霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 今回は藍視点です



第90話 : もはやカリスマなんてなかった

 

 

 解析中――妖力の損耗98.66%、消耗速度7.3倍。

 ……成程、これは少し厄介な状況だな。

 

「無事だといいが…」

 

 紫様が負傷した影響で、式神である私の力もまた不安定化している。

 更には紫様の回復のために私の妖力を一気に消費してきてしまったことで、もはや思うように力が出ない。

 だが、それでも休んでいる訳にはいかない。

 紫様が動けない以上、私が代わりに霊夢のもとへ行かなければ。

 

「っ!! ……やはり、か」

 

 外に出て目に入ったのは、最悪の状況だった。

 レミリア達が飛び出てきた穴や爪痕とは違う、さっきまでなかったはずの巨大なクレーター。

 来る途中に感じた大きな地響きはこれの影響だったのだろう、そこから感じられる力の残照は霊夢の中に眠る力の暴走を如実に物語っている。

 体温が、一気に下がったように感じた。

 あまりに次元の違う力は、私の心的外傷を蘇らせていく。

 たとえ最強の妖獣などと呼ばれようとも、あの力を前にしては私とてただの木端妖怪と大差ないのだから。

 

「っ……くそっ。止まれ、止まれっ!!」

 

 身体の震えが止まってくれない。

 ……落ち着け、何かもっと別の強烈なことを考えろ。

 そうだ 最近になって増えた私の黒歴史の数々を思い出せ。

 勘違いしたキャラ作りでシリアスな場面に飛び出した恥ずかしさを。

 何か危険物を取り扱うように橙に気を遣われながら過ごした屈辱の日々を。

 アリスの策略であんな……あんなフリフリの服を着せられて、あまつさえ、あんな……

 

「ぁぁ……うわああああああああああっ!?」

 

 やめろおおおおおっ、もう思い出すな、これ以上は危険だ!

 よし、だがおかげで頭は割とクリーンだ、あとはこのやるせない気持ちさえ晴らせば私は冷静だ。

 何か、何か良いイライラの捌け口は……

 

「……むむっ」

 

 微かにだが、あっちの方角……大きく崩れた紅魔館の一角から奇妙な力の波動を感じる。

 この気配は……恐らくはあの吸血鬼か!

 ということはそこに霊夢と十六夜咲夜もいるのか? 例の力も僅かにしか感じないということは、霊夢も元通りになったということだな。

 ならば私の役目は決まっている。いつもの口調で吸血鬼を無力化し、威厳を取り戻すのだ!

 

「そこまでだぶっ……!?」

 

 だが、猛スピードで突入した私の顔面を横から打ち抜く蹴り。私の身体はそのまま瓦礫の山へとダイブした。

 多分これは吸血鬼からの反撃でもないし、霊夢たちの誤爆でもない。

 この鋭さは……

 

「……やっぱり、貴方たちですか」

「紅美鈴……だと?」

 

 そこにいるのはどうやら気を失っている吸血鬼と、それに背を向け構えている紅美鈴だけだった。

 これはどういう状況だ? どうして霊夢も十六夜咲夜もいないんだ?

 それに、明らかにこいつが吸血鬼ではなく私に敵意を向けている状況。

 ……マズいな。今の消耗しきった状態ではこいつの相手はできそうにない。

 どうにかして戦闘は回避したいのだが……どうしたものか。

 

「どうしてお前がそいつと一緒にいる? それに、やっぱりというのは…」

「……事情は知りませんが、咲夜さんからこの子を守ってあげてと頼まれただけです。それに、今の私たちの敵であり得るのなんて貴方たちくらいでしょう?」

 

 なるほど、丁寧な回答に感謝する。

 その話からして、少なくとも十六夜咲夜は無事ということか。

 ならばあとは霊夢の安否だが、確かこいつと霊夢は敵対中のはずだ。

 とすると、こいつから霊夢の情報を得るには、冷静沈着に説得しつつ物事を進めるスキルが問われる訳だ。

 ふふっ、大丈夫だ問題ない。私の得意分野だ。

 

「ま、待て、私に敵意はない。今は停戦を…」

「停戦? いきなり殺気全開で押し入った人を信じろと?」

 

 う、うむ、確かにそれはもっともだ。

 正直、有無を言わさず不意打ちで吸血鬼を無力化してから考えようと思っていた訳だからな!

 ……改めて考えると、どうやら私はまた暴走していたようだ。

 やはり私は一度冷静さを失うとしばらくはダメらしい、もうこれは直そうと思って直せるものではないのだろうな。

 

「違うんだ、私の目的は霊夢の安否確認だけだ! だから霊夢の無事さえ確認できたなら私も手は出さないと約束しよう。霊夢はどこにいるんだ!?」

「霊夢……ああ、あの子ですか、そういえばどこに行ったんですかね。さっき咲夜さんの時間停止中に見かけた時は何か前と雰囲気が違ったのが気になりますけど……咲夜さんと一緒にいつの間にかいなくなってましたからね」

「……何、だと?」

 

 ちょっと待て。雰囲気の違う霊夢が、十六夜咲夜と一緒にだと……!?

 だとすると、まさか……

 

「まぁ、私はあの子のことをそれ以上知りませんので、用が済んだなら早く消えてくれませ…」

「どこだ」

「……何がですか?」

「霊夢がいた場所だ!!」

 

 最悪のシナリオが浮かんだまま、頭から離れない。

 もしも霊夢が扱いきれなかった力が暴走しているだけではなく、本当にあの邪悪の力が表出しているとすれば。

 そして、十六夜咲夜がその対処を一人で請け負っているとすれば――こんなところで油を売っている場合ではない!

 

「……外に大きなクレーターがあるでしょう。アレの近くです」

「そんな曖昧な情報じゃなく、もっと正確にだ! もういい、お前もついてきてくれ…っ!?」

 

 紅美鈴の腕を掴もうとして、それは激しく拒絶された。

 おいちょっと待て、確かに今は敵対中かもしれないが、過去のいざこざを気にしてるような場合じゃないだろう!?

 危ないのは霊夢じゃない、一刻も早く正確な結界の位置把握をして駆け付けなければ十六夜咲夜の命が危ないというのに、どうしてこいつは話を聞いてくれないんだ!

 

「いいから言うことを聞け、時間がないんだ!」

「何のつもりかは知りませんが、お引き取りください。私はこの子の手当てをしなければなりませんので」

「このっ、十六夜咲夜がどうなってもいいのか!?」

「……手を出さない約束はどうしたんですか? ま、今さら貴方たちの言葉なんて信用する気もありませんでしたが……咲夜さんを人質にしようというのなら、私は貴方を止めなければなりませんね」

 

 いやいやいやいや、そうじゃないだろう火に油を注いでどうするんだアホか私はっ!?

 だが、今更こいつを改めて説得する方法を考えてる余裕も、こんな押し問答に割いている時間もない。

 とすると、一刻も早く解決するには――

 

「この分からず屋が。ならば、力ずくでもついてきてもらうぞ!」

「やれるものならっ!!」

 

 そして次の瞬間には、なぜか戦いの火ぶたが切って落とされていた。

 ……どうしてこうなった。

 妖力の消耗が激しすぎて正直言うと今の私の状態じゃ戦える気がしないし、下手するとこのまま消えてしまいそうだ。

 せめて最初の一撃が様子見で、耐えきれるものであることを切に祈るが……

 

「華符――『彩光蓮華掌』!!」

 

 嗚呼、多分一発くらったらダメなやつだろうな、これ。

 念のため再解析中――妖力の損耗99.28%、消耗速度8.1倍。推定勝率……0.2%

 ……あーもう、私のバカ―。

 

 

 

 


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