IS 諦めた少年   作:マーシィー

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IS 諦めた少年 更識楯無編

 更識 楯無

 

 IS学園にて生徒会長を勤め、IS学園生徒の中で最強の名を持ち、それでいて対暗部用暗部「更識家」の現当主でもある。

 

 そんな肩書きを持つ楯無だが、楯無から見た彼の評価は高い物では無かった。見た目や性格面、ISに対する意識が低い事など、もう一人の男性適合者である織斑一夏と比べると見劣りするからである。

 

 無論、表情や態度にはそんな事は出さないで彼ら二人には接していたのだが、それでも彼に対して心の何所かで一夏と比べていたのかもしれない。

 

 

 その思いがもたらした、たった一言が彼のその後を決める物とは思いもせずに……

 

 

 

 それは、学年別トーナメントが近づいて来た時の事。楯無は一夏と彼に対して少しの間特別特訓と称して、ISの機動訓練を見ていてあげた時である。

 

 その時すでに一夏と、彼との間にはかなりの差が出来ていた。同じ時期に入学し同じISに関しては素人であった二人だが一夏は専用機を貰っていたとは言え此処まで差が開いているとは思いもしなかったのである。

 

 それこそ一夏はイグニッション・ブーストを使用した近接格闘戦まで出来るようになっていたに対し彼は未だに高速で飛行する事さえままならなかった。

 

 だから、楯無は言ってしまったのである。彼がどれだけの時間を費やしてきたのも知らず、軽い思いでただ一言

 

 「君はもう少し努力したほうがいいんじゃないかな?」と

 

 それを聞いた彼は急に顔を伏せ、そのまま一言「……気分が悪くなったので先に戻らせてもらいます」といい帰ってしまった。

 

 さすがに無神経だったか、と思いはしたもののその時は追いかけもせず残った一夏との訓練を続ける事にした楯無。

 

 この時すぐに追いかけて、何か一言でも言っておけば彼の未来は変わったのかもしれなかった。

 

 そして迎えた学年別トーナメントの日、楯無は一夏に軽く挨拶を済ましてから彼にも挨拶をしようと彼を見つけて彼にも挨拶をしようとしたら、彼は楯無の顔を見るなり逃げるように走り去ってしまった。その事になぜ?という疑問を思いはし追いかけようとしたがもうすぐに彼の試合が始まる事を思い出しそのせいかと思いその場は諦めて観客席に戻った。

 

 試合が始まり彼の試合を観戦していたが、彼は試合が始まると同時にアリーナ内の壁際に移動して後は試合が終るまで其処にいた。

 

 その事に周りの生徒達がなにやら騒いでいて少しの間だけだが訓練を見ていた楯無も、少しは思う所があり、トーナメントが終ったら少し話をしようと考えていた。

 

 そんな思いも彼らが一夏達と試合を始め、異変が起こった時に吹き飛んでしまった。

 

 ラウラが一夏とシャルロットとの専用機二機と戦っている時も彼はアリーナの端で黙って見ているだけだった。

 

 これまでの戦いとの疲労と専用機二機との戦いでラウラが負ける、と言う時にそれは起こった。

 

 ラウラが急に呻き声を上げたかと思えば、ラウラのISが黒い霧のような物に包まれ黒い霧がなくなった後にはラウラのISは無く黒い全身装甲と一振りの刀を持ったISが居た。

 

 その後の出来事は劇的だった。苦戦していたはずの専用機二機に対して一振りの刀だけで圧倒し始めたのである。

 

 その時点で楯無はアリーナの進入ゲートに急行しその場に居た教師陣と他の専用機持ちを引きつれアリーナ内に突入した。

 

 突入した楯無が最初に見た光景は---

 

              「黒いISに首を切られた彼の姿」

 

                            ---だった。

 

 彼の首から吹き出る血を浴び此方を向く黒いISは死神のように見えた。

 

 だが、そんな姿に怯むもすぐさま周りの仲間に指示を出し黒いISの無力化を始めたのは流石といえた。そして始まった、複数対単機の戦い。

 

 流石に専用機持ち二人と戦った後にさらに複数の専用機持ちと教師陣、さらに生徒会長との戦闘はきつかった様で、数分で無力化に成功した。が、この時複数で突入したのが仇になった。楯無のIS「ミステリアス・レイディ」の能力であるナノマシンを使った攻撃が出来なかったのである。

 

 楯無一人だけで突入したなら、ナノマシンが含まれた水を使用した攻撃で一気に無力化が出来たのだが、この時黒いISの周りには一緒に突入した専用機持ちと教師陣のISが居て、離れるように言ったとしても黒いISの武器は刀だけであり常に誰かの近くに居たため攻撃が出来なかったのである。

 

 ならば誰かが足止めをして彼を助けに行けば、と考えたが彼が居るのは黒いISの後ろであり黒いISはまるで彼を守るかのように突入部隊の前に立ちふさがった。

 

 これにより救出よりも黒いISの無力化を先にする事にしたのである。数分で無力化に成功した後、楯無はすぐさま彼の所に行き彼の容態を確認したのだが、彼の周りの地面は真っ赤に染まり、顔色も青白く体温も下がっていた。

 

 すぐさま彼をアリーナ内から救護室に運び込み輸血のために彼と同じ血液型の生徒を探し輸血させるも治療が始まった時にはすでに手遅れで楯無や医者の奮闘も虚しく、彼は失血死という形で死亡した。

 

 それからが大変だった。

 

 楯無は本家である「更識家」からの彼を死なせてしまった事に対する状況説明に、各国政府に事情説明、IS学園全生徒に対するアフターケアなど、教師陣と一緒に四六時中働きっぱなしでありようやく一息ついた頃に彼の遺品を整理する事となったのだが、彼の遺品の一つが楯無の心に影を落とす事となる。

 

 彼の遺品は驚くほどに少なく、学校から支給されたもの意外は殆ど無く私物も服などの生活用品以外は無く、ただ勉強道具だけが残されていた。

 

 その中に有ったノートを見て楯無は驚いた。ノートの中には隙間無くびっしりとISに関する事が書かれており、何度も何度も読み直されている事が分かった。

 

 ノートの数も30冊は越していてどれも隙間無く書かれておりそれを読むだけで彼がどれだけ努力していたのかか分かった。

 

 それを見た楯無は居た堪れない気持ちになった。楯無は彼の努力を理解もせずに「努力したほうがいいんじゃない?」といってしまったのである。

 

 そんな後悔の気持ちを抑え読んで行ったが、ある時を境に急に空白が目に付くようになり、最後の方は何もかかれていなかった。

 

 前のページを見てみると急にそこで書くのを止めたかのように……

 

 その理由は、彼が残したもう一つの遺品であり彼の心の内を書き出した”日記”に有った。

 

 

 それが後に彼と関わった人間、更には世界をも巻き込む事態になるとは誰も思いもしなかった。

 

 

 日記の日付は彼が入学した日から書かれておりトーナメント前日まで書かれていた。

 

 楯無はその日記を読み始めたのだが、読み進めていくうちに楯無の顔はだんだんと青ざめていき、ページをめくる手は振るえ、自分の呼吸音が酷く耳に残るようになった。

 

 そしてある日の文章で楯無は自分が彼にした事がどれだけ彼を苦しめ傷つけたのかを知る事になった。

 

 彼が残した日記。それには彼が学園に入学してから思ってきた事が書かれていた。其処には一度も楽しかった事など書かれてはおらず、どの日付を見てもどの文章を見ても苦悩と苦痛に彩られていた。

 

 文章自体は短かったが、その日記には見る者の心に重く圧し掛かる様な思いが込められていた。

 

 この日記を読んだ、いや読んでしまった楯無はしばらくの間、いつものような明るい雰囲気は無く、何処か思いつめたような表情を浮かべ仕事ばかりしていた。まるで何かから逃げるかのように。

 

 そして、彼が死んでからしばらくしてから彼の書いた日記が世界中に公表された。

 

 誰が何時彼の日記を公表したのかは分からない。だが彼の書いた日記によって世界は大きく動く事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の日記より一部抜擢

 

 〇月△日 晴れ

 

 今日から、IS学園に入学する事になる。ハッキリ言って嫌だ。あんな所に行きたくは無い。できる事なら逃げたいのだがそんな事が不可能と言う事は分かっている。たとえ嫌でも通わなくてはいけない。ただの一般人が国の命令に逆らえるはずが無いから……

 

 

 〇月◇日 曇り

 

 IS学園に通い始めて、数日がたった。苦痛以外の言葉が見当たらない。何をしてもアイツと比較されそして勝手に批難される。こちらの思いなど関係ないのだろう、彼女達は。こんな生活がずっと続くと思うとなると死にたくなる。まあ思うだけだが。

 

 

 〇月◆日 雨

 

 この学園にまともな教師は居ないようだ。クラス代表を決める戦いに何故か俺も出る事になった。誰にも推薦されていないのに担任が勝手に決めて強制させられた。何度も俺は出たくない、戦っても意味は無い、と言ったのに碌に聞きもせずしまいには出席簿で殴ってきた。理不尽だ。

 

 

 〇月√日 晴れ

 

 書きなぐりの文字と水で滲んで読めない

 

 

 〇月★日 晴れのち曇り

 

 クラスに転校生が二人来た。それだけ。願わくば係わり合いになりませんように。

 

 

 △月〇日 曇り

 

 生徒会長が特別訓練と言って特訓を付けてくれる事となった。あいつと一緒に……。最悪、としか言いようが無かった。あいつは俺と同じ時期にISと関わったのにあいつは専用機を貰い戦い方も素人目の俺でも分かるぐらい上達していたのに、俺はあの時から全く上達などしていなかった。あの時から毎日毎日遅くまで起きて勉強して勉強して、楽しい事も無くただひたすら努力したのに、どうやら俺の努力は天才様には努力とは言わないらしい。

 

 「君はもう少し努力したほうがいいんじゃないかな?」

 

 ハハ、努力すれば報われる?努力は裏切らない?そんな事は成功した奴が言うだけで出来ない奴は結局何をしても出来ないようだ。疲れた。もう色々な事に疲れたな……

 

 

 △月※日 雨のち雷

 

 来週に学年別トーナメントが始まる。どうでもいい事だ。最近は勉強もしていない。努力なんて無駄だって教えられたからな。今日ある所に贈り物をした。それがどう使われるかは分からないが、何か面白い事に使われればいいと思う。これを送って、どうなるかなんて分からない。でも一回ぐらい自由な事をしてもいいだろう。

 

 

 △月+日 晴れ

 

 明日、トーナメントが始まる。最近は何故か知らないが調子がいい。ISが動かせるようになったとかではなく、なんて言うか、こう心が軽くなったというか、上手く言葉に出来ない。ただ、近い内に楽になれる、と言う予感があった。どうしてそう思うのかは分からないけどきっと楽になれる。楽になれたらどうしようかな?今まで勉強ばっかりだったから何か楽しい事がしたいな。新しい服やゲームを買って遊んで見よう。

 

 

 きっと楽しいはずだから……

 

 


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