モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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今回の短編は『セキエイに続く日常 126-ドル箱スター誕生』に関連しています。
事前にそちらに目をとしていただけるとより楽しめると思います。


セキエイに続く日常 184-親子ウォーグル

 イッシュポケモンAリーグ、ヒースコート対ジャクソンの試合終了後、スタジアムには大歓声が上がっていた。

 この試合を勝利で収めたジャクソンは、成績を八勝一敗として、Aリーグ一位を確定させた。それはつまり、イッシュリーグチャンピオンであるアイリスとのチャンピオン決定戦を確定させたことも意味している。

 ジャクソンは人気の選手だった。若く、ハンサムで人間としての華があり、手に汗握る戦いをし、自らの感情を言葉に、戦いに預けて表現することの出来る発信力のある選手であった。途中スランプに陥りかけ、ファン達を不安にさせたこともあった、だが彼は、その苦境を乗り越えることすら一つのエンタテイメントとして演出し、ファンを安心させ、言葉通りそれを乗り切り、今、こうして、イッシュAリーグにおいて最も強いトレーナーになったのだ。

 イッシュ地方は、常に挑戦者を求めている、停滞を嫌い、新しい興奮を、勇敢な若者を求めている。

 だからこそ、彼等はジャクソンを祝福した。若いチャンピオンであるアイリスと、若い挑戦者であるジャクソンの対決は、彼等が待ち望んでいたものだった。

 

「今回の渡航の目的は、やはりチャンピオン決定戦に向けた秘密特訓なのでしょうか?」

 そのテレビ局の中で、最も美しいという評判の女性アナウンサーが、ジャクソンにマイクと質問を向けていた。勿論彼等をテレビカメラが捉えているし、その後ろからは幾多ものフラッシュがジャクソンに襲いかかる、空港内では意味が無いと思われるかもしれない色の濃いサングラスにも、それなりの理由があるというものだった。

 まとめられたブロンドの長髪、変装の雰囲気だけを出すために頭にかぶせられたキャップ、それらの変装が見破られることくらい、ジャクソンは理解していた。

「バカンスを楽しむことを精神的な特訓とするのなら、そうだろうね」

 彼はずらせたサングラスからウィンクをカメラに向ける。

「アイリスちゃんには悪いけど、実力的な心配は一切していないんだ。それよりも、今はアローラ行きの飛行機に乗り遅れないかどうかのほうが心配だね、一週間前に無理を言ってハノハリゾートホテルの予約を取ったんだ。遅れたらぬしポケモンにお仕置きされちゃうよ」

 そう言って、彼はマスコミを振り払って搭乗口に向かった。ジャクソンのファンであった女性アナウンサーは彼のその姿に安心した。いつものように、何も恐れない、強い男の姿だった。

 しかし、彼等は知らない、彼等に背を向けたジャクソンが、その年齢相応、年配の女性が見れば可愛らしいと思ってしまうほどに、その表情に不安を表していることを。

 

 

 

 

 カントー地方のある空港、ただただ凡庸な男としてうごめく群衆に認知されていたその男は、なるべく言葉を語らないようにしながら、イッシュからの入国手続きを済ませた。

 パスポートを手に取った職員が、そこに書かれた名前に一瞬目を泳がせたが、すぐにそれを男に返した。カントー地方は田舎臭く野暮ったい地方だが、このように職員がクソ真面目でプライバシーを尊重することだけは、彼も評価していた。

 本当ならば触りたくもないほどしみったれた帽子に、ブロンドの長髪は隠していた。庶民的なブランドの上着を着用していたし、花粉症を予防するメガネにマスク、正体を隠しながらも、そのやり過ぎさに注目されることもない。ジャクソンが本気で人混みに紛れる変装だった。

 イッシュでジャクソンを知っている誰もが、今彼がアローラにいることを疑っていないだろう、もしかすれば何人かの熱狂的なファンが、アローラで彼を待ち構えていたかもしれない、それは自惚れではなく、何度か経験があった。

 彼女らは落胆するだろうが、彼女らもたまには落胆した方がいい。彼女らだって、まさか自分がアローラを中継地点にしてカントーを訪れるなんて考えないだろう。

「来たね」と、何者かがジャクソンに声をかける。

 彼がその方向を見ると、これまた同じく凡庸なファッションに身を包んだ男が彼に近づいていた。

「早いな」

 ジャクソンは、イッシュの言葉でそう言った。このカントーでも、その言葉が通じる男だということを彼は知っていた。

「そりゃそうだろう、私はこっちの言葉が使えるのだから」

「それは知っているさ、俺を見つけるのが早いって事だよ」

 自慢の変装だった。

「まあ、腐っても勝負師だということだろう。空港なんてものはね、期待に胸を膨らませる場所なんだよ、そこで一人分かりやすいくらいにカッカしている男を探すなんて、今の私でも容易い」

 そーかいそーかいと、ジャクソンは手を振った。

「仕方ねえだろう、俺の経歴に傷をつけた憎き野郎に、遂に復讐できるんだからな」

 ジャクソンはもう二、三言ほど、イッシュで呟けばまあまあ問題になるかもしれない言葉をつぶやいたが、ここはカントー、それを罪にする人間は少ない。

「それで、モモナリがいる場所のあたりはつけてんのか」

 彼はそう言って一歩ギーマに詰め寄った。しかしギーマはそれに怯むこと無く笑う。

「彼はあまりプライベートを厳守するタイプじゃないようだ、住んでいる町すら筒抜けだよ」

 モモナリマナブ、伝統あるカントージョウトリーグのAリーガー、しがないと言えば嘘になるが、かと言って恐れ多いほどの格かと言われればそうでもない。少なくとも、イッシュリーグのチャンピオン決定戦に出場するジャクソンが、ここまで鼻息を荒くする程の格ではない。

 だがギーマにも、あるいはジャクソンを知るイッシュリーグのファンの大半も、その理由は簡単に理解することが出来る。

 発端は、数年前のリーグ対抗戦と言ってもいいエキシビションマッチ。

 当時飛ぶ鳥を落とす絶対的な勢いを誇っていたジャクソンは、イッシュリーグ選抜の先鋒としてそれに出場し、同じくカントージョウトリーグの先鋒として出場したモモナリと対戦、敗北していた。

 勿論、敗北そのものは大した問題ではない、どんなに優れたトレーナーだって一年に幾つか取りこぼすことだってある事はファンであればあるほど知っているし、そもそもその試合はエキシビション、負けたところでリーグの順位には何の影響もない。

 問題だったのはその敗北の内容だった。

 当時からイッシュAリーガーであった彼は、カントージョウトBリーガー、当時のイッシュでは無名も良いところのトレーナーであるモモナリに圧倒的な敗北を喫したのだ。エキシビション自体はギーマとアイリスの活躍によってイッシュ側が勝利を収めたが、それだからこそ、ジャクソンの圧倒的な敗北はより強烈な印象となった。

 その後、モモナリが誇るべき経歴と素晴らしい才能を持ったトレーナーであることはイッシュでも理解されたが、それが広がれば広がるほど、ジャクソンは自身をより無様に思ったのだ。エリート街道を歩みつつあった彼にとって、その敗北は人生において最も大きな汚点だった。

「急ごうぜ」と、ジャクソンは真っ赤な顔をギーマからそむけながら言った。

 ギーマは鼻でため息を付いて「まずはヤマブキシティに向かう、その後にハナダシティだ」と彼の後についていった。

 

 

 

 

 カントー地方のある空港、ある凡庸な男がそこを後にした一時間ほど後。

 あるイッシュ人が、手慣れた手つきで入国手続を済ませた。

 短髪だがブロンドで、目付きが鋭く背筋はピンと伸びている。だが、その顔にはシワが目立つし、髪をよく観察すれば、いくつか銀の、つまり白髪が存在していた。

 誰かを探すそのイッシュ人に、はるか前方から「あー!」と大声が届く。

 やがて、その体格に似合わぬほど軽快な足取りで彼に近づき、その大男はイッシュ人に頭を下げた。

「お久しぶりであります師匠!」

 意外にも、それはイッシュの言葉だった。

 更に彼はイッシュ人の返事を待たずにその手を両手で握って振った。

「師匠の六十歳祝い以来ですね! いやあお変わらずに元気そうで安心しました! やはり元気の秘訣は毎朝の乾布摩擦なのでしょうか。やや! そう言えば息子さんの活躍は耳にしております! いやあ流石は師匠のご子息でありますね! あの可愛らしかったジャクソン君が今や時期チャンピオン候補とは! いやあ、歴史の証人の一人になることが出来て自分は感激であります! 自分などは今期もなんとかBリーグ残留を決めたといった感じでありまして!」

 大男はそれ以上言葉を続けようとしたが、イッシュ人が何か言葉を発しそうになっている事に気づいた。

「これは失礼」

 ようやく発言権を得たイッシュ人が言う。

「ニーベ、お前は相変わらずだな。目立ちすぎに喋りすぎだ」

 大男が気づけば、周りの視線の殆どが大男に集中していた。

「やや、お恥ずかしい限りで。しかし、久しぶりにイッシュ最強のバウンサーであるカール師匠を目の前にした自分の気持ちも汲んでほしいであります」

 カールと呼ばれたイッシュ人はため息を付いた。ニーベは悪い男ではない、むしろ娘を託してもいいかなと思うほどのグッドガイではあるが、あまりにも自分の性格と違いすぎる。

「だがまあ、息子のことは礼を言おう」とカールが答えると、ニーベはそのでかすぎる顔一面に笑顔を作った。

 だいたい想像できるように、かつてニーベはカールの弟子であった、彼がまだボディガードとして活動していた頃に、用心棒の心得を学ぶためにカールのもとに押しかけてきたのだ。だいたい想像できる理由で彼がボディガードとしての職を失った後にもなんとかリーグトレーナーとして生計を立てることが出来ているのも、ひとえにカールの指導あってのものだった。

「して師匠、今回の来日の目的はなんでありましょうか。自分、今日から一週間は予定を開けておりますし、ある程度の現金は持っております!」

 自らの胸を力強く叩くニーベに、カールは呆れたように笑った。何にせよ、偽りなしに自らを尊敬の目で見てくれるニーベに、カールはなんとなく心を許していた。

「なに、ちょっとしたヤボ用だ。モモナリってトレーナーと会いたいのだが」

 おお、とニーベは大げさにリアクションする。

「おまかせください! あの男は有名人でありますからな! すぐにでも捕まえてみせましょう!」

 

 

 

 

 その日、モモナリはハナダシティに居なかった。パートナーの一人であるガブリアスが、本場物のハートスイーツをねだったからだ。カントーに住んでいるモモナリがそれを手に入れようとすれば、港町であるクチバにまで足を伸ばさなければならない、今度からテレビを見る時はコマーシャルに気をつけなければならないなあと思いながら、しかしそのくらいの奉仕はしたっていいだろうとも思いつつ、彼はクチバに向かったのだ。

 ついでにと幾つかの用事を済ませ、落ちるのが早くなった日がまだもう少しだけ頑張っている頃に、彼はハナダシティに帰ってきた。

 一歩足を踏み入れた瞬間から、彼はその異変に気がついた。何かがおかしい。

 トレーナー達が、あまりにも大人しかった。

 ポケモンリーグ公認ジムが存在するハナダシティは、付近の地域に比べて、トレーナー達の活気がある町だった。

 強いやつがいるんだろうな、とモモナリは思った。おそらくこの違和感は、トレーナー達の力の均衡を一方的に乱すほどに強力な存在が不意にこのハナダシティに現れたのだ。

「なあんだ、今日買い物に行ったのは失敗だったなあ」

 彼は本心からそう言いながら、自らの家に向かった。

 

 自らの家の前で、なるほど、とモモナリは思っていた。その男がここに存在するのならば、この違和感にも納得だ。

「しかし、我々も腐れ縁だね」

 玄関に背もたれながらそう笑う男、ギーマに、モモナリは軽く会釈した。彼の中では、もうギーマは友人の一人だった。アローラでの一件があったから、ギーマが自分たちの言葉を操ることにも驚かない。

「今日は一体どんな用で」

「ああ、用があるのは私じゃないんだ。私はただの通訳、まあ、焚き付けた責任を取ってるという事でもあるがね」

 はあ、と気のない返事をするモモナリに、ギーマはさらに続ける。

「イッシュに、君を随分と恨んでいるトレーナーが居てね、どうしても君と戦いたいと言って聞かないんだよ、まあ、ここまで言えばだいたい理解できるだろうけどね、流石に覚えているだろう」

 モモナリは、一瞬だけそれに首をひねったが、すぐさま何かに納得したように頷いた。

「なるほど、そういうことか」

「ああ、そういうことだ、今もカッカしながら君を待ってる。可哀想なのはこの町のトレーナーだね、八つ当たりされてさ」

 モモナリは、ふうん、と鼻を鳴らした後に「すこし、時間をもらえませんか」とギーマに返す。

 ギーマは体をビクつかせるほど驚いた後に、その目を見開いた。

「どうした、君なら即答だと思っていたんだが、いや、別に嫌なら構わないが」

 モモナリはそれを手を振って否定する。

「いやいや、僕としてはね、大歓迎ですよ。その、僕を恨んでるトレーナーが本気なんだろうってのもわかってる、だからこそね、ちょっとだけ待ってほしいんですよ」

 やはりわからない男だな、とギーマが玄関に預ける体重を増やそうとしたその時、彼は視界にあるポケモンを捉え、その理由に納得した。

 それは、アーボックだった。

 一匹の大きなアーボックが、静かに地面をはいながら、モモナリの背後を取った。モモナリは当然のように彼女の腹の模様をくすぐる。

「普段は近くの草むらをねぐらにしていてね、野生のアーボ達のリーダーをさせているんだ」

「そういうことだったのか、そのアーボックには見覚えがある」

 ギーマが感心していると、モモナリ家の屋根から、ふわりと一匹のポケモンがモモナリの元に降り立った。ピンクの体に羽、ようせいポケモンのピクシーだった。

「その子も、普段は野生に」

 ギーマの質問に、ピクシーの頭を撫でながらモモナリが答える。

「そうだよ、この近くに世界でも珍しいピッピの群生地があってね、色々と危ないから見張らせてるんだ」

 彼はその二匹をボールに入れながら続ける。

「さあ、これが今準備することが出来る僕のベストメンバーだ、早速、そのトレーナーのもとに向かおうじゃないか」

 

 

 

 

 ハナダシティ、ハナダの岬。

 ゴールデンボールブリッジを抜けた先に存在するその開けた土地は、トレーナー達が腕を競うのにうってつけの平地だった。管理されているわけではないが、トレーナー達が持ち寄った備品によって、お互いがある程度空気を読みあえば、公式戦の会場としても運用できるようになっている。

「俺の苦しみを、お前は知らないだろう」

 大声だった、対戦場の対面に立つモモナリが、大きな声だなと思う程の。

「彼の苦しみを、君は知らないだろう」

 ギーマはモモナリのそばに立ち、ジャクソンの言葉を通訳していた。モモナリはそれに頷く。

「エキシビションで負けただけだろう、大げさな」

 モモナリのつぶやきを、ギーマはそのまま伝える。

 ジャクソンはそれにさらに激高して、さらなる罵倒をモモナリに与えた。

「人の言葉とはいえ、あまり訳したくないことを言っている」

「なるほど」

 何も返さないモモナリに、ジャクソンはプライドが傷つけられたと感じて、更にまくし立てる。

「どう思う」

 まだ続きそうな罵倒の中からなんとか伝えられるものはないだろうかと考えながら、ギーマはモモナリに言った。

「あまり余裕が無いね」と、モモナリは答える。

「さっさと始めちゃえばいいのに」

 ははは、と、ギーマは思わず声を上げて笑ってしまった。

 そうだ、自分がそれに気づいているように、モモナリもそれに気づいている。

 虚しい、あまりにも虚しいのだ。

 イッシュの人間がモモナリを罵倒していることそのものが虚しいわけではない、小さいヨーテリーやデルビルが、ギャンギャンと喚き散らして周りを威嚇することは理にかなった行動であるし、弱き者が虚勢を張ること自体は否定しない。

 だが、この対面、格だけを見るならばジャクソンのほうが圧倒的に上。モモナリが弱いトレーナーであるとは微塵も考えてはいないが、それでもなお、次期イッシュリーグチャンピオン候補であるジャクソンのほうが、地方間でリーグを語る際に必ず問題になるリーグそのものの格差を差し引いたって、ずっと上なのだ。

 その彼が、まるで小さなヨーテリーのようにギャンギャンと喚き散らすこの光景は非常に滑稽、虚しくもある。もし自分がもう少しイッシュリーグに対して忠誠を誓っているタイプの人間であったならば、あまりにも見苦しいそれに激怒していたかもしれない。

 彼はモモナリを憎しみから口汚く罵ってはいるものの、その実、彼を高い位置から見下ろしているわけではないのだ。それは、彼の品性が巻き起こすものではない、ギーマの知る限り、ジャクソンは根本の部分では誇り高いトレーナーであった。

 つまり彼は、演じ、嘘をついている、それが自分達他者を偽るためのものか、自らをも偽ろうとしているものなのかは、きっと本人にもわからない。

 モモナリに彼に言葉が届かないのも、自らの通訳の質が悪いわけでもなければ、言語間の壁ではない、彼もまた、それを見抜いているだけにすぎないのだ。

 モモナリが腰のボールに手をかけようとしていた、おそらく、ジャクソンは負けるだろう。とてもではないが、その才能の全てを発揮できる状況にない、モモナリに負け、アイリスに負け、その後のリーグ戦がどうなるかもわからない。

 一人のトレーナーの人生が終わろうとしていたその時、ギーマは背後から迫る強烈な殺気に気づいた、腰のボールを構えながら、振り向く。モモナリもギーマと同じく背後に視線を向ける。

 ジャクソンは、二人が自分から目線を切ったことに憤りかけた、しかし、彼もまた、モモナリ達の背後から現れた一人のトレーナーに気がついたのだ。

「どうして」と、彼は呟いた。

「どうして、父さんがここに」

 

 

 

 ニーベとともに現れたトレーナー、カールは、モモナリをひと睨みした後に、その対面にいる息子のもとに向かった。

「なんだなんだ、どういうこった」

 もう寒いと言っていい時間帯のはずなのに、ハンカチで額の汗を拭ったニーベは、とりあえずそばにいるモモナリに状況の説明を求めた。

「いや、それはこっちが聞きたいくらいなんですけど」

 モモナリは苦笑いでそれに答える。良くも悪くも目立つ男であるニーベは、当然モモナリとも顔見知りであった。

「おかしな話だろうが、なんでこの田舎町に、イッシュの強豪が三人固まってんだよ。大体、ジャクソン君はいまアローラでバカンスを送ってるはずだろうに、まあ、会えて良かったけども」

「アローラを中継してカントーに来たんですよ、本来の目的はこっち」

 突然現れたトレーナー達に驚いていたギーマも、何とか会話に加わる。彼はニーベとは初対面であったが、その大男は、どう考えても警戒すべき人間では無かった。

 ニーベはとりあえずギーマの手を握った後に、モモナリとジャクソンの顔を何度も交互に見て、しばらくしてからようやく大声を上げながら「なるほど」と、手を叩いた。

「そういうことか! それなら、申し訳ないが俺はモモナリを応援することはできん。ジャクソン君は俺の師匠のご子息、いわば弟のようなものだからな!」

「いやまあ別にいいですけども、それよりも、なんでカールさんがここに」

 モモナリがカールの名前をサラリと出したので、ニーベとギーマは驚いた。

「なんで君が師匠を知っているんだ! まさか兄弟弟子か!」

「強かった人は忘れないんでね」

 

 

 

「悪い癖だぞ」

 カールは、目の前で背筋を伸ばすジャクソンの胸を人差し指でついてそう言った。

「恐怖を誤魔化すために口数が増えるのは良くない」

 父親の忠告を、ジャクソンは唇を噛んで飲み込んだ。図星だった。

「なんで父さんがここにいるんだよ、ニーベ兄ちゃんも」

 僅かばかりの抵抗と、彼は父にそう問うた。

「全く同じことをお前にも聞きたいよ」と、カールは何のダメージもなく答える。

 そして、彼は対面のモモナリを睨みつけながら続ける。

「だがまあ、理解は出来る。だが、それはダメだ」

 どうして、と更に続けようとしたジャクソンの肩をついて、彼は親指でモモナリを指差しながら言った。

「アレはよ、俺の獲物だ」

 ジャクソンは、父の言葉を一瞬理解できなかった。だが、父とモモナリと同じ視界に捉えたとき、ようやく彼も気がついた。父もまた、モモナリと因縁のある男の一人であることに。今からずっと昔、カールは当時イッシュリーグのチャンピオンであったアデクの護衛としてジョウトの地を踏み、そこで、アデクに挑戦したモモナリに敗北している。自らの武勇よりも、自らを負かせたトレーナーの話を好んでジャクソンに伝えていた父の口から、それを聞いたことがあった。

 だが、それだけでは納得ができない。

「どうして、今なんだ」

 そうだ、父がその因縁を解消するには、あまりにも遅すぎる。

「無理だ」と、ジャクソンは続ける。

「今の父さんじゃ無理だ」

 ジャクソンは、決してカールの実力を過小評価しているわけではない、自らの父親が実力のあるトレーナーであったことは誇りであるし、相手の弱点を徹底的に攻撃する父親の姿は、あこがれとして映っていた。

 だが。だからこそ、彼は自らの父親の体力的な衰えを知っていた。リーグを引退してからも鍛錬を重ね続けたカールは、勿論同年代の男たちに比べれば抜群の体力を維持していたが、しかしそれは、すでにあるものの劣化速度を緩やかにすることだけにとどまり、全盛期の動きを上回るわけでもなく、それ以上のものを手に入れるわけでもない。ベテランの域に入りかけているとはいえ、未だにカントージョウトリーグのトップ層に食らいつく事の出来ているモモナリとの力の差は歴然だ。

 彼の発言は、父親に対する息子の反逆として捉えることも出来たかもしれないが、カールはそれに頷いて、息子の意見を肯定した。

「そうかもな」

 そして彼は、ジャクソンの目を見据えて続ける。

「俺の体のことだ、俺が一番良く分かっている。頭は昔から大したことがなかったから今でも何とかなってるが、肉体の衰えは顕著だ、特に目がな、相手の動きを追いづらくなってきてる。とてもじゃないが、良かった頃とは比べられないだろう」

「だったらどうして」

「今こそがギリギリなんだ、この俺が、カールという人間が、カールというトレーナーとして存在することの出来るタイムリミットが、徐々に迫ってきているんだよ」

 息子が何も返してこないのを確認してから続ける。

「だから俺は、俺が俺として存在できている内に、俺というトレーナーが思い残している事を解決するために、今日、モモナリと戦いに来たんだ」

 その時カールは語らなかったが、彼がモモナリと戦うことを選んだ理由の一つには、彼が大舞台で息子を倒したことも関係してただろう。

 ジャクソンは、その場から一歩引いた。衰えを受け入れながら、それでも獲物を譲れと迫る父親に、何も返すことができなかった。

 

 

 

「『サイコフィールド』」

 カールが投げたボールから繰り出されたフーディンは、両手に持ったスプーンから特殊な念動力を発し、対戦場全体に『サイコフィールド』状態を作り出した。エスパータイプの攻撃を底上げする他、『でんこうせっか』などの先制技を封じる効果も持っている。フーディンの得意な戦局を作り出す、『トリックルーム』の技術を応用されて作り出された技だ。

 しかし、モモナリもまた、カバルドンの特性である『すなおこし』で、対戦場に『すなあらし』を巻き起こしていた。現在繰り出されているガブリアスとの相性が抜群の天候だ。

 戦局を見つめるギーマは、カールの行動に消極的なものを感じていた。たしかに、エスパータイプの攻撃力を引き上げる『サイコフィールド』を展開することはその後につながるかもしれないが、しかし、カールの手持ちはフーディンを合わせても残り二体。今行う選択肢としては遅すぎる。

 同じ違和感を、ニーベも感じていた。カールのフーディンは裏芸の一つとして『マジカルシャイン』を放つことが出来たはずだ、浅い考えのトレーナーが振り回すドラゴンタイプを手慣れた動きで処理していたカールの姿は、今でも強烈な記憶として存在する。

 それを知らないはずがないだろうし、ガブリアスに対してフェアリータイプの攻撃である『マジカルシャイン』が有効であることも勿論知っているだろう。あのカールが、そのような初歩的なミスをするわけがない。

 だとすれば、この行動には明確な意図があるはず。

 ギーマも、ニーベも、対戦場に吹き荒れる『すなあらし』を見つめて、その意図に気がついた。

 ニーベは、それを受け入れきれない、まさか、そんなことがあるはずがない。

 その時、フーディンの背後から音もなく現れたガブリアスが、フーディンの細い体を『ドラゴンクロー』で的確に攻撃し、フーディンを地面に叩きつける。更に追い打ちとばかりにその体を踏みつけて『じしん』の衝撃を加える攻撃も続けた。誰がどう見てもフーディンは戦闘不能だ。

 完全なる死角から現れたのだ、フーディンがガブリアスを認識できないのは仕方がない、トレーナー同士の対戦では当然のようにそれを防ぐ光景が見られるだろうが、それはトレーナーがポケモンの死角をカバーしているからだ。

 つまり今の一連の流れは、トレーナーであるカールが、フーディンをカバーすることができなかった事が原因だ。

 ギーマとニーベは確信した。カールはガブリアスを追えていなかったのだ。だから彼は『マジカルシャイン』を選択できなかった。ガブリアスを捉えることが出来ていなかったから、それを当てることができなかったのだ。

 彼の全盛期を考えるならばそれはありえない。常に冷静沈着、観察眼と判断力に優れていることが強みのトレーナーだった。

 カールはラストのポケモン、イワパレスを繰り出した。皮肉にも『すなあらし』状態の恩恵を受ける事ができるポケモンだったが、再び『すなあらし』の中に消えたガブリアスを、おそらくカールは追えていないだろう。

 砂嵐の中を、幾つもの足音が駆け抜ける。ガブリアスが作り出すフェイクだろう。イワパレスはその全てを追うことができない。

 そして再び『すなあらし』の中からガブリアスが現れ、『じしん』の衝撃でイワパレスに攻撃する。背負っている自慢の岩にヒビが入り、その本体にも大きなダメージが入った。

 そのタイミングで、カールが動く。

「『からをやぶる』」

 イワパレスが背負っている岩がボロボロと対戦場に撒き散らかされる。文字通り自らの身を削って、速さと攻撃のキレを手に入れる技だ。

「『シザークロス』!」

 逆襲の狼煙になるかと思われた攻撃は、しかし空を切った。

 モモナリの判断が素早かった。

 彼は、イワパレスの岩にヒビが入ったであろうことを予想するや否や、ガブリアスに再び砂嵐の中に逃げ込むことを指示した、彼はカールの戦術、相手をひきつけてから『からをやぶる』によって迎撃する発想を読み取り、この試合の中で顕著だったカールのウィークポイント、見通しの悪い『すなあらし』の中に、ガブリアスを『すながくれ』させたのだ。その判断があまりにも的確だったために、イワパレスはガブリアスを追えなかった。

 傍観者達は、モモナリの非情な判断にそれぞれ感じるものがあった、露骨なまでの戦力差だ、モモナリ側は一体も落ちず、カール側は虫の息のイワパレスを残すのみ。

 しかしモモナリは、その感情が生まれるスキすらも自らの力を通すための武器として使った。

 吹き荒れる『すなあらし』の中から、再びイワパレスに攻撃が向かう。傍観者達は、一瞬とはいえ自分達の思考の中に生まれていた余計な感情が、試合においては無駄なものであったことを悟る。

 カールは、全身全霊でモモナリのポケモンを追いながらも、自分の思う理想からは恐ろしく遅れながらイワパレスに指示を出す。

 自らを攻撃しようとする影に、イワパレスの『シザークロス』が炸裂した。『からをやぶる』によって得たスピードは、パートナーであるカールの衰えを十分にカバーしていた。

 一矢報いたのだ、と、彼等は思っていた、『からをやぶる』によって得た技のキレには自身を持っていたし、手応えもあった。ガブリアスを落とした。

 だが、その影は動じなかった、その丸っこい体でイワパレスの爪を受けたその影は、グイっとイワパレスを引き込んだ。

 イワパレスは、その影を見て全てを悟った。

 ピンクの体だった、つぶらな瞳だった、しかし、その表情には絶対的な自信が溢れていた。

 特殊な特性『てんねん』を持つピクシーは、そのままイワパレスの顔に向けて『みずのはどう』で攻撃する。弱点である水タイプの攻撃に、イワパレスの意識は暗くなった。

 

 

 

 

 その試合は、モモナリが終始カールを圧倒した。触らせず、守らせず、判断させない、そのような試合だった。

 なんと残酷な試合、あまりにも酷い試合だと、ギーマは思っていた。最後の最後、ようやく反撃の体制を整えたカールとイワパレスに対して、能力変化を無効化する特性『てんねん』を持つピクシーをぶつけるのは、あまりにも非情な采配だった。

 あるいは、モモナリがもう少し情にほだされるようなタイプのトレーナーであったのならばもう少しカールに華を持たせることが出来たのかもしれない、しかし、モモナリがそんな感情を試合に持ち込むタイプではないことを、ギーマはよく知っていた。

 ニーベも、自らの師匠の試合に似たような感情を覚えていた、勿論、引退して日が経ち、ポケモンリーグを支配する情報網から一歩引いたカールが、モモナリに勝利することができるなどとは思ってはいなかった。彼の知っているカントージョウトAリーグは、そんなにも甘い世界ではない。しかし、久しぶりに見た憧れのトレーナーが、ここまで露骨に衰えていることに、まだ感情が追いついていなかったのだ。

 しかし、その中に僅かな希望もあった。カールの得意とする戦術、彼の持ちえる戦いの哲学をよく知るニーベは、カールが作り出した最後の一連の動きから、カールというトレーナーが表現したかったことを見抜いていた。

 終盤に見せた『サイコフィールド』たしかにあれはガブリアスを追うことができなかったカールの消極的な行動であったかもしれない、しかし、その後にイワパレスで見せた動きは、おそらく戦術として、十分に通用する。

 重要なのは『サイコフィールド』によるエスパー攻撃の底上げではない、先制攻撃を封じる能力こそが、この戦略の肝。

 強力な装甲で相手の攻撃を耐え、その後『からをやぶる』でその装甲を捨てつつ、肉体と攻撃のキレを手に入れ反撃に転じる、その際に気がかりになる先制技の問題を、新たな技術である『サイコフィールド』で無効化する。単純でいてパッとした対策が思い浮かばない、相手の僅かなスキをついてポケモンの能力を上昇させる戦略が得意技の一つであったカールらしい動き。

 後十年、と、ニーベは思った。十年前のカールならば、まだまだわからない試合だったのかもしれない。だが、残酷な事にあれから十年の時が経ってしまっていた、そして、もうその十年が返ってくることはない。

 受け継がなければならない、と、ニーベは思った。自らのトレーナー生命の続く限り、偉大な師匠が残した最後のアイデアを、自らの手で完成させなければならないと彼は強く思った。

 

「ニーベさん、きずぐすり持ってませんか」

 自らに手を差し伸べているモモナリに、ニーベは「ポケモンセンターに行けばいいだろう」と返す。

「時間がもったいないでしょう、多分すぐにでも次の試合が始まりますから」

 モモナリは対面のジャクソンに視線を向けていった。ジャクソンも、モモナリを強く睨み返す。

「というより、どう考えてもやらざるを得ないでしょう」

「おいおいまてまて、完全回復のロクロクをぶっ続けで二試合なんてそりゃあどう考えてもやりすぎだ! 俺は幸いにもジャクソン君とは知り合いだから、何とか話をつけて後日にまたってことにしよう!」

 ニーベの提案は、落とし所としては悪くなかった。六対六の完全ノックダウン制バトルはコンディションを整えて行うべきだという主張は、近代的な考え方ではあるが少なくはない。進化を続けたトレーナー同士の対戦は、場合によってはトレーナーの肉体に大きな負担をかける事もあったのだ。

 しかしモモナリは「良いから早く」と、それを促す。先ほどと違って、多少不機嫌そうであった。

「やるしかないだろうね」

 そのやり取りを眺めていたギーマも、諦めたようなため息を付きながらニーベに言う。

「どっちももう止まらない。なに、多少は大丈夫さ、『チャンピオンロード世代』だろう?」

 意見が数的不利になり、ニーベはあまりにも大きいため息を付きながら、ウエストポーチからすごい傷薬の三点セットを取り出し、モモナリに向けて放り投げた。

「よくもまあそんなことが出来るもんだよ、そんな生活続けてたらいつかぶっ壊れる。それが怖くないのかい」

「全く」と、モモナリは傷薬のキャップを咥えて捻りながらそう答えた。その目は輝き、次のバトルへの期待が見て取れた。

 

 

 

「はは、どうやらもう一戦やるらしいな」

 ニコニコと笑うカールは、対面のモモナリが傷薬でポケモンたちを回復させているのを眺めていた。その姿に、敗北のショックはないようだった。

「良かったじゃないか、お前も戦えそうだぞ」

 ジャクソンも、カールと同じくそれを眺めながら、しかし声を上げることができなかった。

 父が負け、自らが負け、再び父が負けた。もはや自らが次期イッシュリーグチャンピオン候補であるという自信は崩れかけている。

 カールは、青ざめる息子の表情を眺めながら、問う。

「怖いか、ジャクソン」

 うっ、と、彼は言葉をつまらせた。再び、身を守るための虚勢の煙幕を張ろうとしたが、実の父親にそれは無意味であることを理解して、うなだれながら答える。

「怖いさ、父さん」

「何が怖い」

「モモナリが怖い、あのエキシビションで戦ったときから、ずっと怖い。掴みどころのないトレーナーなんだ、何を考えてるかさっぱりわからない」

「そうか、まだあるだろ」

 どうやら、父親には何も隠し事が出来ないようだった。

 一つ息を吐いて気持ちを落ち着かせてから答える。

「一番怖いのは、俺がイッシュのAリーグを背負っているって事だよ。ここで俺が負けちまったら一体どうすれば良いんだ、カントーの中堅トレーナーに格付けされちまった男が、イッシュリーグを代表してチャンピオンと戦えば良いのか? そんなのイッシュにいるありとあらゆる人間に申し訳ねえ。わかってる、この恐怖を、あの男を乗り越えなきゃ次のレベルにいけないことはわかってんだよ、だけど、どうしてもこの怖さから逃れられねえ」

 ははは、と、カールは笑った。

「ついこの間まで、ガキだと思っていたんだがなあ」

 そして彼は、息子と目を合わせて言う。

「俺も怖かった」

 ジャクソンは驚いた、あこがれの父からそのような言葉が出るとは。

「何も守るものがなかった若手時代はまあ、それこそ何も怖いものはなかったが、リーグに所属して、昇格して、要人を警護して、ママと出会って、お前が生まれて、そのたびに、負けることが怖くなった。実際の所、負けたって何かが劇的に変わるってわけでもないんだが、それでもやっぱり、怖いものは怖い。しかし、だからこそ、強くなる」

 息子の肩を叩いて続ける。

「それでこそ正常なんだよ、何かを守らなければならない自覚があって、何かに恐怖して、それこそが正常、それこそが人間なんだ」

 ジャクソンは喉を鳴らした。高鳴る心臓の鼓動を感じながら、それを受け入れて父親に質問する。

「父さん、俺、勝てるかな」

 カールは息子に笑いかけた。

「俺があと五年若けりゃあいつに勝ってた、お前は俺よりずっと若いだろう? お前は大したやつだ、俺がお前くらいの年の頃なんて、女のケツ追っかけることしか考えてなかったよ」

 ジャクソンは笑って、父とハグした。彼はその背中にイッシュリーグを背負うことを受け入れたし、新たに父の名を背負わなければならないことも覚悟していた。

 ポケモンを回復させたモモナリが対戦場に足を踏み入れ、期待のこもった眼差しをジャクソンに向ける。

 狂人め、と、ジャクソンはいつもの調子を取り戻しつつあった。

 

 

 

 

 戦いは終わり、もう日が落ちかけていた。カールとジャクソンの親子はポケモンセンターに向かい、岬には三人が残されている。

「げんきのかけら、いくつ持ってます?」

 懐からポケモンを回復させることが出来るアイテムであるげんきのかけらを二つ取り出しながら、ニーベとギーマに問うた。

「お、四つあるぞ」と、ニーベがまたもやウエストポーチからげんきのかけらを取り出し、モモナリにパスする。

「どうも、今度奢りますよ」

「言ったな、奢られるときの俺はすごいぞ」

 ははは、と笑い合う二人に、ギーマが傷薬を手に持ちながら歩み寄る。

「体力の回復は私がやろう。しかし、今日は厄日だったね」

 何の疑いもなく買い物から帰ってくれば、勝手に対戦場に引きずり込まれてポケモンバトル、それも六対六の本気の形式で、対戦相手はイッシュリーグの次期チャンピオン決定出場者、無茶苦茶だ。

 しかし、モモナリは首をひねりながらそれに答えた。

「どうして、むしろ幸運な日だとすら思うよ」

 ギーマはそれに呆れた笑いを重ねた、きっとこの男は、本気でそう思っているんだろう。

 モモナリは手際よくポケモンたちを回復させ、それぞれをボールに収める。

「イッシュの有名トレーナー三人と戦える。今月一番幸せな日だよ」

 三人、と言う単語にギーマとニーベが反応するよりも先に、モモナリはゆっくりとギーマから離れ、対戦場に向かっていた。

 さらにギーマに笑いかけながら続ける。

「きっと世界の何処かで、今日はリベンジの日なんだろうね」

 ギーマはあのエキシビションを思い出した。そうか、そう言えばあの日、自分はモモナリに勝利していたんだ。

 やはりギーマは呆れた笑いを浮かべながら、同じく対戦場へと向かう。

 それに気がついたニーベは、もう勘弁してくれと言った風に両手を振り上げながら叫んだ。

「もうやってられねえ! 自由にやってくれ! 俺はポケモンセンターで待ってるからな!」




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