リリカルでメカニカル   作:VISP

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今回は日記形式無し。

推奨BGM 「鉄のラ○バイ」


第二話 孤狼、大地に立つ

 

 新暦59年 某日 夜

 

 数あるミッドチルダ再開発地区の一つ、そこに居を構えている者達がいた。

 大型の商業施設だったそこは、現在テロリスト達の拠点として機能していた。

 屋上駐車場には機関砲が設置され、駐車場にはテントと共に武装化された一般車両が何台も屯し、現在も多数の歩兵が周辺を警戒している。

 だが、彼らの顔はどれもこれも何処か怯えや焦り、警戒が走っており、とてもではないが多数の装備を擁したテロ集団らしい傲慢が見えない。

 

 

 ヴゥー!ヴゥー!

 

 

 そこに、唐突にサイレンが鳴り響いた。

 このサイレンが意味する所は二つ。

 一つは敵の侵入。

 もう一つは…

 

 

 ドドォォンッ!!

 ズガァァンッつ!!

 

 

 敵の襲撃である。

 

 「状況知らせー!」

 「車と砲台がやられた!弾薬に引火するぞ!」

 「持ち場につけ!迎撃しろ!」

 

 敵の先制攻撃により、貴重な戦力である武装車両が破壊された。

 しかし、彼らは逃げ出そうとせず、正規の訓練を受けていないにしては素早い迎撃行動に出る。

 全員知っているからだ、逃げ出そうとした所で逃げられないと。

 

 「来たぞー!」

 

 闇夜に紛れる形で、拠点の正面からその素早さに比して殆ど音もなく、滑る様に「亡霊」が近づいてきた。

 AD-01 ゲシュペンストmk-Ⅱ

 つい半年前、正式に時空管理局ミッドチルダ地上本部にて採用された初の全身装着型デバイス。

 それが総勢4機、関節部に防塵用コートを施した上に夜間迷彩を施した亡霊達が獲物目掛けてやってきた。

 視認の僅か数秒後、一斉に拠点の各所から銃弾と魔法が放たれる。

 てんでバラバラに発射されるものの、弾幕という点では正しい攻撃が開始された。

 しかし、地上を高速でホバー移動する上に両肩のスラスターを用いた横移動、更に規則性を見いだせない巧みな機動を持つゲシュペンストには余程の腕前か運が無ければ当てられない。

 しかも、テロリストが使用している小銃ではゲシュペンストmk-Ⅱの装甲を抜く事が出来ず、どれも空しく弾かれていく。

 更にもっと悪い事に、彼らの兵器の中で有効打となりそうなものは屋上に設置された機関砲と車載の機銃、そしてロケット砲のみ。

 前者二つは既に破壊され、ロケット砲はそもそも高速目標に当てられるものではない。

 それでも幾人かが武器庫から持ち出し、せめて爆風に巻き込もうと狙いを定めるが…

 

 ズギュゥン!ズドドォン!

 

 精密な遠方からの支援狙撃・砲撃魔法により、あっけなく無力化された。

 そして、遂にゲシュペンストmk-Ⅱが標的を射程内に収めた。

 

 ヴドドドドドドドド!

 

 拠点目掛けて射撃魔法が連射され、次々とテロリストが沈黙していく。

 だが、彼らとしてこの位は予測していた。

 

 ズガァッ!!

 

 装甲を傘に着て一方的に蹂躙していた亡霊達の不意を突く形で、突然黄色の砲撃魔法が発射された。

 持ち前の機動性で直撃こそしなかったものの、巻き込まれた2機の第一装甲であるBJが一瞬で剥がされ、内部構造にもダメージが発生した。

 

 「狗共が!これ以上はさせん!」

 

 拠点の屋上から姿を現した男による砲撃魔法、明らかにこの戦場で最大の火力の持ち主にゲシュペンスト隊は即座に反撃を放ち…呆気なく男が展開した結界魔法に阻まれた。

 

 『敵高ランク魔導士を確認!推定魔力量AAAランク!』

 『支援要請!使用魔法を徹甲弾へ!』

 

 途端、遠方から放たれる狙撃・砲撃魔法と4機分の徹甲弾が集中し、敵高ランク魔導士に命中した。

 しかし、その結界を破るには至らない。

 どうやら機動性を捨てて防御・火力に長けているらしく、結界には罅も入っていない。

 

 「はははは!痩せ狗共め!我らが神の贄になるがいい!」

 

 哄笑と共に20近い誘導弾が放たれ、亡霊を打ち砕かんと降り注ぐ。

 

 『誘導弾、来ます!』

 『スモーク!散布対空迎撃!』

 

 対し、ゲシュペンスト隊はそれを持ち前の機動性を生かしながら、散弾迎撃とスモーク散布で対処する。

 特にこのスモーク、デバイス等の素材として使用される魔力絶縁体を粉末状にしたものを使用しているため、後に登場するAMF程ではないが魔法の減衰効果を持つ。

 ゲシュペンストはこれらを後先考えず使用して、多数の誘導弾を全て回避、迎撃してみせる。

 

 「猪口才な!」

 

 その姿に泡を飛ばしながら叫ぶ男は、砲撃魔法の準備に入る。

 非殺傷設定など入れていない、直撃すればビルすら貫通し、倒壊させ得る一撃を受ければ、如何に装甲が厚い全身型デバイスと言えど殉職は免れない。

 砲撃を阻止するために火線を集中させるが、刻一刻とチャージが完成する砲撃魔法に全員がそれぞれ焦りを滲ませる。

 

 

 

 所で、ある喧嘩師が言う「スピード×握力×体重=破壊力」という公式をご存じだろか?

 

 

 

 これは必ずしも当てはまる訳ではないが、殊素手か拳に近いものであれば大体当てはまる。

 但し、握力はあくまで拳の固さを示すものなので、武器が有りの場合は単なる筋力に置き換えても構わないだろう。

 さて、スピード、重量、パワーを兼ね備えた一撃が極めて強力である事、それは事実である。

 だから、もし総重量500㎏近い物体が、音速に近い速度で、力の限りぶん殴ってきた時。

 相手にどれだけの衝撃を与えるのだろうか?

 

 

 

 拠点の後方から、屋上で砲撃魔法を構える魔導士目掛けて真っ直ぐに加速、そして藍色の夜間迷彩色に身を染めた全身鎧がその右腕の杭を真芯目掛けて叩き付けた。

 

 ドガッ!!

 

 「、っ!?」

 

 その衝撃は先ほどまで鉄壁を誇っていた障壁を一瞬にして粉砕した。

 鋼鉄の塊は更に加速しながらBJを貫通、その内部にある肉体へと到達しながら、拠点の屋上にあった給水塔へと向かっていく。

 加速を加味すれば大型トラックの衝突をも超える衝撃を受け、魔導士の肺から全ての空気が強制的に吐き出され、視界がブラックアウトする。

 そして、給水塔へと激突する瞬間…

 

 「トリガー。」

 

 ドンッッ!!!!

 

 右腕部に内蔵された大型の回転式カートリッジシステムが起動、一般的なカートリッジの倍以上の魔力を一気に供給する大型弾が撃発する。

 その一撃はBJを貫通した杭を通ると同時にその魔力の9割以上を敵魔導士の肉体に強制的に流し込む。

 如何に高ランクの魔導士でも、一度に制御し切れる魔力量には限界があり、得てしてそれは総魔力量に大きく劣る。

 また、どんな魔法でも味方からの支援魔法を防ぐ事は出来ない。

 プログラムの隙に付けこんだ必殺の一撃。

 無論、非殺傷設定があるためギリギリで死にはしないが、リンカーコア及び全身に魔力を流す伝達系が過剰な魔力の流入によりズタズタに引き裂かれる。

 更に背中もほぼ空だったとは言え給水塔への衝突から、脊髄損傷は免れない。

 だがしかし、これでも本来の全魔力を物理的衝撃力に変換する一撃よりも遥かに軽症なのだ。

 例え全ての肋骨が折れ砕け、その一部が内臓に刺さっていても、本来の仕様よりも軽症なのだ。

 凡そ即死しない方が稀な程の致命傷に比べれば、と頭に付くが。

 

 『既に増援部隊は排除した。残敵の掃討を行う。』

 『『『『了解!』』』』

 

 こうしてまた一つ、ミッドの平和を乱す輩は消え去った。

 

 

 

 

 

 新暦59年、とある実験部隊がミッドチルダ地上本部に設立された。

 その部隊の戦力は隊長含め陸士7人だけ。後は後方支援要員か技術者のみ。

 レジアス少将肝いりの新型の全身装着型デバイスの試験小隊、それがこの部隊が設立された理由だった。

 2年前、ある訓練生が生み出し、その後実戦証明してみせた全くの新型。

 その質量兵器染みた装備群は確かにこの一年間に強力な地上本部の戦力として機能してきた。

 だが、それと同時に悪名もまた野火の様に広がっていた。

 

 曰く、死地から必ず生還する。

 曰く、民間人ごと犯罪者を撃った。

 曰く、不死身の化け物。

 曰く、鋼鉄の孤狼。

 

 そんな様々な逸話から、彼は何時しかこう呼ばれるようになった。

 管理外世界のとある伝承から取られた不死身の英雄、ベーオウルフ。

 そして、彼の旗下となった部隊に送れられた名はベーオウルブズ。

 鋼鉄の鎧を身に纏い、ミッドチルダの、クラナガンの治安を守る地上本部の猟犬達。

 

 彼らの戦い方は苛烈だった。

 時にテロリストを人質ごと撃ち抜き、時に建物ごと砲撃し、時に重要物資ごと吹き飛ばした。

 無論、テロリスト達も黙ってはいない。

 戦闘ヘリ、戦車、装甲車、雇われ魔導士、自爆テロ等々。

 思いつく限りの手段を用いて排除を試みた。

 だが、出来なかった。

 攻撃すればする程、より苛烈に彼らは犯罪者を攻撃する。

 時には局内からもやり過ぎとの声が上がるが、その圧倒的戦果と損耗率の低さから黙殺される。

 そして、詰み上がる戦果は地上本部全体への全身型デバイスの配備決定という形で結実する。

 

 今現在、地上本部はその設立以来、初めてと言ってよい程の強大な戦力を備える事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『由々しき事態だな。』

 『だが、この検挙率上昇は良い傾向でもある。』

 『あの全身型デバイス、地上以外では使えんのか?』

 『高ランク魔導士にとっては、既存デバイスの方がコスト面では優れている。メリットよりもデメリットの方が多い。』

 『使用している魔法も通常のデバイスでも使用可能だ。そう角を立てる事もあるまい。』

 『とは言え、地上の手綱を離す訳にはいかん。』

 『ではどうする?』

 『…奴を使うか。』

 『無限の欲望か?どの程度にする?』

 『彼奴らがつまらん欲を抱かん程度に、だ。過ぎる様なら別の手を考える。』

 

 

 

 

 

 『やれやれ、ご老人方も無茶を仰る。』

 『ドクター、如何いたしましょう?』

 『丁度良い玩具が出来たからね。彼らに流すとしよう。あの英雄殿とも因縁ある相手だ。必ず食いついてくれるさ。』

 『畏まりました。ではそのように致しましょう。』

 『あぁ、頼むよウーノ。』

 

 

 

 

 

 


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