モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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45-シロガネ越え

 第八節を終えて以来、連日騒がれまくりである。リーグトレーナーとしてチャンピオンを目指すのは当然ではあるが、はっきり言って僕自身何だか落ち着かない、フワフワとした気分である。ここで引き締めねばならないとはわかっては居るのだが…。

 

 第八節、僕はアサギシティで前チャンピオンのキシ君との対戦だった。お互いに四勝三敗で迎えたこの試合、キシ君は順列一位のクロセ君が五勝二敗であることを考えると絶対に落とせない。

 僕はキシ君には幾つかの借りがある、僕は負けっぱなしは嫌いだし、ここらへんで一発ドカンと入れてやらないと完全に格付けが行われてしまうので、負けは避けたかった。

 試合の内容は多くの媒体で解説されていると思うのでここでは結果だけを言うが、僕はキシ君にこれまでの借りをまとめて返した。

 試合後、ニシキノ君がクロセ君に勝利したということを伝えられたが、その時の僕は前チャンピオンに勝利した事で頭がいっぱいで、Aリーグはどのようなことになっていて自分がどのような状況に置かれているのか、ということを客観的に理解できたのは翌日の朝、ホテルの売店でスポーツ紙を見てからだった。またまた大げさにと思われるかもしれないが、勝負の後は大体周りのことは見えなくなっている、勝った時よりも負けた時のほうが意外と冷静に周りが見えるのだ。

 

 クロセ君に黒星がついて五勝三敗、他に五勝のトレーナーはニシキノ君と、僕だ。つまりこの三人が暫定順列一位ということになる。

 ちなみに次点の四勝四敗にはキシ、オグラ、ワタル、イツキ、シバタが並ぶ、史上空前の大混戦である。

 最終節、僕はワタルさんと、ニシキノ君はシバタ君と、クロセ君はキシ君と対戦する。

 はっきり言ってどの試合も勝敗が読めない。三人の内誰かが抜けだして優勝することだってあるし、三人全員が勝利してプレーオフに持ち込まれる可能性もある。これは薄い可能性だが、事の起こりによっては十人中七人が五勝四敗で並んでプレーオフなんてこともある、三人がプレーオフをすることすら珍しいのに七人となると…日程は大丈夫なのだろうか?

 少なくとも、誰かのぶっちぎり優勝を予想した人は大なり小なりの恥をかいたということだ。

 

 第八節の翌日、僕がアサギシティの牧場に息抜きに行くと、そこでニシキノ君とばったり出会った。

 リーグ戦の翌日と言うこともあり、僕達は機嫌よく談笑した。するとニシキノ君は「僕のガブリアスをモモナリさんのガブリアスと遊ばせてくれませんか?」と言うのである。一体何を言うんだと思ったのだが「モモナリさんのガブリアスは業界では有名なんですよ、ガブリアス達の中では超モテモテですよ」と続けるのである。

 

 イマイチ飲み込めないがまあ牧場だし良いかと思ってお互いにガブリアスをくりだすと、なるほど確かにニシキノ君のガブリアスは僕のガブリアスに気があるようで、全くの異種族である僕ですら、彼の緊張が伝わるようだった。

 最も、僕のガブリアスは僕達の言葉でいうところの「お高く止まっている」らしく、彼に目すら向けず、ミルタンク達と一緒に木の実を探していた。お高く止まるのはいいけど、ちょっと理想が高すぎないか? ニシキノ君のガブリアスでダメなら他に誰がいいの?

 

「こういうのって勝負に影響したりするのかねえ?」

「さあ、聞いたことのない話なんで。大した影響は無いか、もしくは前例が無いかでしょう」

 そんな冗談みたいな会話を皮切りに、僕達はお互いの健闘を讃え合った。僕達リーグトレーナーにとって、それはものすごく珍しいことだった。しかし、僕達はもう試合を終えていたし、お互い次の試合を勝つしか無いという立場は同じだった。お互いに、どこかプレッシャーを感じていたのだと思う。

 彼はふと「シロガネ越えを現実にする」と言った。

 カントーリーグとジョウトリーグが併合されて以来、チャンピオンはカントー出身者ばかりだった。昨年、カリンさんがチャンピオンになったことでようやくジョウト出身者のチャンピオンが誕生したのである。

 しかし、チャンピオンとリーグ優勝者が共にジョウト出身者だったことは無い。カントー・ジョウトリーグのチャンピオン決定戦がカントー地方の聖地であるセキエイ高原で行われることに誰かが異を唱えたことすら無いのである。ジョウト出身者はこの見えない意識の差に対抗心を燃やしているのだ。

 

 これは僕の個人的な意見だが、ジョウト出身のトレーナーは元気がよく、良い意味で血気盛んだと思う。僕は彼等のように自分以外の何かのために戦うということはないが、彼等のそういうハングリー精神は見習うべきものだろう。




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