魔法少女リリカルなのはStrikers~風と桜の記憶~ 作:strike
テトラとの勝負の行方はいかに!?
そして戦闘中になのはが……!!
今回も楽しんで読んで行って下さい。
それでは第5話スタートです!!
翔馬となのははバリアジャケットを身に纏うとそれぞれに得物をテトラへと構えた。
そしてお互いに目配せして戦闘準備が整ったことを確認し合うと、声を上げて先手を取る。
「行くぞなのは!!」
「了解!!」
翔馬の声に頷いたなのはは一歩下がり、翔馬がテトラに向かって突貫する。
「はぁぁぁ!!」
「アクセルシューター!! シューット!!」
翔馬が飛び出したことを確認したなのはは翔馬の背後に向かってシューターを8つ飛ばし、翔馬に当たる寸前で方向転換させると8方向からテトラを狙い撃つ。
「甘いよ!!」
しかし、テトラはそれをどこから取り出したのか人の身長を優に超える斧を振り回すとシューターをすべて消し飛ばして笑みを浮かべた。
その瞬間、翔馬はその時を狙っていたかのようにテトラに急接近すると開いた体に向かって剣を振り降ろす!!
「はっ!!」
「たぁぁぁ!!」
翔馬の攻撃に遅れながらも気付いたテトラは、翔馬の剣が届く前に遠心力を利用した重い一撃を放ちギリギリのところで迎撃を成功させ、翔馬はテトラの速さに驚いた表情を浮かべる。
その攻撃を放ったテトラは翔馬の事などお構いなしに続けて連撃を放ち、重い筈の斧を翔馬の剣と同等の速さで振り回されて翔馬は必死にそれを防いでいた。
しかし、テトラが最後に放った重い一撃が翔馬の剣に重なり、翔馬は堪えることができずなのはの位置よりも遥かに遠い壁まで吹き飛ばされてしまう。
「翔馬君!!」
なのはは翔馬の衝突した壁に首を振り向かせて安否を確認しようとするが、その隙を狙ってテトラは高速でなのはに接近し、斧を振り上げた。
「まず1人……」
「あっ!!」
なのはがテトラの存在に気付いた時にはもう、攻撃を回避することもでき無い事を悟り、ただその光景を眺めてしまう。
だが、そこに強い風が吹き荒れるとなのははその表情を一転させて強気の瞳でレイジングハートを構えた。
テトラは一瞬の間に何が起こったのか理解できずに目の前の光景に驚いていた。
「は、速すぎませんか?」
「力ではお前に負けるかもしれないが……速さまでお前に負けるつもりは無い!!」
吹き飛ばされた筈の翔馬は一瞬のうちにテトラとなのはの間に割り込むと、振り降ろされる前の斧に向かって剣で一撃を入れて完全に隙のできたテトラの腹に左の掌を添える。
そして、その手から魔法陣が浮き上がるとテトラは流石に表情を強張らせて回避行動を取ろうと体を捻る。
しかし、翔馬の魔法が発動してからの行動では回避は遅かった。
「エアリアル・インパクト!!」
「がはっ!!」
テトラは翔馬のゼロ距離攻撃に肺の中の空気をすべて強制的に吐き出され、体をくの字に曲げて吹き飛ぶと天井まで吹き抜けの空間に飛び出す。
そして、いつの間にか1階まで降りていたなのはは落下してくるテトラに照準を合わせて魔法陣を描いた。
「しまっ……」
「ディバイン……バスター!!!」
なのはの砲撃はテトラを完全に包み込み、それが収束するとテトラは力なく地面に落ちて横たわった。
砲撃によってテトラの動きを止めることに成功したなのはと翔馬は安心したように一息ついてお互いを労い合う。
「翔馬君、ありがと。 助かっちゃった」
「俺は何にもしてないだろ? なのはのお手柄だ」
そう言って2人は微笑み合うとテトラを拘束するために近づいて行ったのだが、テトラの体がピクリと反応すると、苦しそうな声で翔馬に呼びかける。
「こ、れで……終わりだと、思わないことだよ? 藤田……翔馬!!」
「何っ!?」
「っ!?」
嫌な予感を感じた翔馬となのははそれぞれデバイスを構えて不審な行動を取ることが無いように注意してゆっくりと近づいていく。
そして、翔馬達の嫌な予感は当たり唐突に立ち上がったかと思うとその手には不気味な笛が握られておりそれを口元に当てようとしていた。
「させない!!」
なのははレイジングハートを構え、翔馬は先程よりも素早くテトラの背後に回り込むと、今度は確実に一撃で気絶させようと大きく剣を振りかぶり、それを思いっきり振り降ろした。
だが、それはテトラに届くことなく振り降ろされた剣は翔馬の意思により宙で止まっていた。
「どう、して……」
「っ……」
翔馬となのはは今見ている光景に絶句しながら動きを止める。
そして、そのチャンスを見逃すテトラでは無かった。
「それじゃ、これはさっきのお返し!!」
「くっ!! エアリアルブリッツ!!」
翔馬はその場から消えたかのように高速移動するとなのはの横に立ち、目の前の異様な光景に目を見開いていた。
テトラの周囲にはテトラを守ろうとするかのように一般市民が集まり出し、翔馬達は困惑する。
「これは一体……」
「テトラ……一般市民に何をした!!」
翔馬達の表情が面白いのか、テトラは先程の砲撃のダメージなど忘れてお腹を押さえながら笑う。
そしてその様子に、翔馬達は顔をしかめるのだった。
「別に大したことはしてないよ。 まぁ、しいて言えば……僕の演奏を聞いて貰った事くらいかな?」
「まさか……その笛の音で一般市民を操って」
「違う!!」
「「っ!?」」
翔馬の言葉を一蹴したのは予想外にも一般市民の男の声だった。
さらに、集まってきた他の人達の様子も見てみると明らかに翔馬達に敵意を剥き出しにして睨んでいる。
「そ、それはどういう……」
なのはは、その男を刺激しないように恐る恐る尋ねると叫んだ男は体を震わせながら話し始める。
「この人は、俺が路頭に迷っていた時、誰も彼もが見ない振りをしていたにも拘らず俺に手を差し伸べてくれたんだ!! そのおかげで今は普通の生活を手に入れられた!!」
その男の言葉を切っ掛けに周囲の人達もテトラに救われた、励まされた、助けてくれた等、様々な理由から今度はテトラに恩返しをすると言い、テトラを守る様に手を広げた。
そして、翔馬達は今の状況整理とこの状況を脱する方法について頭を張り巡らせていたが、情報が足りな過ぎて動く事が出来なかった。
彼らの意識ははっきりとしているし、操られている可能性は低いだろう。
だからと言って、テトラがこれだけ大勢の人に救いの手を差し伸べたとも考えずらい。
たまたま、テトラに手を差し伸べられた一般市民が全員今日はこのショッピングモールに買い物に来ていたとも考えられなくはないが、その確率は限りなくゼロに近いだろう。
だとすれば、彼らが身を挺してまでテトラを守る理由は?
その答えに辿り着けず、なのは達はテトラの動きに注意しながらも焦りの表情を浮かべていた。
『なのは……これじゃ埒が明かない。 俺が時間を稼ぐうちにテトラの周囲の人間だけでいい。 動きを止められるか?』
『……わかった。 でもあれだけの人数……あんまり時間は持たないよ?』
翔馬は向こう側に聞こえ無いよう、念話でなのはと打合わせるとなのはは少し不安そうに翔馬に目配せする。
しかし、翔馬は冷や汗を流しながらも笑みを浮かべてなのはに視線だけ向けた。
『一瞬でいい。 ……一撃で堕とす!!』
翔馬はなのはにそう言うと、一歩前に出て剣を鞘に納めた。
「皆さんの言い分はわかりました。 だから最後に2つだけ聞かせて下さい。」
翔馬の行動と言葉に一般市民の全員はホッとしたように腕を降ろした。
それもその筈、翔馬となのはは空戦魔導師の中でも有名な人物だ。
それに対して歯向かって何かができるなんて考えは元々持っていなかったし、翔馬達が彼ら全員を犯罪の加担者とみなしてしまえばどうすることもできないからだ。
だからこそ彼らは必死に声を上げて話し合いで解決させようとしており、その願いがかなったのだと思い込んでしまったのだ。
そして、そんな様子を後ろから眺めるなのははレイジングハートを待機状態にしながらもテトラの周囲の人にバインドを掛ける準備を進めていた。
「まず1つ目はテトラ。 お前はこの人数全員を確実に助けた。 間違いないか?」
翔馬の問い掛けにテトラは笑いを堪えながら、大きく頷いて見せた。
「ああ、当たり前だろう? 何よりここに居る人達がその証明じゃないか」
「そうか、なら次の質問はここに居る全員に聞く」
翔馬は表情を引き締めて威圧を掛けるようにすると、テトラを除いた全員が肩を震わせた。
「テトラがさっき彼が女性に襲い掛かっていた瞬間を全員が見ていた筈だ。 どうしてそれを見てまでもその男を守ろうとするんだ?」
翔馬は睨みを利かせてそう言うと、全員黙り込んでしまい、翔馬の言葉に違和感を覚えたのかお互いに顔を見合わせて悩み始める。
しかし、それはほんの数秒の事で一番に声を出した男が再度声を上げる。
「あれはきっとなにかの事情があったんだ!! テトラさんは間違っていない!!」
その男の言葉に感化されたのか、周囲の人もそれに同調してそうだそうだと声を張り上げる。
そして、翔馬は今の一般市民の様子からある仮説を立てる。
しかし、その仮説が正しいのなら今ここで彼らに何をしても無駄だろう。
だからこそ、テトラが笛を持った手を動かした瞬間に翔馬は叫ぶ。
「なのは!!」
「フープバインド!!」
翔馬の声とほぼ同時にテトラの周囲の人達がなのはのバインドに動きを止められてテトラの防御が無くなる。
だが、テトラはそれを意に介した様子も無く笑みを浮かべる。
「そんなことして……」
テトラがそう言っている内に翔馬は最速で背後に回り込むと剣を抜刀した勢いでテトラの首筋を狙い確実にテトラを昏倒させることができる状況を作った。
しかし、それはテトラの予想外の行動によって防がれてしまう。
「いいのかな!!」
「なっ!? テトラァァァ!!」
翔馬は即時、腕の振り抜く方向を逆にしてテトラが片手に持っていた斧に叩きつける。
「貴様!! 何のつもりだ!!」
「……何のつもり? だって、彼らは身を挺して僕を守ってくれてるんだ……使ってあげなきゃ損でしょ?」
そう、テトラは翔馬の攻撃を避けきることができないと踏んで自分の持った斧を一般市民に背中に突き立てようとしていたのだ。
それを防いでしまった翔馬は完全に隙だらけだった。
「ほらほら……ほら!!」
テトラは周囲の一般市民などお構いなしに大きな斧を振るう。
翔馬の邪魔になると判断したなのはは既にバインドを解いて一般市民の誘導を行っていたのだが、近くにいた人達はその光景を信じられないのか呆然と翔馬との戦闘を眺めており、そんな事されていては一般市民に斧が届いてしまう。
そのため、翔馬は必死にそれを防ぎながら自身の防御も行っていたが、だんだんとそれが厳しくなっくる。
「お前はどこまで……皆さん、早くこの場から離れて……くっ!!」
翔馬はどうにかこの場から離れるように声を掛けるが、未だに翔馬の声が届かないのかその場から一歩たりとも動こうとはしなかった。
そんな様子に翔馬は堪え切れなくなり大声で叫ぶ
「 ……いい加減、目を覚ませ!!! ここから離れろ!!」
「あ、は……はい!!」
翔馬の大声にやっと目が覚めたのか、体をビクリと震わせるとその場から直ぐに退避し始める。
その様子を見た翔馬は少しだけ安心した表情を浮かべるが、その瞬間に翔馬の剣が大きく弾かれ、体ががら空きになってしまう。
「これで!!」
テトラは下から振り上げた斧の力を使って体を一回転させると、斧に全体重を掛けて翔馬に打ち込む。
「人さえいなくなれば……」
翔馬は完全に隙を見せ、今にも叩き切られそうな状況にあるにも拘らず、落ち着いた声でそう呟くと空いていた左手を右腰に持っていった。
そして、もう一振りの剣を引き抜いて斧に合わせると剣によって軌道を変えられた斧は翔馬の顔面すれすれを通って空気を切り裂く。
「二刀……流?」
「俺の右腰にある剣は飾りじゃ、ないからな!!」
翔馬はお返しとばかりに引き抜いた左手の剣と右手の剣を水平に合わせて右に体を捻るとそれを一気に斧へと叩きつけ、テトラの手から弾き飛ばす。
「これで終わりだ。テトラ。 お前を逮捕する」
翔馬は斧を吹き飛ばされて尻餅をついてしまったテトラの首筋に剣を突き出すとテトラは悔しそうに唇を強く噛みしめる。
そして、翔馬とテトラの決着がついた直後になのはが避難誘導を終えたのか翔馬の元へと戻って来る。
「決着ついたんだね。 それじゃ、後は陸の部隊に引継ぎして私達は戻ろうか? 救助隊の人達は今回被害に遭った人達を搬送して様子を見るって」
「そうか。 俺達のお役はここまでだな…… テトラ。 妙な気は起こすんじゃないぞ」
翔馬は剣を引いて鞘に納めると、テトラの左腕を掴んで引き起こしてから両手に手錠を掛けようとした。
しかし、そこまでして翔馬は自分の過ち、テトラの武器は斧だけでは無かったことに気が付いたのだ。
「また牢獄送りになるのなら……、最後に僕の旋律を聞いてよ!!」
「くっ!!」
「翔馬君!!」
翔馬は、テトラを思いっきり蹴りつけて距離を取るが魔力付与も何もないためテトラとの距離は3mと無かった。
そして、笛に口を付けるテトラの姿を見たなのはは危険を感じ、翔馬を押し倒してその場に伏せてそれと同時に翔馬が魔法陣を展開する。
「間に合え!! エアリアル・スフィア!!」
「♪~……」
翔馬はテトラが笛を吹くと同時にテトラの周囲2mに結界を張り、笛の音と共にテトラを結界の中に閉じ込めた。
そして、翔馬は急いで自分の状態に何か異変は無いか確認するが、パッと調べたところでは異常はなさそうで、いつの間にか流れていた冷や汗を拭い、上がった息を整えようと深呼吸を数回した。
「はぁ、はぁ……、俺の方は大丈夫みたいだな……」
翔馬はそう呟くと自分を押し倒したなのはに手を触れようとしたところで異変に気付く。
なのはに翔馬が押し倒されてから数秒とは言え時間が経つにもかかわらずなのはに動きが全く見られないのだ。
「なのは……? おい!! なのは!! 返事をしろ!!!」
翔馬はなのはに手をかけて仰向けにするとなのはは完全に気を失っており、翔馬はその光景に手を血が滲むほどに握り締めた。
なのはが気絶しているという事は翔馬の結界は意味をなさなかったという事だ。
きっと彼女はあの笛の音を聞いてしまい何らかの影響を受けてしまったと考えるのが妥当だろう。
一番、傷付けたくない人を犠牲に自分だけ助かってしまった。
その事実に翔馬は内から溢れるどす黒い感情に塗り潰されていく。
「どう、して……。 何でお前が、こんなことに…………」
守ってやると誓った大切な人が今、目の前で倒れている。
誰の所為?
なぜこうなった?
答えは簡単だ。
目の前にいる犯罪者が笛を吹いたから。
だったら、どうする?
コワス!! アトカタモナク、スベテヲケシサル!!
「ふざ、けるな……!! ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!」
翔馬の悲しみや怒りを吐き出すかのような雄叫びに呼応して翔馬の胸から黒い魔力が吹き荒れ、それは一瞬で翔馬を完全に包み込んだ。
そして、その翔馬と思わしき黒い人影はバックステップを何度か繰り返して結界から距離を取ったかと思うと、地面にクレータを作るほどの勢いで結界に突進し、中で笛を吹くテトラの顔面を鷲掴みにすると突進した勢いと合わせて前方へものすごい勢いで放り投げた。
「がはっ!! ……い、今のは……」
テトラが急に結界が破れたと思った瞬間には、全身に激痛が走り次に目を開けた時には先程までいた場所とは遠く離れた場所まで吹き飛ばされており、現状の認識さえ出来ていなかった。
しかし、現状把握よりも先にテトラの目に入った黒い化け物の姿に怯え、先程までの考えはどこかに吹き飛んでしまっていた。
そして、テトラはあれを見た瞬間に激しい警報音が頭の中で鳴り響くのを聞く。
やつの間合いの外にいる筈なのに、既に心臓を握られていると錯覚するほどの恐怖、背筋が凍てつくような悪寒、どれもテトラが生きて来た中で味わったことの無い感覚にテトラはその場から動けなくなっていた。
「コワス……オマエヲ、コワス!!」
遠くにいる黒い魔力の中に赤く鋭い光がテトラを射抜くと、その場から音も無く消え、テトラは考える前にその場から横に飛んだ。
その瞬間、テトラの先程いた場所から爆発があったかのような激しい衝撃にテトラは地面を転げまわり、その方向を驚愕の表情で見つめる。
「ど、どうなってるんだ……あれは……」
そこには拳を叩きつけた黒い化け物がおり、その周囲5mは完全に陥没していた。
そして、黒い化け物は仕留め損なったことを認識すると首を動かしてテトラを再度見つけ、その方向に足を踏み出した。
その時、ここで聞こえる筈のない声が響き渡る。
「パパ!! しっかりして!! 負けちゃダメェェ!!!」
黒い化け物はその声に反応するとその場で動きを止めて、視線を声のした方向に向ける。
そこには、ここに居る筈のないヴィヴィオの姿があった。
慌ててやってきたのかヴィヴィオは荒い息を整えながら周囲を見渡すと目の前では翔馬の暴走、そしてそこから少し離れた場所でなのはが倒れている。
そんな状況にヴィヴィオは表情を悲しみに染めた。
黒い化け物は、その姿を見たと同時に黒い魔力が揺らいで胸を押さえて苦しみ始めた。
「ガ……グッ、ア、アアァァァァァ!!!」
そして、黒い化け物は苦しみの雄叫びを上げ、胸を掻き毟りながら膝を付いた。
その時、テトラはようやく恐怖から解放され正気に戻ったのか何かに気付いた様に立ち上がる。
「はっ……今なら……」
テトラは偶然にも足元にある自分の斧を見つけそれに恐る恐る手を伸ばし、その手に斧を握る。
それに気が付いたヴィヴィオは驚いた表情を浮かべてもう一度、翔馬となのはに視線を向ける。
しかし、その2人の状況は変わっていない。
このままでは翔馬がやられてしまう。
そう思ったヴィヴィオは、後の事など何も考えずに気が付いたら走り出していた。
「死ね!! 藤田翔馬!!!」
「ダメェェェ!!!」
テトラは持った斧を回転させると薄くはなっているが未だに黒い魔力に侵されている翔馬に投げつけ、ヴィヴィオは叫びながらその間に割り込もうとする。
だが、今のヴィヴィオの足では到底追い付けない。
だから、ヴィヴィオは自身の足に魔力を付与させて速度を上げ、最後に地面を思いっきり蹴って翔馬の前に躍り出ると手を大きく広げて硬く眼を瞑った。
「フン……馬鹿な娘だ。 パパとやらと一緒にあの世に行って来るといいよ」
テトラは無謀にも翔馬の前に立つ女の子を鼻で笑うと背中を向けた。
しかし、ヴィヴィオの姿を認識していたのはテトラだけでは無かった。
これ以上、誰かを傷付けさせはしないと今度こそ本当の翔馬が雄叫びを上げた。
「そ、れ、だけは……やらせない!! お前は……消えろぉぉぉ!!!!」
「なっ!?」
翔馬は自身に纏わりついた黒い魔力を払いのけると即座に左手でヴィヴィオを抱きかかえ、既に回避できない距離に迫った斧に対して何のためらいも無く魔力付与した素手で弾き飛ばした。
直撃は避けたものの、斧を弾いた右腕からは血が止めど無く溢れ、翔馬は疲れ切った表情で荒い息をつきながらも、それを気にする様子も無く、腕の中にいるヴィヴィオに視線を落とした。
すると、ヴィヴィオは未だに硬く目を閉じて体を震わせ、そんな様子を見た翔馬はこの子は守れたのだと安心して微笑むと、その頭を右手で撫でてやろうとする。
しかし、右腕がもう動かない状態になっていることに気付くと左腕に力を込めて抱きしめたヴィヴィオを自分の胸に引き寄せた。
「ヴィヴィオ、ありがとな。 俺はもう大丈夫だから。」
「パ……、ぱぱぁ……うっ……、うわぁぁぁぁ!!」
「怖い思いをさせて、ゴメンな。 怖かったよな……」
ヴィヴィオは翔馬の言葉でやっと目を開け、翔馬の胸にしがみ付くように抱き付くと、声を上げて泣き出してしまった。
翔馬はヴィヴィオの様子に後悔の表情を浮かべながら左手で優しく頭を撫でてやるのだった。
「僕を無視して……いい雰囲気流してるところ悪いけど、この状況、わかってる?」
テトラは少し苛立ちながらそう言葉を発すると、翔馬は視線を向けずに答える。
「ああ。 わかっているさ。 俺も今の今までわかっていなかった。 テトラ。 逃げるなら今の内だぞ?」
「っ!! ……藤田三佐? あんまり今、僕を刺激しない方が良いと思うよ…… 間違えてその女ごとあの世に送ってしまいそうだからさぁ!!!」
そう言って、テトラが笛を構えようとした瞬間、テトラのすぐ近くを魔法弾が通り過ぎる。
「あそこだ。 あそこにさっきの女の子が!!」
「あ、あれは……翔馬さん!!」
「おい救助隊!! あっちに高町教導官が倒れてる!! 直ぐに対応を!!」
テトラは魔法弾を放たれた方向に顔を向けるとそこには大勢の管理局魔導師がこちらに向かって来ていた。
「くっ……今日はここまでにしてあげるよ。 ただ、次に会った時は容赦しないからね!!」
テトラは去り際にそう言うと、その場から姿を消した。
「俺もだ。 テトラ……次に会った時は必ず逮捕する」
翔馬は腕の中で震え続けるヴィヴィオを抱きしめながら夕焼け空に向かってそう呟くのだった。
誰も想像出来ない様な事態がもう既に目の前に迫っていることを誰一人として知る由も無かった。
本当の物語は……ここから始まる。