病みつき物語   作:勠b

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久々の投稿になりました。
セイバー含む色んな物のプロットはスマホと共に壊れてしまったので、話を思い出したら書いていきたいです。
また、今回は恋愛する過程を書いてほしいという要望が多々頂いていた(気が)したので、徐々に病んでく姿をウマク書けたらなーって

※クリスタの過去に関するネタバレあります


進撃の巨人
病みつきクリスタ1


この世界は残酷だ

小さな手を握りしめ、人とは思えない冷たさを感じながら、ただただ思う。

どんだけ欲しても得られないものがある

どんだけ守ろうと守れないものがある

世界の理不尽に、不条理に

全て失われてしまう---

 

それでも

それでも

こんな世界でも

欲しいものが

得られるのなら

 

私は----

 

 

 

 

「クリスタ・レンズです。よろしくお願いします」

ウォール・マリアが陥落して数日。

空っぽだった私は唯一あった名前すらも捨てて、開拓地に送られた。

畑を耕していたであろう子供たちが私の前に集まる。

泥にまみれた彼等は自分と同じか、それ以下に見える。

隣に立っていた大人達は私達の自己紹介を暇そうに眺めていた。

ここにいる人達は皆、理不尽に見舞われた人達。

私も含めて

だからだろうか、皆話こそするがその目は希望の光等感じない。

あるのは、絶望に打ちひしがれた人達の顔のみ。

 

 

怖い

 

その思いで胸が一杯になる。

見知らぬ人達は皆、私に対して理不尽な暴力を振るう。

ずっと、そうだったから。

皆の顔をまともに見れず、逃げるように視線を反らすと1人の少年が映った。

大人達の呼び声で集まらなかった彼に対して、誰も注意する人がいない。

気になった私はとなりの隣の男性に顔を向けて指をさす。

その先にある少年を見て、周りの人達は皆同じ顔をする。

明らかな。隠す気のない様な嫌悪を。

 

「死にたくなければあいつには近づくな」

男性の声に合わせて、周りを続く。

「こんな大変な時に病気持ちが来やがって」

「さっさといなくなればいいのに」

「なんでここに来たんだよ」

 

子供大人合わせて、罵詈雑言の嵐がこだまする。

聞こえているのか、少年は作業の手を止めた。

身の丈以上の鍬を地面に力一杯叩き降ろした音は、空虚に響きわたる。

 

「サボってんじゃねえ!!」

 

傍にいた私はその怒声に思わずびびってしまう。

情けない声をあげた私とは対面に、少年はゆっくりと鍬を持ち上げた。

 

「あいつには近づくな。絶対にだ」

 

その言葉を最後に周りの人達は解散していく。

私の足もそれに合わせて動く。

ただ、視線は少年から離れなかった。

病気持ちというには重労働をしている少年に。

顔色も、悪いとは思えない。

ただ、周りから理不尽にあってるだけ。

あぁ---

私もこんな風に映ったのかな

そう思いつつ逃げるように視線を前に動かし、これ以上考えないよう大人達に付いていった

 

 

 

 

開拓地での初日は気が滅入ってしまった。

彼の事もあるけど…

周りの大人達の言葉もきつい。

 

働かなければ飯はない

 

 

今日だけで数え切れないぐらい色んな人達に聞かされた言葉がまだ頭の中で反復している。

そして、私に与えられた仕事は馬のお世話。

前と変わらないこの仕事にだけ唯一安心感を感じた。

それが終わったら、食事を受け取り皆で食べる。

味気ないスープと固いパン。

美味しいとも不味いとも感じない。

ただただ口に入れるだけの食事。

 

不安が一杯。

でも、ここで頑張るしか

私が生きる術はない

ここでしか……

 

寝室として与えられた古びたマンションの一室。

私以外にも数人いるけど、皆疲れからか眠ってしまったようだ。

誰かと一緒に寝る。

当たり前の事かもしれないけど、この当たり前が私には慣れなくてしょうがない。

横になっても眠れる気配がしないから、散歩と称してマンシ内を散策することにした。

窓から見える見慣れる土地

扉から聞こえる大人達の聞き慣れない声

皆、私の恐怖の対象でしかない。

帰りたい……とは思わない。

帰る場所なんて---

 

 

数分程歩いたあたりだろうか、何かがぶつかる音が甲高く聞こえた。

聞こえた場所はすぐ近くの部屋。ここでの食事の受け渡し場所だ。

部屋を区切る扉が空いていたからか、気になってしまい覗き込んでしまう。

そこには病気持ちと言われた彼が2つ分の食事を持って行く所だった。

周りから蔑まれ、暴言をはかれていた彼

挨拶もさせてくれなかった彼

病気だって、この世界では理不尽な事なのに……

 

「あの」

 

後ろからかけられた声に驚いたのか、彼は大きく肩を揺らしゆっくりと私の方に振り向いた。

黒い髪をした少年は、私と変わらないぐらいの年齢に感じる。

 

「……えーっと」

 

声をかけたはいいものの、次の言葉が出でこない。

そんな姿に見かねたのか、少し間を開けてから

「消灯時間過ぎてるよ?」

彼の方から話を振ってきてくれた。

……恥ずかしいけど、同年齢の子とお話なんて初めてだなら、緊張してしまう。

「ね、寝付けなくて……少しお散歩してたの」

自分でも違和感を感じるぐらいの高いトーンで声が出る。

「慣れないよね。皆そうだったよ。ここに来て直ぐは夜まで起きてた」

次の日の仕事はよく怒られてたけど。なんて事を言いながら、1人でクスクスと笑っていた。

 

「……もう行くよ。余り俺と一緒にいないほうがいい」

先程の笑顔はどこへやら、顔を伏せて早足で通り過ぎようとした彼。

急な言葉に巧く反応できなかったけど、私を過ぎて直ぐに彼の事を思い出す。

こんなに感じの良い人なのに、病院ってだけで理不尽な目に合う。

それは---

嫌だ

嫌な感じだ。

 

「私、クリスタ。あなたは?」

背中越しの問いかけに彼は足を止める。

「自己紹介、まだだったか---」

「うるせぇぞ!!」

 

私が言い切る前に急な怒声が響き渡る。

彼はその声を皮切りに肩が小刻みに震え、慌てて私に近づく。

「隠れて」

「えっ?」

「部屋に入ってて」

いいからっと、わけもわからない私を押し出すように部屋に入れた。そのまま言われるようにドアを閉める。

開閉音とほぼ同時に、怒りに任せたような男性の声が私の耳を押し寄せる。

 

「なにやってんだお前!!」

「……すいません、食事を取りに来ました」

「それぐらいとっととやれ!!」

 

怒声の次に聞こえたのは激しく物かぶつかる音、そして何かが転げ落ちる音と崩れ落ちた音。

落ち着いたと思ったら、 小さなうめき声が聞こえてくる。

小さいはずなのに、その声だけが嫌に耳に残った。

 

 

「せっかくの食事を溢すなよ」

「……ごめんなさい」

 

……なんで、こんな目にあうんだろう。

ただただそう思う。

彼は、何も悪いことをしてないのに。

 

「せっかく綺麗にした床をスープで汚しやかって」

「ごめんなさい」

理不尽に対して謝るしかない彼は何が悪いの

「きちんと働くっていったから受け入れてやってるのに」

「ごめんなさい」

何もしてない、何も悪くない彼はなんで謝るの

「食事もまともに持ってけないのに、貰ってるんじゃねぇ!!」

「ごめんなさい」

彼は---

 

「あ、あのっ!!」

 

自分でも驚いてしまう。

思わず部屋から出てしまった事に、彼を助けようとした自分に。

 

「わ、私が声をかけ---」

「お前、あれほど近づくなって言っただろうが!!」

私の姿を見た男性はその余りある力で拳を創り、暴力として形作る。

倒れていた彼の上に乗り、身動き取れないようにしながら。

自分の半分以上程の背丈しかない彼に、問答無用で。

「や、やめてください」

近づく事すら出来ない。

足が震えるの。

いや、体全体が小刻みに慄えてしまう。

目の前の不条理に。

「お、俺が、クッ……悪いんです」

顔を殴られながら何度も何度も彼は謝る。

男はその姿に満足そうな笑みを浮かべ、ゆっくりと拳を振り上げていった。

 

「だめ!!」

振り上げきるよりも先に私の足が動いてくれた。

一度動けば、後は自分でも驚くほどにスムーズに体はついてきてくれる。

震えを残したまま。

彼の顔を守るように覆いかぶさる。

視界一杯に広がるその驚いた顔に数滴の涙が垂れていく。

私なにやってるんだろう。

怖いのに、泣くほど怖いのに。

「……私が、話しかけたんです」

痛みは襲ってこない。

「私が、言いつけを守らない悪い子だから」

何も返ってこない。

「殴る……なら、私を……」

あるのは純粋な暴力に対する恐怖だけ。

 

「……チッ、もういい」

その言葉を最後に男は立ち上がり、ゆっくりとその場を立ち去っていく。

足音が完全に消えてから、私の体は力が徐々に力が抜けていく。

「あっ!!」

「クッ!!」

気の緩みと共に抜けた手の支えは、散乱したスープに濡れて滑り落ちていく。

バランスを崩した私は、そのまま彼の顔へと身体を押し付けるように転んだ。

 

「ご、ごめんなさい」

転ばないように気をつけて立つ。

服も顔もスープで濡れて気持ちの悪い感触が所々にあった。

「……ありがとう」

倒れこんだまま、私以上に汚れた彼は微笑む。

殴られた跡だろうか、頬には痛々しい跡が残る。

「初めてだよ、ここにきて優しくされたの」

顔を隠すように手で覆う。

薄っすらと見えた口元は微笑んでいた。

 

私が守ったから笑ってくれた

この微笑みを見て私は

私も微笑んで返す。

私は、何を感じたんだろう。

自分の心に問いかけながら。

 

「お兄ちゃん?」

問いかけの最中、急に聞こえた声に二人で振り向く。

お兄ちゃん

その呼びかけに彼は慌てで立ち上がり、彼女の元へ向かった。

一通りの人達に挨拶を交わすしたけど、その時には見なかった小さな女の子だった。

「だめだろ、部屋から出たら」

優しい声で注意しながら目線を合わせるため膝を折る。

私よりも小さな背丈。

年も私よりも少し下だろう。

「ごめんね。でも、大きな声音がしたから……」

「転んだんだよ」

不安そうな顔を取り除くように、優しく頭を撫でる。

「ごめん、今日はパンだけになったんだ。でもね、転んだ事を話したらもう一個貰ったから、今日はパン2つ食べれるよ」

わざとらしい嘘をつきながら、そっと抱き寄せて。

「ごめん、ごめんね」

彼女の頭に頭を乗せて

さっきの恐怖に怯えたような声ではなく、何度も何度も

震えた声で謝罪をする。

 

「あの……」

「誰かいるの?」

「えっ?」

ほんの数メートル離れているだけの私の声に驚いたのか、恐る恐るといった様子で彼に確認をする。

見えてでもおかしくない、というより見えてないとおかしいような所にいる私の声に驚いたんだ。

「クリスタさん、今日から一緒にここでクラスの人だよ」

「……よろしくおねがいします」

私の存在に気づいたからか、彼の背中に隠れるように逃げる。

あぁ、彼女も理不尽に巻き込まれたんだ。

すぐにそう思った。

 

「……クリスタさん」

「なに?」

「妹は病気なんだ」

……何となく察していた。

彼女が彼の理不尽の元凶。

「人に感染る様な病気じゃないんだ。……ここの人達は信じてくれないけど。だから……余り関わらない方がいいよ。クリスタさんまで怒られちゃうから」

妹さんの手を優しく握りながら、私の目を見つめる。

「今日はありがとう、それじゃ俺は掃除をするから戻りなよ」

妹さんの時のような優しさも、大人達の前での怯えた声でもなく冷たく、淡々と言い放つ。

……私は、この二人を見て

羨ましかった。

こんな理不尽に見舞われながら、それでも

それでも、手を取り合って笑いあう姿を見て。

---あぁ、

これが、家族

私が、一番欲しくて

手にはいられないもの

---羨ましい

 

私は、微笑んでいた。

見の前の光景に。

ただ、微笑んで

そっと、握られていたその手を包むように握る。

手に入らなくても

「私、クリスタ・レンズ」

それでも

「よろしくね」

少しぐらい、家族の傍に居たい

「仲良くやろう」

少しぐらい、家族の気分を味わいたい

---この

美しい兄妹達の側で。

 

浅はかな自分の考えに自傷の微笑みを浮かべながら

驚く兄妹に取り入った。

自分の事を卑しい人だと強く感じる。

きっと、あの人も---こんな気持ちだったんだろな

 

「お兄ちゃん」

包んだ手が震えていく。

小さな、小さな手が

「ほら、やっぱり居るんだよ、頑張ってるお兄ちゃんを見てくれる」

 

「優しい、天使みたいな人は」

天使

自分とは似ても似つかない存在が私に重ねられてしまうことに、少しだけ罪悪感を覚えた。

それでも、いい

天使のような優しい人になれば

家族の傍に居られるなら

家族になれなくても、傍に居られるなら。

 

「……そう、だね」

兄妹達に微笑みながら、ただそっとその手を包み続ける。

泣き出しそうな二人を、優しく見つめながら。

 

「私、病気だよ?」

「関係ないよ、そんなの」

「感染るかもしれないよ?」

「感染らないってお医者さんに言われたんでしょ?」

「……お仕事も出来ないし」

「私も来たばかりだから全然出来ないよ」

「……体力もないし」

「女の子だもん、当たり前だよ」

 

私の返答に対して徐々に俯いていた顔を一気に上げると、大きな黒い瞳が私の顔を移した。

そっと伸びた手は、ゆっくりと私のほぼの横をすぎる。

左右に軽く揺れると、頬にあたり、それを確認すると頬を包むように片手で覆った。

徐々に顔が近づいていく。

瞳の中の私が大きくなると、その顔がはっきりと見えてきた。

卑しく微笑み私の顔を

「近くじゃないと上手く見えなくて」

鼻と鼻がもう少しで当たるような距離まで来ると、じっと見つめられる。

恥ずかしい。

こんな綺麗な瞳に映ることが。

「……クリスタさん、もしかして汚れてるの?」

「えっ?」

それを言われて自分の姿を見る。

所々スープで汚れていた自分の姿を。

……恥ずかしい

「あっ、こ……これはね」

「俺が食事を運ぶときにぶつかったんだ。だから、汚しちゃって」

 

さっきまで驚いた顔で黙ってた彼は、慌てて嘘を並べる。

殴られてた事は秘密にしたいのかな。

 

「大変。それじゃ、私が拭いてあげるね」

彼の手を離すと、優しく私の手を握ってくれた。

暖かさが手から、心にまで染み渡る。

……人ってこんなに暖かいんだ。

 

「でも」

「お兄ちゃんは床の掃除。クリスタさんは女の子なんだからお兄ちゃんに任せられないでしょ」

「わ、私自分でやるよ?」

「だめ、お兄ちゃんが迷惑かけたんだから。私がやるの!!」

楽しそうに笑いながら、こっちこっちと言わんばかりに手を引っ張る。

空いた手は壁を伝うように合わせ、ゆっくりと歩き始めた。

有無を言わさないその様子に私もついつい従ってしまう。

後ろから聞こえるため息と

 

ありがとう、クリスタさん

 

その言葉に満足しながら

 

 

 

 

 




次回更新は6月までを目指してます

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

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