大変遅くなり申し訳ありません、事故に巻き込まれてしばらく死んでました。落ち着いてきたので、投稿再開します。
今回は小悪魔視点です。
「……どうして」
孤高に浮かぶ満月の下、彼女は一人で虚空を見つめていた。
唇は震え、目の焦点は合っていない。
「そんな訳ない。私が……私がまだ未熟だから…」
魔力の残照を探りながら、フラフラの足取りで辺りを徘徊する。
何もない空間に手を伸ばして、一人ぶつぶつと何か呟き続けて。
そんなことを――彼女は一体、どれだけ続けていたのだろうか。
「嘘よ」
やがて、彼女は遂に膝から崩れ落ちる。
「嫌ぁぁ、返事してよ…」
そして、その目に浮かぶのは果たして……
「お願いだから出てきてよ、レミイイイイ!!」
「きたあああああああっ!!」
「ひゃっ!?」
っしゃあああああっ、いただきました、いただきましたよパチュリー様の泣き顔!!
いやぁ、召還されて以来初の快挙、あのクールを気取ったパチュリー様の弱みを遂に握らせていただきましたよ!
まぁ、ここで調子に乗って反撃食らうのもいつものパターンなんですけど……そんなことを気にしないのが小悪魔クオリティ!
「『私が……私が未熟だから…』って泣いてるのとか、パチュリー様も意外と…」
「小悪魔、お願い手伝って! レミィが、レミィが…!!」
「へ?」
でも、反撃はない。
いつもならこの辺で私が水符くらって濁流に飲まれるところ、なんかパチュリー様は涙目のまま私の挑発とか気にもしてなくて。
……それはそれでつまらん!!
「ふっふっふ、遂に私の力が必要になったようですね、いいでしょう! ただしこの異変の後、私への一日服従を要求すr」
「何でもいいから! 早くしないとレミィが…」
……あー、はいはい。そういう感じですか。
このまま続けるのも、まぁそれはそれで面白そうだから別に構わないんですけど。
私の中で「コレジャナイ」感がハンパないので、終わりにしましょうか。
「とりあえず落ち着いてください。お嬢様は生きてますから」
「……へ?」
あの大穴を抜けてくる途中、アリスさんの飛ばした人形から既にいろいろ情報を受け取っていた私。
紫さんが実はあの時ギリギリでお嬢様を助けていたこと、それでも負傷し動けなくなったお嬢様と紫さんともども治療中ということ。
などなど諸々、少女説明中……
……そして1分後、このこんがり美味しそうに焼けた物体が私になります。
「なるほどね。また八雲紫たちがろくでもないこと企んでると」
「……はぃぃ、でも今回の計画立案はアリスさんで、他の方々はアリスさんを手伝ってるみたいで…」
「そ。だったらそっちはアリスに任せましょうか」
突然のロイヤルフレア一発。いやー、この灼熱に愛を感じますね、やっぱりパチュリー様はこうじゃないと!
……いや、別に私はドMとかって訳じゃないんですよ、ぶっちゃけ痛覚とかは普通に苦痛でしかないので。
ただ、私に泣き顔見せちゃった照れ隠しに魔法をいい感じに手加減して撃って、またすぐクールぶる感じが……なんか可愛いんですよねぇ。
私の方が使い魔ではあるんですけど、強がってる身分違いの子供に仕えてるみたいで楽しいっていうのが私の本音。
ああ、こうしてみると昔の悪魔悪魔しようとしてナイフみたいに尖ってた頃の私は何だったのかしらと思う今日この頃。
「それで、レミィと交戦してたアレは一体何だったの? なんかあの後すごい爆発起こしてたんだけど――そういえば咲夜と霊夢はどうしたの!?」
「へ? いや、それはパチュリー様の方が詳しいんじゃないですか? だってずっと見てたんですよね?」
「……あー、その、ね。ちょっと忙しくて…」
なんか歯切れが悪いんですけど……冗談、ですよね?
だってお嬢様が消えた後も、咲夜さんと霊夢さんが例の子の目の前に残されてたんですよ。
そんな危険な状況に気付いてない、なんてことは…
「だって私あの後ずっと、レミィを探してて、その…」
ずっきゅううううううんっ!!
うわー、アレですね、あの状況で咲夜さんたちに目がいかないとかどれだけ必死だったのかという。
何ですかもう恋する乙女ですか「もうあの人しか見えない」的なアレですかー。
「うわっ、うーわー、うふふっ。愛ですねー、かーわいーですねー、ぱっちゅりーさm…」
んどぅぅううううううんん!!
っていう訳で、はい。なんかすっごく見覚えのある太陽が頭上でいきなり光ったので…これは不意打ち照れ隠しロイヤルフレア第二弾ですねー。
流石の私も、体力的にそろそろ辛く――
「ああもう、今はあんたに構ってる場合じゃないわ、早く咲夜たちを助けに…っ!? あ、れ……?」
「っとと。やっぱりですかー」
なってこないんですよね、これが。
何度もくらいすぎて私に炎属性の耐性ができた訳でも、必死に強がってる訳でもなくて。
いつもよりも、パチュリー様の魔法が弱かっただけで。
それは別に極端に手加減したとかじゃなくて、正直言うと私ももうわかってるんですよねー。
一人で無茶するお嬢様をパチュリー様が心配するように、私にも心配な人くらいいますから。
「そろそろ限界なんですよね、パチュリー様」
「そんなこと…」
突然足の力を失って私にもたれかかってきたパチュリー様が、それでも必死に強がっている。
いやいや、そんな体勢で言っても何の説得力もないですからねほんとに。
「このたった数時間足らずの間に、霊夢さんたちの修業空間維持、咲夜さんの結界破壊に使ったのもほとんどパチュリー様の魔力でしたし、お嬢様からの一撃くらった時なんて流石に死んだかとヒヤヒヤしましたよ」
「でも、まだ咲夜たちが…」
「大丈夫です。咲夜さんは、あとは全部任せてって言ってましたから」
ま、嘘ですけど。
実は私が今ここにいる本当の目的は、ただの時間稼ぎに過ぎないんですよね。
咲夜さんや美鈴さんが今、大変なことになってるのもわかってる。
アリスさんからパチュリー様への伝言もある。
だけどそれは言えません。
だって、もし今の状況を正直に言ったらパチュリー様は無理矢理にでも咲夜さんや美鈴さんを助けに行こうとするだろうし、お嬢様の願いを叶えるためのアリスさんの計画なんて知ったら、自分の体調のことなんて気にも留めずに死ぬまで頑張っちゃう。
そんな人だってことくらい、何十年も使い魔やってたらわかっちゃいますから。
「なので、パチュリー様は少しだけ休んでてください。もし――手に負えなくなったら、叩き起こしますから」
「待ちなさい、小ぁ…く…」
だから、私はそっとパチュリー様を抱きしめながら、微弱な魔法をかけた。
数十分とかでもいいのでゆっくりと休んでくれるよう、眠りの魔法を。
「んー。これだけ戦闘が激しいとすると……やっぱ例の地下室あたりが一番安全ですかね」
そして私はパチュリー様を抱えたまま、誰にも見つからないようひっそりと大穴の中へ飛び込んだ。
今こんなこと言うのもなんだけど、私はこの紅魔館が大好きだ。
自由気ままで愉快な美鈴さんと一緒に、仕事をサボって遊ぶのが大好きだ。
完璧を気取って頑張る咲夜さんを困らせて、追い回されるのが大好きだ。
無表情でも実は優しいお嬢様を、ただのクーデレじゃないかと妄想しながら弄るのが大好きだ。
だけど、それでも。
私は何よりも、パチュリー様が大好きだ。
だからこそ私は、パチュリー様を守るためなら何だってする。
誰にだって物事の優先順位はある、それは当たり前のことですよね。
たとえ誰かを見捨てることになるかもしれなくとも、後で恨まれることになろうとも、それはそれ、これはこれでしかないし。
……ま、かといって他の皆さんを見捨てる気なんてさらさらないんですけどね。
「さてと。それじゃ私もちょっと、本気出しますか」
問題は、本気出してもいつもと大して変わる訳でもないってことくらいですかね(笑)
さーて、まずはパチュリー様を安全なとこに隠したら、パチュリー様の分まで私が肩代わりしないと。
という訳で、本当に私の手に負えなくなったら、その時こそお願いしますねっ、パチュリー様!