霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 いやもう、度々長期休載してしまいすみません。
 この先の展開がちょっと迷走気味になってたので、しばらくこの小説から距離を置いて書き直してました。


 今回は霊夢視点です。




第71話 : おおむね予想通り

 

 

 

 ……やった?

 咲夜のスペルを、全部攻略できた?

 くぅぅぅぅ、ぃよっしゃああああああっ!

 頑張ったわ私、あの苦難の修行の日々を超えて、本当にやり遂げたのよ!!

 半年前、まぁ実際には数時間前なんだろうけど、その頃には一枚も取得できなかった咲夜のスペル。

 それを、なんか本気っぽいヤツまで全部取得できるなんて……まぁ、正直言うと予想はしていた。

 だってもうこの半年くらい咲夜とばっかり勝負してるんだもの、咲夜の癖とかはほぼ見切ったと言っても過言ではないのだ。

 

 母さんや紫クラスが相手だと感覚だけで攻略するのはキツいけど、私の能力があればたいていの相手の動きなんかはしばらくすれば慣れる。

 咲夜もまだ若いのか、独特のリズムがあるというか荒っぽい部分も多いのよね。まぁ、そんな熟練の猛者と比べるのも可哀想だとは思うけど。

 だからごめん咲夜、たとえ新しいスペルでもあんた自身の癖が変わる訳じゃないから、なんとなくで弾道とか割と読めちゃうのよ。

 というのを伝えるのは流石にかわいそうなので、そっと胸に閉じ込めておくことにした。

 

「じゃあ、次は私の番ね」

 

 という訳だけど、さて次をどうするべきかしらね。

 ここで天狗になっちゃいけない、まずは冷静に状況を分析しましょうか。

 私と咲夜のレベルの差、ここはまだそれなりに離れてると考えていい。

 私が咲夜を超えたって訳じゃなくて、単純に私の能力の前に咲夜が晒され続けたせいで、咲夜の弱点が私に丸裸状態なだけなのだ。

 咲夜の弾幕の癖をわかってるから避けやすいし、咲夜自身の動きのリズムを考慮して弾幕も撃てる。

 例えるなら、今の私はレベル50の水タイプ、咲夜はレベル60の炎タイプって感じで言えばわかりやすいかしら。

 ぶっちゃけ言うと、完全攻略できたのはこの半年で築き上げた相性のおかげなのだ。

 だから、今なら私が一人で美鈴と戦って勝てるかと言えば、それはまた別の話になってくる。

 ましてや、咲夜の次に勝負するのは、別に相性がいい訳でもないラスボス級の吸血鬼だ。

 このまま咲夜の弱点を見極めて勝てばいいって訳じゃない、今のうちに少しでも私自身のレベルを上げなきゃとてもレミリアには勝てないだろうから。

 

「スペルカード宣言、夢符『封魔陣』!」

「……これは」

 

 だから、今から撃つのは咲夜に勝つための、咲夜に有効な弾幕じゃない。

 封魔陣の形をあえて十字架型にクロスさせて囲い込む、レミリアの注意を引くための対吸血鬼用の特性弾幕。

 レミリアを相手にしたつもりで、最後の予行練習を……

 

「……スペルカード・ブレイクね」

「くっ、だったら今度はこれよ! 霊符『夢想封」

「スペルカード・ブレイクね」

「くぅっ!!」

 

 ううぅ、まただ、また私のスペルが簡単に破られた。

 確かにこれが咲夜に有効な弾幕じゃないのはわかってたけど、こうもあっさり破られると納得いかないものがある。

 何なの? 私と咲夜ってまだこんなに差があったの?

 特にアレ、夢想封印が破られた時の、あの、何というか、えっと……

 

 ……って、あれ?

 私どうやって、というかいつの間に負けたんだっけ?

 いやいやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って一旦落ち着こう。

 咲夜に私のスペルを既に2枚取得されて追い詰められてる訳なんだけど、何かどうもモヤモヤが晴れない。

 と、とりあえずありのまま今起こったことを話すわ。

 私はついさっき咲夜に封魔陣と夢想封印を撃ち始めたと思ったんだけど、気付いた瞬間には全弾避けられていた。

 何言ってるかわかんないと思うけど、ぶっちゃけ私も自分が何言ってるかわかんなくなってきた。

 催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃない、もっと恐ろしい何かを……ってかこれ、もしかして普通に時間早められただけなんじゃないの!?

 

「ちょっ、待って咲夜! こんなの卑怯…」

「卑怯? 何のことでしょうか?」

「え?」

 

 でも、ツッコミを入れようとした私に返ってきた声は、今までとは違った。

 微笑を浮かべて冗談っぽくとぼけているその感じは、他の人だったらいつも通りの咲夜の対応に思えるのかもしれない。

 だけど、最近ずっと咲夜と一緒にいた私だからこそわかることがある。

 今の咲夜の声はいつもとは違ってて、心なしか冷たく感じた。

 

「私は貴方の弾幕を避け切ってスペルを取得したし、貴方はそれを受け入れた。スペルカードルールでの勝負なら、それが全てでしょう?」

「それは、そうだけど……」

「だったら、次が最後の弾幕ですね。早くしてくれませんか?」

 

 ……なんかわかんないけど、咲夜さんだいぶ怒ってるっぽい。

 いや、多分だけど私が咲夜に対して有効な弾幕じゃなくて、レミリア用の弾幕を使ったことに怒ってるんだろうとは思う。

 咲夜が言いたいのは恐らくこうだ。今の私の相手はレミリアじゃなくて咲夜なんだから、ちゃんと咲夜との勝負に集中しろ、と。

 でも、「ちゃんと私のことだけを見てよっ!」って感じで拗ねてるフィルター越しに見たら、何か咲夜がただのツンデレに見えてきた。

 

「ったく、わかったわよ。そしたら、しょうがないから次ので決めるわ! 境界『二重――」

 

 だけど、そう宣言しかけて、私は止めた。

 だって今の咲夜の目は、どこかあの時の美鈴を思い出させるような……いえ、それ以上に名状しがたい異質さを感じさせたから。

 とにかく、咲夜の真意を掴めてないまま続けてもさっきの二の舞になるだろうことはわかった。

 

「……やっぱり、予定変更ね」

「え?」

 

 さっきまでの取り繕っていた咲夜の口調は、いつの間にか元に戻っている。

 何か、空気が重々しい。

 咲夜相手になら勝つにしろ負けるにしろ、普通に勝負して終わりにできるかと思ってたけどそうはいかないみたいね。

 

「ねえ霊夢。私ね、貴方と私って実は似た者同士なんじゃないかって思ってたの」

「そうね。私も割と気が合いそうだと思ってたんだけど」

 

 それは多分、性格的なものもじゃないかと。

 なんとなく、咲夜も脳内じゃ私と同じようなこと考えてそうな気が……ってのは流石にないとは思うけど。

 

「だけどね。霊夢と私には、真剣勝負の場においては致命的な差があるわ」

「何よ」

 

 いやそんなの、ぶっちゃけ探せばいくらでもありそうな気がするわよ、例えば足の長さとか……それが真っ先に思い浮かんで何かすごく空しくなった。

 って感じで適当に考えていた私だったけど、次の瞬間にはそんな緩い気持ちは一気に弾け飛んでいた。

 

「――さあね。それは、これから自分で確かめてみなさい」

 

 ……ヤバい。冗談とか通じないガチのやつだ、これ。

 咲夜の目つきが今までと違う。

 今の咲夜から感じるのは、本当に人も殺しかねないような、そんな空気だ。

 

「霊夢には今までにあったかしら。本気で生死を懸けた殺し合いをしたことが」

「それは……」

 

 なくは、ない。

 風見幽香に蹂躙された時、母さんと本気で勝負した時、そして美鈴との死闘。

 それは確かに下手をすれば死んでいたかもしれないけど、咲夜が言いたいのは多分そういうことじゃない。

 本当に自分一人の力で潜り抜ける、死線。

 私は今まで、何だかんだでいつも誰かに助けられてきたのだ。

 本当に危ない時は母さんや紫や、きっと誰かが助けてくれるって、私の中にはそんな甘えがあるのかもしれない。

 

「まぁ、霊夢みたいなのは一度くらい本当に何かを失ってみれば、覚醒するのかもしれないわね」

「……どういう意味よ」

「そうね、じゃあこうしましょうか。貴方に残されたあと一枚のスペル、それで勝負を決められなければこの霧をもっと強力なものにするわ。例の妖精には、このまま消滅してもらうことにしましょうか」

「っ!?」

 

 例の妖精って……まさかチルノのこと?

 ちょ、ちょっと待ってよ!? そんなこといきなり言われても…

 

「待って、チルノは関係ないでしょ! どうして…」

「だったら、何が何でも勝ちなさい」

「え?」

「それが、真剣勝負で敗れるということよ。負けても次があるなんて甘えたことを言ってるようなら、貴方は博麗の巫女になんてなるべきじゃなかった」

 

 ……咲夜は本気だ。

 もしここで私が負ければ、本当にそれで全て終わりになってしまうのかもしれない。

 

「……わかったわよ。そこまで言われちゃ、私も本気でやるしかないわね」

 

 私は周囲の空間に全神経を集中し溶け込ませていく。

 今や私の能力は空間を把握して避けるためだけのものではない、視界に頼らず自分の弾幕の流れを完全制御することにも使える。

 ……まぁ、この使い方はまだ試験段階で、本当は対レミリア用の未完成の切り札だったんだけどね。

 だけど、出し惜しみは無しだ。

 咲夜はきっと無駄なことはしない、こんなことをするには何か意味があるはずなんだ。

 だから、私もお遊びタイムはここまでにしよう。

 私と咲夜の差。咲夜の真意に気づけた時、私はきっとまた次のステップに進める、そんな気がするから。

 

 

 

 


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