霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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今回は霊夢視点です。




第69話 : 半年後。完成したものがこちらになります

 

 

 

「おおぉ、うおおおおおおパチュリーのことかあああああっ!!」

「うるさい」

 

 なんか魔理沙がパチュリーに怒られてたので、私は慌てて口を閉ざす。

 正直、私も同じようなテンションで叫びそうになってたから。

 だって力がみなぎるんだもの。

 およそ半年の修行を終えて、私はパワーアップした!!

 それは今まで以上の、格段のレベルアップ。

 というのも、パチュリーの休憩場所以外は本当に何もない部屋なので、寝るか修行するかしかやることがなかったのよね。

 しかも咲夜がつきっきりで修行に付き合ってくれる上に、周りに何もないからこっそり全力出しても問題ないし。

 今の私なら吸血鬼だって倒せるかもしれない……ってのは、誇張し過ぎかもしれないけど。

 それでも、咲夜ともいい勝負ができるくらいには、私は成長していた。

 

「……正直、驚いたわ。本当にこの短時間でここまで成長するなんて」

「当然でしょ! 私を誰だと思ってんのよ」

 

 とはいえ、私が強くなれたのは完全に咲夜やパチュリーのおかげなんだけどね。

 母さんたちとは違うタイプの強さを持つ咲夜やパチュリーとの修行は、私の弾幕センスを一気に向上させてくれたのだ。

 それに、パチュリーは見るからに真面目そう、というか半年一緒にいて本当にしっかり者なのはわかったからね。

 紫やアリスみたいに途中でいちいち話が脱線することもないし、魔理沙の修行も随分と捗ってそうだった。

 アリスや小悪魔はいつの間にかいなかったんだけど……あの2人がいないのはむしろプラスに働いたんじゃないかと私は勝手に思っている。

 

 という訳で、本当にあっという間に強くなった私たち。

 修行シーンがない? いや、今時そんなの流行らないのよ、美少女がただ死にそうになりながら吐いてる場面なんて誰も見たくないでしょ!

 とにかく、これでレミリアに挑戦できるくらいの力はついたんじゃないかしら。

 流石に相手が吸血鬼というのは不安だけど、なるようになるでしょ。それじゃあ日が昇る前に決着を……

 

「じゃあ、早速レミリアのとこまで案内してもらいましょうか。行くわよ魔理沙」

「あー、ちょっと待ってもらえない?」

「何よ?」

「その、私は別にそれでもいいんだけどパチュリー様と魔理沙は…」

「そうね。協力するのはここまでよ、咲夜」

 

 咲夜は私の、パチュリーは魔理沙の腕を掴んで向かい合う。

 なぜか分裂し始める紅魔館。

 え、何、ケンカでもしてたのこの二人?

 

「ちょっと待って、どういうこと?」

「最初に言ったでしょ。私と咲夜は一時的に協力しただけで、本来の目的は全く別にあるんだから」

 

 ……ああ、そういえば、そんな設定もあったわね。

 一応は利害の一致で協力してたものの、私が異変を解決することを望んでる咲夜とは、パチュリーはこの先の目的が相容れないって訳ね。

 多分、今の紅魔館は私たちを止めたい美鈴、パチュリー、小悪魔の3人と、先に進ませたいレミリア、咲夜の2陣営に分かれてるってことよね。

 パチュリーたちはいきなり襲い掛かってきたりはしないけど、要するに私の敵ってことだ。

 まぁ、一応レミリアも咲夜も私が倒さなきゃいけない敵ってことには変わりないんだけどさ。

 

「という訳で、霊夢だけスタートからやり直しね」

「へ? やり直しって?」

「紆余曲折あったけど、霊夢は一応私に負けたんだからね。入口からでもやり直しなさい」

「入口って…」

「あ、安心して。美鈴はまだ寝てるから、紅魔館に入ったところからでいいわよ」

 

 いや、なんでそんな面倒なことしなきゃならないのよ、そのまま向かえばいいじゃん……ってのは、野暮なのかしらね。

 ま、咲夜にも事情はあるんだろうし、ここまで世話になったんだからそのくらいのわがままは聞いてあげましょうか。

 

「ったく、しょうがないわね。魔理沙!」

「ん?」

「負けんじゃないわよ」

「当然!」

 

 ニヤリと不敵に笑い合う私と魔理沙。

 私はそのまま背を向けて、図書館を後にする。

 これでいい。

 魔理沙とはピンチの時は助け合う、それでも本来は競い合うライバルなんだから。

 今度こそ、どっちが先に異変を解決するか勝負よ!

 

「いい友人を持ったわね」

「あんたたち程じゃないわ」

「そりゃそうよ」

 

 ……ちょっとは謙虚になれよと思う。

 でも、そんなこと言い合えるくらいに、咲夜がフランクに話しかけてくれるようになったことは正直言うと嬉しかったりする。

 私もやっと咲夜の世界の一員として認めてもらえたってことかしら。

 パチュリーの話だと、こういう感じで咲夜が話すのはこれまでは美鈴と小悪魔だけだったみたいだしね。

 レミリアとパチュリーに対しては主従関係みたいだし、メイド妖精を相手にする時は完全にカリスマ気取りらしい。

 カリスマ気取りとか言われてるし、私も半年一緒に過ごしてわかったけど、こう見えて咲夜も意外と子供っぽいところもあるのよね。

 美鈴も普段は咲夜以上ににぎやからしいし、いつか美鈴とも和解できたらこういう風に語り合えたらいいなぁとは思う。

 

「……じゃあ、私の案内はここまでね」

 

 と、十秒くらいしか歩いてない気がするのに、気がつくと私は紅魔館の入口に立っていた。

 

「え? 嘘、もう着いたの、早くない?」

「そりゃあ、紅魔館の空間構造は私が管理してるからね」

 

 要するに、それを変えて私がすぐここに辿り着けるようにしてくれたってことか。

 正直、咲夜の力の底が知れないのは未だに変わらない。

 だけど、もう手の届かない相手じゃないわ。

 今度こそ咲夜に勝って、私がこの異変を解決するんだから!

 

「じゃ、健闘を祈るわ」

「咲夜」

「どうしたの?」

「ありがとね」

「……」

 

 そして、咲夜の姿は無言のまま消えていた。

 時計を見るとちょうど深夜0時、吸血鬼にとってはゴールデンタイムだ。

 ま、昼間の吸血鬼を相手にするのも気が引けるしね、丁度いいんじゃないかしら。

 

「さてと。それじゃ、吸血鬼退治に行きましょうか」

 

 私は広い吹き抜けのエントランスを飛び抜ける。

 目指すは吸血鬼レミリア・スカーレットのいる部屋。

 それを探すためにも、まずは……

 

「……何のつもりかしら」

「お待ちしておりました。博麗の巫女……博麗霊夢様、ですね」

 

 いきなり首筋に突きつけられそうになったナイフを、私はとっさに二枚の札で挟み取る。

 振り返ると、そこには予想通りの張り付けたような微笑。

 完全に初対面の感じで思わずツッコみそうになったけど、私は間一髪で堪えた。

 

「申し遅れました。私、紅魔館でメイド長を務めております、十六夜咲夜と申します」

 

 それにしてもこのメイド長、ノリノリである。

 ったく、そういう茶番はいいのよ、この半年くらいもう嫌ってほど見たから。

 さっさと私をレミリアのところまで案内……

 

「この館の主、レミリア・スカーレット様がお待ちです。大事なお客様なので、私が直々にお迎えに上がりました」

「……」

 

 ……ああ、そういうことね。

 私は本来、歓迎されるべき客人なんかじゃない。

 異変の元凶である吸血鬼を退治しに来た、幻想郷の守護者なのだ。

 それを客人扱いの上、ナイフ突きつけて強制連行だなんて、馬鹿にしてる以外の何物でもない。

 以前の私は相手にされてすらいない子供、ただの道化に過ぎなかったんだ。

 

「お客様? 何をふざけたこと言ってんのよ、こっちは変な霧のせいで迷惑してんのよ」

「そうですか。でしたら、まずは話を…」

「ごちゃごちゃうるさいのよ! 仮にも吸血鬼の使いなら、口じゃなくて拳で語りなさい!」

 

 よし、キマった!

 何かただの話を聞かない危ない脳筋みたいな口上だけど、このくらいがちょうどいいわよね。

 

「……かしこまりました。それでは、貴方は我々の敵ということでよろしいのですね」

「当然でしょ。スペルカードルール、知ってるわよね」

「ええ」

 

 少しだけ、堪えきれずに笑う咲夜。

 私ももういっぱいいっぱいだ。

 きっと、後から思い出したら「あの時は何を馬鹿なことをしてたんだろう」とか言って笑っちゃうような、そんな茶番。

 

「では、始めましょうか。スペルカードは3枚でよろしいでしょうか」

「そうね。いくわよ、咲夜!!」

 

 だけど、これこそがきっと本来の私たちの出会い。

 異変の元凶と博麗の巫女がぶつかって勝負して、激しい弾幕ごっこの果てに和解できる。

 それが母さんや紫がスペルカードルールに求めた、幻想郷の異変解決の形なんだから!

 

 

 

 


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