モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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『週刊ポケモン生活 アローラ特集号』 3-追想のアローラ

 アロ~ラ~。

 この挨拶はアローラ地方ではかなり万能だ、出会いもアローラ別れもアローラ、そして戦う時もアローラだ。

 ククイ氏がアローラ地方にポケモンリーグを設立しようとした理由の大きな一つは、アローラ地方から世界に通用するトレーナーを輩出する事らしい。彼いわく、アローラ地方のトレーナー達のレベルは高いが、それはアローラ地方の中で留まっており、世界に対してそれをアピールする場が無かったという。

 確かに、カントーでのククイ氏の戦いぶりを見る限り、アローラ地方のトレーナーのレベルは高いのだろう。だが、僕は現実主義なところがあって、自分で経験したことしか信じないきらいがある。

 というわけで、僕はアローラ地方で多くのトレーナーと戦ってきた。向こうでもある程度の地位のあるトレーナーや、地元のアマチュアトレーナー、果てはチャンピオンに至るまで、数多くのトレーナーと戦った。

 その経験からハッキリと断言するが、アローラ地方のトレーナーのレベルは非常に高いと言って良いと思う。個人的にはポケモンリーグ支部がある他地方と同等かそれ以上の資質を秘めているのではないかと感じた。

 アローラ地方のトレーナーは感覚が鋭く、物怖じしない。アマチュアのトレーナーは僕がガブリアスを繰り出した時に身構えたり必要以上に警戒したりすることが多いのだが、アローラのトレーナー達はドラゴンを畏怖することがあまりないようだった。

 彼らの質の高さを作り出しているものは、アローラ地方独特のトレーナー育成システムにあると僕は確信している。

 アローラ地方の「島巡り」の風習についてはご存じの方が多いだろう。本誌でも特集されていたことがある。

 トレーナーになることを志す子供は、十一歳になるとアローラ地方四つの島をめぐりながら数々の試練を乗り越え、最終的にはカプ神(比喩的表現ではなく、実際に存在する。驚くべきことだが、アローラ地方では未だに人間の上にポケモンの意志が存在するのだ)に認められた四人の王達を乗り越えなければならないというものだ。

 この「試練」と言うものが非常に興味深い、僕はいくつかの試練を見学、体験したが、これらの試練はカントーやジョウトのジムのように対トレーナーを意識しているものではなく、野性を強く意識しているように思う。

 試練の中でトレーナーはそこら一帯の野生を支配している『ぬし』と戦わなければならない。このぬしは通常より強力な個体で、座学でポケモンを理解しようと努めているトレーナーなどからすれば、規格外の存在だ。

 更にこの『ぬし』はこちらの都合などお構いなしに仲間を呼ぶ、驚くほど簡単に二対一の状況を作られるのだ、勿論トレーナーはたった一人でこの状況を乗り越えなければならない。それが出来なければ、アローラ地方ではトレーナー失格の烙印を押されてしまうのだ。

 僕はこれらの試練を見て、非常に懐かしい気持ちを覚えた。これは僕達『チャンピオンロード世代』が慣れ親しんできた、野生への対抗そのものなのだ。

 もはや最近では時代遅れとすら言われなくなった『チャンピオンロード世代』の考え方だが、僕はやはり今になってもこの考え方は重要だと感じている。特に野生に対する実戦経験については、情報化トレーナーの御大であり、殿堂入りトレーナーであるキシもその重要性を説いている。

 だが、それだけでは足りないことはこのエッセイの読者であればお分かりになるだろう。現代バトルにおいて、実戦経験からなるトレーナーがポケモンリーグのチャンピオンになるには、ワタルのように超強力なポケモン達と信頼を得るか、カリンのように神の意志をもねじ伏せることができるような才覚に恵まれる他無い。

 僕ごときがこういうのもなんだが、僕はアローラ地方のトレーナー達と戦い、彼らに足りないものを感じることが出来たし、同時に彼らの伸びしろも十分に感じることが出来た。

 これは僕の友達の意見だが、彼はアマチュアの大会で成績を残している子供の才覚を図る際に、座学よりも、思い切りの良さと、何事にも全力で取り組む姿勢をより重要視するという。そのような子供の方が伸び止むことが少ないようだ。

 肝の据わったアローラのトレーナー達が、ククイ氏のように情報を知ってどうなるのかは、非常に興味深いと僕は思っている。




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