今回は霊夢視点です。
意識が飛びかけていた。
この『博麗弾幕結界』は、今の私が自分の力だけで制御し得る最強の弾幕。
二つの結界の維持、そしてその中に二つの異なるリズムの弾幕を同時に展開するこのスペルは、今の私じゃ完全には制御しきれない。
「……っ」
めまいがして弾幕のタイミングが少しズレただろうけど、そんなのは気にしない。
正直言うと、咲夜に向かって弾幕が正しく飛んでいるかもわからないし、咲夜に当たったかを判別する余裕もないのだ。
私の情報処理能力が魔理沙みたいにもっと高ければ、もう少し何とかなったのだろう。
だけど、ないものをねだっても仕方がない。
「ぃっけええええええええっ!!」
私は最後に、気合で力いっぱい叫んで撃ち切った。
もう、やれることは全てやったのだ。
あとは、既に制限時間に達してしまったこの弾幕が、咲夜にたった一発でも当たっていたかだ。
「はっ、はっ……」
次第に土煙が晴れていく。
粉砕したはずの辺りの床も壁も既に元通りになっていた。
これもきっと、土煙の向こうで何事もなかったかのように立っている咲夜の、能力の一端なのだろう。
「……届かなかった、か」
意識が朦朧として思考も定まらないけど、一つだけわかった。
なりふり構わず全力で挑んで、私は結局レミリアどころか咲夜にも届かなかった。
私は結局、何も救えなかったんだと。
もうこれ以上私には何もできない、なんて、そんな……甘ったれたことを、言ってる場合かあああああああっ!!
「それじゃ、これで引き分けね」
「……」
「私もあんたも、お互いのスペルを全部避け切った。引き分けなんてあり得ない、だから延長戦よ!!」
確かに私の弾幕は咲夜に当たらなかったのかもしれない。
けど、私が咲夜の弾幕を避け切ったのもまた事実なのだ。
だから、私はまだ負けてない。
最後の弾幕を当てられなかったら霧を強めるだとか、そんな口約束なんて無効よ無効!
「……私はもういいわ」
「はあ? 何を眠たいこと言ってんのよ、それとも何? 私に恐れをなして逃げ出すつもり?」
「霊夢がそう思うのなら別にそれでいいわ。好きにしなさい」
「え?」
「霧をどうするかなんて、最終的には私じゃなくてお嬢様が決めることよ。今の霊夢の実力でお嬢様に勝てると思うのなら進めばいい、私はもう止めないわ」
自分との勝負にも勝てないくせにレミリアと勝負ができると思うのかと。
そんなことの判断もできないのかと、私は咲夜に見下されてるのだろう。
だけど生憎だったわね、咲夜。
「あっそ。それならありがたく、不戦勝ってことで進ませてもらうわ」
それだけ言い残し、私は咲夜に背を向けて飛び立った。
今の私は、プライドとかはもうどうでもいいのだ。
チルノを助けるためにも、何があっても絶対に諦めないと決めているから。
こんな私を見限るというのなら、勝手にすればいい。
レミリアに勝てばそれで解決だというのなら、たとえどれだけカッコ悪くても私はレミリアのもとに向かうわ。
「霊夢」
遥か後方から、私を呼び止める声が聞こえた。
だけど、私は振り返らなかった。
前に進むと決めたんだから。
ま、どうしても私に話があるのなら、レミリアを倒した後にいくらでも聞いてあげるわ。
「見事な弾幕だったわ」
でも、咲夜がなんて言ったのかは遠くてはっきりとは聞こえなかったけど、ちょっとだけいつも通りの声色だった気がする。
その声を聞いて、私も自然と笑みがこぼれた。
よかった。
さっきみたいな冷たい空気はもう感じない。
咲夜とはまた、この異変の後もきっと仲良くできそうだと、なぜだかそう思えた。
そして私は、心の底から湧き上がってきた気持ちを、自然と呟いていた。
「……何よ、結局ただのツンデレじゃないの」
それが咲夜に聞こえていたのかはわからない。
ただ、なぜか急に空間が歪んで道のりが険しくなったような気がする廊下を、私はひたすらに進み続けるのだった。