霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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今回は霊夢視点です。




第55話 : 私の中の悪魔が囁く

 

 

 

 

 遂に始まった、私にとって初の異変。

 私と魔理沙はほぼ同時に博麗神社を出発した訳だけど。

 

「ちょっ、魔理沙速っ!?」

 

 何アレ卑怯でしょ、あっという間に魔理沙の姿が見えなくなったんだけど。

 ってよりも大丈夫なのかしら、見た感じ烏天狗とかと速度的に大差ないレベルじゃない、一歩ミスって墜落したら死ぬわよあんた!?

 

「あー、これじゃ氷の妖精は諦めるしかないかしら」

 

 移動速度的に、私が魔理沙より先に霧の湖に辿り着くのは私の力だけじゃもう無理そうよね。

 まぁ、魔理沙が律儀に他の妖怪との対戦も全部やってくれてればワンチャンあるけど。

 

「まぁいいわ、気長に行きましょうか」

 

 私はとりあえず、橙からもらったガイドブックをもう一度開く。

 紅魔館ってとこがゴールみたいだけど、そこに着く前に強敵は2人。

 ……2人って、そんな訳ないでしょ、幻想郷にどんだけ妖怪いると思ってんのよ。

 まぁ、遭遇率の高い相手ってことでしょうけど、それにしてもこのルーミアってのが嫌な予感がするのよね。

 金髪ショートの黒服の小さな女の子、すごく心当たりがある。

 私のことは忘れてくれてると嬉しいけど……正直、無理があるわよね。

 うまく避けて辿り着ければいいわね、こいつに会わないように霧の湖まで……

 

「あづいよ~。 大ちゃん、大丈夫ー?」

「私もけっこう辛いかも~」

「ねぇ、もう戻ろうよ大ちゃん」

「だけど、あの霧が濃い内は湖に戻るのは危ないよ」

 

「……」

 

 青髪ショートの、小さな妖精。

 背中には氷の羽と、隣には緑髪の大妖精という子がいることが多い。

 ……ダブルビンゴ。

 ここにいるはずのない相手、でも紅い霧のせいでこっちに避難してるっぽい。

 何これ、棚からぼたもちってレベルじゃないわよ、天から金塊みたいな。

 でも、信じたくない。

 すさまじいラッキーのはずなのに、間違いなくこいつが氷の妖精チルノなのに。

 

「もうだめぇ、あぁづぅぃぃょぉ~」

 

 溶けてる。

 妖精は自然の権化っていうから、暑いときに氷の妖精の力が弱まるってのは確かにわかるけどさ。

 体液がドロッドロになってて、正直あんまり触りたくない。

 私はこんなものを追い求めていたのかと、こんなもののために必死になっていたのかと、考えてたら空しくなってきた。

 

 で、でも、まだ希望は捨てちゃいけないわ!

 こいつがチルノだって、決まった訳じゃ…

 

「が、頑張ってチルノちゃん! きっとあの館からもっと離れれば…」

「やっぱりおんどれがチルノかい!!」

「ぎゃふっ!?」

「チルノちゃん!?」

 

 あ、ヤバ、何でいきなりチョップ入れてんだ私。

 まぁ、きっと暑すぎて脳細胞がおかしくなってるのかしらね。

 つまりこれは心神喪失で無罪、異論は認めないわ。

 ……でも結果オーライというか、今のチョップで体力が少し回復した気がする。

 溶けてるとはいえ、伊達に氷の妖精とか呼ばれてないわ、右手のあたりにすごくひんやりした爽快感を感じるもの!

 

「ちょっと、いきなり何するんですか!?」

「ごめんごめん、あんたらがチルノと大妖精ね」

「え? そう、ですけど…」

 

 という訳で、予定通りこいつは倒して保冷剤として持っていくことにしましょうか。

 言うこと聞かせるためにも、とりあえず何とかして弾幕戦に持ち込まないと。

 

「じゃ、とりあえず…」

「うがーっ!!」

「あ、起きたわね」

「いきなり何すんだお前っ!」

「弾幕ごっこよ」

「へ?」

「いきなり弾幕ごっこするのよ、今から」

「え? そ、そうなのか大ちゃん!?」

「え!? ち、違…」

「ほら、あんたは危ないから離れてなさい。 チルノは強いんだから、ちゃんと友達は守ってあげなさいよ」

「う、うん! わかった、さがってて大ちゃん! さいきょーのあたいが守ってあげるから!」

「そうじゃなくて……あぁ、いいや、そうだね、うん。 頑張って、チルノちゃん」

 

 うわぁ……思った以上に単純というか、アホねこいつ。

 勝手に思い込みとかいうレベルじゃないわ、おかげで助かったけど。

 隣の大妖精って子も手慣れた感じで説得を諦めてたし、いつもこうなのかしら。

 ……でも、多分スペルカードルールのことなんて理解してないってのが一目でわかるわ。

 ま、それでもとりあえず形式だけは整えてっと。

 

「じゃあ、スペルカードの枚数は3枚でいいかしら」

「なんでもいい! あたいが勝ったら、今日からお前はあたいの子分ね」

「はいはい。 で、私が勝ったらあんたは今日一日私に付き合うこと」

「あたい負けないから関係ない!」

 

 ……正直、ちょっとイラッとした。

 暑くて気が立ってる時に話したい相手じゃないわね、これ。

 それでも、無事に勝負に持ち込めたからとりあえず一安心ね。

 

「じゃ、私から行くわね。 スペルカード宣…」

「凍符、『パーフェクトフリーズ』!!」

「あー……」

 

 はいはい、知ってた。

 とても弾幕とは呼べない冷気を突然ぶっ放してきたチルノ。

 ま、ちゃんとスペルカード宣言できただけ褒めてやってもいいかしら。

 でもこれ、いやそんな、これはまさか……

 

「……涼しぃぃぃ」

 

 あぁ~癒されるぅ~。

 何これ、ここは天国?

 砂漠の真ん中でオアシスに巡り合ったかのような、至福の時間。

 あはは、もう何でもいいやぁ、私チルノの子分になってもいい気がしてきたぁ~。

 凄いわこれ、なんか細かい粒が少し当たってくるのを除けば、完璧な冷風で……

 

「……あの」

「何よ、今いいとこ…」

「当たってますよね、チルノちゃんの弾幕」

 

 ……。

 …………げ。

 

「ちょ、ちょっとタンマ、今のなし!!」

「今のなし? どうしてですか?」

「いや、その、今のはまだ練習というか…」

「へぇ……当たってから練習って言いますか、そうですか。 でも、それって卑怯じゃないですか? それとも、スペルカードルールって、そんな横暴がまかり通る適当なルールだってことですか? なるほど、ではそういう風に妖精のコミュニティに広めてもいいんですね?」

 

 この子、ニッコリしてるけど、なんか凄く怖い。

 笑顔の裏に巨大などす黒いオーラを感じる。

 わかるわ、これは裏社会で頭脳戦を繰り広げてきた、歴戦の勇士の目。

 きっとチルノを守るために、幾度となく死線を乗り越えてきたのね。

 こんな大人しそうな顔してるくせに……大妖精、恐ろしい子!!

 

「……そうね。 確かに今ので私の一敗ね、それは認めるわ。 でも、これは3枚勝負よ」

「そうですね。 じゃあチルノちゃん、次はアイシクルフォールを少し小さく柔らかめの氷にして撃とっか」

「え? う、うん、わかったよ大ちゃん!!」

 

 小さく柔らかめの氷……もしかして、口に入れたらほろりと崩れるアイスみたいな感じの氷ってこと? 何そのぜいたく品。

 くぅぅぅっ、あいつ私の弱点を完全に理解して助言してるわね、なんという策士。

 でも、もう油断はできないわ、次のスペルに被弾したら後がないもの。

 見た感じ、チルノの弾幕を避けるのはイージーモード。

 大妖精を出し抜くのはノーマルモード。

 そして、氷の誘惑に打ち勝つのはハードモード。

 理解するのよ、これはチルノとの戦いじゃないわ。

 涼しさを求める私の中の悪魔を抑える、いわば自分との闘いよ!!

 

「さぁ……来なさい!!」

「いっくぞー、氷符『アイシクルフォール』!!」

 

 そして、再び私の目の前に、札束の雨のような誘惑が降り注いだ。

 

 

 

 

 


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