病みつき物語   作:勠b

3 / 25
狂いゆく、世界で響く笑い声


病みつき美紀

大学生になって早数ヶ月。

その日は学校も何もなかったから、暇つぶしにショッピングモールへと買い物に行っていた。

今思うと、正しかった。

本当にただの気まぐれを今となっては感謝している。

 

ショッピングモールで過ごしていると、場の空気が変わった。

唐突に、なんの脈絡もなく。

周りが騒ぐ中心を見て、目を丸くする。

人が人を襲っている。

いや、喰らっている。

いや、人じゃない。

ドロドロの肌に、不安定さを感じる立位。

集点が定まっていない瞳には人としての理性を感じない。

そう、化け物。

人が人の形を下化け物に喰われている。

そう、狂っている。

そんな様を見せつけられ、それから直ぐに気づかされる。

 

この日、平和で退屈な世界は終わった。

 

 

 

 

━━━━━━

あれから直ぐに俺のような生き残りは集まることに成功した。

その中では子供、学生、社会人、男、女。

大きく分けても社会の縮図のような集まりだ。

そんな集まりが、ショッピングモール内裏側にある大きめの部屋で集まる。

唯一の出入り口をバリケードで囲い、外から聞こえる扉を叩く音に恐怖しながら。

だが、そんな中で1人元気な奴もいた。

 

「よーし、それじゃ先ずは情報交換だ」

 

真っ先に声を上げたその人は、俺達のリーダーになる人。

どんな時でも前に立ち、俺達を引っ張ってくれる人。

その人の第一声が、俺達に活力をくれた。

 

その後、俺達は皆で協力してショッピングモールで生き抜いてきた。

女性陣に部屋をコーディネートしてもらいそれぞれ小さいながらも家が出来た。

男性陣は食糧確保のために働き、この集まりでも数ヶ月は持つぐらいの食糧を得た。

上手くいっている。

そう、思ってた。

でも、違った。

 

現実は非常で、上手く行かない。

だから、現在なんだ。

 

俺達が集団で行動してから数日後の夜、叫び声が聞こえたから慌てて起きて音がした場所に向かうとそこには現在があった。

 

リーダーが

いや、リーダーだったものが仲間を喰らっていた。

仲間に覆い被さって犬のように。

 

化け物は人を喰らい仲間を増やす。

これは、初日の情報交換てえたこと。

そっか……

 

俺は尻ポケットに入れてあるサバイバルナイフを持つ。

 

喰われてたんだ。

喰うことに集中してる化け物へと近づく。

今なら、簡単に殺れる。

そう確信したのもつかの間。

「キャァァァァァ!!」

 

甲高い声での叫びに思わず注意が向いてしまう。

そこには、2人の女の子がいた。

静かにして!!

そう言いたかったが、そんな余裕はない。

目の前の化け物は新しい獲物へと視線を向けていたから。

俺は化け物との数メートルの距離を一気に積めて、首を切る。

大量の血飛沫を浴び、視界が一瞬赤く染まる。

 

「た……け……て」

 

視界が赤が消えると、仲間が俺に力なく手を伸ばす。

助けたい、でも、ごめん。

俺は何も言わずに、仲間だった者の首を切る。

 

一段落かな。

軽くため息をつくと同時に、他の人の部屋から足音が聞こえる。

不規則な、力ない足音。

それが、沢山。

……そっか、もうかなりの人が。

サバイバルナイフを強く握りなおして、俺は2人の女の子に近づく。

「2人は自分の達の部屋に隠れてて、たしか一緒の部屋だよね?」

 

俺の問い掛けに、首を縦に振ったのを確認して、部屋へと帰す。

俺は皆が使っていたリビングへと移動して、そこらへんの物を壊して、大きな音を出していく。

化け物は音を頼りに動くことがある。

それも、知ってた話だ。

 

近くの物を壊していると、見覚えがある化け物達が集まってくる。

……やらなきゃ、やられる。

一度深呼吸して、俺は仲間だった人達を殺めていった。

これが、地獄の始まりだったかもしれない。

 

彼女の、美紀の地獄の始まりだ。

 

 

 

━━━━━━

助かったのは俺と、美紀ちゃんと圭ちゃんの3人だけだった。

広い部屋で静かに過ごす3人。

この生活が、続いていた。

でも、この生活だって長くは続かなかった。

俺が食糧確保を終えて帰ってきた時、出迎えてくれたのは1人大きな部屋で泣いている美紀ちゃんだけだった。

直ぐに、察した。

 

「先輩……圭が、圭が……」

 

1人で泣いている美紀ちゃんに視線を合わせると、彼女は俺に抱きつく。

「私、私、止められなくて……それで……っ!!」

言葉を繋ぎ合わせながら、必死に状況を説明しようとする彼女の頭を撫でながら俺なりに落ち着かせる。

それが、これからの始まりだった。

 

 

━━━━━━

圭ちゃんが部屋を出てから早数日。

美紀ちゃんはまだ落ち込んでる所もあるけど、それでも前向きに捉えてくれた。

圭は圭で必死に生きようとしていますから、私も。

そう言ってからの美紀ちゃんは、俺と一緒に食糧確保のために部屋から出て、化け物の相手をしてくれる。

初めは恐る恐るだったけど、最近は恐怖感も薄れてきて頼りになる味方になった。

でも、たまに考える。

このままで、いいのかな?

俺達も圭ちゃんみたいに……

そんな事を考えてると、隣の部屋から携帯のアラームが聞こえる。

もう、そんな時間か。 

微睡みの中、起きなきゃいけないと思いつつも身体は動こうとせずにため息しかでない。

まぁ、いいや今日も。

そんな事を思いながら、ゆっくりと重い瞼をくっつける。

また、日を改めて美紀ちゃんと相談しよう。

そんな事を思いながら。

思考を手放して、意識を深く沈ませる。

 

「いつまでも寝てるんですか、先輩!!」

 

部屋を仕切るカーテンが勢いよく開かれると同時に呆れた声が聞こえる。

 

「いいでしょ、今日水曜日だし」

「なんで水曜日ならいいんですか?」

「俺、水曜日は学校ないし」

「先輩は私の先生でもあるんですから、しっかり起きて授業してください!!」

 

眠いんだから寝かせてよ。

なんて思ってると身体を横に揺さぶられる。

 

「ほら、先輩」

 

……何時も何時もあきないな。

そんな事を思いながら、ゆっくりと起きあがる。

「やっと起きましたね」

「やっと起きましたよ」

あくび混じりに応えると美紀ちゃんはニコニコと笑顔を向けて。

「おはようございます」

そんな当たり前の挨拶を嬉しそうにしてくれた。

「おはよう」

だから、俺もなるべく笑顔で返事をする。

さぁ、今日も新しい朝の始まりだ。

そんな事を思いながら。

 

「それじゃあ、私は朝御飯の用意をしてきますね」

嬉しそうな笑みのまま部屋をでる美紀ちゃんを見送って、俺は着替えをする。

美紀ちゃんは、今のままが幸せなんだろうか。

最近はこのことばかり考えてしまう。

美紀ちゃんは脆い。

そして、弱い。

しっかりしているからこそ、1人で大丈夫だと思っしまうがそれは間違いだ。

悪く言えば強がり、よく言えば我慢強い。

そんなところだろう。

純粋な彼女はきっと、1人で何日間もここにいたら……

いや、それは俺もそうか。

こんな所に1人になったら、壊れる。

当たり前だ。

だからこそ、俺だけでも傍にいないと。

改めて決意を固めてリビングへと向かう。

 

リビングではガスコンロと小鍋を使って何かを温めながら鼻歌を歌っている美紀ちゃんがいた。

「ちょうどよかったです。今出来た所なんですよ」

そういうとテキパキと皿を並べ盛り付けをしてくれた。

今日の朝はミートソースのパスタだ。

「何時もありがとう」

「朝御飯は私がやりますけど、昼と夜は手伝ってくださいね」

「わかったよ」

俺の反応が可笑しいのかクスクスと笑われた。

そんな彼女の笑みが、今の俺の楽しみでもある。

「それじゃ、ご飯にしましょうか」

「はい」

 

「「いただきます」」

礼儀正しく2人で当たり前をする。

そんな当たり前が、大切な今の日常だ。

 

 

 

━━━━━━

基本的に俺達の行動スケジュールは美紀ちゃんが考えてくれる。

しっかり者の彼女はこういうのが得意なんだ

今日は学校の日。

俺が美紀ちゃんの先生として授業をする日だ。

といっても、ショッピングモールから取ってきた教本を使ってのお手軽授業だけど。

しっかりと時間割通りにそれを終えたら、2人でのんびりと談笑して、笑あいながらその日を終える。

はずだった。

今日は、違った。

 

ショッピングモールから、聞き慣れない異音が響く。

「なんですか、これ!?」

聞き慣れない音にあからさまに動揺する美紀ちゃん。

怖いのか、慌てて俺の手を取る。

「やだ、やだ、やだ……」

呟きと共に手にこめられる力が強くなっていく。

俺は美紀ちゃんの手を掴み返す。

「大丈夫」

一回じゃ、収まらない不安と恐怖を何度も言って少しでも落ち着いてくれるよう努力する。

「大丈夫だから」

美紀ちゃんと同時に自分を落ち着かせる。

大丈夫。

そういい聞かせて。

今にも鳴り響く異音について少しずつ考えをまとめる。

どこかで聞き覚えがあるその甲高い異音はたぶん……。

「防犯ブザー?」

自信がない俺の言葉に美紀ちゃんは勢いよく食いついてくれた。

「そうです、これ防犯ブザー!!」

「……あれが防犯ブザーを使えるかな?」

「いえ、難しいと思います。ということは……!?」

「圭ちゃん?」

 

圭ちゃんが助けに来てくれた。

そう思ってしまう。

でも、一番圭ちゃんに会いたいであろう本人の顔色は難しい。

 

「もしも圭だとしたら、私達がここにいることを知ってるはずです。防犯ブザーを使って化け物達を呼ぶなんてこと……」

確かにそうだ。

まるで、この防犯ブザーは化け物達を呼び寄せるための……もしくは、化け物達の注意を逸らすための。

もしかしたら俺達みたいな生存者かもしれない。

他の所からショッピングモールに来たのか?

 

美紀ちゃんの顔を見ると、落ち着いたのかその瞳は何時もの力強い彼女のものだ。

「行ってみますか」

 

俺は、彼女の言葉に首を縦に振った。

 

 

 

━━━━━━

防犯ブザーの音は俺達の拠点から少し離れた部屋でなっていた。

物陰に隠れながら部屋の様子を見ると、そこには大量の化け物と共に3人の少女と1人の少年がいた。

少女達の制服は美紀ちゃんと同じ物だ。

 

「助けに行く?」

俺の提案に美紀ちゃんは応えず、ぎゅっと俺の手を握りしめる。

「……もう少し、様子を見ようか」

 

目の前の生存者。

確かに助け合いたいし、協力したい。

でも、この化け物の数相手にして無事に終わるのは簡単じゃない。

目の前の人達が噛まれていない確証だってない。

だから、様子見。

 

俺達が見守ること数秒後、1人の少女が化け物に噛まれてしまった。

そして、また1人……。

まるで、俺達のかつての仲間達のような。

違ったのは、残った2人は逃げるようにこの場を去ったこと。

俺は2人の後を追おうとするが、握られた手が、それを許してくれない。

「……帰りましょう」

顔を伏せて表情を隠して強がるその手は震えている。

やっばり、美紀ちゃんは怖いんだ。

今の部屋に帰れば未来はなくても明日はある。

美紀ちゃんは不確定な未来よりも、ちゃんとした明日がほしいんだ。

……俺は

俺は、

 

俺は、どっちが欲しいんだろうか。

 

どっちを選択するべきか、正しい答えがない選択肢を考える。

その間に、生存者達の背中は遠くなる。

どうするのか、どうするべきか。

考えに、思考に夢中になっていたからか、美紀ちゃんが何をしようとしていたのか分からなかった。

気がついたら彼女の顔が近づいて、俺の唇に柔らかい感触が一瞬触れた。

 

「邪魔な人達は帰ったんですから、私達も帰りましょう」

 

邪魔な……‥人?

「先輩、私気づいたことがあるんです」

俺の視野一杯に広がる素敵な笑みは、俺の予想を越えていて━━━

「私、死ぬまで先輩と生きていられたらそれでいい」

それは、俺の理解を越えていて━━━

「先輩が先に死んだら、後を追います」

普段の落ち着いた彼女の思考とは思えない

「私の世界には先輩と圭がいればいい。それ以外はもういいです」

諦めました。っと付け加える。

当たり前のように突きつけられる異常に思考が追いつかないまま、俺は目の前の彼女を見る。

「さぁ、早く私達の部屋に帰りましょう」

そう急かす彼女に何も言えないまま、引っ張られるように歩いていく。

「そうだ、今日の夕食は━━━」

ふとみた彼女の後ろ姿が、とても怖く思えた。

まるで、化け物のような。

あいつ等とは違う、化け物に。

 

 

 

━━━━━━

部屋に帰ると、美紀ちゃんは楽しそうに鼻歌を歌いながら夕食の準備を始める。

俺は軽い手伝いをしながら傍にいるけど、彼女とは違い気分が悪い。

さっきの生存者達には申し訳ないとは思うけど、俺達だって生きていかないといけないから……危険な橋を渡ってまで助けるわけにはいけない。

だから、逃げた2人にはせめて生きていてほしい、そう思うことしかできない。

問題は、美紀ちゃんだ。

 

邪魔者。

 

せっかくの生存者をそんな言葉で表現した彼女はおかしい。

やっぱり、話そう。

美紀ちゃんとここにいても、何も変わらない。

生存者はまだいる。

ここ以外にも誰かいる。

そう思うから。

 

「先輩、今日はカレーですよ」

 

楽しそうに食事を並べる美紀ちゃんの顔を見て、決意する。

「ねぇ、美紀ちゃん」

俺が呼ぶと美紀ちゃんの肩は大きく震える。

それも一瞬。

直ぐに慌てて頭を下げた。

「すいません、あの時は取り乱しちゃって」

あの時。

どの時を指すのだろうか。

生存者を邪魔者扱いした時か

それとも、キスの時なのか

「私、圭が帰ってきたのかもってどうしても思っちゃいまして……そしたら、他の人と間違えちゃいました」

ばつの悪そうな笑みを浮かべる。

どうやら、あの場に行ったことを謝罪しているらしい。

それ以外は、悪いと思ってないのかな。

「圭も早く帰ってくるといいんですけどね」

話は終わりと言いたいのか、俺の隣に座って合掌する。

……早いうちに話して、終わらせよう。

俺は彼女の横顔を見る。

普段通りの、整った少し強気な顔。

 

「ここから出よう」

 

その顔は、一気に崩れて恐怖を醸し出す。

「何でそんなこと言うんですか!!」

美紀ちゃんの急変に動揺していたからか、彼女に押し倒されてしまう。

「先輩まで、私を1人にするんですか!?

 しませんよね、しないですよね!!

 先輩は私とずっと居てくれますよね!!?」

「いっ、いるよ、一緒に出よう」

「ここを出て何処に行くんですか!?」

「俺達以外にも生存者はいる」

「いましたね、でも生存者が集まったって私達の時みたいにどうせ壊滅ですよ!!」

「それは……分からないでしょ」

「食料や水分だって多人数で分け合うよりも少人数で分け合った方が長く持ちます。現に今確保した食料で私達2人なら数ヶ月は持ちます」

「でも、2人じゃ出来ることも限られる!!多人数で動けば救助を呼べるように動くことも……」

「いいじゃないですか、救助なんて来なくても」

 

……えっ?

美紀ちゃんの予想外の言葉にどうようしてしまう。

彼女は俺に馬乗りになり、その手を俺の首に回す。

 

「先輩、私思うんですよ」

首が少しずつ痛みを感じる。

「私、このままここで生きててもいいのかなって」

少し息苦しさを感じる頃には力はゆっくりと抜ける。

「私、先輩といるだけで幸せなんです。だから、もうこのままでいいって思うようになってきたんです」

首から手が放れると、彼女は俺の胸に顔を埋める。

何処となく甘くて、少し汗臭い匂いが鼻を擽る。

「先輩、先輩は」

甘い声が耳を擽る。

「先輩は、私とずっとここにいてくれないんですか?」

「……俺は」

 

考えてしまう。

美紀ちゃんとここで最後まで過ごすのか。

美紀ちゃんと共にここを出て誰かを探して、救助を求めるのか。

前者は、何も変わらない。

最後までここで暮らすだけ。

変わらない日常を最後まで……

後者は分からない。

何があるのか本当に救助されるのか、誰かに出会うのか。

……分からない。

 

━━━分からないけど。

 

 

 

「出よう。一緒に」

 

 

 

 

「そうですか」

 

 

 

俺の決断に彼女は残念そうな顔をする。

「残念です、最後まで一緒にいたかったのに」

ゆっくりと上半身を起こすと、見下すような視線に思わず恐怖を抱く。

見たことのない冷たい視線に思わず息をのんでしまう。

「先輩、これお借りします」

そこで初めて、彼女の手に俺がポケットに締まっているサバイバルナイフを持っていることを気づく。

ナイフを愛おしそうに持つ彼女。

彼女は今、俺に馬乗りだ。

そのナイフで、何をするのか。

目に見える恐怖から逃れようと彼女を押し飛ばそうとする。

でも━━━

 

「大好きです、先輩」

 

ゆっくりと俺にキスをする。

愛おしそうに、愛を確かめ合うように。

 

「だから、先輩だけでも私の傍にいてくださいね」

 

視界一杯に広がる、美紀ちゃんの恍惚に染まった笑みがとても綺麗で━━━

とても狂おしく思えて━━━

とても狂気に感じて━━━

 

「私の傍にずっと居てくれるだけでいいんですからね」

 

次の瞬間、俺を襲った鋭い痛みに耐えきれず意識を手放した。

 

 

 

 

 

━━━━━━

後日談、先輩と私の話。

 

今日は食糧確保のためにショッピングモールを探索してきました。

大分食品も集まりましたし、これだけあれば私と先輩だけなら数年は持つかもしれません。

 

「ただいま帰りました」

 

お部屋に帰って、先輩に挨拶をする。

リビングで静かに座ってる先輩は、私の顔を見ると手を伸ばしています。

でも、その手は届くことなく、空を切ります。

私はそんな可愛らしい先輩に近づいて抱きつきます。

これだけで今日の疲れも消えました。

 

「……おかえり、美紀ちゃん」

「ただいま、先輩」

 

お風呂にも入れないから、匂いとか気になるけど……それでも、何も言わない先輩が私は大好きですよ。

ふと、先輩の脚を見ると出血したのか、ズボンヶ赤く染まっていた。

 

「もう、無理して動くから痛いんですよ」

 

私は医療キットを持ってきて先輩の脚を見る。

真っ赤なガーゼを外すと両足にナイフで深く切られた傷口が見える。

 

「今日もすごい出血ですね」

 

小言を言いながら傷口を舐める。

鉄の味。

でも、それが先輩のだと思うととても美味しく感じる。

ずっと舐めていたいけど、痛みから苦痛の表情を浮かべる先輩を見て止める。

先輩に余り嫌な思いはさせたくありませんから。

 

私は傷口周りに薬を塗布して、ガーゼを巻いていく。

 

さぁ、これが終わったらご飯の用意をして、先輩のお着替えして、それから……

 

楽しい時間割を組み立てながら、残り少ない今日についてを考えます。

明日は、食糧確保じゃなくて先輩と過ごそうかな。

明後日も先輩と一緒にいよう。

……暫くは、先輩と2人っきりで過ごそう。

 

「先輩、私は幸せです」

圭、生きてるだけでも幸せだよ。




次回はがっこうぐらし以外のキャラの予定です。

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。