霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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今回は魔理沙視点です。




第8章:紅魔郷③ ―紅魔館―
第63話 : もうやだこの師匠


 

 

 

「あーもう。しょうがねーなー、あいつらは」

 

 ほんっと、最近の霊夢には呆れるばっかりだな。

 この歳になって迷子とか何してんだよ、しかもこんな大事な時に。

 っていうかあの咲夜って奴も案内役じゃねーのかよ、迷ってんじゃねーよちゃんとしろよな。

 

「まったく、ほんとにまったく! しょうがねえ奴らだよなほんとに!!」

 

 ……ふぅ、さてと。

 よし、現実逃避はここまでだ、まずは落ち着こう。

 

 実際マズいことになってる。

 私は少し前まで咲夜って奴に連れられて、霊夢と一緒に紅魔館の中を歩いていたんだが。

 突然の停電とともに、気付くと霊夢たちはいなかった。

 こうして、いとも簡単に敵地の真ん中で孤立した間抜けの出来上がりって訳だ。

 

「くそっ、やっぱ罠だったのかよ」

 

 まぁ、正直そんなのわかっちゃいたけどな。

 だけどこうなっちまったもんは仕方ない、早く思考を切り替えて……と考えながらとりあえず近くの扉の中に入ったら、突然に辺りを照らし出す照明。

 

「クククク。待っていたぞ、無垢なる福音よ」

 

 ……ああもう、すごくコメントし辛い光景が広がってるんだが、誰か解説してくれ。

 何か怪しい奴が、真っ暗な部屋の中心で大量のスモークとスポットライトを浴びている。

 喋ってる内容や口調の仰々しさと、声や見た目の可愛らしさが全く釣り合ってない気がするのは私だけだろうか。

 赤い長髪で黒い翼の少女、多分小悪魔って奴に間違いない。

 悪ノリ好きって書いてあったけど、危険度はC。あの美鈴より上ってなってる要注意人物だ。

 悪魔が相手か、確かにラスボスみたいな風格を感じるぜ。

 

「何だかわかんないけど、敵ってことみたいだし容赦しないぜ!」

「ふっ、そう死に急ぐな。まずは冷静に、己の立場を自覚することだな!」

「なっ……!?」

 

 だけど、私は動けなかった。

 だってそこには、ずっといなかったあいつが……

 

「……ごめん魔理沙。私もう、ダメみたい」

「アリス!?」

 

 仰々しいスモークの中に、弱弱しい姿で磔にされているアリスがいたから。

 ……なんであいつ純白のドレスなんか着てんだ? 何あの囚われの姫君みたいな。

 って、んなどうでもいいこと考えてる場合じゃねーだろ、今までアリスはここに捕まってたのか!?

 くそっ、人質を使うとは卑怯な。かわいい見た目や声に騙されちゃいかんな。

 やはり腐っても悪魔の名がつく相手は伊達じゃないってことか。

 

「くそっ、卑怯だぞ! アリスを放せ!!」

「卑怯、か。ふふふ、何と甘美な響きか。そうだな、此奴の身を案じるのならば、貴様はただそこで来たるべき時をじっと待つことをお勧めしよう」

「っ……畜生」

 

 ダメだ、アリスの命が握られている以上、迂闊には動けない。

 ってかアリスを捕らえるような相手ってことは私一人で勝てる訳ねーじゃねーか、どうすんだこれ!?

 Cランクでこのレベル、つまりこいつの親玉の魔法使いなんて出てきたらマジで詰みだろ。

 しかも美鈴の前例もあるし、こいつらがスペルカードルールに則ってくる保証もねーんだ。

 ヤバいヤバいヤバい、くそっ、せめて霊夢がいれば……

 

「では余興はここまでだ。さぁ、狂乱の宴を始めようぞ!」

「ふっふっふ。ではまず、この私がじきじきにきさまをいたぶりつくしてやるとしようか。くくくく、はーっはっは」

「え?」

 

 だけど、なんか一気に緊張感が萎えた。

 何だ今の棒読み、すごく気怠そうな声は。

 

「え、ちょっ、パチュリー様!? 真面目にやってくださいよ、せっかくいい雰囲気だったのに!」

「や、やってるじゃない、台本通りよ! 何が違うっていうのよ?」

 

 そこに凄く大きなヒソヒソ声が聞こえてきた。

 いい雰囲気とか台本通りとか、なんかもう嫌な予感しかしなかった。

 いろいろ考えるのもめんどくさいので、私はとりあえずミニ八卦炉を構えておくことにした。

 

「恋符……」

「いやそんな棒読みじゃなくて、もっと大魔王みたいな雰囲気でバーンッ感じで!!」

「バーンッて、そんな曖昧な感じじゃなくて、もっと具体的に…」

 

「『マスタースパーク』」

 

「え? きゃあああああああああ!?」

 

 そして、とりあえず軽めにマスパ撃ってみた。

 悲鳴とともに光の中に消えていく小悪魔。

 ……やっぱり、嫌な予感は当たってたか。

 多分アリス捕まった訳じゃないよな、やっぱりこれ……

 

「ちょっとパチュリー、この大根役者! 何やってんのよ、あんたのせいで台無しじゃない!!」

 

 何か普通に拘束を解いて食ってかかっているアリス。

 案の定、私はこの状況でなお謎のアリス劇場を見せられていた訳だ。

 やっぱりどこ行ってもアリスはアリスだったか、ある意味安心したぜ。

 

「えー、あー、いや何かもう納得いかないから一回ぶん殴っていいかしら」

「あん? やれるもんならやってみなさいよ、このモヤシ!」

 

 アリスの隣の奴から、イラッって効果音が太文字で飛び出してる気がした。

 わかる、気持ちはすごくわかる。

 ……けど、私は正直、そんな微笑ましい気分に浸っている場合じゃなかった。

 いや、確かにかなり手加減はしたんだけどさ、この部屋くらい吹っ飛ばす勢いでマスパ撃ったんだぜ?

 なのに、あの魔法使いこっち向いてすらないのに、あいつの前だけ何か魔方陣みたいなの出して片手で防がれたんだが。

 くそっ、適当なことしてるけどやっぱ只者じゃないな、あいつ。

 この空気に流されないように、私は一度深呼吸して冷静に備える。

 

「それで、お前らは…」

 

「はぁ、もういいわ。貴方たちの相手してたら寿命が勿体ない気がしてきたわ」

「我ながら、私もそう思うわ」

「私も同じく!」

 

 黒焦げになったかと思いきや、いつの間にか回復してアリスと一緒にはっちゃけている小悪魔。

 ……おい待てよ、今のシリアスな流れに移行するとこだろ?

 私のこと無視してんじゃねーよ、いつまで見させられんだよこの茶番。

 

「……小悪魔。貴方との次の契約更新も、考え直した方がいいみたいね」

「ええそんな殺生なー。そんなことしたら私、私っ……もっと時給のいいアリスさんのとこ…」

「だが断る」

「えちょっ、アリスさん裏切っ、裏切ったなあああああああ!?」

 

「長ええええええええっ!?」

 

 あああああああ、何だこいつら!?

 さっきの流れで終わっとけよ、何でまた次の茶番始まってんだよ!!

 

「何なんだよ、お前らの中にツッコミはいないのかツッコミは!?」

「私がツッコミよ魔理沙!」

「いいえ、私がツッコミです!!」

「……いや、どう考えても私じゃない?」

「だから、お前のツッコミが弱えんだよおおおおおおお!?」

 

 何だこいつらの噛み合わなさ!?

 ツッコミ不在の恐怖、アリスが3人に増えたみたいな収拾のつかなさ。

 もう私の手には負えない。

 私は頭を抱えてガックリと地に伏した。

 

「……ね? 面白いでしょ」

「いや、面白いってより正直なんか可哀そうになってきたんだけど、あの子」

 

 目線を上げると、アリスの隣の奴が私に憐みの目を向けてきた。

 おお、わかってくれるのか私の気持ちを。

 アリスの相手を毎日一人でこなしていた私の気持ちを。

 なんだっけ、あいつは確か…

 

「でも、確かに人間の子供としてはだいぶ優秀みたいね。伸びしろもありそうだし」

「でしょ? だから、よろしくねパチュリー」

「……本当はアリスが協力してくれるのが一番いいんだけどね」

 

 何やらアリスと話しながら降りてきた魔法使い。

 そうだ、あいつは魔法使いのパチュリー・ノーレッジ。

 危険度はAランク……なるほど、過剰評価って訳でもなさそうだな。

 

「はじめまして魔理沙。私はパチュリー・ノーレッジ、この図書館の司書長をしてるわ」

「司書長っ!? 二人しかいないくせに!?」

「そろそろ本気で消滅させるわよ小悪魔」

「あひぃ」

 

 わからん、私にはこいつらのノリが理解できん。

 ってか何だこれ、私たちついさっき美鈴との命を懸けた死闘を潜り抜けてきたはずなのに。

 こいつらからは緊張感の欠片も感じられない。

 ……まぁ、アリスの空気に毒されてるだけかもしれないけど。

 

「で、話を戻すわ。貴方は博麗の巫女と二人だけで私たちを退治しに来た、それで間違いない?」

「そりゃあ、まぁ、そうだな」

「……呆れたわ、まさか本当に二人で来るなんて。命知らずにも程があるわね」

 

 むっ、そんな言い方ないだろ。霊夢はもちろん、私だってスペルカードなしでもその気になればその辺の中級妖怪とも一人で戦えるんだぜ?

 今のだって、私が手加減したから防げただけじゃねーのかよ。

 

「納得いかないって顔してるけど、今の貴方じゃ私にすら一撃入れることもできないわよ」

「やってみないとわかんないだろ。私が本気出せば、この館どころか小さな山の一つくらいなら吹き飛ばせるぜ?」

「正確には、その小道具に十分な魔力を溜め込んだ上で十全に使いこなせたら、でしょ? 力任せで全く扱えてないもの」

 

 くそっ、やっぱ簡単に見抜いてくるか、予想はしてたけど。

 でも、そしたら一体どうしろっていうんだよ!?

 ここまで来たんだ、はいそうですかって帰る訳には……

 

「でもまぁ、とりあえず落ち着きなさい。私も別に貴方に喧嘩売りたいわけじゃないのよ」

「へ?」

「ま、いろいろ混乱してるだろうし、まずはゆっくり紅茶でも飲みながらこの異変について話しましょうか」

 

 ……でも、よく考えるとさっきから何だこのウェルカムな感じ、少し親切すぎないか?

 こいつといい咲夜といい、美鈴との温度差が激しすぎる気がするんだが。

 と、普通なら罠だと思っていろいろ疑うとこだけど、アリスマジック的な何かが働いてるのかもしれないと思っておくことにしよう。

 という訳で、今日はいろいろ疲れてるし、休憩も兼ねてゆっくり話を聞かせてもらおうか。

 

 

 

 

 


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