霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 またかよって感じかもしれませんが、私生活の関係で執筆時間を最近ほとんどとれていない状況にあります。そのため、すみませんがしばらく更新が2週に1話くらいになるかと思われますm(_ _)m


 今回はアリス視点です。




第87話 : 明鏡止水の慈愛

 

 第87話:もこたんご乱心でござるの巻、はっじまr……

 

「紫! おい、しっかりしろ紫!」

 

 ……はいはい。流石に今回ばかりは遊んでいられるような状況じゃないことくらいわかってるわよ。

 紫は何か背中からものっすごい黒々しい出血して死にそうになってるし、妹紅は泣きそうになってるしで私が遊んでたらマジで収拾つかないもの。

 

「っ……これは一体、どういうことかしら?」

 

 そして、レミリアも紫と同じような状態でけっこうヤバい。

 しかもレミリアはいきなりのことすぎて状況についていけてないみたいだしね。

 

 さっきまで私たちは割と計画どおりに例の吸血鬼と霊夢たちの戦いを観戦してたんだけど、霊夢が何か企み始めたあたりから紫たちの顔色が変わった。

 そして、霊夢が何かヤバい力を使った。

 マジで何あれ?

 冗談抜きに、私が今まで生きてきた中で一番ヤバい部類の何かが霊夢から飛び出した。

 まぁでも多分、紫たちにはそれが予定内のことだったのかしらね、相応の対策を練ってたみたいで。

 んで、霊夢の何かに飲み込まれそうだった吸血鬼をギリギリのところで紫が助け出そうとした――その時、事件は起こった。

 紫が境界に取り込もうとしていた吸血鬼を助けようと、レミリアも飛び出してきてしまったのだ。余計なことしやがって。

 その甲斐あってか、もう一人の吸血鬼の方は助かったみたいだけど、代わりにレミリアがヤバかったので助けるために紫が危険を冒して境界の外に飛び出したからさあ大変。

 最終的に間一髪でレミリアを引っ張り上げて境界の中に逃れたおかげで一応2人とも生き残ってはいるんだけど、少しだけあの力を背中で浴びちゃったみたいなのよね。

 

「行って、妹紅。私のことはいいから」

「紫! よかった意識が…」

「いいから、早く行きなさい!!」

 

 叫んだ紫の目は本気で血走っていた。

 もう境界から外を見る力も残ってないのかしらね。まぁ、あの状況じゃそりゃあ外が心配でしょうよ。

 

「っ……くそっ。アリス、後は頼んだ!」

 

 不安そうに振り返りながら、妹紅は図書館を飛び出していった。

 藍も紫がこっちに戻った瞬間に状況を察知して霊夢たちのとこに向かったはずだし、まぁ妹紅と藍がいればあっちは多分なんとかなるでしょ。

 ……となると、私は紫おばあちゃんとレミリアお嬢ちゃんのお世話係かしらね。

 まぁ、あの訳のわからない場面に行くのと比べれば楽そうでいいけど。

 

「……何っじゃこりゃああああ!?」

 

 とりあえずそう言ってみたくなる有様だった。

 一番楽そう、そう思ってた頃が私にもありました。

 治癒魔法をかけても一向に2人の傷は治らない。

 レミリアは吸血鬼だし満月だしすぐ自己再生できると思ってたんだけど、その気配はない。

 いくら紫やレミリアでも、この出血量じゃもうすぐ死ぬわよマジで。

 そしたら看病してた私の責任になるのこれ? 勘弁してほしいわぁ。

 

「痛っ!? だだだだだだアリス何を痛あああっ!?」

「あーもう、子供じゃないんだから大人しくしなさい」

 

 という訳で、めんどいので物理的に傷口を縫い付けることにするわ。

 治癒能力でどうにもならないのなら、針と糸で無理矢理傷口を閉じればいいだけの話だからね。

 そういう意味じゃ人形使いの私がここに残ってたのは幸運だったかもしれない。

 まぁ、人形の裁縫用の針なので刺される側の痛みはたまったもんじゃないでしょうけど。

 

「はい、縫合完了。感謝しなさいよ紫」

「ぅぅぅ、もうお嫁に行けない…」

 

 うるせえ。

 今は紫にかまってる暇はないわ、問題はレミリアね。

 流石はカリスマ吸血鬼といったところかしら、紫と違って縫合中に悲鳴の一つさえ上げなかったのは素直に称賛するわ。

 だけど、正直なんと声をかけたらいいのかわからなかった。

 背中の縫合は済んでいる。

 ただ、焼けただれた右半身だけは私には手の施しようがなかった。

 だって、そこについていたのはレミリアの腕ではなかったから。

 確かこれは……

 

「レミリア、これは一体…」

「……助けてくれたことには礼を言うわ、だけど…っ!?」

「はい、動くのは禁止」

 

 立ち上がろうとしたレミリアの身体を、糸で床に縫い付けて制止する。

 普段のレミリアなら振り切って行けるでしょうけど、流石に今はもう無理みたいね。

 

「放せ」

「駄目よ。多分このまま行けば貴方は死ぬから行かせない。私はパチュリーに恨まれたくはないもの」

「っ……」

 

 原理はわからないけど、さっきの霊夢の攻撃は回復を完全に阻害している。

 糸で縫った部分が既に裂け始めていることからも、これは吸血鬼といえど放っておけば死に至る重傷だということがわかる。

 

「私は、行かなくちゃならないのよ」

「いいから大人しくしてなさい。後は多分、妹紅たちがなんとかしてくれると思うわ」

「……」

 

 レミリアは再び口を閉ざす。

 何かを耐えるように悔しそうに震えるばかりで、全然納得してるようには見えなかった。

 ……まぁ、私はレミリアが本当は何を言いたいのか薄々感づいてはいるんだけどね。

 だけど、それは私から言ってもしょうがない。

 これはレミリア自身が開けるべき扉なのだから。

 

「……だったら、大人しくしているから。恥を忍んで頼みがあるわ」

「何かしら」

 

 短い付き合いだけど、なんとなくわかっていた。

 レミリアはプライドなんてくだらないものに左右されたりしない。言いたくないんじゃなくて、誰にも相談できない理由があったのだろう。

 だってレミリアは私と違って、本当に大切なものを理解できる奴だと思うから。

 

「あの子を、助けてあげて」

「ああ、だから安心してていいわ。咲夜もパチュリーも小悪魔も、妹紅たちなら多分全員助けてくれるから」

「……違う」

「違うって、何が?」

「……」

 

 きっとこの数秒足らずの沈黙の中で、レミリアは心の中で数百年分の葛藤と戦っているのだろう。

 レミリアにとって一番大切なもの。

 ずっと孤独に守り続けてきたもの。

 パチュリーたちにとっちゃ悔しい事実かもしれないけど、多分間違いないと思う。

 でも、それがパチュリーの望みなのだから仕方ない。

 レミリアの口から、その本音を聞き出すことこそが――

 

「私の妹を……フランを、助けて」

 

 そう、これでやっとスタート地点ね。

 ったく、たかだかこんなこと言うためにどれだけ時間をかけてるんだか。

 

「あの子は何も悪くないの、全部私が…」

「はいはいわかったわ。詳しい話は後で聞くから、要は例の暴れまわってる吸血鬼の子を助ければいいんでしょ」

「え……?」

 

 実際レミリアに何があったのかは知らないけど、最近になって私にも少しわかるようになったことがある。

 人の感情には大きな力があるのだと。

 世の中には喜怒哀楽なんてものからは縁遠い奴もいるし、もう手遅れな奴もいる。

 でも、今の一瞬だけでレミリアは違うってわかった。

 こんなにも愛情に溢れた涙を流せるのなら、きっとまだ戻れる。

 だって、何があっても譲れないほどの願いを秘められる強い心が、レミリアにはあるのだから。

 

「紫」

「……何かしら」

「緊急事態宣言を発令するわ」

「……そう。了解したわ」

 

 まぁ、そうでしょうね。

 計画書懸念事項の四、緊急事態宣言が発令された場合は作戦の一切を中止する。

 これは多分紫たちが霊夢に何かあった時の保険として盛り込んでたんでしょうから、紫たちにとってもちょうどいいだろうしね。

 だから、ここから先は私の独断専行のため。

 ここまでの作戦をご破算にしてでも、自由行動をとる必要があるから。

 

「霊夢のことは、あんたたちに任せていいのよね?」

「ええ。アリスの方に、助けはいるかしら」

「結構よ。私には私で、割と優秀な助手がいるから」

 

 さてと。大見得を張ったものの、あの未熟者はせめて半人前くらいにはなれてるのかしらね。

 地下の調査すらせずに縮こまってたら破門してやるわ。

 

「アリス・マーガトロイド」

 

 私を呼び止める声。

 それはまた平坦な、感情の乏しい声だったけど。

 

「フランを……皆のことを、お願いします」

 

 レミリアの、その何よりもまっすぐな気持ちは……しかとムネにひびいたぜ!

 でも残念、私は適当なのだ。

 

「そうね。明日から私のことをアリスお姉さまって呼ぶのならいいわよ」

 

 私はぶっちゃけ、こんなシリアスな空気のまま去るのなんてもう嫌なのよ。

 基本的には面白そうなことが最優先、人生何でも楽しまなきゃ損、それが今の私の生き方なのだ。

 

「……ああ」

 

 だけど、今回ちょっと真面目にやったことに関しては、少しだけ役得も感じていた。

 もしかしたらパチュリーの悔しがる顔を見れるかもしれない、そんな役得だ。

 だって、レミリアの顔はまるで私を小馬鹿にしたようだったけど。

 憎たらしいほどにウザかったけど。

 

「考えておくよ」

 

 パチュリーたちが何よりも待ち望んでいたもの。

 レミリアが初めて浮かべたその微かな笑みを、最初に受け止めたのが私だったのだから。

 

 

 

 


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