リリカルでメカニカル   作:VISP

1 / 16
リリカルなのは世界でロボオタが転生。テロで殺された両親の仇討をしながらロマンを目指す話。


第一話

 リリカルでメカニカル プロローグ

 

 

 

 巷で見かける転生者になってしまった。

 

 特に神様だとか特典だとかは持ってない。

 そもそも神様という超常の存在が人間如きに謝罪する訳もない。

 とは言え、単に前世の記憶を思い出しただけでは何ともしようもない。

 だが、何とかしないと詰む。

 

 だってここ、治安がクッソ悪い事で知られるミッドチルダなんだもん。

 その中でもテロ組織が跋扈するクラナガンとかもうね、お先真っ暗。

 

 魔導士とかいう頭悪い連中が跋扈してる海、お前らそれ大丈夫なの?って心配になる位に予算分捕られてる陸という時空管理局が三権分立に喧嘩売りながら存在している世界なのだ。

 

 いやさ、つい半世紀前までは戦国時代も斯くやってな具合の混乱期からここまで立て直した三脳の優秀さについては脱帽なんだけどさ。

 あの三脳は創業者であって、次代を担う人材じゃない。

次世代の育成と交代の準備を疎かにしたのがあの三脳の敗因と言える。

 

 まぁそれはさて置き。

 問題なのはオレ(今世でも男でした、ちょっと残念)が現在、日本よりも遥かに治安の悪い地域に在住しているという点だ。

 何とか自衛手段を確保しない事には安心できない。

 取り敢えず、頑張って運動して飯食べて勉強して遊んで寝る日々を過ごす事にする。

 

 あ、言い忘れてたけど、うちの両親はデバイスマイスターで、管理局にも卸してる会社に勤めてる優秀な技術者だそうな。

 どーりで家の中に大量の工具やら訳分からん部品類が散らかってる訳だ。

 

 でも男の性というか、嘗て忘れ去った厨二と言うか、脇腹のロマン回路と言うべきか、そういったものが疼くので、両親の仕事とかパーツカタログとかはそれとなく見させてもらおう、うん。

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 新暦55年 4月2日

 

 今日から日記を始める。

 ただし、毎日じゃなく印象のある出来事だけを抜粋する。

 

 つい一週間前の事だが、両親が死亡した。

 これは他世界から流入したテロ組織によるものらしいが、詳しい事は今現在管理局が捜査しているとの事。

 胸の内にぽっかりと穴が開いた気分だが、呆然とばかりしていられない。

 今のミッドはレジアス中将(予定)が剛腕を振るってテロというテロを撲滅しているが、それに反撃する様にテロは激化の一途だ。

 オレの両親はそれに巻き込まれて、買い物中に無差別爆破により殺害された。

 この10年を共に過ごしてきた人達の死は悲しい。

 悲しいが、悲しんでばかりもいられない。

 賢しらで可愛げの無いオレを可愛がってくれた二人の仇を取る。

 なんでも二人がいたショッピングセンターを吹っ飛ばしたと目されるテロ組織は高ランク魔導士をそれなり以上に抱え込んでいるため、ミッドの現有戦力では首都航空隊位しか太刀打ちできない。

 そして首都航空隊は海の所属である。

 つまり、陸の地上本部とは頗る仲が悪い。

 その結果、情報の非共有とかアホみたいな事態が平然と起こっているのだが、それはさておき。

 平凡に過ごす事以外は特に目標の無かったこの人生に大きな目標が出来たのだ。

 何としても仇を討つべく、戦闘訓練、それも対高ランク魔導士向けのを受けねばならない。

 こうしちゃいられないとばかりに、オレは低年齢向けの管理局の訓練校へと応募した。

 

 幸いと言うべきか、両親は保険にもしっかり加入していたので財産はそこそこのものになった。

 これがあれば、数年は軽くどうにかなるだろうと思われる。

 んで、財産管理だが、両親の上司が後見人となって面倒を見てくれるそうな。

 普通の下町の頑固そうなおっちゃんだが、両親の結婚の際には仲人もしてくれて、割とよく酔いつぶれた父を連れてきてくれる人なのでオレとも面識がある。

 

 おっちゃんは心配してくれてか一緒に暮らそうと言ってくれたが、あっちは今は娘夫婦と同居して漸く孫が生まれたばかりなので忙しいだろう。

 なので、無理言って全寮制の訓練校へ行くことにした。

 渋られたが、俯きながら「二人の仇を討ちたいんです…」と言ったら翌日にはOKされた。

 今はちょっと卑怯だったかなと思う。反省はしている。

 

 

 

 

 新暦55年 5月1日

 

 現在、訓練校に入って1か月目。

 入校当初は100人以上はいた訓練生は現在70人を切る程に減っている。

 まぁこの学校にいる連中はどれも高ランク魔導士なんて間違っても言えない連中だし、必然的に身体能力の重要性の比重が高くなる。

 ただし、先にも言ったがここは低年齢向け。

 相応の体作りの訓練とは言え、余程の根性か理由でも無ければ踏ん張る事は出来ない。

 今現在残ってる連中の殆どはそうした訳ありだった。

 となると、オレに構うなとか思春期拗らせた連中も出るのだが、「お前それ高ランク魔導士でもないのに連携無視とかふざけんな」という有り難いお説教と共に教官に修正されるので大丈夫だろう。

 

 そんなオレだが、主にデバイス談義とかで割と交流を多く取っている。

 自前のを持ってない奴は支給品だが、それでも整備や個人向けの調整やカスタムとなると聞かざるを得ないからなー。

 特にデバイスの整備は必須科目だし、必然的に話題に上がる事が多い。

 

 斯く言うオレのデバイスは銃、それもアサルトライフル型の見るからに質量兵器じみたデザインである。

 ミッドの質量兵器アレルギーのせいで人気の低い銃型デバイスだが…敢えて言おう、銃火器万歳であると!

 つーか弓矢や剣や槍なら兎も角、よく杖なんかで狙いをつけられるなと小一時間問い詰めたい。

 銃がなんであの形状してるか知ってんの?発射時の反動を軽減して確実に命中するためだよ?

 つーか杖ってそもそも棍棒が祭祀の道具に発展したもんだぞ、つまり元々戦闘向けじゃないの!

 しかも射撃魔法!何が射撃だ、弾速遅すぎだしで光りまくって目立つわ!

 唯一の利点と言えば、誘導とか細かい調整が効き、弾丸自体が大きいから当たり判定が大きい事位か。

 つーわけで、現在自家用に組んだ射撃魔法をメインにしてます。

 通常の三倍もの高圧縮・高密度の魔法弾を高速で連射するという実用一点張りです。

 誘導弾?んなものを別口です、一つ辺りの魔法のリソースは有限なのです。

 てーか誘導のために余計な処理領域使う位なら連射した方が負担が無いんだよ!

 シンプル イズ ベスト。これが真理なのです。

 

 

 後、デバイスマイスターの勉強も平衡して続けている。

 マルチタスク覚えてからこっち、勉強速度が爆上がりしているオレにとって、自前で好き勝手デバイスを弄れる技術はバッチ来いである。

 今日も今日とてアサルトライフル型のデバイスを対物ライフル風にカスタマイズして他の訓練生にブッパしたり背後から奇襲されたりと汗と血と涙の入り混じる青春を謳歌している。

 やっぱ特化型は汎用性が足りんなるなぁ…。

 

 こんな感じに割と人生を謳歌しているオレであった。

 

 

 

 

 新暦55年 6月19日

 

 ねんがんの ぜんしんがたデバイス をかいはつした !

 

 嘘ですすいません。

 まだ基礎フレームとパワーアシスト機能しか出来てません…。

 なんでそんな物作ってるかって?

 そりゃまぁ来るべく対高ランク魔導士戦を目指してだよ。

 この訓練校、2年からは低ランク向けの訓練生も他学年や高ランク向けの士官学校の連中としょっちゅう模擬戦するんだわ。

 勿論実戦を想定してるんで、非殺傷魔法だけど盛大に撃ちあったりします。

 これ、当たり前だが評判悪いんだわ。

 数と連携の訓練校、質の士官学校て感じに。

 更にこれに低ランクと高ランク魔導士の格差、それぞれのOBである陸と海の確執がミックスされてどうにもならん。

 まぁ多分これ、お偉方は今の内に組織内抗争と実戦に慣れさせてるんだろうけど…前者は本来なら要らないんだよなぁ…。

 んな事して余計な諍い作んなよボケカス。

 お蔭で現場が余計な苦労背負い込むんだよアホかと。

 

 が、上空からの圧倒的火力で一方的に潰されるのも癪なので、頑張って全身型デバイスを完成させる所存です。

 年末に一度おじさんの所に戻って意見聞いとこう。

 後、ジャンクパーツとか分けて貰えれば嬉しい。

 

 

 

 

 新暦55年 9月29日

 

 ねんがんの ぜんしんがたデバイス がかんせいした !

 

 マジです。遂に完成しました。

 ちゅーてもまだまだ荒が目立ちますがね。

 それでも独力でやってた時よりも遥かに完成度が高い。

 信頼性を最重視し、肉体の可動範囲を損なわず、通常のバリアジャケットや身体強化魔法よりも高効率、又は低燃費で同じ効果を出す。

 言うは易し、行うは難しでしたよ、えぇ。

 

 具体的な構造は簡単で、基礎フレームに各種アシスト機能を付けた上で、装甲を被せている。

 更にこの上から対魔法防御特化のBJを被せて二重の装甲にする。

 この各種アシストだが、主に医療用器具のものをカスタムして使用している。

 病人やリハビリ患者向けの魔力を使用して可動するパワーアシスト器具の類なのだが、本来搭載されている安全リミットの上限を大幅に引き上げた上で耐久性を向上させ、戦闘に耐え得る構造にしている。

 また、装甲に関してだが、これはBJの特性を利用している。

 通常のBJは対物理・魔法がそれぞれ5:5と同じだけ分けられている。

 だが、実際の戦場ではどっちかの場合も多い。

 そのためのBJ調節機能を利用して、どちらかに敢えて偏らせて、防御性を高める訳だ。

 要はRPGなんかにあるメタ装備な訳だ。

 武装だが、愛用のアサルトライフル型の握りを調整したものと中古の銃型市販デバイス、更に左腕部の固定兵装に背面にあるウェポンキャリアと中々に多彩だ。

 このレイアウトで分かるかも知れないが、こいつは前世の自分の聖典のあるゲームに登場した機体のデザインを使用している。

 そう、こいつのはゲシュペンスト。

 なお、型式はPADー01(試製鎧型デバイス1号機)である。

 

 さて同級生諸君、こいつの試験運用を手伝ってくれたまえ。

 なお、断った奴は来月のデバイス関連課題には手を貸しませんからそのつもりで。

 絶望的な表情での命乞いも何処で習ったか知らん色仕掛けもささやかなお小遣いを使った買収も通じません。

 じゃあ行くぜ!コール、ゲシュペンスト!

 

 

 

 

 なお、掛け声無くても装備できます。

 

 

 

 

 新暦56年 4月21日

 

 漸く訓練校2年生である。

 なお、以前も言ったが訓練校の敷地には他にも管理局向けの訓練施設が複数ある。

 その一つが士官学校、所謂エリート向け、将来士官になる事が約束されている主に高ランク魔導士の卵が入る所だ。

 んで、新学期一回目の、待ちに待った合同訓練である。

 結果についてだが…惨敗である。

 オレ個人は4名を不意打って戦闘不能に追い込んだのだが、他の連中は一人二人を物量と連携で何とか倒したものの、流石に初見ではそれ以上は出来ず、じわじわと討たれていった。

 最終的に模擬戦の制限時間が終わる頃には訓練校側は一人残らず負けていた。

 完敗である。

 しかし、実のある敗北だったと負け惜しみではなくそう思う。

 

 今、オレのゲシュペンストに足りないもの。

 それは速さ、固さ、攻撃力、反応速度、そして糞度胸とその他諸々が足りない!

 教官からはデバイスで魔導士の戦力の底上げっていう思想は間違っていないとの事だが、そういった設計思想も考えにゃならん。

 何せこの試作一号機、汎用性・信頼性重視なのでこれと言った特徴の無い当たり触りのない代物なのだ。

 もうちょい色々尖らせないと高ランク魔導士の相手は辛い。

 それに、現在の構造のままだと収納できないから置き場所に困る(切実

 いやさ、性能UPのために余計な機能とか全部削っちゃったもんだから…今、オレの部屋は半分ゲシュちゃんとで埋まってます。

 同室にしょっちゅう怒られてます(悲しみ

 

 仕方ない、屋外に置いても大丈夫にするか、置き場所を確保するか…。

 

 

 

 

 新暦56年 5月4日

 

 今日は士官学校の連中を相手に机上演習である。

 要は指揮能力の訓練なのだが……現在、我が方が6:4で優勢です。

 っつーのも、士官学校組は結構な割合で脳筋(というか魔導筋?)が多く、座学や基礎訓練を軽視する連中が多いらしい。

 無論、カリキュラムとしてはちゃんとしてるんだろうが、そこまでやり込んだりしないのが多いとか。

 お前ら、そんなんだと前線から後方勤務になった時に辛いぞ?

 今は士官学校の非魔導士コースの連中が盛り返してるが、本当にこいつら大丈夫なのだろうかと柄にもなく心配になってしまった。

 

 そう言えば、この事で高ランク魔導士組を叱りつけてた非魔導士コースの女子、あんまりにもガミガミ言ってて委員長気質っぽい。

 髪や制服とかもキッチリ着こなしてて実にそれっぽい。

 結構な美少女だったが、あんなガミガミ言って恨まれんのだろうか?

 ……気づいてなさそうなぁ。

 

 あ、そうそう。

 先日から続けていたゲシュペンストの改修がひと段落した。

 ただし、まだ実戦での調整を続ける必要があるけど。

 具体的な内容としては今まで

 暫定的にPAD-02ゲシュペンストと呼称しつつ、今後もデータを取っていこうと思う。

 

 

 

 

 新暦56年 5月13日

 

 前回の日記の委員長だが、やっぱりと言うべきか、高ランク組との折り合いが悪いらしい。

 と言うのも、同期の連中から聞いたのだが、彼女の父親は陸の重鎮であり、基本的に海に行く連中とは折り合いが悪いらしい。

 なお、彼女の名前はオーリス・ゲイズ。

 あの陸の過激だが超優秀な治安組織の鑑の様な人の娘であり、彼女自身も文官としてだが相当に優秀らしい。

 

 さて、なーんでこんな話をしたかと言うと…彼女、校舎裏で高ランク魔導士の中でも柄の悪い連中に囲まれてました。

 よく校舎裏の射撃訓練場を利用してるオレは偶然ソレを見つけまして。

 後はもう勢いでしたね。

 一応即座に同期の連中に念話して教官達にチクッてもらったんだが、間に合いそうもなかったんで介入した。

 即効で制圧したんだが、高ランクだけあって固かったので、試作の手持ち式杭打機でシールドごと叩き潰す羽目になった。

 まだ反動制御の調整が甘いらしく、手首を痛めちまった、泣きたい。

 教官らが駆け付けてから連中を引き渡してその日は終わり。

 なんか呼ばれた気がしたけど、今は疲れてるんで後日にお願いします。

 

 

 

 

 新暦56年 6月2日

 

 以前馬鹿やらかした連中が退学処分になった…のだが、こっちもやりすぎと言う事で反省レポート5枚提出を命じられた。

 本当なら高官連中の子息を再起不能な程度にボコればこっちも退学なのだが…どうやらオーリスの父である髭達磨もといレジアス中将(予定)が手回ししてくれたらしい。

 本人にもお礼言われたし、中々万々歳な終わりだった。

 なお、レポートの中身は制圧時の反省点を挙げ、どうすればより効率よく制圧できるかを纏めて提出した。

 

 後日、レポートが倍になった。

 

 あ、そうそう。

 インテリジェントデバイスのコアだけを貰ったので今度改装して使用しようと思う。

 …言っとくけどギャグじゃないよ?

 

 

 

 

 新暦56年 7月11日

 

 あれから一週間、どうにも先日の事件から高ランク連中が絡んでくると思ったら、如何やらオレがこの前のボンボン共に敢えて喧嘩売らせて退学に追いやったという噂が流れているらしい。

 知らんがな、と言うのは容易いが、うっとおしいので全員正面から制圧していった。

 とは言え、こっちは高ランクじゃないので、模擬戦時に多対多か一対一の時だけだが。

 勿論袋にしようとした奴らもいたが、そういったのは正面から念入りに潰したから大丈夫だろう。

 具体的にはゼロ距離から顔面に銃弾を気絶するまで叩き込む。

 まぁ非殺傷設定なら大丈夫だよね!

 

 あ、そうそう。

 レジアス中将(予定)にデバイスの事聞かれたんで基礎設計図とか渡しといた。

 とは言え、まだまだ荒があるから、本職にとってはあくまで新しいアイディアになるかどうかだろう。

 

 ちなみに現在のPAD-02 ゲシュペンスト二号機だけど、01に比較して基本性能と信頼性の向上に努めた。

 具体的に言うと、先ず全身の各部をそれぞれ独立したアームドデバイスに分割、更にこれを効率的に管理するためのインテリジェントデバイスのコアを足す事でデバイス本来の収納機能を取り戻し、分解整備も容易になった。

 また、分割された部分はそれぞれが独立して使用できる。

 ただ、インテリジェントコアにブッコんだ管理システムはまだまだ未熟なので、繰り返し調整が必要だろう。

 更にフレームと装甲材を武器型デバイス(ストレージ・アームド問わず)に使用される特殊合金に変更して強度UP。

 お蔭で素手の格闘戦でもマニュピレーターが壊れたりしなくなった!

 そして対高ランク魔導士を主眼とした武装の開発。例、手持ち式杭打機、スラッシュリッパー、ニュートロンビーム等。

 最後に、デバイスに内蔵されている魔力受容器の大容量化とカートリッジシステムの搭載。

 カートリッジに関しては原作でも出てるけど、魔力受容器ってのはデバイスや魔力式の兵器の多くに搭載されている一時的に魔力をため込んでおくためのコンデンサの事だ。

 魔法を使う際、魔導士の魔力がデバイスのこれに流れ込んで、プログラムで魔力を加工して魔法という現象を作り出す訳だ。

 このコンデンサの大容量化は以前から模索されていたが、次元航行艦とかなら兎も角、携行兵器であるデバイスでは大型化しずらい。

 のだが、オレのゲシュは全身装着型なので、容量の縛りが緩いため、割かし簡単に実現できたのだ。

 更にカートリッジシステムも、既存のリンカーコアに魔力を追加する方式ではなく、このコンデンサーに追加する方式に変更したので、リンカーコアへの負担も大幅に減少した。

 ただその分魔法使用時の魔力使用に関する処理が少々面倒になったが、それは許容範囲という奴だろう。

 

 それと、これはオレの問題なのだが…ぶっちゃけ戦闘が怖い。

 冗談じゃないんだなこれが。

 今現在はあくまで訓練で、大怪我する可能性はあっても、死ぬ可能性はかなり低い。

 しかし、両親の仇を取るとなれば、相手は質量兵器万歳、非殺傷設定何それ美味しいの?なテロリストだ。

 殉職の可能性は常に襲い掛かってくる。

 正直、そんな連中の相手はしたくない。

 だが、しない訳にはいかない。

 ではどうするか?

 

 (以下、様々な数式や考察が書かれているが全て黒く塗りつぶされている。)

 

 

 

 

 新暦56年 8月1日

 

 とうとう訓練校二年目の後半、つまり卒業間近になった訳だ。

 今現在の戦績だが、はっきり言って伸び悩んでいる。

 こっちの対高ランク向けの戦術や兵装はネタ切れ感が否めない。

まともな空戦戦力が自分位しかいないので制空権は取られっぱなしで自分はマークされている。

 他の陸士候補が決して無能な訳ではない。

 寧ろ彼らは彼らなりに努力をし、必死に食らいついてきている。

 

 だが、自分は伸び悩んでいる。

 それは咄嗟の時の糞度胸、そして判断力によるものだと思う。

 純粋な魔力量は入学当初のBからAまで増えたし、身体能力も同様。

 戦術・デバイス知識も増え、連携の仕方も心得た。

 足りない。足りない。何かが足りない。

 

 捨てたりない?

 

 

 (また様々な術式や数式、考察で埋められている。)

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 魔導士にとって、ランクとは強さの目安であり、同時にその才能をはっきりと突き付けてくる。

 基本、高ランク魔導士に低ランク魔導士は勝てない。

 無論、物量を揃えればある程度対抗できるが、AAAランク以上、つまり一対一で戦えば都市一つが壊滅する程の者を相手にした場合、ほぼ不可能に近い。

 だが、何事も例外は存在する。

 例えば、未だ成長し切っていない高ランク魔導士の卵や高齢や健康上の理由により魔導士ランクが低下した者等だ。

 そしてもう一つが魔導士ランクこそ低いものの、戦闘者としての技量が高く、AやBといったある程度高ランク魔導士に迫れるだけの能力を持った者。

 時に彼らは持ち前の技量を生かし、AAAランクオーバーの魔導士ですら撃破し得る。

 技量という面で管理局内でも優秀とされる者が多いのもこのランクである。

 だが、彼らの戦いが称賛される機会は少ない。

 それは彼らの戦いの多くが泥臭く、凄惨なもので、高ランク魔導士の持つ華やかさとはかけ離れているため、宣伝がしにくいのだ。

 つまり何が言いたいかと言うと…

 

 「ジェット・マグナム!」

 「ぐあぁぁぁぁ!!」

 「ジェームズー!?」

 

 確固とした対策とかが無いと、高ランクでも経験が無ければガンガン撃破されてしまうという事だ。

 

 「リーとキャシーは弾幕形成!奴を近寄らせるな!」

 

 高ランク魔導士の多くは空戦、又は対空攻撃手段を持っている。

 そのため、いきなり単騎で突貫してきた馬鹿を沈める位は十分対応できる、そう思っていた。

 

 「くそ、なんで当たらないんだ!?」

 

 色とりどりの各種の射撃魔法が周囲を照らす中、空に墨を流した様な全身鎧が地上を滑る様に移動していく。

 ただ地面から10cm程宙に浮くだけの魔法と高速移動魔法を掛け合わせて地上を滑走するその姿からは目にも映らぬ程の弾速と驚く程の精度で砂利程度の射撃魔法が連射される。

 当たらなければ誘導弾で。

 そう判断して放たれた誘導弾は速度差により追い切れず、或は急激過ぎる横移動により回避されてしまう。

 未知の魔法に未知のデバイス、未知の戦法に、管理局を支える未来の高ランク魔導士達は有効な手を打てずにいた。

 とは言え、初見殺しの魔法や戦術などはどんな分野にも往々にして存在するものであり…

 

 (やはり誘導弾だけじゃなく、射撃魔法も弾速が低すぎる。)

 

 一方、この状況を作り上げている側は、冷静に戦況を分析していた。

 

 (現状のまま推移すると、17分後に魔力切れ。初撃で一人落とせたが…!)

 

 自分のいる周辺一帯を薙ぎ払う形で放たれた砲撃魔法に、黒い全身型デバイスも大きく飛び退く事で回避する。

 直後、今までのそれを超える空対地攻撃に一気に周囲が耕され、被弾し始める。

 如何に早く、動きが読み辛くとも飽和攻撃を凌ぎ切る事はまだ出来ない。

 しかし、全身装着型としての特性、即ち防御用の魔法を展開せずともある程度の防御力を持つ事から、瓦礫や余波程度ではダメージが通らない。

 装甲表面をBJで覆い、その下に更に実体装甲がある事もあり、低ランク魔導士であっても直撃以外は然したるダメージにはならない。

 

 (モードを徹甲榴弾へ。)

 

 努めて冷静に兵装を選択、保持する突撃銃型のデバイスの銃口を標的の中で最も遅く、固い者に向け、セミオートで放つ。

 

 「単発だけで墜ちるk、がッ!?」

 

 着弾し、敵の張ったシールド魔法を貫いてから、一拍置いて爆発。

 多重殻弾を参考に作成されたこの魔法は純粋な貫通力では本家に劣るが、威力と衝撃による隙を作るという意味では優れている。

 後は至近距離での爆発に態勢を崩した所を通常弾頭を集中して仕留めるだけだ。

 

 「次。」

 

 淡々と、まるで流れ作業の様に、本来なら一方的になる筈の模擬戦は、全く逆の結果となって終了する事となった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 新暦56年 11月7日

 

 苦節三か月、遂に完成してしまった。

 PAD-03 ゲシュペンスト三号機

 ただし、これは量産しない。つまり、オレ専用機という事だ。

 レジアス中将(もう少しで)には先日のPAD-02のデータを既に渡してるので、是非とも活用していただきたい。

 まぁ何かのネタ位にはなるとは思う。

 それはさて置き、このPAD-03に搭載されているシステムだが、モーション・セレクト・システムと言う。

 処理能力の高いインテリジェントデバイスを一つと医療用魔法があるだけで良い。

 インテリジェントの役割はPAD-03の各種サポートの他、一定のモーションを登録、即座にデバイス全体に指令を出す事だ。

 これにより、全身鎧型デバイスのパワーアシストを利用して、登録したモーション通りの動きをする事が出来る。

 それはミリ単位で正確で揺らぎも発生しにくいし、勿論ながら緊急時はキャンセルして他の動作に移る事も出来る。

 要は人体を3DアクションゲームのPCの様に操作可能になるのだ。

 そして医療用魔法だが、こっちは単にストレスを軽減させ、リラックスさせる割と一般的なものだ。

 ただし、一般的なものよりもかなり強力で、恐怖や高揚といった当たり前の情動すら抑制しきってしまう。

 このデバイスへの動作登録及び医療用魔法を組み合わせれば、デバイスと魔力さえあれば誰でも即席でそれなりの兵士になる事が出来る。

 そして何より痛みや恐怖、高揚によって判断を誤る事が無い。

 疲労や痛覚を感じないだけで消えている訳ではないが、それを数値化して管理しているため、限界まで無理が効くのも長所だ。

 だが、管理局上層部とも繋がっていると実しやかに囁かれるテロ組織を少数で潰すとなれば、これ位は必要だ。

 これが卒業前に形になって良かった。

 実戦前に高ランク魔導士相手に試験が出来るのだから。

 ただし、戦闘に出す前に幾度か起動実験をした方が良いだろう。

 

 

 

 追記 実験は成功。

 ただし、副作用として使用後は数時間、デバイスを展開していなくとも感情が抑制される模様。

 今後の検証と改良が必要と考えられる。

 また、量産・汎用仕様ではなく、今後を視野に入れ、高ランク向けの特化仕様機の開発が急務と考えられる。

 

 

 

 

 新暦57年 2月17日

 

 間もなく卒業というこの時期に高ランク組から模擬戦の申請があった。

 既に単位としては十二分に行っているのだが、どうやら先日から黒星が続いている状況に耐えかねたらしい。

 卒業間際に問題起こしたら進路に響くのだが、彼らは解っているのだろうか?

 

 模擬戦はいつも通りの低ランクと高ランクに分かれての同数、制限時間内に相手よりも多く生き残っていれば勝利となる。無論、全滅させるのも有りだ。

 とは言え、既に互いに殆どの手札は晒し済み。

 こっちもゼロシステムは使用している。

 なので、ここに来て新型(の更に試作機)のお披露目とする。

 PAD-03-B ゲシュペンスト強襲突撃仕様。

 PAD-03に各種突撃用の装備をブチ込んだ機体、つまりあのアルトアイゼンの前身となる機体だ。

 装備は以前と違って小口径化による反動低下・弾倉増加、更に右腕部固定式で安定性を増した杭打機、肩部マシンキャノン、左腕にシールド&三連マシンキャノン、脚部外側に設置したクレイモア(ほぼ使い捨て)、いつものアサルトライフルに強襲用ブースターのみ。

 勿論戦法はただ只管突撃あるのみ。

 ただし装甲はそのままなので一撃離脱戦法のが向いてる。

 これだとなんかフリッケライ・ガイストの方が近い気がする(汗

 んで、それをゼロシステムにより死を感じぬ兵士が搭乗する、正直言って近づきたくない。

 まぁ使いづらい杭打機は以前からオプションとしてしょっちゅう使っていたので詳細なデータも多いし、十二分に使える。

 他のに関しては既に模擬戦で使用済みの奴を調整しただけだ。

 ただ、強襲用ブースターは初見だからデータが少ない。

 そのため、地上をかっとぶ装甲の塊と杭打機で事故が起きるかもだが。

 

 まぁ、論より証拠、先ずは試してみよう。

 

 

 

 

 新暦57年 2月18日

 

 先日の模擬戦だが、勝ったが負けた。

 やはり初見ではアサルトの加速に対応が遅れ、それで3割を喰われたのが敗因だった。

 まぁ逆に小回り効かないので遠間から牽制されてる内に味方がどんどん落とされたが(汗

 結果的には勝利したが、明らかにオレがおかしい事を指摘され、医務室で検査を受けさせられ、デバイスも一時取り上げられた。

 まぁ普通に感情あった奴がある日いきなり無表情になるとか怪しまれても仕方ない。

 んでまぁ色々発覚した訳なんだが…使ってるのは医療用魔法で、後は特に法に抵触しないので、規制のしようがない。

 しかも密かに通常のゼロシステム未搭載のPADが陸で研究中らしく、この一件は表沙汰にする事も出来ないらしい。

 まぁリラックス魔法はちょっと出力が強すぎるとの事なので、そっちはもう少し効果を下げるとしよう(何時でも上げられるが)。

 現在の保護者であるおやっさんにも怒られたが、PAD自体は気に入ってくれて自分でも弄ってくれるとのこと。

 後でデザイン元になりそうな資料(=各種娯楽作品)を渡しておこう。

 

 そう言えば、なんであの時オーリスがオレを怒ったのだろうか?

 

 

 

 

 Side オーリス・ゲイズ

 

 (なんて事…!)

 

 一人だけの自宅、その自室のベッドの上でオーリスは後悔で頭を抱えていた。

彼女が思い悩んでいるのは今日あった訓練校の最後の模擬戦での出来事だった。

 

 キョウスケ・ナンブ

 

 以前、彼女を助けてくれた訓練生だ。

 両親がテロに殺された孤児という、ミッドでは割と普通の育ちの彼は、両親の仇討のために管理局員を目指して訓練校に入ったのだと、何時だったか聞いた事がある。

 普段の彼は積極的に他者と絡もうとはしないが、己の得意なデバイスの事となると語り始めて、割と童顔なのを気にしていて、普段は暢気過ぎる位の少年だった。

 それが今日、演習で豹変した。

 それまでも何処か前に出過ぎな気はしていたが、その日はまるで捨て身であるかのように同期の高ランク魔導士の卵らへと突貫していた。

 砲撃、誘導弾、直射、照射、散弾、バインドetc…。

 それらを前に、たった一人で切り込み、陣営を崩し、勝利をもぎ取っていく。

 普段は高ランク魔導士(弱)を相手に数名程度が限界だったが(彼のランクからすればそれでも十分異常だが)、この日だけは10人は落としていた。

 普段は中距離からの射撃中心に巧みに立ち回る彼が、滅多にない接近戦を行い、更には自滅する様に前に出る。

 明らかにおかしいと感じて、彼のメンタルチェックを教師陣に申し出たが…案の定、危険な事をしていた。

 

 モーション・セレクト・システム

 より本質を突く呼び方は動作選択及び情動域欠落化装置、つまりデバイスの持ち主の情動を消し、極めて合理的な判断を下せるようにした上で、一定の動作をデバイスに登録し、それを選択する事で練度の低い魔導士でも一定以上の戦闘力を強制的に発揮させるシステムだ。

 感情を消去する事で恐怖で鈍る事も高揚で出過ぎる事も無い、使用者を極めて効率的な戦闘機械へと変貌させるシステム。

 模擬戦が終わった時、自作の全身型デバイスを脱いだ彼に表情はなかった。

 まるで彼自身が機械になったかの様な、完全な無表情。

 それもその筈、彼はその時システムの副作用によって感情が殺されていたのだ。

 このモーション・セレクト・システム、一見極めて強力なシステムだが、相応の欠点が存在する。

 それは感情消去がデバイスを解除した後も暫く継続する事だ。

 本人曰く数時間程度で収まるらしいが、医師はもしこのまま彼が使用を続けた場合はもっと伸びる可能性がある事、或はほぼ完全に感情が消える可能性もあると告げ、システムの一部、情動欠落機能の凍結を申し出た。

 彼はそれを受け入れたが、そのロックはその気になれば何時でも解除できる程度のものだった。

 つまり、彼は必要ならば今後も使い続けるつもりだという事だ。

 この事は直ぐに地上本部の重鎮たる父の耳にも入れたが…生憎と万年人手不足の地上本部ではどうなるか分からない。

 それに、管理局にだって全員が善人という訳ではない。

 何だかんだと予算を絞りつくしていく海とか海とか本部とかだ。

 だが、感情が無い人など無人兵器に等しい。

 何とか彼に使用を思い留まってほしい。

 けど、何時か聞いた彼の本音が脳裏を過る。

 

 『オレは…両親を殺した奴らを殺さないと、前に進めないんだ…。』

 

 まるで呪詛の様に吐かれた言葉を今も覚えている。

 だが、それでは何も残らない。

 復讐は空しいなんて綺麗事を言うつもりはない。

 でも、それではいけない。

 

 「それじゃ、あなたが幸せになれないじゃない…ッ」

 

 知らず知らずに流れた涙で視界がぼやける。

 あぁ、こんな事で泣いてしまうなんて、やっぱりまだまだ小娘だ。

 こんなんじゃ父に顔向けできやしない。

 

 

 

 

 やがて、泣き疲れた少女は眠りについた。

 その胸に抱く悲しみが、何の感情に起因するのかを知らぬままに。

 

 

 

 

 

 




なお、オーリスの聞いたセリフは某狙撃兄さんのパクリです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。