すみません、更新が遅くなりました。
いろいろあってしばらく執筆活動から離れてましたが、再開します。
「この紅茶を入れたのは誰だあっ!?」
「は、はいっ、私です!!」
静かな図書館で唐突に始まった、魔法使いたちのお茶会。
とても異変の本丸に乗り込んでるようには思えない、のほほんとした雰囲気だ。
いや確かにちょっと休憩もしたかったけどさ、霊夢とか必死で戦ってる頃じゃないのかよって思うと少し申し訳ない気分になる。
「今までお疲れ様。もう明日から来なくていいわ」
「そんなっ!? この前は褒めてくれたのに!!」
「過去の栄光に縋りつくような向上心のない奴に興味はないわ。パチュリー、退職金の用意を」
「それで、まず貴方は私たちがこの異変を起こした目的は知ってるかしら」
まぁ、のほほんというよりも、なんちゃって修羅場が目の前で繰り広げられてる訳だけど……何だこのパチュリーって奴のスルースキルの高さ。
さっきから私はいろいろツッコミを入れたくてしょうがないというのに、顔色一つ変えず別の話題を振ってくるあたり、相当慣れてるな。
「まぁ、吸血鬼が霧で空を覆ったんだから、日光を遮るためとかじゃなくてか」
「それが表向きの理由ね」
「表向きって、裏向きの理由があんのか?」
「そうね。本当の目的はスペルカードルールの試験運用と、私たちが幻想郷に溶け込むためのきっかけ作りみたいなものよ」
試験運用ってのはわかるけど……きっかけ作り?
何だそれ、要するに友達欲しい構ってちゃん的な感じかこいつら。
「それで、レミィ……ウチの吸血鬼と八雲紫が安全な異変を運営できるよう前準備を進めてたんだけどね。いろいろあって、本来の予定よりだいぶ早まって異変が実行されることになったの」
「……予定が、早まった?」
「ええ。本来であれば、この異変はあと2~3年後に実行されるはずのものだったの」
うーん、正直いろんな情報が一気に入ってき過ぎてちょっと何言ってるかわからない。
まぁとりあえず、落ち着いて一度話を整理してみよう。
パチュリー曰く、最近始まったばかりのスペルカードルールは、そもそもこんなにすぐに導入される予定ではなかったという。
あと2年くらいして霊夢が一人前になったら妹紅と博麗の巫女を交代する気があるか聞いて、それで霊夢が乗り気になって初めてスペルカードルールを開始する予定で、そんでもってその次の年くらいに試験的にこの紅霧異変なるものを実行して、霊夢に経験を積ませる予定だったとか。
なのに、霊夢が先走って博麗の巫女になってスペルカードルールが導入されたもんだから、いきなり他の大規模な異変が起きてその渦中に霊夢が放り出されたりする前に、急ピッチで計画が進められたと。
「確か博麗の巫女も貴方も、まだ修行を始めて2,3年足らずらしいわね」
「私が本格的に始めたのは去年かな」
「……それで美鈴を出し抜くってのが、本来は異常なことなのよね。仮に予定通りの時期に異変が始まってたとしたら、貴方たちは一人で美鈴や私を倒してそのままレミィと戦って異変を解決してたんじゃないかしら」
確かに、霊夢ならもう少ししたら吸血鬼とでも張り合えるようになってたのかもしれないな。
私ももう2、3年あればある程度のレベルにはなれるかもしれないけど……私の場合はアリスのおかげで何とかスピードと火力を強みにしてごまかしてるだけだからな。
今のところ遠距離からいろいろぶっぱする戦い方じゃないとほとんど通用しないし、正直まだ厳しいか。
「でも、実際は予定より随分と早く異変を開始することになったせいで、貴方たちのレベルがあまりに不足してるのよ。これじゃうまく異変が機能しないし、私にとっても少し不都合なの」
「確かに、門番相手にこのザマじゃ吸血鬼なんてとても相手にできないだろうしな」
スペルカードルールを無視されたとはいえ、2人がかりでしかも奇策で運よく勝てただけだったしな。
流石の私も、実力で美鈴を倒したと思えるほど自惚れちゃいない。
冷静に考えれば、私たちは今まで無事でいるのが奇跡なくらいの幸運の連続に恵まれてやっとここまで来たってだけなんだ。
「でもよ、そんなこと言ったって、今さら私一人で帰る訳には…」
「焦らない焦らない。それを解決するために、わざわざパチュリーに協力を仰いでるのよ」
そこで突然、会話に割り込んできたアリス。
そして、隅っこで一人しくしくと泣いている小悪魔。
……ツッコまない、私はツッコまない。
「協力って、何のだ?」
「結論から言うと今ここで、貴方にはレミィともスペルカードルールで勝負できるくらい強くなってもらうわ」
「はあ? 今ここでって、どういうことだよ」
「言葉通り、ここでパチュリーが魔理沙を鍛え直してくれるってことよ。私も一応魔法使いではあるけど、本職は人形使いだしいろいろ疎かになってる部分もあるからね。そろそろ基礎力も応用力も一段階上の先生がいた方がいいと思って」
……ああ、なるほどね。
確かにアリスの教え方はあんまし普通じゃなかった気がする。
私がここまで来れたのはアリスのおかげではあるけど、基礎的な部分なんてすっとばしてたからな、確かにそういう意味じゃ本職の魔法使いから学ぶのもいいのかもしれない。
「でもよ、いくらいい先生がいたって、今から吸血鬼と戦えるレベルになるまでどんだけかかると思ってんだよ。今って一応、異変の真っ最中なんだぜ?」
「時間的な問題なら心配いらないわ。ウチには優秀なメイド長がいてね、咲夜っていうんだけど」
「ああ、私たちを迎えに来たあいつのことだろ?」
「そうよ。咲夜は時間を操る力を持ってるの。それを使えば、現実時間で1時間もあれば十分に何とかなると思うわ」
……何かさらっと言ってるけど、とんでもないことだろそれ。
そんなことできたらもう何でもアリな、神に匹敵するレベルのことじゃねーかよ。
っていうか冷静に考えるとヤベーよな、この館。
時空操作のできる短剣使いに達人クラスの武闘家、熟練の魔法使いにサポートや治癒のできる悪魔、何かそれだけで魔王でも倒しに行くようなパーティーが組めそうなバリエーションだ。
まぁ、ぶっちゃけここの主の吸血鬼が魔王みたいなもんだけどな。本当によくこんな奴らが今まで知られずにいたよな、天狗社会とかに匹敵する幻想郷の一大勢力じゃねーのかこれ?
「はぁ。よくわからねーからその辺の理屈はツッコまないけど……本当に大丈夫なんだろうな」
「嫌なら別にやらなくてもいいわよ。そんなに瞬殺されて門の外に放り出されたいというのなら、私は止めないわ」
「……私に、選択肢はないって訳か」
……まぁ、正直言うと私にとっちゃ願ったり叶ったりの提案ではあるんだけどな。
ちょっとズルい気はするけど、離され過ぎた霊夢との実力差を埋めるにはもってこいだからな。
「さて。じゃあ方針も決まったところで、そろそろ準備を始めましょうか」
そう言って立ち上がったパチュリー。
そろそろ鬱陶しいってパチュリーに蹴飛ばされて、泣く泣く立ち上がった小悪魔。
こんなんで大丈夫なのかは、正直ちょっと心配ではある。
けど、悪い奴らじゃないのは見ればわかるし、アリスもいるなら大丈夫かな。
ま、ここはこいつらを信じて任せてみることにしようか。