霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 今回は魔理沙視点です。



第81話 : 魔理沙と秘密の地下室

 

 

 

 ……いやー、マジで死ぬかと思った。

 いやな、現在進行形で死にそうっていうか、今も火傷の激痛と息苦しさで全く生きた心地がしないんだけどさ。

 とかいきなり言われても何言ってんだこいつってなるだろうから、とりあえず何が起こってたのか恒例のダイジェストタイムでお送りするぜ。

 

 少し前、紅魔館の地下でパチュリーたちとレミリアが争ってる最中に奥の扉が突然開いて、中から小さな子供が出てきた。

 背中には枯れ枝のように質素な翼、それとは対照的なほどにキラキラと輝くダイヤ状の羽。

 少しだけレミリアと似たような顔立ちで金色の髪をしたその子は、部屋から出るとほぼ同時に頭を押さえて苦しみ始め、雰囲気が変わった。

 そこから感じたのはレミリアと比べてなお遜色のない魔力、だけど明らかに異質なものだった。

 恐らくは、あいつこそがガイドブックにあった禁忌の吸血鬼とやらだったのだろう。

 そして、身も凍るような狂気を振りまく化物と化したそいつは、天井を貫き溶かしながら地上へと飛び出していったのだ。

 同時に辺りを覆ったのは灼熱の熱風。辺りが火の海だった件についてはパチュリーが水魔法で何とかしてくれたんだけど、ちょっと息しただけで人間である私の肺はだいぶやられたっぽい。

 もう少し落ち着くまで立ち上がるのもキツそうで、ただうずくまってることしかできなかったんだよな。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 何か優しい魔力が全身を巡ってくるのを感じる。

 さっきから小悪魔が私の背中をさすりながら、治癒魔法をかけてくれていたのだ。

 身体の震えはまだ止まらなかったけど、おかげで少しは楽になったかもしれない。

 

「げっほ。あ……ありがと、小悪魔」

「よかった、もう声も出せるみたいですね。多分もう少しでよくなりますよ」

 

 小悪魔は結界を張りながら、恐らくは私が回復するまで看ていてくれるつもりなのだろう。

 私にとっちゃありがたいんだけど……でも、さっきからどう見ても小悪魔は別の場所ばっかり気にしてるんだよな。

 あの化物と、そしてレミリアとパチュリーが即座に飛び立っていった、天井に空いた大きな穴をチラチラとみているのだ。

 

「もう行っていいよ、小悪魔。私はもう平気だから」

「え? でも……」

「いいんだ。足手まといには、なりたくない」

「……ありがとうございます」

 

 小悪魔はすぐに飛び立っていった。

 私のことなんてもう気にもしていないくらい、振り返ることすらなかった。

 だけど、私はそれを薄情だとは思わない。

 

 だって、私は見てしまったから。

 この世のものとは思えないほどに悍ましい何かと、パチュリーのことさえ目に入らないほど狼狽していたレミリア。

 きっと、これは紅魔館が始まって以来初めてと言っていいほどの異常事態なのだろう。

 なら、私なんかに構っている余裕がないことくらい当然だ。

 むしろここまで一緒にいてくれた小悪魔と、私を気にかけて消火してってくれたパチュリーには、感謝してもしきれないほどなんだ。

 

「……オッケー、もう大丈夫かな」

 

 しばらくの休憩を経て、私はとりあえず自分の身体が問題なく動いてくれることを確認する。

 辺りの熱も引いてるし、体の震えも止まった。

 だったら、これから私がすべきことはもう決まっている。

 パチュリーたちを追いかける……なんて、何もできないくせにそんな選択をするのは愚の骨頂だ。

 だからといってただボーっとしてる訳にはいかない。

 私は皆が出ていった大穴に目もくれず、あの化物が出てきた小部屋へと向かった。

 

 その扉は、半分開いていた。

 その部屋がどんな場所なのか考えただけで怖かったけど、覚悟を決めるしかない。

 むしろ、調べるのなら今くらいしかないのだから。

 割とあっさり扉の前に辿り着いた私は、ゆっくりと中を覗いて――

 

「お邪魔するぜー……え?」

 

 その光景に、唖然とした。

 封印された禁忌の吸血鬼の部屋。

 私はもっと、おどろおどろしい術式で封じられた暗い牢獄のような場所を想像していた。

 だけどそこにあったのは、かわいい柄のベッドシーツとぬいぐるみ、整頓された本棚と行儀よく食べられただろう食事の跡。

 そこは今の私の家なんかよりずっと綺麗でファンシーな、普通の女の子の部屋だった。

 

「……何だ、これ」

 

 思考が追いつかない。

 部屋を出るなり天井を焼き尽くして消えたあの化物と、この部屋のイメージが全く繋がらない。

 だって、この部屋の持ち主はきっと理性的だ。

 さっきの奴みたいな、話すら通じなさそうなぶっ飛んだ相手ではないと思う。

 恐らくは読みつぶすほどに反復して読み込まれた難解な本の数々は、多分私が今まで読んできた本の数なんかよりよっぽど多い。

 そして、本棚の数段を埋め尽くすのは、膨大な量の日記。

 

「……」

 

 一体何百年書き続けたのか、考えただけで気が遠くなりそうだ。

 勝手に読むのは……まぁ、私はそういうのを全然気にしない。

 だから、私はそれをめくってみることにした。

 レミリア以外の誰も存在を知らなかった吸血鬼、そいつが一体どんな人生を送ってきたのか――

 

 

 

 


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