Tales of Zero【テイルズオブゼロ 無から始まるRPG】   作:フルカラー

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第二部 救世主新生!(きゅうせいしゅしんせい)
第25話「氷色(ひいろ)刀閃(とうせん)」 語り:まさき


 真昼時。

 日の光は灰色の雲に遮られ、大地を照らしてはいない。

 陽光が差し込まなければ拙者の水色の長髪は暗く見え、白と青を基調とした鎧装束(よろいしょうぞく)、左腰の鞘に収まっている刀、身にかけた赤の絆帯(きずなおび)も映えはしない。

 何より、抱いた懸念が膨れ上がってしまう。

 

 現在、リゾリュート大陸北部の地域は『冬』という寒冷の時期を迎えている。これを季節といい、他にも『春』『夏』『秋』など全部で四つの季節――四季が存在する。

 そしてここはスメラギの里の南東に隣接する森林地帯。里も森林地帯もリゾリュート大陸北部に存在しており、山に囲まれている。

 ……『スメラギの里』とは。大陸の大部分を占めるケンヴィクス王国や軍事国クリスミッドのどちらにも属さない、独自の文化を有した国のことである。

 

 森が纏った純白の衣と、見渡す限りに広げられた白銀の敷物。灰色の雲から舞い落ちた、雪である。

 一面に降り積もった雪には幾つもの足跡が。青色の鎧装束を身に纏い、片刃の剣である刀を携えた武士達が辺りを駆けずり回っているのだ。

 彼らはスメラギ武士団という里の防衛団体の一員。拙者は、その武士団を束ねる団長である。

 

「早急に姫様を見つけ出すのだ! 敵は、すぐそこにまで迫っておるのだぞ!!」

 

 近辺では低く(しゃが)れた怒声が飛び交っていた。拙者よりも、その声の主の方が年齢は遥かに上。若き拙者を支える、副団長の地位に就いている。

 かの者の名は、ぜくう。所々に白髪の混じった黒く長い髪と髭、睨むだけで相手を震え上がらせられるほどに年季の入った目つきが特徴的な、勇猛な老兵である。得物の十文字槍を右手に握り締め、老いた身でありながらも他の若い武士団員を圧倒する実力を有している。

 ぜくうは部下に一通りの指示を飛ばした後、こちらへ歩み寄ってくる。すると拙者の前で膝を屈し、(こうべ)を垂れた。

 

「団長、申し訳ありませぬ。姫様の発見には、もうしばらく時間を要するようで……」

 

「ぜくうよ、無理を強いるが迅速に頼む。残りの団員も姫の捜索に向かうよう手配してほしい……」

 

 拙者の言葉に、すぐさま顔を仰ぎ意見する。

 

「なりませぬ! スサノオの軍勢に対する守りが疎かに……!」

 

 もっともだ。もっともであるのだが……今は一刻の猶予も無い。姫の御身(おんみ)が心配なのだ。

 

「いざとなれば拙者一人で食い止めてみせようぞ……」

 

「どうかご自制を。免許皆伝の剣術を以てしても、それは無謀にござります!」

 

 自分自身でも驚く程に、拙者は焦っていた。

 どれほどの強者であろうと、たった一人で五百を超える軍勢を退けられるわけがない。理解に容易いはずなのだが、拙者の口からは冗談のような言葉が吐き出されてしまっていた。

 

「では、どうしろと申すのだ……!!」

 

 ぜくうに浴びせてしまった、憤り。見苦しいまでの動揺。団長として情けない……。思い直し、すぐに謝罪した。

 

「……済まなかった。姫のこととなると、つい熱くなってしまう……」

 

「事態が事態であります故、混乱が訪れても致し方のないこと。平常心を取り戻していただけたのならば何よりにござります」

 

 あちらは至って平静を保っていた。まるで拙者が取り乱すのを予測していたかのように。流石、近年までスメラギ武士団をまとめてきただけのことはある。

 里の方針で新しく武士団の(おさ)となった拙者は、十九歳という若輩(じゃくはい)の身。ぜくうの力を、これからも借りていかなければならないようだ。

 

「平常心は取り戻せても、この状況を打開する策、未だ見出だせぬまま……」

 

 現実を捉え、拙者は静かに零した。ぜくうも口を(つぐ)んだまま何も語ろうとはしない。

 進展もない内に、森の木々の間から敵の姿――スサノオの兵の影が見え隠れし始める。赤の鎧を装着し、(のこぎり)のような刃の刀を振りかざしている者達だ。鬼を模した面を被っているので素顔は見えない。

 

「スサノオの兵め、もうここまで来るとは!」

 

 ぜくうは歯ぎしりと共に冷や汗を流す。されど、先端に鋭利な十字の刃を取り付けた金属製の長棒、十文字槍を果敢に握る。

 彼を筆頭に、拙者も抜刀。捜索へ赴かなかった部下達も腰に携えた刀を抜き、(いくさ)の構えをとる。

 だが、数の差は著しい。包囲され、じわじわと距離を縮められていく。

 

「万事休すか……」

 

 姫の発見も叶わず、迫り来るスサノオの兵の波に呑まれてしまうのが運命。

 拙者だけでなく、皆が心の中でそう思ったに違いない。

 

 

 

 ――あの不可思議な光を目の当たりにするまでは――

 

 

 

「む!? 団長、この光は一体……!?」

 

「わからぬ。何が起こっているのだ……!?」

 

 到底、理解し得ない光景。

 前触れも無く神々しき白の光がこの森に降り注ぎ、一帯を包み込んでしまったのだ。光と共に突風も発生。木々が揺れ、積もった雪もまばらに崩れ落ちる。

 拙者達に害は及ばなかったが、スサノオの兵には異変が見られた。光を浴びて間も無く、もがき苦しみ始めたのだ。まるで光から逃れるかのように奴らは撤退を開始した。

 奇怪な光が消え、辺りが元の静けさを取り戻した頃。スサノオに属する者は一人残らず失せていた。

 が、拙者達の目前では見慣れぬ光景が続く。

 

「おおっ!? な、何ということにござりましょう……!」

 

「まさに奇想天外なり……」

 

 雪の上に倒れていたのだ。二丁の拳銃を両腰に携え、山吹色の異文化国の衣を纏った、短い黒髪の少女が。

 

 

 

 ‐Tales of Zero‐

 

 第25話「氷色(ひいろ)刀閃(とうせん)

 

 

 

 スメラギ武士団は異文化国の住人と思われる少女を保護。姫を捜索するために木材と厚布でこしらえていた野営所へ急遽、収容した。今は柔らかい毛布の上で眠っている。

 同時進行で、ぜくうの率いる部隊に姫の捜索を任せている。

 

「……ううっ……」

 

 どうやら少女が目を覚ましたようだ。部下のほとんどを出払わせているので拙者自らが対応。左腰の刀を手頃な台に立て掛け、寝床に寄って腰を落ち着ける。

 少女は(まぶた)を半分ほど開き、虚ろな翡翠の瞳を微かに覗かせる。次に、仰向けのまま力無さげに顔だけをこちらへ動かした。

 

「安心するのだ。お主の身の安全は保障されている……」

 

 ひとまずそれだけを伝えた。しかし混乱しているのか警戒しているのか、言葉を発しようとはしない。

 

「拙者は、まさき。蒼蓮(そうれん)まさきと申す者なり。お主の名は……?」

 

 こちらが名乗ると、か細い声で返事がきた。

 

「……マリナ・ウィルバートンだ。マリナ、とでも呼んでほしい」

 

 予想通り、異文化国の住人であった。服装の他、姓と名の順序が拙者達スメラギの民とは逆であるため、そう判断をつけた。

 マリナは名を明かして以降、こちらの質問に答える素振りを一切見せず、寝そべったまま野営所の天井を見つめ続けた。僅かながら涙を浮かべているようにも見えたが、直前まで動乱にでも巻き込まれていたのだろうか。

 不明だが、彼女の精神状態が常軌を逸しているのは明白。拙者は無理に会話を続けようとはせず気の済むまでそうさせた。

 

 それほど時間がかかることもなく、マリナの容態は回復したようだ。立ち上がるにはまだ早いらしいが翡翠の眼にも生気が宿っている。

 上体を起こして救助への感謝を述べると、自身の事情を簡略的に伝えてくれた。

 彼女はこれまで、救世主の少年と他三名の仲間と共に、世界の崩壊を食い止めるため旅をしていたという。

 

「そ、そうだ! ゾルクは、ゾルクはどうなったんだ!?」

 

 何か思い出したらしく、マリナは血相を変えて叫んだ。

 

「ゾルクとは何者だ……?」

 

 けれども拙者の言葉を耳に入れると、すぐ我に返った。

 

「……取り乱して申し訳ない。話に出した救世主のことだ」

 

 落ち着いたようだが、表情からは不安が溢れ出ている。余程、そのゾルクという者の安否が気になるのだろう。

 

「差し支えなければ、更に聞かせてくれぬだろうか……」

 

「……わかった。信じてもらえる話じゃないかもしれないが、それでもよければ話そう」

 

 彼女は旅のことを詳しく教えてくれた。

 声の調子は、話を進めるごとに沈んでいく。内容を聞く限り、そうなるのも仕方ないと感じた。

 

「全てはエグゾア総司令デウスの謀略であり、窮地に追い込まれて命からがら逃れてきた、と。平時では信じ難い話だが、なるほど。これならば百日前にセリアル大陸が現れた件にも合点がいく……」

 

「百日前!? 私達がデウスと接触したのは、ついさっきのはず! それにその言い方だと、ここはリゾリュート大陸なのか……!」

 

 マリナはひどく驚いた。冷静に話を聞いていた拙者は、頭の中で情報を整理しつつ予想を伝える。

 

「救世主ゾルクに埋め込まれた『エンシェントビット』という物体はその時、暴走していたのであろう? 時空転移の行き先は定まらず、加えて何らかの誤差が生じ、百日後の未来へ飛ばされてしまったのではないだろうか……」

 

「暴、走……」

 

 その二文字を耳にした途端、マリナは顔を伏せた。……禁句だったらしい。

 あまり不安な気持ちにさせては、また混乱に陥ってしまうかもしれない。転換の意味も込め、拙者は即座に口を開いた。

 

「ともかく、お主の話は信用に値するものと受け取った。ならば今度は拙者が教える番。セリアル大陸の住人では、ここがどこか見当もつくまい……」

 

「……ああ。頼む」

 

 マリナは気を取り直し、拙者の言葉を待つ。

 

「この地はリゾリュート大陸北部の山奥に位置する、スメラギの里なり。現在地を厳密に申すと、里に隣接する森林地帯にあたる……」

 

「大陸の北か……おおよその位置は把握した。それと私の他に、見慣れない人間は倒れていなかっただろうか?」

 

 あの不可思議な光はおそらく時空転移によるものだろう。それに包まれて現れたのはマリナ一人だけ。あの直後、周辺を調べはしたが彼女以外は誰も見つからなかった。酷だが事実を伝えるしかない。

 

「発見したのは、お主のみであった……」

 

「そうか……。無事でいてくれ、みんな……」

 

 小さな声で願いを発する。事情を知った拙者も心の中で共に祈りを捧げた。

 

「……話を逸らしてしまったな。まさきは、ここで何をしているんだ? この野営所も急ごしらえのようだが」

 

「スメラギの里の姫を捜索している。拙者は里を守る武士団の団長であり、この森林地帯で指揮を執っているのだ。その最中、お主が光と共に出現。迫りくる敵対国の軍勢を撤退に追い込んでくれたのだ……」

 

「敵が時空転移の光を受けて撤退しただと? 因果関係がわからないな……ひとまず保留にしよう。それにしても姫君を捜索中とは非常事態だな。まさか、その敵対国に誘拐されでもしたのか?」

 

 この質問に思わず口籠(くちごも)ってしまう。だが今さら隠す意味も無く、恥を忍んだ。

 

「……いかにも。今朝早く……夜と朝の境目の頃。敵対国『ミカヅチの領域』の王であるスサノオが寄越した隠密部隊によって、城から姫を連れ去られてしまったのだ。この森林地帯で隠密部隊に追いつき撃退するも、突発的な風雪に阻まれ姫は行方不明。未だ雪の森のどこかなのだ……」

 

「気を落とさないでくれ。諦めなければ、姫君はきっと見つかるはずだ」

 

「心遣い、痛み入る……」

 

 いつの間にか立場が逆転し、気遣われる側に。

 姫は冬の寒さにも夏の暑さにも、とことんお強いお方だが、誘拐されて既に半日近く経過している。ぼやぼやしていては流石の姫でも体力が尽きてしまわれるだろう。……この胸中の焦り、拭えるわけがない。

 

「敵国の王スサノオは、どうして姫君の誘拐を企てたんだ?」

 

「無論、理由がある。実は……」

 

 マリナに解説しようとした、その時。

 

「団長! 大事(おおごと)にござります!」

 

 大きな声と共に、拙者の部下である一人の若い武士が野営所に飛び込んできた。ぜくうの部隊の一員として姫の捜索にあたっていた者だ。

 雪に足をとられながら、顔一面に汗をかくほど必死で走ってきたらしい。息を切らしつつ用件を述べる。

 

「突如として、雪狼(せつろう)の群れが出現し……副団長の率いる我が捜索部隊は、交戦状態にあります!」

 

「何!? それは誠か……!」

 

 驚きのあまり、拙者は思わず立ち上がってしまった。ここ最近は鳴りを潜めていたらしく単体で見かけるのみであったが、まさかこのような時に群れと出くわそうとは。

 ――雪狼。それはスメラギの里が冬を迎えた頃から蔓延(はびこ)り始めた、白毛赤眼の狼型の魔物。姿こそ通常の狼と変わらないが、性格は極めて残忍。群れを成して行動し、巨大な熊の魔物をも容易く自らの糧としてしまえるほどの連携能力を持つ。

 猛者であるぜくうが率いているとはいえ、少数編成部隊で雪狼の群れを相手取るのは困難と言える。

 

「皆で退治しておりましたが奴らにやられた仲間も多く、今では副団長ですら手を焼いている状況にござります……。団長、何卒(なにとぞ)ご助力を!」

 

 現に、大きな被害が出ているようだ。よくよく見ると目の前にいる彼の右腕からも血が(したた)り、袖を赤黒く染めていた。

 新しく部隊を編成しようにも、姫の捜索に限界まで人員を割いており、ままならない。こうなれば単身で捜索隊の援護に向かうしかないだろう。

 台に立て掛けてあった愛刀を腰の帯に差し、準備を整える。

 

「承知した。お主はここで傷を癒すのだ……」

 

「しかし自分も戻らねば人員が……! 雪狼に対抗できませぬ! どうか許可を!」

 

 傷を負ってなお、彼は現地へ戻ろうとする。

 仲間を案ずる精神は立派。だが怪我人を連れて行くわけにはいかず、団長として止める他なかった。

 

「その熱き意思、拙者にも伝わるが許可できぬ。よいな……?」

 

「……済みませぬ。我儘(わがまま)の度が過ぎておりました。このような状態では確かに足手まとい。ならばせめて、自分の想いだけでも抱えていってくだされ……!」

 

 そう言って託す彼の顔には悔しさが。その想い、無駄にはしない。

 

「うむ、しかと受け取った。お主は傷を手当てした後、可能ならば姫の捜索にあたってくれ。無理はするでないぞ。拙者は直ちに赴く……」

 

御意(ぎょい)! ……お気を付けて」

 

 部下に見送られ、野営所の出入り口をくぐり外に出た。そして雪原に数歩分の足跡を付けた時。

 

「待ってくれ!」

 

 拙者のすぐ後ろで声が聞こえた。――マリナである。

 

「……私を連れて行ってくれないか。人手不足なんだろう?」

 

 上体を起こすところまでだったはずの彼女が、立ち上がるどころか拙者の背を追いかけるまでに回復していた。奇妙に感じ、問い質す。

 

「お主、もうそこまで動けるのか……?」

 

「あ、ああ……。実は、私自身も驚いている。本当に何ともないんだ」

 

(……理解が追いつかないレベルで回復が早い。デウスから受けた火傷すらも消えている。いったい、どうなっているんだ。百日の経過と何か関係があるのか……?)

 

 マリナ本人ですら疑問に思うほどらしい。現段階では解き明かせない謎が多いようだ。

 

「状況が状況ゆえ、頼ってよいのならば頼りたいが……」

 

「身体は安定している。それに戦闘行動は私の本分だ。気にせず任せてほしい」

 

 落ち着いた返事。声色も、無理をしているようには聞こえない。心配する必要は無いようだ。

 

「承知した。拙者についてきてくれ……」

 

 これで、雪に残される足跡は二人分となった。

 

 

 

 十文字槍を振り回し、ぜくうは部下達と共に雪狼を薙払っていた。

 

「狼風情(ふぜい)が! 調子に乗るでない!!」

 

 が、数はまだ雪狼が上。素早い動きでぜくうの部隊を翻弄し、即座に牙を剥く。

 

「ぐああぁ!?」

 

 また一人、胴体から血を噴き出してその場に崩れ落ちる者が。その光景を視界に入れたぜくうは、倒れた者が食われぬよう雪狼との間に割り込む形で躍り出た。

 

「くっ、雪狼ごときに……!」

 

 間一髪、十文字槍を噛みつかせて目前の雪狼を食い止めた。

 だが、これでは動きを止めるのみで攻撃に転じることは出来ない。雪狼の方も、槍を簡単に離してはくれない。

 すると別の雪狼二匹が、ぜくうの両脇を囲った。察するまでもない。このままでは仕留められてしまう。その焦りからか、ぜくうは無意識に歯を食いしばり小さく唸り声をあげていた。

 そして二匹は容赦なく飛びかかる。白き体毛が(なび)き、真紅の瞳が禍々しく光った。

 

「団長、先に逝って参ります……!」

 

 一匹の雪狼を食い止めた十文字槍を、最後まで手離そうとはせず。彼は己の死を覚悟した。

 

「逝くにはまだ早いぞ、ぜくう……」

 

 しかし、それも徒労に帰す。

 宙へと跳ね上がった二匹は、瞬く間に首を斬り落とされた。

 

崩龍刃(ほうりゅうじん)……!」

 

 拙者が見舞った剣術によって。

 詳細を述べると、斬り上げにて片方を、返しである振り下ろしにてもう片方を(ほふ)ったのだ。

 頭と胴体を綺麗に分断された二匹は、赤黒い血を切断面から勢いよく噴き出し、悶え苦しみながら光の粒となり消滅していった。

 

「おお、団長!! 助かりもうした!! ……しかし後ろの少女は、例の。何故このような危険な場へと?」

 

「彼女の名はマリナ。助っ人である。それよりも、すぐに残りを片付けようぞ……」

 

「確かに、話し込んでいる場合ではありませぬな……!」

 

 ぜくうは返事と共に、握った十文字槍へ更に力を加えた。

 

「はああっ!!」

 

 目一杯に振るい、雪狼を空中に打ち上げる。

 

「でいやあぁぁぁ!!」

 

 無防備になったところへ突きを決め込み、腹部を貫いた。雪狼は力尽き、白く淡い光となって消え去っていく。

 一瞬の間に三匹も仲間を失ったためか雪狼共の連携に曇りが見え始めた。それを拙者達が見逃すはずもなく、一気に畳みかける。

 

爆牙弾(ばくがだん)!」

 

 マリナが二丁拳銃の銃口を重ね、巨大な火炎球を発射。雪狼が一匹、黒焦げになって焼尽した。

 銃火器の存在はかねてより知っていたが、スメラギの里では普及しておらず実物を見るのは珍しい。そして何より、この戦力不足の状況下では非常に頼もしく感じる。スメラギ武士団への導入も検討したいという考えが頭をよぎったほどである。

 などと、ささやかな雑念が訪れる傍らで。

 

一文刃(いちもんじん)……!」

 

 拙者も、両手で握った刀で横一閃に薙ぎ払う剣術を見舞い、最後の一匹を上下に(わか)つ形で両断した。

 こうして雪狼を全て退治。ぜくうの部隊は救われた。

 残る憂いは姫の御身のみ。何処(いずこ)におられるのだろうか。雪狼と遭遇していなければよいのだが……。


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