霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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今回は紫視点です。



第83話 : 一方あの頃、舞台裏では…

 

 

 レディースエーンジェントルメーン、ウェルカムトゥ・ゲンソーキョー!

 どぅるどぅるどぅるどぅる(ドラムロールの音)ツクテーン!!

 さーて、ゆかりんのぶっ飛び☆トークレイディオー、はっじまっるよー!

 <マッテマシター  <キャーユカリサンカッコカワイー

 

 ……っていう感じで喋りたかったのに。

 どうして初めてのMCなのにこんなシリアスっぽい場面なのよーとか言ってみたり。

 でもそれは流石に空気読めてなさすぎるわね。よし、切り替えが大事よ私!

 集中、集ー中ーーっ! はいっ、賢者モード入りました、今賢者モード入りましたよ!

 

 

 

 

 

 さて、それではおふざけはここまでにして真面目に話を進めましょうか。

 ここからの解説については私、八雲紫17歳が務めさせていただきます。

 

 紅魔館が虚数空間に取り込まれてると気付いて大急ぎで飛んで来た私たち。

 まぁ、飛んで来たとは言っても、実は境界ワープしてきたので一瞬だったんだけどね。

 だけど紅魔館に張られている境界が強力すぎて、私の能力でも介入できないという異常事態!

 なすすべもなく途方に暮れていると、突然何か変な空間に取り込まれて――その先はもう、ため息しか出なかったわ。

 

 はい、それでは皆さんご一緒にー。

 

「3名様ごあんなーい。アリスちゃんのお部屋へようこそー」

「結局お前の仕業かーーっ!!」

 

 という妹紅の叫びが空しく紅魔館の図書館に響き渡っていた。

 そんなこんなで、霊夢たちが咲夜の部屋で必死に修業タイムしてる中、アリスと私と藍と妹紅の4人で紅茶タイムin図書館inゆかりん空間が始まったのよね。

 ちなみに図書館の中で更に私の境界の中に隠れたのも、時々小悪魔がいたりパチュリー・ノーレッジが外に出たりすることがあるからよ。

 

「……それで? 一体どういうことか説明してくれないかしら、アリス?」

 

 とりあえずここで、私は真剣にアリスに向き直る。

 今回の件で、私の中でアリスへの警戒レベルが跳ね上がってるのよね。

 前々から何考えているかわからない相手だったけど、私も介入できない空間魔法を操る危険人物へと昇格したのだから。

 ま、こんなだけど、私も妖怪の賢者として幻想郷の安定を図る義務があるからね。

 今後平穏を乱しかねない危険な力を何事もなく放っておく訳にもいかないのよ。

 

「あー、そんな畏まらないで楽にしてくれていいわよ。ほら、おかわりいる?」

「結構だ。それより貴様が使っていた魔法は…」

「ただの隔離魔法、って言っても信じる訳ないわよね」

 

 藍からの急かすような質問に答えるように、アリスはおもむろに本を掲げて腕の袖を捲り始める。

 すると、アリスの腕からボコボコと血管が浮き上がってて、濃い紫色に染まっ……何アレ気持ち悪っ!?

 

「お、おい、それは…」

「これは昔ちょっとした伝手で手に入れた魔術書なんだけどね、内容は命を削る禁呪って言えば納得してくれるかしら。だから心配しなくても今回しか使うつもりはないし、しんどいからぶっちゃけもう使いたくもないわ。必要以上に幻想郷の秩序を乱すことはしたくないしね」

 

 淡々と言ってるけど、よく顔色一つ変えずに話ができるわね、なんか恐くなってきたわ。

 ゆかりんだったら腕があんなことになったらきっと泣いちゃう。だって、女の子だもん。

 

「……そう。まぁ、信じましょうか」

「しかし紫様…」

「いいのよ。アリスの行動が読めないのは今に始まったことじゃないでしょ」

 

 まぁ、正直アリスの得体が知れないのは間違いないけど、アリスが気まぐれに幻想郷に害をなすような節操のない妖怪だとは私は思ってないからね。

 私や妹紅にも秘密がない訳じゃないし、あえて深く追及する必要はないでしょう。

 藍の心配ももっともだとは思うけど、そこまで厳しくしてたら私も息苦しくなっちゃうわ。

 

「だけど、これだけは答えて頂戴。今回の貴方の目的は何?」

「ああ、そうそう。ちょっとパチュリーと約束しちゃったことがあってね、できればあんたたちにも手伝ってほしいのよ」

「約束?」

「ええ。レミリアと腹を割って話すために秘密を暴くこと、それが今回の私の目的よ」

 

 話を聞くと、あの視察の日アリスは紅魔館でパチュリーから相談を受けたみたい。

 あの感情なき吸血鬼に、一度でいいから笑ってほしいのだと。

 だからアリスはレミリアを観察するために、視察後も紅魔館に残りパチュリーの協力者としていられるよう振舞っていたとか。

 それで例の霧が出てから今日に至るまで、紅魔館をアリスなりに調べていたと。

 

「でね、私なりにいろいろ調べてみて、やっぱりあの地下室が怪しい気がしてね」

「例の部屋ね…」

「だから、私はこっそり部屋の調査をしようと思ったんだけど…あの部屋には強力な魔法がかけられてて調べられなかったの」

「魔法?」

「ええ、恐らくは概念停止魔法。中にあるものの概念的な時間だけを未来永劫止め続ける、私も初めて見るタイプの魔法よ」

「っ!? 待って、概念停止って……十六夜咲夜はそこまでのことができるっていうの!?」

 

 ちょっ、聞いてないわよそんなの!?

 そもそも時間停止自体が人間の使えるレベルの力じゃないし、概念停止なんてできたら老化を停止して不老不死になることも可能な、法則への反逆行為なのよ?

 それを片手間に地下の部屋に使い続けられる程の使い手だというのなら……もしかして十六夜咲夜こそが紅魔館一というか、幻想郷一の危険人物なんじゃないかしら。

 

「いいえ。あれは多分、咲夜の能力ではないわ」

「じゃあ一体誰が、何の目的で…!?」

「それを解明することが、私が今回この禁呪を使って時空を切り取った目的よ」

「え?」

 

 アリスの予想だと、地下室の魔法を使っていたのは外部者である可能性が高いとか。

 だからこそ外部との接続を完全に断ち切ることによって、術者を炙り出そうとしたみたい。

 

「それで、術者はわかったの?」

「残念ながら正体はわからなかったわ。だけど……きっちりお返しはくれたみたいね」

「お返し?」

「ええ。あんたの能力で、ちょっと外に繋いでくれない?」

 

 私はアリスに言われた通り、紅魔館の外に境界を繋げてみた。

 そしたら――そこには普段の数倍大きな「満月」が見えた。

 

「えっ、嘘っ!? どうして……だって今日は半月で…」

「そうね。概念停止魔法なんてものを使いこなしつつ、この隔離空間の中で月の状態を普段より強力な魔力の満月にすり替える。そんな神のような不可能を現実にするような奴が相手なのよ」

 

 ……嘘。私が把握してる中に、そんなことができるような存在はいないはずよ。

 もしあるとしたら龍神様クラスの誰かか、それともまさか……

 

「でも、今回の目的はその犯人を追い詰めることじゃないわ。そいつが私たちの手に余る相手だというのなら、放っておいてレミリアのことに集中すればいいだけだからね」

「……なるほど。だが、どうしてそいつは月をすり替えるような真似をしたんだ?」

「多分だけど、地下室を解き放つことを躊躇わせるためだと思うわ」

 

 ……それは、もっともな理由ね。

 あの地下室にいるのは恐らく吸血鬼、そしてレミリアも地下室の解放を望んでいない。

 だから、地下室を解放させないために、それを開けたら完全無欠状態の吸血鬼2人が敵に回るという「危険」な状態だとアリスに思わせようとしたということかしら。

 

「このイレギュラーさえなければ、本当はパチュリーたちがうまく動けば何とかなると思ってたんだけどね。満月の数倍の魔力を浴びた吸血鬼が2人いたら、ちょっとくらい策を練った程度じゃどうしようもないのよ」

「だから私たちに手伝えということか」

 

 正直なところ、予測してた倍くらい困った状況よ、これ。

 なのに全然動じてるように見えないアリスって、ほんとに何者なのかしら。妖怪の賢者の称号とか、ぶっちゃけ私よりよっぽど似合ってる気もしてきたわ。

 ……まぁ、流石にアリスに任せたら幻想郷がいろいろ破綻しそうで怖いから考えたくないけどね。

 

「……話は、わかりました」

 

 正直なところ、本来こんな危ない話はすぐに却下すべきなのでしょう。

 今回の異変は安全管理が最優先なのだから、地下室の吸血鬼を解放すること自体そもそも私もレミリアも反対の方針で同意してたんだしね。

 

 だけど、その提案に魅力を感じている私がいることもまた事実な訳で。

 もし本当にこれで、紅魔館の全員が納得してくれるハッピーエンドを得られるかもしれないのなら――

 

「それで? 貴方の思い描くビジョンを、詳しく聞かせてくれないかしら」

 

 私は久々に一つ、冒険をしてみたいと思った。

 

 

 

 

 


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