霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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ちょっと早めの五月病でした、すみません。
最近は執筆意欲も復活しつつあるので、徐々に投稿ペースも戻ってくると思います。


今回は咲夜視点です。





第66話 : 咲夜の世界

 

 

 

 ふぅー、危ない危ない、辛うじて紅魔館メイド長の面目躍如ってとこね。

 でも、何とか弾幕戦は乗り切れたけど……この霊夢って子、絶対おかしいわ。

 頑張って余裕の表情作ってたけど、ぶっちゃけ何回か危ない場面もあったのよね。

 あの先代巫女の後釜っていうからどんな猛者が来るかと思って待ってたら、来たのは既に死にそうなくらいボロボロな子供で、なのにちょっと侮ってたら高位の妖怪並みに強くて。

 私も実年齢はそこまで変わる訳じゃないけど、時間操作ってチート能力で裏技使ってるからここまで来れたのに、この子は素の実力でこれだもの。

 しかも修行を始めたのはここ2~3年って言ってたわよね、冗談でしょ?

 何これ私こんな子を育てるの? あと2年もしない内に完全に追い抜かれるわよ本当に。

 ……でも、それがお嬢様の望みだというのだから、雇われの身の悲しい所よね、まったく。

 

「……で? そろそろ何をするのか教えてくれない?」

「そうですね。まず、貴方は『精神と時の部屋』というものをご存じですか?」

「何それ?」

 

 ……うっわ、やってしまった。

 そらそうよ、それ外の世界の漫画の話よ。

 この子幻想郷の子供じゃない、逆になんで知ってると思ったのよ私。

 

「簡単に言えば、1日で1年間修行できる部屋のことです」

「……は?」

「私の『時間を操る能力』とパチュリー様の魔法を組み合わせて、時間の流れの遅い部屋をつくるって言えばわかりますか?」

 

 部屋の中に1年間いても外の世界では1日しか経っていないという魔法の部屋は、まさに人類の夢だ。

 ただしあんまり濫用するといつの間にかおばさんになっているという、人間の女性にとっては諸刃の剣。

 特にこのくらいの年齢だと、出てきた頃には入った時と別人になってるだろうから、あまり長時間の使用はお勧めしない。

 

「何そのチート。そんなん使ってるから、あんたは強いってことなのね」

「いいえ。私は歳をとりたくはないので、実際に使ったことはありませんよ」

「何よ私にそんなもの使わせようっての!?」

 

 私の場合、そんな部屋で過ごす時間なんて無駄でしかないからね。

 ただでさえ寿命が短いんだし、お嬢様の傍にいられる時間はなるべく長いに越したことはないのだ。

 

「使うかどうかは貴方次第です。ですが、今のままでお嬢様の相手が務まると思いますか?」

「……聞かなくても、無理ってのはあんたが一番わかってんでしょ」

 

 でも、それも今日限りね。

 お嬢様は、本気で戦った上でこの子に負けることを望んでいる。

 つまりはこの子をお嬢様と対等な戦力として機能させることがお嬢様の望みだというのだから、もう私の都合なんて言ってられないのだ。

 そう、全てはこの世界の因果律を支配するという、お嬢様の『運命を操る能力』によって定められた最良の未来のために!

 

 ……いや運命て。失礼だとは思いつつも、これについては流石の私も苦笑いになる。

 そもそも因果律を操れるとか言うのなら、なんでこの前は先代の巫女にやられてベソかいてたんですかねぇ、とかいろいろツッコミたい。

 私が時間を操るようなチート能力を持ってる訳だから、主は従者以上の能力を、とか考えてるんでしょうか。

 まぁ、お嬢様もカッコつけたいお年頃なんでしょう。

 お嬢様の表情はいまいち読めないので、本気なのか冗談なのかはわからないけど。

 

「失礼いたします、パチュリー様」

「遅いじゃない咲夜。待ちくたびれたわ」

 

 さて、そうこうしている内に図書館に着く。

 ここからが本題だ。

 実はこの部屋を作るのは、そもそもがパチュリー様の提案だった。

 今の私とパチュリー様の目的は違うんだけど、パチュリー様の目的のためにはアリスさんの協力が必要みたいで、その交換条件であっちの魔法使いの子を育ててほしいという要請がアリスさんからあったとか。

 それで、この部屋を使おうと思い立ったらしい。

 私は元々はこの部屋を使うつもりじゃなかったんだけど、どうしても使いたいってことでパチュリー様が私に頭を下げてきたので、私はパチュリー様に貸しをつくりつつ、ナイスアイディアそれに便乗するぜyahooという訳だ。

 

「おっ。よかった霊夢、無事だったか。霊夢もこのまま修行コースか?」

「もしかして魔理沙も? ……ってうわっ、何かいるし」

「いやちょっと失礼じゃない霊夢!?」

 

 霊夢がアリスさんを見て微妙な顔をしてるけど……正直言うと、私もあの人は少し苦手だ。

 何というか、私たちとは違う世界に生きてるように感じるのよね、いろんな意味で。

 まぁ、アリスさんが来てからパチュリー様や小悪魔の表情が少し柔らかくなった気もするし、いい人だとは思うんだけど。

 

「それで? その子はちゃんと納得したの?」

「ええ。生意気だったのでコテンパンにしてあげたら大人しくなりました」

「ぶふっ、生意気とか言われてやんの」

「ちょっ、余計なこと言わないでよ!」

 

 霊夢がいきなりブーブー文句を言ってくる。

 あーそっか、この魔法使いの子にはカッコつけたいって訳ね、子供っぽいとこもあるじゃない。

 柄にもなく微笑ましくもほっこりした気分になった私であった。

 

「で、その子はどのくらい時間が必要そうなの?」

「そうですね。お嬢様と張り合うのなら、これから2年くらい修行を積んでもらわないと」

「2年!?」

 

 あれ、なんでこんなに驚いてるのよこの子。

 まさかもっと短期間でお嬢様に勝つ気だったの?

 お嬢様は500年以上生きてる本物の吸血鬼なのよ、それに簡単に勝とうとか図々しいってレベルじゃないわよ。

 

「どうかされましたか?」

「いやちょっと待って、2年ってことは、こっちでは丸2日経ってるってことよね?」

「そうですね」

「それじゃ間に合わないのよ! 私は、明日の朝までには戻らなきゃならないの!」

 

 明日の朝まで?

 こんな異変の次の日に予定入れてきたってこと? 信じられないんだけど。

 まず吸血鬼の館に攻め込んで次の日立っていられるって思ってること自体、いろいろ甘すぎるんじゃない?

 

「ですが、それでは長くてもせいぜい半日、半年の修行で限界ですが」

「それでもいいから!」

「……少し、舐めてるんじゃありませんか? それじゃあとても…」

「倍頑張るから! ギリギリまで、何でもするから!」

 

 でも、私に食ってかかってくる霊夢の目はあまりにまっすぐだった。

 この目はよく知っている。

 お嬢様の望みを断って、一人で戦おうとしていた美鈴と同じ目。

 譲れない何かを貫く決意を宿した、何を言っても絶対に退かない目だ。

 

「……そこまで言うなら、地獄を見る覚悟はあるんでしょうか」

「当然っ! 地獄の特訓なんて、もう飽き飽きするほど経験してんのよ」

「なるほど。かしこまりました」

 

 ふふっ、これは面白くなってきました。

 ぶっちゃけ言うと私が時間操作する訳だから、本当は一日で一年間って括りにこだわる必要もないし、その気になれば1分で1年とかもできるのよね。

 まぁ、確かに時間の圧縮率を高めれば私の負担も増えるっちゃ増えるけど、別に問題がある訳じゃなくて、そんな勝手な都合で名作の設定変えるのが癪ってだけだし。

 でも、半日、つまりは半年でお嬢様に追いつくと勝手に言い出したのは霊夢なのだ。

 私は二年くらい必要だと見積もったけど、果たして本気の霊夢は半年で一体どこまでやれるのか、これは見物ね。

 

「……話は済んだ? 準備は整ってるし、時間が勿体ないから早く始めたいんだけど」

「そうですね。では、早速始めましょうか」

 

 図書館の床の中心には、既に巨大な魔方陣が張られていた。

 その上には大量の本と、くつろぎスペースや紅茶セットも完備。

 流石はパチュリー様、飽きた時の対策すらも既に準備万端という訳ね。

 でも、適当な感じに見えるパチュリー様だけど、この部屋を作るのはパチュリー様の負担がかなり大きいので、決して軽い気持ちではないはずだ。

 

 この部屋を作るときの私の役目は、パチュリー様の魔方陣を起点にして時間軸をずらした空間を図書館に張り巡らせることだけ。

 要するに、私の役割はただのきっかけ作りに過ぎないのだ。

 この部屋を使うために重要なのは、部屋の状態を維持し続ける役割を担うパチュリー様なのよね。

 時間軸をずらした空間に他人を招くなんて神のような力を維持し続けるのは、魔力や霊力の少ない私じゃ数秒が限界だから、実際はパチュリー様の魔力や貴重なマジックアイテムを惜しげもなく投入して部屋を維持し続けることになる。

 まぁ、何が言いたいかというと、結局のところ一番ヤバいのはパチュリー様の懐事情って訳だ。

 でも、そんなことを伝えてせっかくの貸しが薄っぺらなものになるのは勿体ないという気持ちも大きい。

 という訳で、私は限界まで無理してる雰囲気を醸し出して、この部屋が私の力で成り立ってる流れにしとくのが最良の選択のはずだ。

 

「では……っ、今です、お願いしますパチュリー様!!」

「ええ。巻きでいくわよ小悪魔!」

「はいっ!!」

 

 パチュリー様と小悪魔が私に気を遣って、最初から魔力全開でサポートを頑張ってらっしゃる。

 うわぁ、私は別に大変でも何でもないだけに、何か罪悪感で胸が痛いやぁ(棒)

 

 まぁそれはいいや、さてと。それでは霊夢、準備はいいかしら。

 Hello World. ようこそ私の世界へ―――

 

 

 

 

 


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