Tales of Zero【テイルズオブゼロ 無から始まるRPG】   作:フルカラー

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第7話「悪に染まりし力」 語り:ゾルク

「名前だけはよく耳にするけど、ディクスってどんな町なんだ?」

 

 マグ平原を疾走する中、俺は密かな疑問を口にした。走っていることもあり、マリナは要点をまとめた上で俺に答えた。

 

「セリアル大陸の西の海に面した、活気の溢れる港町だ。漁業や海路での交易が盛んに行われている。……だが、ぼやぼやしているとその港町が大変なことになるかもしれない。下手をすれば壊滅だ」

 

 説明と共に不穏な言葉を吐き出した。次にソシアが口を開く。

 

「どういうことですか?」

 

「フォーティス爺さんの屋敷の古文書には、『悪しき心を持った者、極度に相性の悪い者にエンシェントビットを与えてはいけない。有り余る魔力に呑まれて制御できないまま暴走を引き起こしてしまうだろう』と記されていた」

 

「もし、それが事実だとしたら……!」

 

 ソシアはすぐに理解した。危機が迫っていると。盗賊団のボスに君臨するほど悪い心を持った人間が、強大な魔力を制御できるとは思えない。

 

「エンシェントビットの魔力は測定不能だ。何が起こるかわからない。……ディクスまであともう少しだ。急ぐぞ!」

 

 焦るマリナの言葉を受け、俺達は駆ける速度を更に上げるのだった。

 

 

 

 ‐Tales of Zero‐

 

 第7話「悪に染まりし力」

 

 

 

 マグ平原に繁茂(はんも)する草原が終わりを告げ、ディクスまでを繋ぐ硬い大地が(あらわ)になった頃。町並みが目視できる程度の距離にまで迫っていたが……急いだ甲斐もあり、なんとか追いつけたようだ。

 

「あそこに見えるのは、まさか!」

 

「はい、ゾルクさん。あれがグラムです!」

 

 ソシアが指を差した先にいる大男。それがグラム盗賊団のボス、グラム本人だった。こちらの声に気付いたのか、彼はぐらりとこちらに振り向いた。

 顔に大きな傷跡が幾つもあるのが特徴的で、猛獣の毛皮を加工してしなやかさを取り入れた簡易的な鎧を装備している。腰の後ろには紅いビットの装飾が施された片刃の戦斧(せんぷ)を携えており、その刃は乾いた血で赤黒く染まっていた。

 飢えた獣のような眼で俺達を視界に捉えると、グラムはドスの効いた低い声を響かせた。

 

「なんだ? お前らは。ソシア・ウォッチが一緒にいるってことは新手のシーフハンターか?」

 

「この方々はシーフハンターではありませんが、あなたを止めるという目的は同じです!」

 

 俺達に対峙するグラムからは、異常なほどの殺気が溢れ出ていた。盗賊達を率いる極悪人ともなると、常人では越える機会のない一線を越えた経験もあるのだろう。

 普段から盗賊に対して果敢に立ち向かう意思を持つソシアでさえも慎重さを保ち、弓を握る手を決して緩めない。一瞬たりとも油断は出来ないという姿勢を見せていた。

 しかしグラムはエンシェントビットの力で暴走している風には見えないため、その点だけは少々安心することが出来た。

 

「貴様、特別な輝きを放つビットを持っているだろう? それは私達の物だ。今すぐ返せ!」

 

「ああ、これのことか? なんか見るからにヤバげな力を持ってそうだよなぁ、このビットは」

 

 マリナに問われ、グラムはおどけつつ鎧の内側から何かを取り出した。無色透明の中に薄らと馴染む虹の色。その手に握られた球状の物体は、間違いなくエンシェントビットだった。

 

「ということは、手下どもの言っていたマヌケな二人組ってのはお前らのことか。はははは! よく生きてたな! そんでわざわざ追いかけて来るたぁ、御苦労なことだぜ」

 

 今度は俺達の失態を馬鹿にし、せせら笑う。あの盗賊三人組は本当に言いたい放題だったようだ。とっちめておいてよかった。

 

「それで、だ。盗賊団のボスであるこの俺様が『返せ』と言われて素直に返すとでも思ってるのか?」

 

 先ほどまでのおどけた雰囲気から一転。グラムは、その低い声に威圧を上塗りして俺達に問う。

 緊迫した空気を一瞬で作りあげた彼に対して怖じ気づいたが、それもほんの僅かな間。マリナの次の一言によって士気を取り戻した。

 

「……期待はしていなかったさ。ならば、力ずくで奪い返す!」

 

「はっはっはっは! おもしれぇ、そうこなくっちゃあなぁ!!」

 

 汚い笑い声をあげて喜ぶや否やグラムはエンシェントビットを懐に収め、腰の後ろに携えていた戦斧を手に取った。こちらもそれぞれの武器を構え、臨戦態勢に入る。

 

「いくぞ、グラム!!」

 

 そして俺は剣を前面に突き立て、先陣を切った。

 

「くらえ! 突連破(とつれんは)!」

 

 素早くグラムへ接近し、連続で突きを繰り出す特技を放った。これほどの巨体なのだから突きによる攻撃が効果的だと考えたのだ。

 

「甘いぜ、ボウズ!!」

 

「なっ……ぐあっ!?」

 

 だが、思うように事は運ばなかった。

 グラムの、大柄な体躯に似合わない俊敏な足捌きのせいで、連続突きは軽々と避けられてしまった。それどころかカウンターとして強烈なラリアットを食らわされ、果てには勢いのまま地面に叩きつけられてしまう。

 

「あーばよぉ!!」

 

 楽しそうに別れを告げるグラム。地に背をつけて無防備な俺へ、乾いた血で汚れた戦斧を振り下ろそうとした。しかし、これは隙でもある。チャンスを逃すまいと、マリナとソシアがグラムを狙った。

 

「ガンレイズ!」

 

閃光閃(せんこうせん)!」

 

 ×の字状の数多の光弾、そして輝く三連続の矢。迫り来るそれらを見たグラムは戦斧を空振りさせた。おかげで俺は体勢を立て直し、奴から遠ざかることに成功した。

 ……ここまでは良かったのだが、次にグラムがとった行動は予想できるものではなかった。

 

「飛び道具なんぞで俺様を止められると思うなよ。……どりゃあぁぁぁ!!」

 

 空振りした戦斧は、グラムと射撃を遮るかの如く大地を抉った。余程の力で大地を掻っ捌いたためか、奴の目前では土砂や岩石が壁のように飛び散り、なんとマリナとソシアの射撃を防いでしまった。皆、目が点になる。

 

「無茶苦茶だろ! そんなのアリかよ!?」

 

「無茶なもんかよ。俺様の怪力と、このビット仕掛けの斧が揃えば不可能はねぇ。で、次はどんな手を使ってくるんだ?」

 

 グラムがかざした戦斧の紅いビットが、まるで悪魔の眼のように俺達を睨んでいた。圧倒的な力の前に思わずたじろいでしまう。

 

「来ないのかぁ? なら、このまま攻めさせてもらうぜ! でぇりゃあぁ!!」

 

 太い腕で軽々と戦斧を振り下ろすと、大地を強引に割り進む衝撃波が幾つも生まれた。そして間髪を入れずこちらへ到達。

 

「うわあああっ!!」

 

 とんでもない威力に成す術も無く、俺達は大地の破片と共に吹き飛ばされてしまった。地面に叩きつけられる前になんとか受け身を取ることはできたが、何度も喰らっている余裕はない。

 先ほどのアジトで盗賊達から恐怖されていたソシアでさえ、この大男には手を焼くしかなかった。

 

「噂以上の強さです。矢も弾丸も通用しないなんて……」

 

 近寄ってもフットワークに翻弄され、遠くからの攻撃も防がれてしまうという現状。このまま有効打を見出せなければ全滅してしまうだろう。

 策が無く苦しむ中、マリナが次のように呟く。

 

「どうにかして土石の防御を攻略できないだろうか」

 

 この何気ない一言によって、ソシアは何かを見出した。

 

「……あ! こうすれば突破口を開けるかもしれません」

 

 それだけを言うとすぐさま弓を構えた。弓の中心に施された二対のビットによる仕掛けから、赤く光る矢を生み出して弦を引く。

 

爆・滅龍閃(ばく めつりゅうせん)!」

 

 矢は、技名を叫ぶと同時に放たれた。突き抜ける先には当然グラムがいる。しかし先ほどと同じように防がれるのではないだろうか。俺とマリナはそう思いつつも、ソシアを信じた。

 

「だぁから、効かねぇっつってんだろがぁ!!」

 

 予想通り、グラムは戦斧で大地に一撃を見舞い、土石を噴き出させて壁を作った。だが、ここからが違う。ソシアの放った赤い矢が、土石にまみれる直前で大爆発を起こしたのだ。

 

「な、なんだとぉっ!?」

 

 爆風を受け、土砂と岩石がグラム自身に跳ね返る。不意な反撃に奴は対処できず、砂塵による目潰しと煙幕効果もあって動きを封じることに成功した。

 同時に、ソシアが高らかに叫ぶ。

 

「今が好機です!」

 

「一気に行くぞ、ゾルク!」

 

「よぉし、反撃だ!」

 

 舞い散る土砂の煙を掻い潜り、未だ立ち尽くすグラムの懐に飛び込んだ。

 

落殺撃(らくさつげき)!」

 

 先に仕掛けたのはマリナだった。体を屈め、右脚で円を描くように素早く足払いを繰り出して転ばせる。次に、空中を無防備に舞うグラムを、後方宙返りの動きで力強く蹴り上げた。

 

翔龍斬(しょうりゅうざん)!」

 

 それに追撃を加えるため、俺は飛び上がりつつ連続で斬り上げる特技を放った。鎧があるとはいえ、立て続けに斬りつけられれば威力は申し分ないだろう。グラムは更に打ち上げられ、反対に俺は着地した。

 

「ぐああああ!?」

 

 グラムの悲鳴が響き渡る。ダメージは確実に入っているようだ。だが気絶には至っていない。俺達は落下を始めるグラムに向け、攻撃を追加する。

 

「こいつも食らえ! 爆牙弾(ばくがだん)!!」

 

「とどめだ! 真空裂衝剣(しんくうれっしょうけん)!!」

 

 マリナは巨大な火炎球を撃ち込み、俺は風属性の衝撃波を三度放った。宙に浮いたままでは防御もままならない。グラムは炎に焼かれ、そして衝撃の風に斬り裂かれて大地に激突した。収まりつつあった砂煙が再度、巻き起こった。

 

「やったか!?」

 

 ここまですればグラムも降参するはずだ。俺は期待を込めてそう言い放った。……が。

 

「おー、いてぇいてぇ。ちったぁやるじゃねぇか。さすがの俺様も危なかったぜ……」

 

「え!? そんな……あれだけの攻撃を受けて、立っていられるわけがありません!」

 

 ソシアが驚愕するのも頷ける。俺とマリナの連携攻撃は確実にグラムを捉え、全て命中していた。だのにグラムはゆっくりと立ち上がったのだ。土埃をさっさと払う姿からして、体力にはまだ余裕が残っていそうだった。

 

「まさか無意識にエンシェントビットの力を解放して、攻撃を防いだとでもいうのか!?」

 

 マリナの予想は正しかったようだ。塵による煙幕が薄れていくにつれて、薄い膜のような何かがグラムを覆っているのが判明した。

 膜は時間の経過とともに、はっきりと目視できるようになっていく。きっと俺達が攻撃している時から発生し、グラムを守っていたのだろう。だからこそ奴は今、多少ふらつきながらではあるが、ああして大地を踏みしめているのだ。

 グラムは、おもむろに懐からエンシェントビットを取り出した。そしてそれを掴んだ左腕ごと天に突き上げた。

 

「へへへ……。ディクスで売り捌く前だったから良かったぜ。おかげでいいことを思いついた。このまま、このビットを利用してやる!」

 

「待て、それだけはしてはいけない!!」

 

「聞く耳なんざ持つわけねぇだろうがよぉ! こいつを手に入れてから何故だか、いつも以上に暴れたくてウズウズしてたんだよなぁ!!」

 

 マリナが制止する声も虚しく、グラムは吼える。するとエンシェントビットは(まばゆ)くも禍々しい紫の光を放ち、奴を包み込んだ。

 段々と光は衰えていき、再び姿が現れる。しかしその全容は盗賊団のボスとしてのものではなく、異形だった。

 

「ははは……! はーっはっはっはっは! こいつぁすげぇや。力がみなぎってきやがるぜ!」

 

「変身した!? こんなことが出来るなんて……!」

 

 俺はグラムの真紅の双眼に釘付けになりつつ、そう零した。

 全身は黒色で、表皮は鎧と融合したのか硬質に変化し、各所には刃のように鋭く長い突起が装備されていた。声の質も変わっており、色々な音程が二重にも三重にもなって耳をつんざく。

 右腕は戦斧と一体化しているらしく、手の平から先は無くなっている。エンシェントビットは胸部の中央に位置し、虹色の輝きを失っていた。

 他の二人も俺と同様、状況把握に時間がかかっている。それを嘲笑うかのように、グラムは攻勢に出た。

 

「なんだ、その顔は。カッコ良すぎて見とれてるってか? だったら見物料をいただくぜ。……お代は命で、ってなぁぁぁ!!」

 

 この戦闘で何度目かの、戦斧で大地を割る攻撃。俺達は我に返り即座に回避行動をとった。当たらなければ問題ない……のだが、この攻撃には今までにない効果が付け加えられていた。

 

「ぐっ……あ……!?」

 

 戦斧を振り下ろした地点を中心に、周囲の重力が強くなったのだ。俺達は回避どころか立つこともできず大地に這いつくばることに。重力は極めて強く、満足に悲鳴を上げる余裕すらない。

 

「さっきまでの勢いはどうしたんだぁ? やり返してみろよぉ!」

 

 この重力攻撃、繰り出したグラム本人に影響はないようだ。ゆっくりと俺達に近づき一人ずつ蹴りつけて、いたぶっていく。打撃を与える度に、グラムからは狂ったような笑い声が溢れ出ていた。

 人間の姿だった時よりも遥かに狂気を増している。この現象にもエンシェントビットが関わっているのだろうか。

 

「だめだ……手も足も……出ないよ……」

 

「ゾルク……諦めるな……!」

 

 見えない圧力に潰される中、弱音を吐く俺をマリナが励ました。しかし実際どうすることも出来ない。

 ふと、グラムはソシアに近寄り頭を踏みつけた。そして何やら語り始める。

 

「よーう、優等生のソシアちゃん。数多の盗賊を取り締まって怯えさせてきた実力派のお前が、その盗賊である俺様にここまでぶちのめされて気分はどうだぁ? 優等生でもひとたびこんなザマになっちまえば、同じく優秀なシーフハンターだったロウスンとレミアが浮かばれねぇなぁ」

 

「えっ!? なんで……私の両親の名前を……知っているの……!?」

 

 ソシアの目の色が変わった。重力に抗って声を絞り出し、グラムを睨みつける。

 

「知ってるも何も、あいつらはずっと俺様を追い回してたんだぜ。そりゃ名前くらい覚えるわな。だけども二年前に盗賊団の総力をあげて、逆に二人とも捕まえてやったわけだが。あいつらマジで強かったからな、そりゃもう手を焼いたぜ」

 

 絶句するソシアに構わず、グラムはべらべらと述べ続ける。

 

「……お前、ひょっとして何も知らないのか? だったらついでに教えてやるよ。あいつらを捕まえたあと……ロウスンは首を斬り落としてやった。手下どもをたくさん痛めつけられたんだから殺されて当然だわな。レミアはどうしたっけか……ああ、大金と引き換えにしてエグゾアに売っぱらったんだった」

 

「殺人に加え……エグゾアを相手に……人身売買していたとは……!」

 

 ショッキングな事実を突きつけられたと思えば、更に予期せぬところでエグゾアの名が飛び出してきた。マリナは非情な現実に怒りを漏らす。だがグラムは、そんな声に構う素振りも見せない。

 

「あいつら最後までお前を案じてたぜ。はははっ、泣かせるよなぁ!」

 

 汚い笑い声をあげるグラムは尚もソシアの頭部を踏みつける。しかし彼女はグラムを睨んだまま視線を揺るがせない。怯むどころか、眼力は強さを増している。

 

「そういやよぉ、ソシアちゃんよぉ。あいつらがいなくなるまではシーフハンターなんかやってなかったよな。やっぱりあれか? 両親のためってやつか?」

 

「……ええ……そうよ……。私がシーフハンターになったのは……行方不明になった両親を……捜すため……」

 

 まだどこか幼さの残るソシアが住み慣れた港町ディクスを離れ、たった一人でマグ平原に住みシーフハンターをしている理由。深く追求するつもりはなかったが思わぬところで知ることとなってしまった。俺とマリナは、ただ黙って聞いているしかなかった。

 

「グラム……まさかあなたが……両親の仇だったなんてっ……!!」

 

「おー! いいねぇ、そのギラギラした鳶色(とびいろ)の眼。燃えに燃えてるって感じだ! ……にしても、いやー悪かったな。別に隠してたわけじゃねぇんだけどよ。俺様がロウスンとレミアにしたこと、とっくに知ってるもんだと思ってたぜ。でもま、よかったじゃねぇか。念願叶って、ついに親の行方を知れたんだからよ。会えねぇけどな! ……いや、死ねば会えるか? ははははは!!」

 

「ふざけるな!!」

 

 この重力下で、ソシアは細い腕にありったけの力を込めて弓を射る。魔力で生み出された黒の矢は重力に歯向かい、グラムの硬い胴体を狙った。

 

「おっとぉ!」

 

 だが、元々身軽だったグラムは変身したことで、尋常ではないほどに素早くなっていた。ソシアの頭から足をどける瞬間すら見えなかった。黒の矢と奴との距離は目と鼻の先だったのに命中するどころか、かすりもせずに避けられてしまう。

 グラムは曇り空に向かって高笑いする。せっかくの攻撃も虚しく、無駄な抵抗に終わってしまった。

 

「ははは!! そんなもん意味ねぇなぁ!」

 

 ――と、誰もが思っていたはず。

 

「…………がああああ!? 眼が!! 眼がいてぇぇぇっ……!!」

 

 突如、グラムの高笑いが絶叫に書き換えられた。よく見ると、奴の左目に黒い矢が刺さっているではないか。グラム自身も何が起きているのか理解できておらず、もがき苦しみ(ひざまず)いた。それとほぼ同時に、強力な重力場が徐々に消え去っていく。

 

「……あれ、身体がだんだん軽くなってく……! 重力が元に戻ったみたいだ!」

 

「グラムが深手を負ったからか。ソシアのおかげだな」

 

 あの黒い矢は、ソシアが狼型のモンスターから俺達を助けてくれた時にも放っていたものだ。確か、命中するまで標的を追い続ける、呪闇閃(じゅあんせん)という一風変わった弓技。彼女がこの技でグラムの不意を突いたおかげで、俺とマリナは戦線に復帰できた。

 

「しかし彼女、冷静さを欠いてしまっている」

 

「目の前にいるのが親の仇だってわかったんだから、取り乱して当然だよ……!」

 

「そうだな……。とにかく、グラム撃破に全力を尽くすぞ!」

 

 武器を構える俺達の目前で、先に立ち上がっていたソシアが何回も弓の弦を引いていた。その度、グラムの装甲に矢が弾かれていく。

 彼女が延々とその行為を続ける間に、グラムは自らの赤い左目に突き刺さる矢を躊躇せず抜き取った。傷口からは一時的におびただしい量の血が流れ出たが、グラムはまるで気にしていない。それどころか、自分の身体から大地へと伝う血を眺めて喜んでいるようにも見えた。

 

「やるじゃねぇか、ソシア……! まだまだ楽しませてくれそうだなぁ!」

 

「うるさい!! あなただけは……お前だけは絶対に許さない!!」

 

 ソシアは激昂し、必要以上に弓を握り締めるのみであった。


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