Tales of Zero【テイルズオブゼロ 無から始まるRPG】 作:フルカラー
「うわっ。外から見ると、本当にひどい有様だなー」
連絡船を眺めてドン引きしたのは俺だ。海賊風のエグゾア構成員、リフ・イアードが残していった損傷をまじまじと見つめている。
「バレンテータルはおろか、このゴウゼルまでよく来られたものだ」
マリナも同様に、潰された船体右側面へ目を向けて冷や汗をかいていた。続き、ソシアも感想を述べる。
「甲板からも見えていましたが、降りてから見ると更に重大さが伝わりますね。こんな状態の船に乗っていたなんて……背筋が凍ります」
思い思いに意見を述べる俺達と違い、ジーレイは溜め息をついた。
「船を眺めるのも結構ですが、バレンテータル行きのチケットを取らなくてもよいのですか?」
「あ、そうだった。みんな、急ごう!」
促され、発券所へと向かう。そこで話を聞くと……。
「バレンテータル行きの船、もう出たの!?」
俺達がゴウゼルに到着した時点で、既に出港していたらしい。しかも次にバレンテータル行きの船が出るのは、明日の正午だという。
「ならば仕方ありません。ゴウゼルで休息するとしましょう」
「賛成だ。船が出ない以上、どうにも出来ないからな」
「うんうん。明日の昼までゆっくりしよう」
ジーレイの提案に、マリナも俺も賛成した。そこにソシアも加わって、新たな案を提示する。
「折角ですからゴウゼルを見て回りませんか? どういう町なのか知りたいですし気分転換にもなると思います」
「いいね。俺も興味ある。宿屋も探さなきゃいけないし、とりあえず市街地に向けて歩こう」
こうして宿屋を探すついでに、ゴウゼルの町を眺めていくこととなった。
……しかし、町並みは楽しめるようなものではなかった。
どこもかしこも、金属の壁で覆われた冷たい雰囲気の建物でいっぱいだ。どれが住居でどれが工場なのか見分けがつきにくいものばかり。
そして、これだけ広い町であるにもかかわらず、全くと言っていいほど緑地がない。環境へは配慮されていないのだ。自然が多い中で育ってきた俺にとっては、なんだか馴染みづらい。
内心で退屈していると、ソシアもつまらなさそうに呟いた。
「ゴウゼルって、やけに暗いところなんですね……。魔皇帝の呪いで既に空は曇っているのに工場から立ち昇る煙が加わって、いっそう暗く感じます」
「気分が落ちているところに水を差すようで悪いが、ゴウゼルは他と比べてエグゾアの勢力が比較的強い町だ。目立つ行動は控えた方がいいだろう」
マリナの忠告はありがたいが、それを聞いてしまっては尚更この町に居たくはなくなる。
ゴウゼルの実態を突きつけられ、うなだれていると。急にジーレイが口を開いた。
「おや、何やら妙な風景ですね」
ジーレイの視線の先にあったのは、屋根や壁が壊れた建造物だった。それも一つや二つではなく、目の前の区域にある建物のほとんどが似たような状態なのだ。町の人々は建物を修理するため忙しそうに駆け回っている。
「嵐でも来たんでしょうか?」
ソシアは疑問を口にする。だが、マリナの答えはこうだ。
「ゴウゼル周辺の気候は穏やかなはず。災害のせいだとは考えにくい」
では、どうして建物がボロボロになっているのだろうか。ちょっとやそっとの衝撃では傷一つ付かなさそうなほど頑丈な造りに見えるのに。謎は深まるばかりである。
‐Tales of Zero‐
第14話「暗き
夕方が近付いてきた。破壊された建物の区域を通り過ぎ、もうすぐ宿屋も見つかるだろうと会話していると。
「……ん? あれはなんだろう」
俺の目に、ある光景が飛び込んできた。堅牢な鉄の壁――おそらく民家であろう建物の前で、初老の女性が一人。そして彼女に詰め寄る、黒衣を纏った若い男性が二人。どうやら取り込み中のようだ。
「お願いします、見逃してください。これを持っていかれると家族が食べていけなくなるんです……!」
「ああ!? てめぇ、俺達の言うことが聞けねぇってのかよ!? もう一度だけ言うぞ。さっさとガルドを渡せ!」
「それとも、エグゾアに立てつくとどうなるか思い知りたいのか? だったら二度と表を歩けねぇようにしてやるぜ!」
「ひぃっ……!!」
女性は民家の壁際に追い詰められている。黒衣の男性二人が狙っているのは、彼女が抱える皮製の袋。会話から察するに、袋の中に生活費が入っているのだろう。
男達の黒い服をよく見ると……エグゾアエンブレムが刻まれていた。
「あいつら、エグゾアの構成員か! でも、あれじゃただのチンピラにしか見えないな」
言葉にした通り、彼らの行動は小物同然。今まで相手にしてきたエグゾアの人間と比べて、遥かに粗末な所業に及んでいた。エグゾアにも色々な種類の人間がいるということだろう。
「とにかく助けに行きましょう!」
「そうだな、行こう!」
ソシアが意気込み、俺はそれに同意した。そして間髪を容れず、三人の間に割って入ろうと走った。
「お、おい! 目立つような行動は慎めと言っただろう!」
マリナは呼び止めようとしたようだが、間に合わなかった。「遅かった」と零しつつ額に手を当てる。
「……しかし気付いてしまった以上、見過ごすわけにもいかないか」
やれやれと言いたげだが表情は晴れている。実はマリナも、俺達のように止めに入りたかったのではないだろうか。……本当にやれやれと言いたかったのは、後ろで全てを見ていたジーレイかもしれない。
「何をしているんですか!」
「その人から離れろ!」
ソシアと俺は女性を
「なんだ、お前らは? 俺達はエグゾアなんだぞ。歯向かおうってのか?」
「いい度胸じゃねぇか。思い知らせてやるぜ!」
彼らは短剣を取り出して威嚇する。しかし、こちらも退くわけにはいかない。
「そっちがその気なら容赦しないぞ……!」
ソシアは無言で女性のそばにつき、俺は背の鞘から両手剣を引き抜いた。
「な、なんだ! 本当に、やろうってのか!?」
「こうなったら……!」
場が、一触即発の空気に包まれた……と思いきや。
「「覚えとけよ!!」」
彼らは一目散に逃げ出した。見かけ倒しとは、まさにこのこと。俺達は呆気に取られ、彼らの姿を見失った。
「思い知らせるんじゃなかったのかよ……。まあ、それはどうでもいいとして」
両手剣を収め、女性のほうへ振り向く。すると既にソシアが対応していた。
「お怪我はありませんか?」
「はい、おかげ様で何事もありません。ありがとうございます……!」
幸いにも、女性に怪我は無いようだ。彼女は「気持ちが収まらないので、ちゃんとお礼がしたい」と言ってくれたが丁重に断った。気持ちだけ受け取り、見送るのだった。
時を同じくして、俺達に近づく影が一つ。
「エグゾアに怯まず立ち向かおうとするなんて、とても勇敢な方々だ……! あなた方の力を見込んで、是非ともお願いしたいことがあります」
話しかけてきたのは、暗めの短い茶髪と黒い眼をした青年だった。ところどころにオイルなどの汚れが付着した、薄い水色の作業着と帽子を着用している。おそらく工場で働いているのだろう。
「お褒めに預かり光栄です。が、得体の知れない方からの頼みは聞き入れたくありませんね」
ジーレイの言うとおり、急にそんなことを言われても戸惑うだけである。……というかジーレイ、あんたは何もしてないのに、どうしてそんなに誇らしげなんだよ。
青年は「これは失礼しました」と謝り、慌てて自己紹介を始めた。
「申し遅れました。俺はアシュトン・アドバーレといいます。この町の工場で勤めている作業員です」
「それで、お願いしたいことって?」
俺が尋ねると、すぐに語り始めた。
「はい。それが……」
作業員の青年、アシュトンの話は以下のもの。
二日前の夜中、突如として謎の巨人がゴウゼルに現れた。巨人は民家と同程度の身の丈で、剛腕を振り回しながら暴れて幾つもの建造物を破壊。最後には
アシュトンを含めた町の人間の力ではどうすることもできず困り果てる中、たまたま俺達を見つけて依頼したとのこと。武器を持ち、エグゾアに対しても怯まなかったので頼りになると思ったらしい。
「噂によると、町の外れにある噴水広場が怪しいようなんです。その辺りで巨人の姿を目撃したという情報があって……。ここまではわかっているんですが、非力な俺達では解決できないんです。なんとかしていただけませんか……?」
ゴウゼルはエグゾアの勢力が強い。もしかすると、この事件はエグゾアの仕業かもしれない。丁度、バレンテータル行きの船を逃しているので時間もある。そう思い、アシュトンの依頼を引き受けることにした。
「わかった。俺達に任せて! きっとなんとかしてみせるよ!」
「本当ですか!? ありがとうございます! これで町のみんなも安心するはずです……!」
そう言ってアシュトンは顔をほころばせた。話は終わり、彼とは別れることに。
彼を見送りながら、ソシアが微笑む。
「アシュトンさん、喜んでいましたね」
「うーん、それはいいんだけどさ」
対して、俺は煮え切らない返事をした。問題なく事が運んだように見えるが、実は半信半疑でもあるのだ。
「もしかしたらエグゾアが関係してるかもしれないと思って、勢いで引き受けちゃったけど……。謎の巨人って言っても、こんな機械ばっかりの町にそんなのが現れるのかな?」
「だが実際に建物は破壊されているし、ゴウゼルの人々が困っているのは事実のようだぞ」
マリナの言うことも、もっともである。やはりアシュトンの情報を信じるべきか……。
「引き受けた直後に、とやかくおっしゃらないでください。無責任ではありませんか?」
迷っていると、ジーレイにたしなめられてしまった。彼の言う通りである。俺は素直に反省した。
「……そうだな。悪かったよ、ジーレイ」
「わかってくだされば構いません。それに迷う、迷わないに関係なく、確かめてみればよいのです。今夜、巨人が出現したと噂される場所で待ち伏せしてみましょう。町外れの噴水広場でしたね」
「うん。夜になったら行動開始だな!」
俺は気を取り直し、アシュトンの依頼に対して意気込むのだった。
深夜。現在地は、市街地から程遠い例の噴水広場である。
あれから俺達は宿屋を見つけ、すぐに休息をとった。そして今、噴水広場から少し離れた物陰に身を隠し、監視している。
「巨人、なかなか現れないな」
痺れを切らし、俺はぼやいた。一応、誰にも気付かれないようにと会話は全て小声でおこなっている。
「そうですね。でも待ち伏せは根気が大切です。頑張りましょう」
ソシアは俺に同意しつつ励ましてくれた。シーフハンターである彼女は盗賊を待ち伏せする機会も少なくなかったらしく、今回の監視もそれほど苦ではない様子だ。
「その忍耐力、俺にも分けてほしいよ……」
とは言ってみたものの、無いものねだりなどするだけ無駄。大きく息を吐き、また噴水に向かって目を凝らすのであった。
それから一時間ほどが経過。俺は睡魔に襲われていた。頭がふわふわとし、目の前が霞む……。大きなあくびも飛び出した。
「ふわぁ~……眠いなぁ」
「眠いだと? 宿での仮眠、お前が一番長かったのにか?」
隣でマリナが眉をひそめる。
「どうしても夜中は眠くなるんだから、しょうがないよ。ふわぁ~……」
「緊張感の無い奴だな」
そう言って溜め息をついた後、彼女はこんな話を切り出した。
「……そういえば、ひとつ忠告しておかなければならない。ゴウゼルには今いる場所のような暗がりが至る所にあるが、本来なら夜中には近付かないほうがいい」
「どうして?」
すると間を置いてから、ゆっくりと続きを述べる。
「暗がりに入った人間の傍に、その人間とそっくりな人影が現れて……あの世に連れ去ってしまうからだ……」
この真っ暗な中での、まさかの発言。心臓が飛び出そうになった。
「そ、それってオバケ…………いやいやいやいや、そんなのいるわけ……」
「私も聞いたことがあります。一時期、未解決の失踪事件として話題になっていましたよね。あの世に連れ去られていたんですから、解決できないわけですよ……」
「その話なら僕も耳にしました。工場排煙が化学反応を起こして鏡のような性質を持ち、自身の幻影を見たのではないかと推測されていましたが、それでは失踪について立証できなかったため真相は闇の中だとか。……それがそのまま答えのようなものですがね」
俺はすぐに否定しようとしたが、ソシアとジーレイが畳み掛けてきた。
「二人も知ってる話なの!? じゃ、じゃあ本当に……!!」
「ゾルク」
おどろおどろしく呼名してくるマリナの、なんと心臓に悪いことか。
「な、なんだよっ!?」
「今、お前の後ろに……」
「何も無い何も無い何も無い……!!」
目を閉じ、頭を抱え、念仏を唱えるかのように逃避を行う。そんな俺の耳元で、次にマリナが放った言葉は……!
「……と、ここまで全て嘘だ」
嘘かよおおおおお!!
……大っぴらに叫べないので心の中で済ませておく。でも悔しさは小さな唸り声となって滲み出る。
「っくぅ~……騙されたぁぁぁっ……!! ソシアもジーレイも悪ノリが上手すぎる……!」
二人は、くすくすと笑っている。完全にしてやられた。
「しかし目は覚めただろう。……おや?」
「覚めるどころか、もうちょっとで泣くとこ……」
「しっ。静かに」
俺が言い返すのを遮り、マリナは噴水を注視。するとソシアとジーレイも反応を示した。
「ジーレイさん、まさかあれが……?」
「どうやら噂の巨人のようですね。アシュトンの情報は正しかったようです」
三人に続き、遅れてそいつを確認した。……確かに巨人だ。姿が街灯に照らされて、よく見える。凄くデカい。本当に、民家と同じくらいの背の高さだ。
姿形はゴーレム系のモンスターによく似ている。体はツヤのある赤銅色の鉄板で覆われており、背中のボイラーのような部分からは蒸気が立ち昇っている。ゴツゴツとした頭部には黄色い点が二つ、目を模して光っていた。長い腕や短い足は丸太などより遥かに太い。
この巨人は、噴水前の煉瓦で敷き詰められた床の下から出現した。実は一定の範囲の煉瓦は偽物で、特大の扉になっていたのだ。巨人はその扉を地下から押し上げ外に出てきた。一体、噴水の地下に何があるというのか。
それはさておき。巨人は大きな腕を振り回し、家々を破壊し始めた。破壊音と揺れで叩き起こされた住民は巨人を目にして驚き、逃げ惑う。
住民の中には、鉄製の棍棒や作業用の工具などを持って一矢報いようとする者もいたが、戦い慣れていないのか動きはぎこちない。程なくして地面に繰り出された巨人の拳撃に怖じ気づき、あえなく退散してしまう。
「早く巨人を止めないと。行きましょう!」
「ああ。被害を抑えなければ!」
無限弓を構えるソシアと、賛同して二丁の無限拳銃を抜くマリナ。もちろん俺とジーレイもそれぞれの武器を手に取り、物陰から飛び出した。退散した住民に代わり、四人で巨人に立ち向かっていく。
「これ以上、町は破壊させないぞ!」
握った両手剣の切っ先を巨人に向け、俺は突撃する。普通の剣撃なら鋼鉄に弾かれるだけで終わるだろう。だが、ビットを付加しているおかげで俺の両手剣は魔力を纏っており、鋼鉄をも両断できる。
狙いを定めたのは、腰部。巨人が短足なおかげで剣技が届くのだ。
「くらえ、
勢いのまま三連続の刺突を与えた。……しかし表層を少々突き破った程度で、決定的なダメージには至っていない。予想よりも遥かに硬かった。
「こいつはどうだ。
続いてマリナが至近距離から魔力弾を連射し、銃声と共に浴びせた。が、巨人は関係無く建物を殴り続ける。これも効果が薄いようだ。
「だったら、動きだけでも!」
そう言い放つと突然、ソシアの姿が消え失せた……と思えばそれは間違いで、彼女は瞬時に上空へと飛び上がっていた。そして無限弓から矢を生み出して弦を引き、斜め下方――巨人の右足を目掛けて強力な矢を放った。
「
ソシアの今の弓技は奥義に分類される。通常の攻撃や特技よりも一際威力の高いこの一撃を右足に受けてしまっては、流石の巨人もその場に倒れ……。
「うそ!? これでも駄目だなんて……!」
……倒れない。倒れていない。多少はぐらついたものの、巨人は問題なく破壊行動を続ける。
「止められないのか……!?」
戸惑う俺をよそに、ジーレイは冷静に分析する。
「これだけ頑丈なのです。ただの攻撃魔術では、あまり効果は期待できそうにありませんね。であればソシアの考えた通り、せめて動きだけでも止めてみせましょう」
「ジーレイ、出来るのか!?」
「この魔術なら、おそらく」
俺に返事をしながら彼は魔本を開き、ページを輝かせ、建物の崩れる音の中で魔術の詠唱を始めた。
「
巨人の真下に、闇の力を宿した紫色の魔法陣が出現した。魔法陣からは鎖のような影が伸び始め、胴体や四肢に巻きつき結界を作り上げていく。これによって巨人は身動きがとれなくなり、影に引っ張られて倒れ込んだ。
結界の中、大の字を描いて夜空を仰ぐ巨人。もがいているが脱出は不可能なようだ。
「これでもう被害は広がらないでしょう。あの魔術の拘束力は伊達ではありませんので」
「ふぅー、良かったぁ……」
俺は両手剣を鞘に収め、額にかいた汗を拭った。しかし休んでいる時間はない。次は、巨人が出てきた噴水の下を調べなければ。
ソシアは、開きっぱなしになった扉の奥を覗く。
「地下通路でしょうか? あからさまに怪しいですね……」
続いて俺達も、地下空間を目の当たりにする。入口付近には、巨人が歩きやすいように緩やかな坂道が作られていた。地下深くに向けて続く下り坂の先は、真っ暗。入口から覗くだけでは何もわからない。
「危険だが、探りを入れる必要があるな」
「そのようですね。注意しながら潜入しましょう」
「ああ。みんな、いくぞ!」
マリナとジーレイの会話が終わると共に、俺達は地下へと突入するのだった。
下り坂の奥は、暗闇ばかりで一筋の光もなかった。一度は明かりを持ち込まなかったことに後悔したが、運良く簡易照明灯を見つけ、順々に点灯させながら通路を進んでいった。
通路が途切れ、大きな鉄の扉にぶち当たった。特に鍵がかかっているわけでもなかったので、開いて更に奥へと進む。そこに広がっていたのは……煮えたぎる溶鉱炉やベルトコンベア、巨大なプレス機などの、工場の設備そのものの光景。深夜であるにもかかわらず延々と動き続けている。
ふと、ベルトコンベアの上を流れる物体を確認する。そしてわかった。この施設で製造されているのは、穏やかとは言えないものだった。
「噂の新型兵器か……!? こんなところで造っていたとは……!」
「しかも大量です……!」
マリナとソシアが驚きの声をあげるのも無理はない。尋常ではない数の銃火器や刀剣類、その他武器が、そこにはあったからだ。それぞれの形状が違う点を見るに種類も豊富である。そして全ての武器には、加工されたビットが装着されていた。
「数も数だけど、種類も種類だよな。ビットもくっついてる……」
「おそらく、ここで製造されているのは実験を兼ねた試作品なのでしょう。でなければ多種多様な武器を一斉に造るなどという、非効率的な手段には及ばないはずです」
思ったことを口にしたところ、ジーレイが予想を語った。彼が連絡船で話していた「ビットを用いた兵器の製造に着手しているという噂」は事実だったようだ。……武器を製造しているという点が、戦闘組織であるエグゾアと結びつきやすい。この施設はエグゾアのものなのだろうか。
この部屋はただの製造ラインらしく、これ以上は何も無いようだ。俺達は更なる扉を見つけ、もっと奥へと歩んでいく。
進むにつれ、俺達を妨害するかのように無数の刺客が襲ってきた。機械で出来た背の低い人形や、針を飛ばしてくる小型の戦車、鉄の翼で空を飛ぶ機械鳥など。それらはどこからともなく現れた。こんな風に警備を強化している辺り、ますます怪しい。
機械兵をなんとか押しのけ、やっとのことで最奥と思わしき真っ暗な空間へと辿り着いた。ここでついに巨人の秘密が明らかになるはず。……と思ったが、それは違った。
俺とマリナは状況を疑い始める。
「広い部屋だけど、何も無い。明かりも点いてないし、ただの行き止まりなのかな? ……いや、待てよ。さっきまで機械があんなにたくさん襲ってきてたのに、その気配すら感じないなんて……やっぱりおかしい……!」
「ゾルクの言う通り不自然だ。みんな、気を付けろ……!」
妙だと感じ始めた途端、目の前が眩しくなった。前方に光源装置が設置されており、いきなり点灯したのだ。
目を守るため腕で光を遮ろうとすると、光源装置の下に人影があることに気付いた。誰が居るのか確認したい。そろそろ光に慣れてきて……ついに見えた。
そこに居たのは――