魔法少女リリカルなのはStrikers~風と桜の記憶~ 作:strike
そして、それを見た翔馬の反応は?
第6話スタートです!!
あの事件から数時間が経ち、翔馬は完全に日が落ちてしまった外を病院の薄暗い蛍光灯の明かりを頼りに廊下から歩きつつ眺めていた。
事件の後、意識を失ったなのはは救急隊により病院へ救急搬送、翔馬はその付き添いで後を付いて行ったのだが例の暴走により翔馬自身も精密検査を受けることになってしまい、結局なのはとは病院に付いた時点で別れてしまいその後どうなったのかはわからない。
翔馬がこんな事になってしまったのも、全ては2年前に起きたJS事件が切っ掛けだった。
彼はJS事件を解決へ導いたなのはと並ぶ功績者であるが、その代償は大きく、聖王のゆりかごに並ぶ巨大な大量殺戮兵器、
翔馬の後遺症とは突発的な破壊衝動。
原因は無限の欲望を止めるために用いたジェイル・スカリエッティ作のアームドデバイスから供給される魔力だった。
この魔力は通常のものとは違い人工的に造られる魔力で、その魔力を使用すれば爆発的な力を得ることができるがその代償にその使用者の精神を喰らうという副作用を持った物騒な代物だ。
その所為で翔馬はJS事件後の数か月間、病院に入院と言う名の隔離を受けていたのだが、その状況から救うべく立ち上がったのは意外にも今は、翔馬の部隊の副隊長を務めるシエルで、その案に乗っかった機動六課は翔馬の破壊衝動の原因である魔力を翔馬の中から追い出そうとした。
結果から言えばその策は失敗だった。
翔馬の中の人工魔力は残ったままで、体の外へ追い出すことは出来なかったのだ。
しかし、そんな状況でも不幸中の幸いか、翔馬のリンカーコアからは確実に追い出すことが出来ていた。
それでは残った人工魔力は何処へ行ったのか。
それが今回の暴走の原因にもつながるのだが、実は翔馬のなかで人工魔力がリンカーコアを形成してしまったのだ。
つまり翔馬の体の中にはリンカーコアが2つ。
正常なリンカーコアと悪質なリンカーコアどちらも翔馬のものであるので一見とても有利に見えるが、先程起こった事件を見つめ直せばわかるが並大抵の精神力ではあれを制御なんてできる訳も無く、一度漏れ出してしまっては必死に抑えるのが精々でそれを使おうと完全に表へ出してしまえば正気に戻るのは何時の話になるのか分かったものではない。
そんな物騒な力であるため、陰で翔馬ははやてに続く2人目の歩くロストロギアとさえ呼ばれることもある。
話はずれてしまったが、翔馬はここの所、暴走を引き起こしていなかったため久々の暴走による体への影響がないか精密検査を受けるよう言い渡されてしまったのだ。
そのため、この数時間、なのはが倒れているにも拘らず傍にいてやることが出来なかったのだ。
しかし、なのはだけではなくヴィヴィオもいる為、2人だけにしておくのもまずいと考えた翔馬は精密検査を受けることになる前に、はやてやフェイトへ一報入れていたので今は彼女達がなのはやヴィヴィオの面倒を見てくれている筈だ。
しかし、そうは思っても翔馬は彼女を心配せずにはいられなかった。
そもそも、暴走など起こさなければとも思うがそんなことは後の祭りだ。
「何事も無く起きてくれていればいいが……」
翔馬はそう呟くと、彼女が眠っている病室へと向かうのだった。
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一方、なのはの病室には1人の少女と、2人の女性が真っ白なベッドの上で未だに眠っているなのはを見下ろしていた。
「ママ……」
「ヴィヴィオ。なのはは大丈夫だから、そんな顔しないで?」
「そうや。 ヴィヴィオのママはエース・オブ・エースって言われてるんやで? こんな事でやられたりせぇへん。 ……そうやろ? なのはちゃん……」
ヴィヴィオの悲しそうな顔を見たフェイトとはやてはヴィヴィオにそう話すが、それは傍から見ていると自分に言い聞かせているようでもあった。
そしてそれからどれほどの時間が経っただろうか。
ヴィヴィオが少し舟を漕ぎ始めた時、病室のドアをノックする音が聞こえてヴィヴィオは慌てた様に体を起こし、3人がドアの方へ目を向ける。
するとそこには検査を終えた後の翔馬の姿があった。
「済まないな……こんな時間まで」
「かまへんよ」
「うん。 大事な友達の事だしね」
翔馬の言葉に対して当然と言わんばかりにそう答えると2人は優しく笑顔を浮かべる。
「それはそうと……翔馬君の方も大変やったんやろ?」
「翔馬も疲れてるだろうし、ヴィヴィオもこの時間は辛いと思うし……今日はもう帰って休んだら?」
はやてとフェイトは翔馬がなのはの事を守れなかったと言うのに罵声を浴びせるどころかむしろ翔馬の心配さえしてくれる。
そのことに翔馬は有難さと申し訳なさが同時に込み上げて来るが、それを飲み込んで翔馬は笑みを浮かべた。
「こうなってしまったのにも俺に責任がある。 むしろはやて達こそ休んでくれ。 ヴィヴィオはどうせ帰ると言っても寝るまでは譲らないだろうし、今日は俺が連れて帰るよ」
そう言って翔馬はヴィヴィオに視線を向けると、そこではなのはの被っている布団をギュッと握り締めたヴィヴィオの姿があり、翔馬は苦笑いした。
「ほらな?」
そんな2人の様子にはやてとフェイトも苦笑いを浮かべると近くにあった椅子に腰を下ろす。
「私達やって同じ気持ちや。 目の前でなのはちゃんが倒れてるのに、自分だけゆっくりなんてできる訳あらへんやろ?」
「それに、過去の事件、そして2年前の事件の事もある……ヴィヴィオには大丈夫って言ったかもしれないけど、やっぱり不安だよ……」
はやてとフェイトはヴィヴィオには聞こえない位の声量で翔馬にそう言うと少し重たい空気が流れ始め、翔馬は立ち上がるとドアの方へと歩き始めた。
「パパ?」
「何処に行くんや?」
突然の翔馬の行動に全員が首を傾げると翔馬は大袈裟に笑って見せて何か飲み物を飲む真似をして見せた。
「お見舞いに来てくれたお礼。 って言うのもあるけど、こんな空気じゃ気が滅入るだろうし……少し飲み物でも飲めば気分も変わるだろ」
そして、翔馬は行って来ると言って外に歩き始めるとフェイトは椅子から立ち上がって翔馬の後を追う。
「私も行ってくるね? きっと翔馬も今はつらい筈だから……」
「了解や。 こっちは任せとき」
フェイトははやての言葉に頷くと翔馬の後に付いて一緒に飲み物を買いに行くのだった。
それから数分後、何かに気付いたヴィヴィオが声を上げる。
「……ママ!?」
「う、うっ……ヴィヴィ、オ?」
「なのはちゃん!! ちょい待っててな!!」
ゆっくりと目を開けるなのはにヴィヴィオは縋り付き、はやてはナースコールを押すのだった。
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「わざわざ、付いて来なくても良かったんだぞ?」
「翔馬だって、4っつも飲み物持ったら手が開かないでしょ? 扉開けるのに気配をずっと探ってるよりはこっちの方が気が楽だしね」
翔馬の言葉にフェイトは悪戯っぽい笑みを向けると翔馬はしょうがないなと言う表情で前を歩く。
「それにしても、……なのは、平気かな?」
フェイトの不安げな問い掛けに翔馬は少し戸惑うが、少し考えてから頷いた。
「きっとな。 多分体には何の異常も無い筈だ。 ユーノの調べた結果が気がかりではあるけどな」
「第3種捜索指定ロストロギア、
フェイトの言葉に翔馬は神妙な表情で頷く。
「ユーノが言っていた状況と、今回起きた事件の状況は共通する箇所が多くある。 それに、本当にその笛なら一般人がテトラに取り入っていたのも頷けるしな」
「笛の音を聞いた相手の記憶を操作することができる悪魔の笛……記憶操作できる人数とその操作範囲が限られている事から危険度は極めて低いとみなされていたけど」
翔馬の言葉にフェイトは状況整理をするかのように悪夢の笛に付いてデータを並べる。
「あの事件が起きてしまった以上、捜索ランクは上がるだろうな……」
「それに、過去からそんなに危険視されて来なかった所為か、詳しい事が載っている資料も少ないみたいだしね」
2人は自販機の前に辿り着くと4人分の飲み物を見繕ってそれを手に取る。
「まぁ、今は考えても仕方がない。 なのはの記憶に付いては、起きてから本人に聞くのが手っ取り早いだろ?」
「うん。 そうだね。 これ、ごちそうさまです。」
フェイトは翔馬の言葉に頷くと、笑顔を浮かべて飲み物を顔の前に持ってくるとお礼を言って歩き出した。
そんなフェイトの後ろ姿を見て翔馬は少しだけ、気分転換に誘ったのは良かったかもしれないと思いながらその後を付いて行こうとした。
そんな時、慌てた様子のはやてが2人の前に現れる。
「2人共、なのはちゃんが目覚ましたで!!」
「「ホント(か)!?」」
「今、ナースさんに見て貰っとるよ」
はやての言葉にフェイトと翔馬は頷き合うと早足ではやての後に続いてなのはの病室へと向かう。
そして、そこにいたのは普段と変わりなくヴィヴィオとの会話を楽しんでいるなのはの姿だった。
そして、ヴィヴィオに笑顔を浮かべていた彼女は病室の前に立つはやてとフェイトを見つけると気まずそうに苦笑いを浮かべる。
「あ、はやてちゃんにフェイトちゃん……えっと、心配かけちゃってごめんね?」
「なのは……」
「その様子やと大事には至らなかったみたいやな……」
普段通り過ぎるなのはの言葉にはやてとフェイトはホッと一息つくと病室の中に入ってなのはの傍に寄って体の様子を伺う。
すると、なのはは困ったように笑ってヴィヴィオを抱えて自分の体に引き寄せた。
「大丈夫だよ。 さっきナースさんが見てくれたけど、体の方に異常は見当たらなそうだって。 まぁ、魔力系統は見て貰ってないけど、明日の精密検査でわかるし、パッと見た感じでは私自身違和感ないから、……ね?」
「ね? じゃあらへんやろ!? 可愛く言ったら何でも通ると思ってへんか!?」
「過去の無茶……忘れたとは言わせないよ?」
「あはは……」
なのはの言葉に突っ込むはやてとフェイトになのははヴィヴィオを抱きながら苦笑いで誤魔化すしかなかった。
そんな会話の最中でなのはを除く3人は1人足りない事に今更ながら気が付いた。
「あれ? あの人、何処に行ったん?」
「さっきまで私に付いて来てた筈だけど……」
はやてとフェイトはさっきまでいた筈の翔馬の姿を探して辺りを見回すが、病室の中にはいなかった。
そして、そんな態度を不思議に思ったなのは葉は人に声を掛ける。
「どうしたの? もしかして他にもお見舞いに来てくれた人がいるとか?」
「うん!! そうだよ。 ママの大好きな人!!」
「えっ!!? 私の大好きなって……ヴィヴィオったら何言ってるの!! ……もぅ」
なのはの言葉に反応したのは意外にもなのはに抱かれているヴィヴィオで、とびっきりの笑顔でそう言われると、なのはは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そんななのはの表情にはやてとフェイトは微笑ましく思いながら、きっと4人だけの会話が終わるまで外で待ってくれている翔馬に向かってフェイトが声を掛けた。
「ごめんね。 もう入って来てもいいよ。」
「と言うより、そんな私達に遠慮することなんてあらへんやんか、翔馬君」
「……え?」
「「「うん?」」」
はやての言葉を聞くまでは恥ずかしそうにしていたなのはだったが、その名を聞いた途端に動きが止まり思わず漏れた驚きの言葉にその場に居た全員が違和感を感じてなのはに視線を向ける。
そしてそんな状況を知りもしない翔馬は病室の中に入り、なのはが起きていることを確認すると安心したように顔を緩ませた。
「なのは、無事で良かった。 ……それと、あの時は守り切れなくて悪かった。」
翔馬はそう言うと、なのはに向かって律儀に頭を下げるが、それから数秒経っても返事が無く、翔馬は恐る恐る顔を上げる。
すると、そこには驚愕で固まった表情のなのはと、嫌な予感を感じているような雰囲気の3人がなのはを見つめていた。
この状況から翔馬はそんなことがある訳が無いと思いつつも何故かなのはが次に紡ぐ言葉の内容がわかってしまい、悔しげな、寂しげな表情を顔を俯かせることで隠しながら体を起こした。
そして、なのはの口が開かれるのを全員が待っていると、いつものなのはからは考えられない様なか細い声で……
「……あなたは……誰ですか?」
「……っ!!」
翔馬を絶望へと叩き落した。
「ママ? どうしたの?」
「そうだよ……なのは。 だって、翔馬だよ? どうして……」
「それに、翔馬君はなのはちゃんの」
「分からない……分からないよ!! 何で!? 何で私だけがその人の事を知らないの!!?」
ヴィヴィオ達3人の言葉になのはは自分だけが知らない状態にパニックを起こしたのかそう叫ぶと、少し遠くで体を震わせていた翔馬は握った拳を解いてなのはに近づいて行った。
「落ち着いてくれ、なの……高町一等空尉」
翔馬はなのはの視線に合わせて腰をかがめると肩に優しく触れ、敢えてなのはの事をそう呼んだ。
しかし、なのはもそれでは落ち着くことができずに乱暴に翔馬の手を払いのける。
「落ち着けないよ!! だって、私は!!」
「いいから落ち着け!!! 俺は藤田翔馬三等空佐!! お前の上官だ!!」
「っ!! あ、……し、失礼、しました……」
なのはは翔馬の上官と言う言葉に反応すると、流石軍人と言った所だろうか、自分の感情を殺して大人しくなると自分の非礼を謝った。
それに対してフェイトはあまりにも強引なやり方に翔馬に詰め寄ろうとした。
「翔馬!! そんな言い方っ」
「フェイトちゃん!! 今は翔馬君の方が正しい、このままなのはちゃんがパニック状態を続けていたら精神的にも結構な負担がかかる。 それに、ここにはまだ幼い子もいる訳やしな」
「……わかった。 ゴメン」
フェイトをはやてが抑え込むのを確認すると、翔馬は一旦ヴィヴィオをなのはから引き剥がした。
「俺から言う事は3つだけだ。 それを聞いたら後は好きにしろ。 まず1つ。 俺はお前の仲間だ。それこそフェイトやはやてと同じ様に。 困った時は迷わず俺にも頼れ。 2つ目、今日は何も考えるな。 お前自身が精密検査は明日だと言っていただろう。 全てはそれからにしよう。 今日はゆっくり休め。 最後、お前が俺を覚えていないようだからヴィヴィオは暫くの間、フェイトかはやてに預かってもらう。 いいな?」
「……はい」
翔馬はなのはが頷いたことを確認すると、それ以上は何も声を掛けることなくなのはの肩を軽く叩いて病室を出て行く。
その去り際に、もう一度だけなのはの方に顔を向けると、入って来た時とは段違いの暗い表情を浮かべる彼女がおり、その光景をみて翔馬は唇を噛みしめると病室から逃げるように歩き出した。
そしてなのはの病室がある廊下から外れて薄暗い階段の踊り場に出ると壁にもたれ掛かり、そのまま崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。
その時の表情は前髪に隠れてわからなかったが、床には翔馬の涙の痕が残っていた。