モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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33-リーグの母

 先日、Aリーグのカリン-ワタル戦を観戦した。とにかく最近は何かバトル技術向上のヒントになるものがあればと必死である。強くなれる壺やらヤドンの尻尾やらあったら買ってしまう勢いだ。

 ワタルさんは四戦全勝、カリンさんは三勝一敗と共にリーグのトップ戦線を牽引している。どれだけ世代交代が行われても、この二人とイツキさんはいつまでもトップを張り続けている。僕のような古い世代のトレーナーからすればお手本にすべき人材である。

 会場で、キクコさんと出会った。出会いざまに足の甲を杖で思いっきり突かれ、悶絶した。ポケモンリーグ引退から随分と経っているがまだまだ元気な様子だった。

 

 カントーポケモンリーグの歴史を語る上で、キクコさんの存在は外せないだろう。まだポケモンバトルというものがメインストリームでなかった時代において、うら若き銀髪のキクコさんがゴーストタイプと毒タイプを操るその姿は、多くの注目を集めたことだろう。

 一番の戦友であり当時五本の指にはいる優秀なトレーナーだったオーキド氏がポケモン学一本に絞ってもなおポケモンバトルにこだわり続け、自分一人だけでは形にならないとこの頃から優秀なトレーナーの発掘を兼任、カンナさんをヨツノシマから引きずり出し、シバさんを山から下りさせた(全く比喩ではない)のは、当時バリバリの超一流トレーナーだったキクコさんである。

 自身も高齢になるまでトレーナーとして高いレベルを維持し、あのレッドとも戦った。自戦記の中では「ついに私の知らないトレーナーが私を倒すまでこの業界が広がった」という意味の発言もしている。

 引退後は後任の育成にも力を注ぎ、その数多くの弟子は『キクコ一門』としてポケモンリーグに広がっている。

 

 僕がまだ若手だった頃、まだ現役だったキクコさんに呼び止められ「あんた、ポケモンは好きかい?」と聞かれたことがある。

 僕は間髪入れずに「はい」と答えた。若くて無鉄砲な頃の僕でも、尊敬するに値する人物であることくらいはわかっていた。

「研究に興味はあるのかい?」と彼女は聞いた。全く興味が無いと言うとキクコさんはニヤッと笑って「そうかいそうかい、そりゃあ良いことだ、生涯この道を進みな」と言っていた。

 

「今日はキキョウでキリューの試合でしょう?」と足の甲を擦りながら言うと「あれは手のかからない弟子さ、何も見ることはないよ。あんたのほうが心配だね」と杖をかつかつ鳴らす。

「弟子の一人から聞いたよ、壁にぶち当たってるみたいだねえ」

 僕は返す言葉がなかった。

「どんなトレーナーでも、いずれ壁にはぶち当たるもんさ。あんたは遅いくらいだよ」

 

 カリン-ワタル戦はカリンさんの新戦力お披露目となった。カリンさんはドラゴンポケモンのサザンドラを繰り出し、試合に勝利した。

 サザンドラは悪タイプのポケモンでもあるから、カリンさんが使うこと自体は不思議ではないのだが、サザンドラはかなり強さが全面に出ているポケモンである。

「ご覧、あのカリンだって新しい変化を入れている。あんたはこれまでうまく行きすぎただけさ、強くていい男はね、壁なんてぶち壊すものさ」

 キクコさんは返事をしない僕の足の甲(もう片方)に再び杖を突き立てた。

「返事は『はい』だよ、二度は言わないからね」

 僕は思い切り、はい。と叫んだ。

 殿堂入りトレーナーキクコは今もこうしてポケモンリーグを見守っている。




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