼の首から真っ赤な血が吹き上げ黒い暮桜を真っ赤に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の事は私はあまりおぼえていない。近くにいた山田先生曰く自我呆然としていたといわれた。

 

 あの事件の後私は顔から表情が消え去れまるで人形のように冷たい表情しか取る事ができなくなっていた。あの黒い暮桜が赤く染め上げられたあの時の事が頭から離れない。

 

 起きている時も眠っている時も私はあの赤く染まった暮桜の姿がちらついていた。そして気を抜けば彼の声が聞こえるようで恐ろしかった。

 

「どうして俺の事をいじめるの」「どうして俺のいう事を聞いてくれないの」

 

「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精神的に追い詰められていた時私は生徒会長である更識に呼ばれ生徒会室に行った。

 

「何のようだ更識。私は忙しいんだ。無駄話なら帰らせて「彼の事で話があります」っ!!」

 

「わ、私には彼の事で話すことなど「織斑先生、いや織斑千冬!!私は、私達は彼から逃げてはいけないんです!!彼のためにも」わ、私は逃げてなど……」

 

 更識はそのまま一冊の日記帳を私に見せた。

 

「これを読んでください。少なくとも私と、織斑先生にはこれを読む義務があります」

 

「これは……」

 

「この日記は彼がこのIS学園に来てから書いた日記です」

 

「彼、の日記」

 

 私は震える手を押さえながら少しずつ、少しずつ読んでいった。そして私の心は折れた。

 

「わ、私は、私はそんなつもりでなどでは……」

 

「織斑先生、目を逸らさないでください。これが私達が彼にしてきた事実なのですから」

 

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 私はこの日この時自分が「ブリュンヒルデ」などと言う最強の存在ではなくただの弱い、弱い人間であると自覚した。

 


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