モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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40-後ろ向きに行こう

 オフシーズンも終わり、ファンが賑わう。世間の噂に耳を傾ければ早くもチャンピオン予想、昇格者予想に降格者予想、果てはCリーグ編入者予想である。

 ところが僕達リーグトレーナーはそれを笑えない。何故ならば今よりもずっと前、具体的に言えばチャンピオン就任式の時にカリンさんが堂々Aリーグ勝者予想をやっちゃったからである。

 今年のチャンピオン就任式はすこぶる豪華だった、来場者の数も顔ぶれも相当豪華で、この場にファンを一人放り込めばそのファンは一週間は楽しめるだろうなと思った次第である。やはり『チャンピオンロード世代』久々の戴冠は話題性抜群だった。

 事の発端はチャンピオンの挨拶である。定例の演説をひと通り終えると急にクロセくんを指さして。

「来年はあの子が私からチャンピオンを奪おうとしてくるでしょう」

 と、言ってしまったもんだから会場騒然である。クロセ君にかかるプレッシャーは相当なものになるだろうし、他のAリーガー、特にキシ君とニシキノ君あたりはクロセ君との試合により特別な闘志を燃やすだろう。カリンさんとしては軽いいたずらごころなのだろうが、うーん、悪女である。久々にゾクゾクっと来た。

 ぶっちゃけて言ってしまえばカリンさんのこの予想は特別おかしいってわけでもない。後乗りするわけではないが僕も今期のAリーグはクロセ君を中心に回ると思う。クロセ君から勝ち星を得ることができたらそれだけでリーグで優位に立てるだろう。

 ただ、クロセ君がそのままぶっちぎって優勝するとは考えられない。キシ君やワタルさんは殿堂入り経験者で実力は折り紙つきだし、オグラ君やニシキノ君ら若手も勢いがある。そもそもAリーガーは全員強い。

 

 カリンさんの爆弾発言の後、良いつまみを探して彷徨っていると、ポンポンと肩を叩かれた。振り返ると人懐っこい笑顔、リーグトレーナーのシバタ君である。

「モモナリさぁん。昇格おめでとうございまぁす」

 僕がふざけているのではない、本当にこういうしゃべり方なのである。

 シバタ君は変なトレーナーである、僕が変って言うんだから相当変だと思う。実力は申し分ないAリーガーで、若い頃のイツキさんを彷彿とさせる中性的な容姿に、よく通るアルト声。もって生まれたものが素晴らしいのだが、いかんせんとてつもなく悲観的である。某水系女性ジムリーダーは「会話をしていると思わず抱きしめたくなる時がある」というほどである。

 その日もネガティブが炸裂していた。

「さっきの聞きましたかぁ? もう俺のことは見えてないって感じですねぇ」

「いやいや、あれはいたずらみたいなものだから」

「いやいやぁ、どうせ皆僕のことなんて大して考えてないんですよぉ。去年も九位でギリギリですしぃ、キシやニシキノに抜かれるだけならまだしもオグラにも抜かれる始末ですよぉ」

 シバタ君は決して弱いトレーナーではないのだが、如何せんムラッ気が凄い。ムラッ気にもいろいろあって試合ごとにムラがあるタイプや日毎にムラがあるタイプなどがあるのだが、シバタ君の場合は年単位である。当たり年は本当に手がつけられない。

 ここまでネガティブな事を押しておいてなんだが、シバタ君の強みは瞬発的な踏み込みにある。序盤だろうが中盤だろうが終盤だろうがイケると思った時には一切の迷いがない。それが成功しようと失敗しようと見ていて思わず惚れ惚れする。

 それをシバタ君に伝えると「やらなかった時の後悔は引きずりますからねぇ、僕みたいに何も強みがないとそういうことするしか無いんですよぉ」と怪しく微笑むのである。

 僕は「でもさ、ぶっちゃけ今の立ち位置得だと思ってるでしょ?」と図星をつくと「いやいやぁ」と言いながら、少しだけ眼の奥を光らせるのである。本当に良くわからないトレーナーだ。

 

 クロセ君の初戦の相手は、件のシバタ君である。僕は当たり年のシバタ君ならわからないと思うので期待したい。




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