モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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コラム モモナリという男 其の二 ――『週刊ポケモン生活』編集部T――

 気がつけば、私はモモナリ氏の専門記者のような立場になっていた。

 付き合いを深めていく内に、私はモモナリ氏が何故先輩記者に「変わり者」だと言われるのかがわかってきた。

 

 勝負に生きなければならないリーグトレーナーは、日常を捨てている面がある。そうしないと、勝負という非日常に向き合うことが出来ないからだ。

 だから私達勝負を深く知らぬ人間は、彼等を見て違和感を覚える。自分達とは違う生き方や感覚にだ。

 ところが、ポケモンバトルのファンやバトルを嗜んだことがある人間は、彼等の『ズレ』が魅力的に見えるという逆転現象が起こる。勝負に生きるということに憧れているからこそ、彼等の『ズレ』が輝いて見えるからだ。

 しかし、モモナリ氏からはそういった『ズレ』が見当たらない、勝負の世界に身をおきながら、それを日常として受け入れて日々過ごすという異常性が再逆転して写り、先輩記者のようなバトル関係者からは妙に見え、私のような凡人からは普通に見えてしまうのだ。しかし、それこそがモモナリ氏の才能の最たるものだと私は思う。

 

 ○*年は、モモナリ氏にとって飛躍の年となった。

 それまで猛威を振るっていた「天候変更パーティ」に対しての対策であるノーてんきゴルダック砂嵐パーティを実戦投入し、リーグ戦を荒らし回り、全トレーナー参加のシルフトーナメントでは準優勝、最終的に十勝一敗の成績でAリーグ昇格を決めたのである。

 業界はカッと沸いた。有り余る才能を持て余していた変人が、ついに『勝負師』としてその気になったのだと誰もが思った。

 私もその一人だった。そして同時に、彼もまた向こう側へと行ってしまったのだろうと、寂しく思った。

 ところが、彼は全く変わっていなかった。彼はにこやかに対戦場のある町(リーグ戦はカントージョウトの各町に派遣される)に現われ、私や他の記者と軽口をかわし、その町の名産をポケモンと楽しみ、まるで友人と会うかのようににこやかに対戦場に踏み込み「いやー、危なかったですよ」と、またにこやかに帰ってくるのである。

 私は、その時初めて、モモナリ氏の狂気に震えたのである。

 

 しかし、皮肉なことにモモナリ氏の活躍はポケモンバトルの流行そのものを押し変えてしまった。

 モモナリ氏の昇格後、バトルの主流は一匹でも流れを作ることが出来るエース格のポケモンを複数体所有すると言う方向に変わった、全く異なるタイプの、しかもそれぞれ強力なポケモンを育成することはとても困難なことではあるのだが、トップトレーナーたちは見事に対応してみせた。

 モモナリ氏のAリーグ一期目の成績は序列七位、十人中下位二名が降格することを考えるとギリギリの成績である。

 Aリーグ二期目、彼は二勝七敗と大きく負け越してBリーグ降格が決まった。皮肉なことに降格を決定させた相手はパーティの切り替えを早くに成功させ、後に殿堂入りトレーナーとなるキシであった。

 

 彼の降格が決まった日、私は彼を飲みに誘った。私から誘うのは初めてだった。私と彼の感覚が同じならば、彼は落ち込んでいると思ったからだ。しかし、不安でもあった、勝負師であるトレーナーをどう励ませばいいのかわからなかった。

「出来すぎだったんだよ」

 彼は全くのシラフでそう言った。

「そもそも僕は天候操作パーティを潰したいだけだったんだ。あれは間違った戦術だからね、天気を変えて、自殺で退場なんて事あっちゃダメなんだ」

 天候変更パーティはその性質上、天候を変更させる役とエース格とのポケモンの交代時にラグが生まれる。

 そのラグを軽減させるために、例えばマルマインのようなポケモンで天候を変更し、大爆発で退場するという戦術について、真剣に議論されていた時代である。

 モモナリ氏は、その戦術を非常に嫌っていた「そこまでして勝ちたいのか!」と声を荒らげていたこともあった。

「昇格ってのは、あくまで結果だったんだ。思えば、あまりいい昇格じゃなかったね、二度も落ちぶれたと言われたトレーナーは、僕くらいじゃないかな?」

 私は、モモナリ氏のその言葉にとても感心した。あまり落ち込んでいる風ではないと安心したのと同時に、やはり我々とは違う考え方をしているのだと思った。

 しかし、彼は注文していた強めの酒を一気に煽って続けた。

「そう思い込まないとやっていけないよねえ。一月もすればいい思い出になるんだけど、逆に言えば一月はずーっと引きずっちゃうんだよ、そんなもんだよね、人間」

 やはりモモナリ氏は等身大である。私は安心して、凡人流に彼を励ましたのである。




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