IS 諦めた少年   作:マーシィー

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諦めた少年

 突然だが、家に帰りたいです。

 

 

 此処はIS学園、1年1組の教室なのだがハッキリ言ってキツイ。精神的に。なぜ、”男性”である自分がこの”女性”しか動かせないISを学ぶための学園にいるのかと言うと原因は世界初の”男性”適合者、織斑一夏のせいだ。

 

 アイツがISなんて物を動かしたせいで政府のお偉いさん達は他にも動かせる男性が居るのではないか、と男性国民全員を対象とした適正検査をしたのだが、そこで見事動かしてしまったのが、自分と言うわけである。

 

 どう考えても自分はお門違いである。アイツみたいに身内に世界最強だとか知り合いに世界最高の頭脳を持つ人が居るとか美少女の幼馴染がいる、なんて事は無い。さらにアイツみたいに自分は熱血漢でもないしイケメンでもない。物事の飲み込みもアイツとはぜんぜん違うんだ。

 

 子供の頃からそうだった。他の子供たちは皆すぐにいろんな事を覚えていったのに自分は同じ事を何度も何度も繰り返してやっと覚えれるのである。”天才は1を知って10を知る”なんていう事があるが自分は”10回繰り返して1を知る”が基本なのだ。

 

 それなのに周りの人間は「どうして出来ないの?」とか「他の子供はすぐ出来るのに…」とか言ってくる。だから、自分はもう色んな事に対しての情熱など無く、ただ毎日を無意味に過ごしていた。高校も受験なんてしないでさっさと肉体労働系の仕事に就こうとした。幸い体だけは丈夫だったから。

 

 

 

 なのに、なのに!!ISなんていうエリート様が乗るような物の適合者になってしまい自分のこれからの人生は真っ暗になってしまった。

 

 

 

 なぜかって?自分はアイツと違い重要性がかなり低いのだ。アイツは身内と知り合いのおかげで各国のお偉いさんもそうそう手は出せないが自分は違う。身内にこれと言った有名人がいる訳でもなく、アイツのようにISの操縦技量が高い訳ではない。アイツと比べたらどちらが国にとって重要性が高いかなど誰にでも分かる。

 

 IS学園に所属している今はいいが卒業して、外に出ても政府はどうせアイツは守るだろうが自分は守ってくれるかは分からない。むしろ、貴重なサンプルとして他の国と取引の材料にされるかも知れない。そんな未来しか見えてこないうえに、このIS学園内でも自分はアイツの踏み台にしかなっていない。

 

 最初にそれが起きたのは登校初日、クラス紹介の時だ。アイツの後に自己紹介したがどいつもこいつも一夏、一夏、と自分の事とアイツの事を比べて比較する。そしてアイツの方がイイと言う。自分は比較されるためにここにいるんじゃない!!

 

 さらにクラス代表生を決める時、誰もがアイツを推薦し自分は推薦されなかった。これはいい。自分はISなんぞに、興味は無かったしクラス代表もなりたくなんてなかった。

 

 なのに、なぜかクラス代表を決める試合に自分も出る事になっていた。なぜ?と思ったら何のことはない。ただアイツの専用機の「初期化」と「最適化」を済ませる為の時間稼ぎとして戦わされる事になっただけだった。

 

 教師でありアイツの姉である織斑千冬に自分はこの試合には出ないと、言って見たらなんて言ったと思う?「お前も一夏と同じ男ならこれぐらいやってのけろ」だと?ふざけるな!!自分はあんたの弟は違うんだよ!!

 

 それから何度も試合には出たくない、出ても負けると言ってもあのクソ教師、聞きもしやらがらない。終いには出席簿で殴ってきやがった。これをされて自分は理解した。このクソ教師弟の為に自分を踏み台にさせる気だと。

 

 それが切欠なのかそれともずっと前からそうだったのか分からないが、もういろいろな事を諦めるようになった。自分がどう足掻こうとも結局自分は誰かの踏み台にされるのなら、もう足掻く事なんてやめて諦めた方がずっと楽だから。

 

 クラス代表生を決める試合の時、アイツには色んな人が集まっていろいろ声を掛けていたようだが自分にはそんな物は無く、よくて「試合がんばって」とお決まりのようなセリフを何人かに言われただけ。そして、自分と相手であるイギリス代表候補生との試合が始まったが、結果は惨敗。相手のシールドエネルギーを少し削れただけでボロボロにされた。

 

 当たり前である。相手は専用機持ちで起動時間も数百時間を越すようなエリート様で、こっちは量産機で起動時間なんて十時間にも満たないのだ。これで、勝てという方が無理な話である。惨敗して戻ってみたら篠ノ…何とかとか言う奴は「情けない、それでも男か」等と見当違いの言葉を投げかけられクソ教師は「無駄な動きが多すぎだ、ばか者」等と教師として有るまじき言葉を発してきた。

 

 

 殴りかけたのを必死に抑え、一言「…すみません」と言った自分を褒めてやりたかった。

 

 

 その後、自分はさっさと部屋に戻りすぐにベットに入り寝た。いや寝た振りをして泣いた。どうして自分だけこんな目に会うのか、どうして自分の事を分かってくれないのか、どうして自分は出来損ないなのか、とただ声を殺して泣いた。

 

 それから、クラス対抗戦や、転入生などが来たが同でもよかった。ただ、アイツと比較されて踏み台にされるだけの毎日だったから。

 

 

 

 でも、そんな毎日もあっさりと終ってしまった。

 

 

 

 学年別トーナメントで自分はラウラとか言う奴と組む事になったのだがラウラは自分に「貴様は何もせずに離れていろ、邪魔だ」と言われ、その通りにどの試合も開始してすぐ壁際に離れていった。周りの奴らがなにやら煩かったがどうでもいい。どうせ出しゃばっても碌なことにはならないのだから。

 

 で、自分のチームがアイツのチームと対戦する事になった時もラウラは俺に何もするなと言い放ち、一人で戦っていたが専用機持ちとの2対1ではさすがに分が悪かったようで劣勢に追い込まれて後一撃でラウラが負ける、という所で急にラウラのISが急変した。

 

 黒い全身装甲に一振りの刀を持ってアイツ達に襲い掛かった。さっきまでとは違い2対1でも余裕を持って相手にし襲いかかっていた。

 

 自分は壁際でただそれを見ていただけだった。専用機持ち同士で、しかも一人は明らかに暴走していると所に自分が入って言ったってすぐにやられるだけだ。そうこうしている内に二人はやられてしまった。そして暴走したラウラがこっちに向かってきた。

 

 自分は逃げもせず、防御もしないでただ立っていた。逃げても逃げ切れるわけが無いし、防御しても防ぎきれる物ではないのはさっきの戦闘を見ていれば分かる。

 

 

 

 だから、自分は何もせずに凶刃に対して”首に当たるように”動いてやった。

 

 

 

 暴走した機体の凶刃はいとも容易く量産機の絶対防御を貫通し自分の喉を切り裂いた。暴走したこの機体の刀はアイツの専用機の単一仕様能力を劣化してはいるが似た能力を持っていたようで量産機程度の防御力は紙のように引き裂けた。

 

 

 首からの激痛に泣きながらも心は爽快な気分だった。

 

 

 これで、やっと楽になれる。誰かと比較されることは無くなる、と。

 

 

 霞む景色の中、そんな事を思いながら自分は意識を失った。


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