病みつき物語   作:勠b

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輝きを失う星は汚れてる


病みつきクール~後日談~

「ん……っん……?」

 

重々しい瞼を青年はゆっくりと開けていく。

瞼を開けて直ぐ、青年は違和感に気づく。

見知らぬ部屋に横になっている自分と、今の状況に。

たが、それも直ぐに理解が追いついた。

そっか、事故したんだ。

美優の代わりに交通事故に合った。

そこで青年の記憶は途切れていた。

そうだ、三船さんあの時不気味なこと言ってたけど……。

ゆっくりと記憶を辿っていくと、思わず身が震えた。

ちひろさんの言うとおり、最後まで気をつけてたら……。

自分の甘さに腹を立てていると、扉が開かれる音が青年の耳にはいる。

思わず身構えてしまう。

だが、それも直ぐに終わる。

 

「ぷ、プロデューサーさん!!」

 

聞き慣れた優しい声。

それは、青年の癒しともなる声だった。

「ち、ちひろさん……?」

彼女、千川ちひろの声を聞き、青年は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

 

 

━━━━━━

「もぅ、笑ってる場合じゃないですからね」

「すいません」

青年の近くに腰掛け、ちひろはお見舞い品として買ってきたりんごを器用に剥いていく。

「プロデューサーさんが事故したって聞いて慌てて来たんですからね」

「あーっ、すいません」

「私は仕事がありますから直ぐに帰りますけど……終わったらまた来ます。

 あと、芸能関係だからって言って私以外の面会は断るようにお願いしておきました。

 検査の結果にもよりますが、とりあえず一週間は休みになりますのでゆっくりしてくださいね」

「……すいません」

頭が上がらないな。

そう思うと青年は苦笑する。

「それと……また来たら、美優さんと何があったか教えて下さいね」

美優。

その名を聞くと青年の身体は強ばる。

その反応を見てちひろは何かを察し口元にうっすらとした笑みを浮かべる。

「プロデューサーさん、もう美優さんのことは無視していいんですよ」

落ち着かせるように優しく頭を撫でる。

青年は子供扱いに少し不満を持つが、その心地よさから直ぐに不満は消え落ち着く。

やっぱり、この人は優しい。

その思いが胸を満たした。

「それじゃ、りんごはここに置いておきますね。

 ナースも呼んでおきましたから時期来ると思いますよ。

 それと、今回の事故は他事務所のアイドルが関わってますからね、私と社長以外の人は家庭の都合での休みということになしておきましたから。

 下手に本当のことを話しても面倒になるだけですし」

要件を手早く話すと席を立ち部屋から出て行くちひろ。

そんな彼女に手を振り見送った後、青年は辺りを見回す。

程なくして部屋にナースが尋ねてきた。

 

「あっすいません」

 

扉が開かれると同時に青年は窓を見ながら口を開く。

少し大きめの声で。

 

「切ったりんごが置いてあると思うんですけど、何処にあるか教えてもらってもいいですか?」

 

直ぐ隣のテーブルに置かれたりんごの場所が青年にはわからない。

違和感は、直ぐに分かった。

青年は、目の前に広がる霞む視界からすぐに察したから。

目、殆ど見えなくなっちゃったな。

平穏を装いつつ、静かに自分の現状を評価した。

 

 

 

 

━━━━━━

交通事故からの後遺症として、青年は視力を失った。

左目は完全に光を失い、右目は辛うじて機能している。

身体に関しては両脚の筋力が大分下がったらしく、歩行器がなければ歩けない程になった。

その報告を、ちひろは静かに聞く。

それは、自分が思っていた以上の話だ。

仕事を早退し、早めに向かった彼の話は自分が思った以上に━━━

 

思っていた以上に最高の結果だった。

プロデューサーさんはとてもじゃないけど1人で生きていくのは難しい……これは、傍で支える人が必要ですね。

私がその役目を果たせば問題ないですね。

 

「それでは、今私がどんな顔をしてるか見えますか?」

力無く横たわる青年の手を取り、自分の顔まで持って行く。

そこに自分がいると知らせるように。

「……えっと」

困った顔をすると青年は黙る。

何も言えないまま数秒がたつと、申しわけなさそうな顔をしてちひろから顔を逸らす。

そんな青年の姿を見てちひろは笑みを浮かべる。

これだけ傍にいても見えないんですか…

これはますます、支える人が必要ですね。

 

「輪郭は分かります。ですが表情とかは上手くは……」

「……そうですか」

青年に悟られないよう悲しげな声で反応していくちひろ。

「まぁ、視力は眼鏡とかコンタクトとかで補えるんで大丈夫です。

 問題は……」

2人の視線が青年の足に向かう。

「大きい動きでしてら、ゆっくりとでしたら出来ます。

 ですが、リハビリしてもまともに歩くのは困難かもしれないって言われて」

「……」

「車の運転は無理そうです。

 手運転出来るような補助用品があるらしいですが、それに慣れるまではアイドル達を送迎なんて出来ません」

「そうですね」

「歩行器だと、歩くのも時間がかかりますから他の関係者達に迷惑がかかりますし」

「そうですね」

「スタジオだって、どこもかしこもがバリタフリーってわけではないですしね」

「そうですね」

 

沈黙が場を流れていく。

青年は俯くと涙が小さな粒となり少しずつシーツに当たっていく。

そんな青年を落ち着かせるようにちひろは彼の手を強く握る。

「ちひろさん……俺……俺」

震える声を振り絞り、青年はちひろを見つめる。

目慣れた顔がそこにはない。

霞む視界に映るちひろだろう人物に。

 

「何を間違ったんですかね?」

 

精一杯の力を振り絞り放つその言葉を耳にして、ちひろは目の前の青年を抱きしめることしかしなかった。

子供のように泣く青年を力一杯自分の胸に押しつけ、母親のような微笑みを浮かべながら。

 

 

 

━━━━━━

青年はちひろに抱きしめられながら、美優との一件を語る。

語りが終わる頃には面会時間も終わり、名残惜しい思いを胸にちひろはその場を後にした。

それから翌日、ちひろは再び青年に面会に来た。

だが、それは前日のような個人的な面会ではない。

鞄に締まっていた書類を取り出し、青年に手渡す。

それを目の前に持って行くも何が書かれているかわからない青年はちひろに読んでもらえるよう頼み、それを聞き入れる。 

 

それは、青年の解雇処分をつげるものだ。

 

書類に書かれた内容を一字一字聞き漏らすことなく確認していく青年は、不思議と落ち着いていた。

これは、青年が望んでいたことでもある。

まともに歩くことすら出来ない自分が事務所にいても足手まといだ。

それに、リハビリに専念したい。

だからこそ、青年からしたらこの処分は望んだものだ。

そう、望んだ。

青年は解雇を望み、自主退社として事務所を去ることをちひろに話、それは社長に伝えられた。

それを聞いた2人は、何もいわずに青年の思いを聞き入れた。

ありがたい。

青年は感謝の気持ちを胸にちひろの言葉を最後まで聞き入れていった。

 

「以上が、プロデューサーさんの退職についてです」

「はい、それでかまいません」

 

淡々と事務的な会話を終えると、ちひろは書類をテーブルに置き、青年の手にペンを渡す。

「プロデューサーさんからのサインがほしいんですが、書けれそうですか?」

「自分の名前ぐらいなら多分……それと、書く場所さえ教えてくれれば」

「わかりました」

 

ちひろは青年の手を取ると優しく誘導し、幾つかの書類に名前を書いてもらう。

見慣れた綺麗な字ではなく、所々歪んだ文字を見つめながら、次々にサインを貰っていく。

「それと、印鑑は事務所にあったのを持ってきました。

 私が押してもいいですか?」

「すいません、お願いします」

青年の許可を受けると、書類に淡々と印を押していく。

全てを押し終えると書類を整え、鞄に戻していく。  

 

「はい、これでプロデューサーてしての仕事は終わりです」

「……ありがとうございます」

 

プロデューサーとしての最後。

青年はその言葉を頭の中で反復していく。

アーニャに別れの挨拶も出来なかったな。

彼女の顔を思い出すと何とも言えない気持ちが青年を襲った。

 

「そういえば、事故の時に持っていた物が返ってきたんですよ。

 とりあえず私が受け取っていたんですが、お返ししますね」

ちひろは鞄から青年の荷物を取り出すと、一つ一つ説明していく。

 

「先ずは、手帳ですね。

 所々破れてて、もう使えそうにありません」

「そうですか」

「……捨てておきましょうか?」

 

ちひろの言葉に青年は黙る。

その手帳にはアーニャとの今後の仕事が書かれている。

だが、今はもう……

 

「そうですね、アイドルの個人情報も書かれてますから破棄しておいてください」

 

淡々とした口調で話し続ける青年の言葉を確認し、手帳を鞄に戻す。

変わりに出したのは青年の携帯二台だ。

 

「いつの間に携帯2つ持ってたんですか?

 確認したら2つともアナタのだって聞いて驚いたんですよ?」

「まぁ、少し事情があって……携帯は使えそうですか?」

「両方とも画面が割れてますね。

 修理に出さないと使えませんね」

「そうですか、携帯はテーブルにでも置いといて下さい」

「良かったら、変わりに修理出しておきますよ?」

「いいですよ、自分で行きますし……どちみち眼鏡なり買わないと使えませんから」

「わかりました」

 

携帯二台を傍のテーブルに置き、再び鞄から物を取り出す。

 

「これが最後ですよ、何時もつけてた腕時計です」

「使えれそうですか?」

「もう針が止まってますし……買い換えたほうがいいと思いますよ?」

「そうですか、なら買い換えようかな」

「それじゃ、この時計は捨てておきましょうか」

「いや、置いといて下さい」

 

ちひろはその言葉に苛立ちを覚える。

この時計は美優からつけられた傷を隠すために買ったもの。

壊れたとはいえ役目を終えたもの等捨てて、完全に他の女の事など忘れてほしい。

だが、それを言葉にすることなく言うとおりにテーブルに置いていく。

新しいのをプレゼントして、それから捨てよう。

そう思いながら。

 

「とりあえず、これで最後です」

「そうですか、ありがとうございます」

「退院はいつ頃になりそうですか?」

「今週中は入院とリハビリに専念します。

 それから退院して、後は近くでリハビリですね」

「そうですか、暫くは生活に困ると思いますから、遊びに行きますね」

「そんな、悪いですよ」

「……悪くないですよ」

 

ちひろは俯く青年の頬に手を当てる。

ゆっくりと自分の方に顔を向ける。

以前のような優しげな感じは消え、感情を感じ取れない顔をして青年の顔が、とても恋しく感じる。

 

ゆっくりと、顔を近づけ口づけを交わす。

 

 

離れたのは、ちひらからだ。

青年はされるがままに何の反応も示さない。

 

「ねぇ、私からの告白、応えてほしいな」

 

何時ものような敬語を辞め、優しく親しみを込めて語りかける。

顔を赤く染めるのを、青年はうっすらとだが見えた。

「ちひろさん、俺まともに歩けませんよ?」

淡々とした口調が崩れる。

 

「大丈夫」

「迷惑、かけますよ?」

「かまわない」

「ちひろさん……」

淡々とした口調はゆっくりと震え始める。

「私は、あなたが好き。

 どんなあなたも愛してる」

 

その言葉に青年は涙を流す。

あぁ、やっぱりこの人は俺の……

この人だけは俺の傍にいてくれる。

プロデューサーとしてではなくて、俺としての。

俺の隣にいてくれる。

 

青年はゆっくりと首を縦に振った。

 

 

 

 

━━━━━━

プロデューサーが退職をして早数日。

青年は無事に退院した。

使い慣れない杖を使いながら見慣れていたであろう夜道をゆっくりと歩いていた。

最後に挨拶をしたい人がいる。

その思いだけが青年を突き動かした。

歩いて数十分かかる所にある公園。

そこは、青年が昔よく2人で行っていた公園。

やけに疲れる身体を近くのベンチに座り休ませる。

まだ慣れないな。

そんな事を思いながら空を見上げる。

綺麗な星空が青年を見つめ返す。

だが、それを正確には見えない。

青年の瞳が映すのは、霞む夜空。

それは、とてもじゃないが綺麗とは言えなかった。

 

星空を眺めてどれだけの時間がたったのか。

青年は重い溜め息を吐く。

今日も来ないか……いや、来るのかな?

ここで待ってたら、来るのかな?

待ち人が現れる確証なんてない。

それでも、自分の気持ちを伝えたいがために青年は退院してから毎日のように夜を公園で過ごす。

だが、それでも来ない。

 

寂しさが気持ちを覆い尽くす頃に、隣に誰かが座る。

 

「やっぱり、ここの空、綺麗です」

 

たどたどしい口調で独り言のような言葉を話す隣人に、青年は笑みを浮かべる。

 

「今日の星は綺麗に映ってる?」

「はい、目の前にあるような…私を照らす、輝きです」

「そっか、よかった」

 

冷たい風が青年の肌をくすぶる。

隣人は赤くなった青年の手を暖めるように片手を重ねる。

 

「寒い時は、人肌が一番……ですよ、プロデューサー」

 

 

優しい口調で教えられると、青年は苦笑いを浮かべた。

「やっぱり、本場の人は物知りだねアーニャ」

「Да……そうですよ、またプロデューサーと、お勉強できました」

 

嬉しそうな微笑みを浮かべながら、アーニャは青年の指に自身の指を絡めていく。

優しく、けど力強く離さない様に。

 

「もう俺はプロデューサーじゃないよ」

「そうでしたね……じゃあ、何て呼びましょう?」

 

わざとらしく下唇に人差し指を当てながら、考え込むこと数秒、アーニャはわざとらしく口を開く。

 

「━━━さん」

 

それを聞くと、青年は恥ずかしそうな笑みを浮かべ自信の頬を軽く掻いていく。

「名前は止めてよ、恥ずかしいし」

「恥ずかしいし、ですか?」

「少しね」

青年の反応を面白がるように悪戯な笑みを浮かべると、アーニャは次の呼び名を使う。

「мужはどうですか?」

「……意味はわからないけど、それでいいかな」

聞き慣れない言語に少し困惑するものの、青年は妥協した。

「そうですか、なら、これからはそう呼びます」

これから。

青年はそれを聞くと悲しくなる。

もう、会えないかもしれない彼女とのこれからに。

「アーニャ、ごめんね」

青年はアーニャの顔を見る。

今、どんな顔をしているのだろうか。

それすらもわからない。

見えない。

それでも、自分の思いを伝えるために彼女の瞳を見つめる。

 

「俺、もう歩けないんだ」

「そう、なんですか」

「もう、目も見えなくなってきてる」

「そう、ですか」

「俺さ、もうアーニャの顔すらちゃんと見れないんだ」

 

だから

そう続けると、数秒間間を開ける。

何て伝えようか。

必死に考える。

 

「俺、もうアーニャの傍にはいられない」

 

傍にいてほしい。

そう願っていた彼女の言葉を裏切る一言と共に、青年は彼女の手を振り払う。

 

「でも、アーニャの事は見てるから」

 

言い訳を残して、その場から立ち去ろうと杖を取りゆっくりと立ち上がる。

 

「だから、頑張って」

 

もう一緒には頑張れない。

その思いを胸にしながら。

自分より一回り小さい彼女から逃げるようにその場から遠のこうと歩き出す。

情けなさで胸が痛い。

悔しくて胸が痛い。

それでも、俺はもうアーニャの傍にいられない。

プロデューサーとして、いられない。

ファンとして、傍にいるから。

その思いを胸にして、彼女の事を振り返りもせずに公園から出て行こうとする。

 

「いや!!」

 

普段の冷静な彼女からとは思えない感情にまかせた言葉と共にアーニャは青年の背中に抱きつく。

急に来た衝撃に身体が上手く耐えきれず、前のめりに倒れ込んでしまう。

 

「いや、いかないで、私を、1人に……しないで、ください」

 

上手く受け身をとれなかったせいか、身体中を鈍い痛みが襲う。

だが、それを慰めるように身体に回された手が強く回り、それと同時に背後から強く抱きしめられる。

込められたら力は強くなる。

ゆっくりと、逃がさないと伝えるように。

 

「私は……あなたと、いたいのに」

 

震えた声が青年を襲う。

その言葉から逃げたい。

もう止めて、もう、俺を惨めにさせないで。

 

「だから、傍にいてください」

 

悲痛な願いが青年を襲う。

無理矢理離させようとすれば、できる。

でも、それはしたくない。

もう、傷つけたくない。

我が儘な自分の思いに従い、青年は口を開く。

 

「アーニャ、俺はファンとして見てるから」

「でも、傍にはいてくれません」

「……もう、傍にはいられないよ」

「……そう、ですか」

 

アーニャがゆっくりと離れていく。

とりあえず、落ち着かせて…それから、ゆっくりと話そう。

もう、傍にはいられないってことを伝えよう。

何度でも、伝えよう。

目の前に落ちていた杖を取ろうとすると、杖が離れていった。

 

「……アーニャ、返して」

「これがあると、離れますから」

 

手を伸ばすより先にアーニャは青年の杖をとる。

大切そうに抱きしめるように杖を抱えると、アーニャは青年を見下す。

その冷たい目線に思わず青年は息を飲む。

整った顔立ちの少女。

色白な肌と、それに合わせるような綺麗な銀髪から除く視線。

目では捉えれないが、それでも肌にまとわりつくような凍えるような感覚が青年を襲う。

 

「私、妥協しました」

 

大切に抱えた杖を青年から離れた所に置く。

それは、歩けない青年からしたら手に取ることが出来ないということ。

 

「アーニャ、ふざけてないで返して」

 

思わず言葉がきつくなる。

今となってはその杖がなければまともな生活すら送れない青年にとっては、この行為は自分を侮辱されているように漢字で仕方がない。

 

「私、プロデューサー、の隣にいれればいい」

 

その言葉を聞くと、思い返す。

それは、三船美優との思いで。

彼女もまた、似たような事を青年に言っていた。

 

「だから、一緒。

 これからも、ずっと」

 

アーニャはポケットから黒い物体を取り出す。

青年の霞んだ視界にはそれが何なのか理解が出来なかった。

 

「アー……ニャ……ッ!?」

 

名前を言い終える前に激しい衝撃が首筋から走り始める。

見開いた瞳で彼女の顔を見る。

霞んだ瞳では、彼女の表情を見据えれない。

 

その、冷たく笑った表情は。

 

「一回じゃ、ためですか」

 

首筋からの痛みが収まると、バチバチッと激しい音が青年の耳に入ってきた。

スタンガン……?

青年はアーニャが持つ物を予想する。

その予想は的中しており、彼女の手には大きめのスタンガンが握られてきた。

それは、青年の知るアイドルが持つには相応しくない物。

 

「でも、何回もやれば……」

 

再び青年の首から痛みが走る。

何度も何度も、青年を痛みが襲う。

 

「プロデューサー……。

 私、気づきました。

 私は、あなたがいないと駄目、です。

 Там нет способа…しかたがない、ですよね。

 星は、一つじゃ輝けません。

 他の星と輝くから、綺麗。

 私は、あなたと輝く。

 あなたがいないと、汚いから。

 だから、私の傍にいてください。

 プロデューサー。

 もう、何もしなくても、いいですよ。

 働かなくても

 動けなくても

 歩けなくても

 話せなくても

 なにもかもしなくても、いいですよ。

 私が、傍にいるから。

 неважно…大丈夫。

 私と、うんうん。

 私達の傍にいたら、プロデューサーは嬉しい。

 喜んでくれる。

 私達さえいれば、いい。

 プロデューサー。

 ……ですよね?

 プロデューサー。

 言いましたよね。

 Я тебя люблю безумно

 狂ってしまうぐらい、愛してます。

 ……本当に、狂っちゃいました。

 あぁ、プロデューサー。

 その辛い顔、素敵、ですよ。

 その悲しい顔、素敵です。

 プロデューサー。

 早く、一緒になろ」

 

何度も何度も走る激痛から青年は逃げられない。

力が抜けていく。

ゆっくりと、視界が黒くなる。

目の前に広がる白い人物を黒い世界が塗り替えていく。

 

……あぁ、そっか。

 

力なく口元に笑みを浮かべながら、襲い来る無気力感に身を任せていく。

 

……逃げられないのか。

 

自傷的な笑みをうかべる。

 

……無責任な俺にたいする、罰なのかな。

 

そんな思いを胸に、ゆっくりと意識を手放していった。

 

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

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