モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。

カントー日報『灯火』⑰

Q　すぐに応用問題を解きたがる娘、どうすれば。

　私自身はこれまでポケモンと触れ合うことはあまりなかったのですが、私の知り合いにトレーナーとしての才能豊かな方々がいます。彼らはいわゆるリーグトレーナーではありませんが、即興でその場の地形や状況、トレーナーとポケモンとの距離などを利用して鮮やかに戦っており、素人目ながらその技術や強さはAリーグトレーナーにも引けをとらないのではないかと思っています。

　彼らの強さを疑っているわけではないのですが。困ったことに、娘がその方々の戦い方を真似しようと躍起になっています。友達とのバトルでもあっちこっちに位置を取りたがったり、平地ではない地形で戦いたがったりしているのです。ですが、中々思うようにはいかないらしく、悔しがっている様子を最近はよく目にします。

　娘はまだポケモンを手にして一年と少しです。基本もできていないのに上級者の戦いを真似しようとしても、上手くいかないのは当然です。そういった時、なにか私ができることはあるのでしょうか。

（40代　主婦）

A　基本ってなんだろう。

　難しい話だと思う。だけど、直ぐ側に手本となるトレーナーがいる事は素晴らしいことだ。僕なんかは地元ハナダに手本になるようなトレーナーはカスミを含めて数えるほどしかいなかったからね。そういう意味ではいい環境にいると思うよ。

　さて、娘さんのように『基本ができていないのに応用的な戦いをしたがる』という駆け出しトレーナーは、多いようで実は少なくなってきていると感じている。僕が思うにそれは『覚えるべき基本が増えすぎている』のが原因なんじゃないかと思っているんだ。

　ポケモンレンジャーの知り合いと飲みに行くと『最近の若いのは自然を知らない』という愚痴を聞くことがある。勿論それはベテランが話の合わない若手に苦言を呈したいだけなのかもしれない、僕だって若手の頃は『あいつは本物の戦いを知らない』と言われたしね。

　ただ、似たようなことを僕も思うことがある。若いトレーナーの座学の努力は素直に尊敬するし、それが間違っているとも思わないけど、彼らは机上の『基本』を積み重ねすぎて、咄嗟のことに反応できないことが非常に多いんだ。皮肉な話だけど。だから僕はまだこの世界で食えている。

　果てしなくフラットな対戦場で、一人と一匹ずつが向き合って技を繰り出す。それを前提とした『基本』は、果たして本当に『基本』なんだろうか。あるいはあなたの知り合いのように、地形や距離までを想定して戦うことのほうが『基本』なんじゃないだろうか。

　カッコいいと思う戦い方を真似て、真似て、悔しい思いをしながら考えて、そうやって『基本』を身に着けていく。若いんだからそんな回り道をしたって良いと僕は思うよ。地形や距離を利用するような戦い方に憧れるのは、それだけで立派な個性です。その後のことは、その後に考えれば良い。

　お母さんとしては、何も特別なことは考えなくてもいいんじゃないかなと思う。いつもと同じように、良いと思ったら褒めて、悪いと思ったら叱って、必要だと思えば励ませば良い。バトルのことはわからないかもしれないけれど、態度とか向き合い方とか、そういうのはわかると思います。

　特に、娘さんが憧れるような戦い方には従うべき『基本』が言語化されていないことが多いと思うので、対戦場ベースの『基本』を詰め込んだトレーナーに比べて悔しい思いをするかもしれないですから、そこはケアしてあげたほうが良いかもしれない。僕達よりも、そのようなレンジャー的な戦いのほうがよっぽど価値がありそうなのに不思議な話ですよね。

　ところで、もしよろしければそのAリーガーにも引けを取らない才能を持つ方々についてもっと教えてほしいな、多分ポケモンレンジャーに近い人達なんだろうけど、すごく興味があるので、一度話がしてみたいよ。

（リーグトレーナー　モモナリ・マナブ）

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