モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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今回の短編は『2-美人とギャップはだいたい合う』『セキエイに続く日常 7-氷の女』に関連しています。
事前にそちらに目をとしていただけるとより楽しめると思います。


セキエイに続く日常 16-ヒーロー ①

 その少年は、不機嫌だった。

 もっとも、彼を見るナナシマ諸島の住民たちが、彼の、モモナリの正しい素性を知るわけではないから、彼が本当に不機嫌なのかどうかをハッキリと断言できるわけではない。

 しかし、その少年の明らかに異質な行動は、彼が不機嫌であることを彼等に想像させるに十分なものだった。

 彼と、彼が操るポケモンたちは、圧倒的な無慈悲さを、冷酷さを持って、対戦相手のポケモンたちに襲いかかっていた。

 その対戦相手は、ナナシマ諸島出身のトレーナー、カンナだった。ナナシマ諸島はヨツノシマの出身の彼女は、こおりポケモンたちを相棒に、カントーリーグ四天王にまで上り詰め、その一番手としてあのレッドの前に立ちふさがった、ナナシマの英雄。

 十分な実力者である彼女は、モモナリの攻撃をうまくいなそうとしていた。全盛期の彼女ならば、それを凌ぐことが出来たであろう。氷を叩き割るような圧倒的な攻めをしのぎ、それを返す技術と才覚があるからこそ、彼女は四天王の位置にまで上り詰めたのだ。かつてレッドを相手にしたときも、彼女はその技術を十分に見せつけ、レッドに戦術の変更を強いた輝かしい実績がある。

 だが、時を得て衰えた彼女の目が、知識が、反射神経が、彼女の戦術の歯車を狂わせる。自信はある、だが、その自信すら、自らの衰えとのギャップをより深くし、見ようによっては無様に見える組み立てを見せている。

 ナナシマの住民たちは、彼女の衰えを知っていた。否、彼女が衰えているからこそ、彼等は今日、こうやって集まっている。

 ナナシマ諸島の中で最も栄えているミツシマには、小さな対戦場があった。ホドモエのコロシアムや、タマムシのドームに比べるのもおこがましいが、第二第三のカンナを目指さんとする子供たちのために、有志の手によって作られたとても大きな対戦場だ。時折ポケモンリーグの公式戦がそこで開かれ、彼等に刺激と興奮を与える。

 今日は、リーグトレーナーカンナの引退試合だった。Aリーグ陥落が決定した日、彼女はすぐさま引退を発表した、それ以上の戦いは、彼女にとっては意味がなかった。

 彼女の引退試合が故郷であるナナシマ諸島で行われることは必然だった。そして、その対戦相手に名乗り出たのはモモナリだった。素晴らしい才能を持った少年、かつてのレッドを思わせるその組み合わせは、ナナシマ諸島の住民たちも楽しみにしていた。

 そのモモナリが今、まるでひとつずつ風船を割っていくかのように、カンナのポケモンたちを『処理』している。

 引退試合であるこの試合は、当然非公式試合だ。勝ってもなんのメリットもなく、負けたところでなんのデメリットもない。

 だから、観客達はそのモモナリが不機嫌であることを確信していたし。また、モモナリに怒りの感情があった。

 普通、普通ならば、人間としての普通の感性がかけらでも存在していれば、ここはカンナに華を持たせるべき場面ではないのか。

 負けろと言うわけではない、否、それも本当は、その若いトレーナーが、敗北というものを普通の人間よりも重く捉えている可能性を考慮して譲歩しているだけ。本当は負けてほしいし、負ける場面だろう。

 それでも負けることを拒否するのであれば、ここはカンナの良さというものを最大にまで引き出して、その上で勝利するべきではないのか、こんな、尊敬のかけらもない戦い方を、引退するトレーナー相手にする必要があるのか。

 誰もがそう思い始めていた頃、モモナリのピクシーが、カンナの切り札であるラプラスを沈める。

 リーグトレーナーカンナの最後は、あまりにも味気なく、あっけないものだった。

 

 

 

 その試合の祝賀会は、ミツシマのあるホテルのレストランで行われていた。

 規模の大きなものではない、だが、それは決してカンナの影響力の問題ではなく、ナナシマの住民たちに本土の人間が配慮した結果である。

「あのガキはなんなんだ!」

 カンナと同席の年配の男が、酒の勢いを借りてそう叫んでいた。参加者たちがそうなるように努めて穏やかに進んでいた祝賀会にはいささか不釣り合いな怒号であったが、それは、ナナシマ諸島の住民たちすべての代弁でもあった。

「アレはちょっと無いよね」

 同じく年配の男が、それに同調する。彼はこのホテルの支配人であり、カンナの後援会の会長でもあった。彼は主に金銭面で駆け出しだったカンナを支えた彼女の恩人の一人だった。尤も、彼女の活躍によって彼のホテルも十分に潤っていたので、投資以上の見返りはあったが。

「いくら若いと言っても、ものには限度というものがある。この場に彼がいれば、私も一言言いたかったのだが」

 複雑な心境を視線で表現しながら、彼は酒をあおる。

 本来ならば、この席にはカンナの対戦相手であったモモナリも同席するはずであった。

 だが、モモナリはそのホテルから姿を消していた。ボーイが部屋を確認しても、そこには散らかされたままのベッドが存在するだけ。

 彼等は、モモナリがこの祝賀会に参加しないことを、当然だろうと思っていた。あんなことを、ナナシマの人間の心を踏みにじるようなことをしておいて、ホイホイと顔を出されたほうが逆に困るというもの。

 瞬間的に重くなった空気を割ったのは、それの当事者であるカンナの言葉だった。

「私は、あれで良かったのではないかと思っています」

 同席の者たちが、一斉に彼女に視線を向ける。

「もし彼が私に華を持たせるようなことをしていれば、私の心に迷いが生まれたかもしれません。それに、彼は手加減なんて出来ないようなトレーナーですから、対戦相手が彼だと決まったその時から、もしかすればこうなるかもしれないとは思っていました」

 全く筋の通っていない理屈ではない。だが、カンナの力量と、彼女を慕うナナシマの住民たちの感情は、近くあるようで全く別の問題でもある。

 同席していた人間たちは、それ以上その話題を出すのはやめようと決意した。モモナリを責めれば責めるほど、それはカンナの力量の衰えを指摘することになることに彼等は気づいた。

 勿論カンナのその言葉には、モモナリに対する多少のフォローがあっただろう。ここにはモモナリはおらず、カンナの味方である地元の人間しかいない。それでもなおモモナリを庇ったのは、ひとえに彼女が人格者であるからだろう。

 しかし、だからこそナナシマの住民たちの心にはもやつきが残るのだ。

 

 

「おかしいな」

 席を外していた年配の男が、そう首を傾げながら帰ってきた。

「家内にもう少し遅くなるから先に寝ていいと連絡しようとしたんだが、繋がらない」

 当初、参加者たちはそれを他愛のない、可愛げのあるトラブルだと思っていた。「もう寝ちまったんだよ」とか「あんたまだ飲むつもりなのかよ」などと彼らは笑い、そのうち男と同じくヨツノシマに住居を構える男が、「じゃあ、私の息子に連絡して伝えさせましょう」と、席を立つ。

 カンナは、最近本土で使われ始めている小型の携帯用端末を持っていたが、まだそれが普及していないナナシマ諸島では、それを拾う電波が無いだろう。

 生活が落ち着いたら、その普及を手伝ってもいいかもしれないと彼女は思った。ナナシマ諸島にこそ、それは必要だ。

 

 

 やがて、席を外した男が慌てて席に戻る。

「おかしい」と、彼は興奮しながら言った。

「ヨツノシマの誰の家にも電話が繋がらないんだ!」

 その言葉に、祝賀会参加者たちはざわつく。当然ながら、それはありえない事だった。いかにナナシマ諸島が文明から遠い土地であろうと、電話は当然つながる。

「どういう事だ!」

 酒の入った男の怒号に、カンナは一瞬最悪を想定した。さらにホテルの支配人も、彼女と同じ発想をした。

「船を!」

 支配人の声を合図に、参加者たちは一斉に席を後にし、港へと向かう。

 電話が繋がらない今、直接ヨツノシマに向かうしか、その原因を探る方法がなかった。

 

 

「駄目だ!」

 ミツシマの港。電灯の強い光が照らすそこに、男の声が響いた。

「エンジンがやられてる!」

「こっちもだ! ひでえ事しやがる!」

 自分たちの船が使えないことを知った男たちが、虫ポケモンのように電灯の麓に集まる。それぞれの表情には、これがただごとでは無いという焦りがあった。

「クルーザーも駄目でした」

 同じく彼らと合流した支配人が、正装に汗を垂らしながら言う。

「スクリューに何かを巻きつけられている」

 それが奇跡的な確率をくぐり抜けて起きた現象ではないことくらい、彼らは容易に理解できるだろう。明らかに人為的な、明確な悪意を持った行動。

 そして、その悪意に先にあるものは。

 誰かがそれを口にするよりも先に、カンナはボールからラプラスを海に繰り出し、その甲羅に飛び乗った。

「警察に連絡を!」カンナは男たちに叫ぶ。

「私は、先に『いてだきのどうくつ』に向かいます!」

 男たちがそれに頷くのを確認するよりも先に、カンナはラプラスと共にそこを後にする。

 不幸中の幸いか、満月が多少海を照らし、波も穏やかだった。

 揺れでバランスを崩さぬように、慣れた動きで甲羅に座り込みながら、カンナは歯を食いしばる。

 故郷のヨツノシマに存在する『いてだきのどうくつ』は、世界でも珍しいラプラスの群生地。好奇心旺盛で人懐っこく、機嫌が良ければ素晴らしい歌を歌うそのポケモンは、常に密猟者に狙われており『いてだきのどうくつ』のラプラス達も例外ではない。

 しかし、カンナがリーグトレーナーとして、四天王としてカントーに降臨してからは、その数はめっきりと減り、最近では殆ど見られなくなっていた。それは、『いてだきのどうくつ』が保護区として認知された事も理由の一つだが、最も大きな要因は、カンナの縄張りであるということが広く認知されたからだろう。

 油断していた。

 まさか自分の引退式に合わせて、このように大掛かりなことを仕掛けてくるとは。

 だが、それは当然だった。

 カンナの引退は、密猟者達にとって、縄張りの主の力の衰えを意味する。このタイミングで『いてだきのどうくつ』に攻め込むのは、ある意味理にかなっている。

 どうか、どうか間に合って欲しいと、彼女は暗闇の向こうをにらみながら願い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ヨツノシマの港で彼女を待ち構えていたのは、照明に反比例するように黒尽くめの二人のトレーナーだった。どう見ても、カタギの雰囲気ではない、彼女のよく知る、アウトローな、少ない労力で大金を得ることが出来るのならば、倫理観を捨てることの出来る人間たちのそれを彼らは纏っていた。

 彼等はカンナとラプラスの姿を確認すると、何歩か下がって距離を取る。

 それは、海上のカンナとは決して付き合わないという宣言のようなものだった。

 いてだきの洞窟に向かうには、一度ヨツノシマに上陸しなければならない、彼等はそれを知っているから、彼女を引き込むように下がったのだ。氷と水のエキスパートである彼女との海戦を避け、更に自分たちが慣れている陸地での戦いを求めている。

 そして、カンナがそれを拒否する事ができないことも知っているのだ。彼女がそれを嫌って海上から牽制すれば、それだけの時間を稼ぐことが出来る。

 カンナに選択肢はなかった。

 彼女がラプラスの首にしがみつくと、彼は大きく跳ね上がって港に乗り上げる。

 巻き上げられた海水を蹴り上げながら、トレーナーの一人がカンナとラプラスに向かってボールを投げる。繰り出されたポケモン、格闘タイプのサワムラーは、勢いそのままに『とびひざげり』でカンナを狙う。

 だが、その膝が届くより先に、サワムラーの体は荒々しい姿勢を保ったまま宙にとどまり、そのまま物理的法則を無視して地面に叩きつけられる。それはラプラスの『サイコキネシス』によるものだった。

「馬鹿が」と、もうひとりの男が吐き捨てるように叫び、同じくボールを投げる。

 現れたのはレアコイル。ラプラスを含むカンナのポケモンたちに有利なポケモン。

 格闘タイプのサワムラーに、鋼、電気の複合タイプのレアコイル。彼等の手持ちがある程度カンナへの対策を意識していることは明白だった。

 ラプラスをそのままに、カンナはもう一つのボールを投げる。相手は二人、何も遠慮して一体ずつ交換する必要もない。

「『10まんボルト』!」

 ラプラスを狙うその電撃を、現れたポケモンが受けた。黒ずくめのトレーナーたちはニヤリと口角を上げる。自分たちの想定が現実に起これば、トレーナーならば誰だって嬉しい。

 だが、電撃を受けたはずのそのポケモンは、雄叫びを上げながらレアコイルに襲いかかる。そのポケモンがじめんタイプを複合するこおりタイプのイノムーであることに黒尽くめの男たちが気づいた頃には、レアコイルに『じしん』の衝撃が与えられていた。

 しかし、レアコイルはまだ戦闘不能にはなっていない、『がんじょう』なその体は、一撃では決して倒れない。

「『ラスターカノン』!」

 氷よりも硬い鋼タイプの攻撃をレアコイルが放とうとしたが、死角から飛んできた『こおりのつぶて』が、それよりも先にレアコイルにぶつけられ、浮遊する磁力を失った鉄の体は、地面に落ちた。ラプラスの放つその攻撃は、弾丸のようなスピードで先手を取れる。レアコイルの特性までを読み切ったカンナのムダのない攻勢。

 カンナが勝利を意識したその時、彼女の腰にセットされたボールからヤドランが飛び出し、『サイコキネシス』の体勢をとった。

 それに彼女が気づいた頃に、パンチポケモンエビワラーの拳が、彼女の顎を捉える寸前で止められた。黒尽くめのもうひとりのトレーナーの二体目だろう。カンナ達がレアコイルに集中しているそのスキに、彼はエビワラーでカンナに直接攻撃を与えようとした。

 だが、衰えたとはいえ、四天王の経験もあるカンナの実力を、彼はあまりにも低く見積もっていた。彼女らほどの手練になれば、ポケモンたちは有事の際には自らの判断で行動を起こすし、彼女もそれを許す。

 おっとりとした表情からは想像もできないほどの怒りを乗せて、ヤドランの『サイコキネシス』はエビワラーの拳を押し戻し、やがてラプラスもそれに加わって、エビワラーを地面に叩きつける。イノムーはもうひとりの男を目で牽制するが、その男はレアコイル以外のポケモンを持っていないようだった。

 

 

「交渉しようや」

 ヤドランの『かなしばり』によって拘束された黒尽くめのトレーナーのうちの一人、レアコイルのトレーナーが、憎らしげなアクセントを極力隠そうとしながら、カンナに提案する。

「時間がないの」

 それに一切興味を示さずに彼等に背を向けたカンナに、男は更に叫ぶ。

「今回ばかりはあんたでも無理だ! 戦力が明らかに違う!」

 更に続ける。

「ボスは本気だ、今回のために、八つ持ちの用心棒を三人も連れている。内一人は元リーグトレーナーだ」

 八つ持ち、ジムバッジをすべて所持しているということは、それだけポケモンの扱いに長けていることになるし、所持しているポケモンの数も当然多くなる。

 それが三人ともなれば、男の言うとおり、戦力の差は大きい。

「見逃したほうがいい、あんたのためだ」

 それは、仲間のために時間を稼ぎたいという打算的な感情が半分、本心が半分だった。

 男はカントーの出身であり、カンナの偉大さをよく知っている。当然今は敵同士だが、年数で言えば、彼女を尊敬していた時期のほうが長いだろう。

 だが、カンナはそれに言葉を返すことなく、いてだきの洞窟に歩を進めた。

 順序が逆だ。

 カントーリーグの偉大なる伝説がいてだきの洞窟の守り人をしているのではない。

 いてだきの洞窟の守り人が、カントーリーグの偉大なる伝説になったのだ。

 

 

 

 

 乱雑に荒らされ、場所によっては無遠慮に杭打たれ縄梯子を設置されているいてだきの洞窟を歩いているときは、こおりタイプの使い手である彼女には似つかわしくはないほどの、まるでマグマのように煮え返る憎悪の感情があった。

 だが、彼女が密猟者達に対して抱いていた憎悪の感情は、戸惑いの感情に変化していた。

 いてだきの洞窟の最深部の少し前、カンナの前には、十数人の男たちが、彼女に跪いて許しを求めていた。

 それが彼等と彼女の交戦の末のことならば、彼女は動揺してはいなかっただろう。

 だが、洞窟の最深部から現れた男たちは、彼女を見るなり、まるで事前にそうするように打ち合わせていたかのように、一斉に彼女に許しを請うたのだ。

「助けてくれ」

 そのうちの一人、髭面の、およそ品とはかけ離れているような男が、眉を困らせ、彼女にすがりつくような視線を投げかけながらそう言った。

「何もしない、何も取ってない。今すぐにここを去るし、二度と、二度とナナシマには手を出さない。誓う、誓うから、お願いだから見逃してくれ」

 彼等は、皆一様に震えていた、何かを恐れていた。目の前にいる、遙かなる実力を持った洞窟の主ではない何かを。

「殺されてしまうんだ」

 男は、涙を流しながら続ける。

「ここにいたら、殺されてしまう。だから、頼むから、見逃してくれ」

 彼等を見る限り、戦利品を手にしているようには見えなかった。

 だが、彼女は彼等をまだ信用しきってはいなかった。

「用心棒を、何処に潜ませているの」

 その言葉に、男の背後にいた三人のトレーナーが体を跳ね上げ、それぞれが首を振り、身を震わせながら、そんな大それたことをするわけがないと彼女を説き伏せるように目を泳がせる。

「コイツラはもうダメだ。全く戦力ならない」

 それでも疑いの目を向ける彼女に、その三人のトレーナーは、自らのベルトから種類がまちまちの六つのモンスターボールを取り外し、彼女の前に投げ出す。明確な無抵抗の姿勢だった。

 カンナは驚いた、トレーナーにとって、ポケモンたちは相棒であり、人生のパートナーでもある。それを、たとえ密猟者に肩入れするような不道徳な性根を持っているとは言え、八つ持ち、しかもリーグトレーナーという肩書を背負っていたことのある者が、それを誰かに差し出すなど。

 男はさらに懇願する。

「なあ、頼む。今更あんたに逆らおうなんてこれっぽっちも考えちゃいない。頼むから、あいつに見つかったら、今度こそは本当に殺されてしまうんだ」

 手を合わせ、拝むように願う男、嘘をついているようには見えなかった。だが、彼等を許す義理はない。

 カンナは十分に警戒をしながら、ボールからヤドランを繰り出した。それでも彼等は抵抗の素振りを見せない。

 彼女はそのまま『かなしばり』で彼等を拘束する。

 彼等はそれぞれ悲鳴を上げ、脇目もふらずに泣き叫んだ。

「助けてくれ! 助けてくれ! 助けてくれ!」

 殺される、とそれぞれに叫ぶ密猟者たちの間を縫い、彼女は洞窟の最深部に向かう。

 彼らの恐れるものの正体を確信できないでいた。それに向かうことが危険であることもわかっていた。だが、ここは自分の縄張り、他者の侵入を許す訳にはいかない。

 だが、もしかすれば、彼らを撃退したのはあのポケモンではないのだろうかと一瞬思い、彼女は首を振る。

 そんなわけがない、確かにあのポケモンは強力で、自分と同じように密猟者たちを憎んでいるだろう。

 だが、こういうことをするタイプではない。

 ならば、誰が。何が。




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誤字脱字メッセージいつもありがとうございます。

後編は明日更新します

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