霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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第54話 : 戦う理由

 

 

 

 

「はっ!?」

「……気分はどう、魔理沙?」

「へ?」

 

 気付くと、私はいつの間にか博麗神社で横になっていた。

 微妙に呆れたような顔をした紫と、服の端々が焦げ付いた藍に見守られながら。

 

「あれ? どうして、私確か…」

「はぁ。 私は貴方をもう少し冷静な子かと思って評価してたんだけど……ちょっと認識を改めないといけないかしらね」

 

 しばらく時間をおいてやっと冷えた頭で話を聞くと、どうやら私は空の彼方に消える前に紫に助けられたらしい。

 もし紫がいなければ、私は本当にお星様になっていてもおかしくなかったはずだ。

 そして、ルーミアの方もギリギリで藍が守ってくれていたらしく、無事だという。

 ……何かもう至れり尽くせりってやつだな、本当にこいつらには頭が上がらないぜ。

 

「そっか……悪いな紫、藍。 ありがとう」

「どういたしまして。 それで、魔理沙はこれからどうするつもりかしら。 霊夢を追って、もう一度行く? ここで諦める?」

「決まってんだろ。 そんなん、当然もう一回…」

「次は、もう助けられないかもしれないわよ」

「え……?」

 

 また冗談か何かかと思ったけど、紫の目は真剣だった。

 

「今でこそスペルカードルールがあるし、それまでの妹紅の単騎戦闘力が異常だったから、ここ数十年は異変なんて割と安全なものに見えてきたのかもしれないけどね。 妹紅の前の代までの博麗の巫女っていうのは、いわゆる消耗品。 一つの異変を解決することもできずに妖怪に食われて死んでいった子なんて、いくらでもいるのよ」

「それは……」

 

 別に、知らない訳じゃなかった。

 妹紅が特殊な訳じゃない、そもそも本来の博麗の巫女ってのは、人間との関わりなんてほとんどなかった。

 人間と進んで交わることなんて、本来はあり得なかった。

 なぜなら、いつ死ぬかもわからない相手に、情が移ってしまうから。

 たとえ友達になれても、次の日には妖怪に食われてこの世から消えているかもしれない。 妖怪退治をするっていうのは、そういうことなのだから。

 

「霊夢が歩いてるのは、本来ならそういう道なの。 それと張り合おうっていうのが、どういう意味か分かる?」

 

 わかっているつもりだった。

 これが、本当に命懸けの危険なことだってのは、覚悟した上のはずだったのに。

 ……なのに私ときたら、こんなに簡単に終わってしまった。

 人生はゲームなんかじゃない、人間なんて本当にちょっとしたことで死んでしまうのなんて、わかっていたはずなのに。

 いざって時は何とかなるんだと、私はまだ認識が甘かったのだと思い知らされた。

 結局のところ、私はただスペルカードルールに、紫たちに甘えていただけの、勘違いした子供に過ぎなかったって訳だ。

 

「もう、異変に首を突っ込むのはやめなさい」

「……」

「でもね。 身勝手なお願いをして悪いけど、霊夢とはいつまでも友達でいてくれる?」

「え?」

 

 ……なんだよ、別にそれでもいいのか。

 異変に行かなくても、私は霊夢の友達でいていいのか。

 異変なんてのはあいつに任せて、私は普通の生活に戻って。

 霧雨家からは勘当されたけど、私ならきっと一人で適当に商売でも始めて成功することはできるだろうし。

 それでも、霊夢と友達でいられる。

 霊夢はたった一人で、これからも危険な異変に立ち向かい続けて。

 私は部屋で寝転がりながら、異変の顛末の報告を待っている。

 友達として、無事に霊夢が帰ってくるのを待っている。

 

「……ふざけんな」

 

 だけど、それに納得できるくらいなら、私は最初から一人で霧雨家を出たりなんかしない。

 私があの家を出たのは、自由になりたかったからだけじゃない。

 お父様とぶつかり合って喧嘩して、それでもまたあの家でうまくやっていく道だってあったはずなのに。

 それでも私が、他の何もかもを捨てて魔法使いを目指したのは……

 

「別に、異変に首を突っ込みたかった訳じゃない。 私はただ――――」

 

 

  ――私についてきなさい、魔理沙!

 

 

 ……そうだ。

 私は、あの日見つけた光を失いたくなかった。

 闇の中にいた私の手を引いてくれた、霊夢の強さに憧れて。

 私を初めて真に認めてくれた霊夢と、同じ道を歩きたかった。

 友達として?

 親友として?

 そうじゃないだろ。

 私は、霊夢に追いつくって決めたんだ。

 そう伝えたんだ。

 だったら、何も迷う必要なんてない。

 私がいるべき場所なんて、最初から決まってるんだ!

 

「もう、霊夢の後ろについていくだけじゃない。 私は、霊夢の隣にいるのに相応しくなりたいんだよ!!」

 

 ただ、ライバルとして。

 守られるだけじゃない、あいつを助けてやることも、認め合い高め合うこともできて。

 そんな、霊夢にとってただ一人の、同じ道を歩く強敵でいたかったんだ。

 

「……」

「……何だよ、文句でもあんのかよ」

「へぇ~。 そう、そういうこと。 なるほどねぇ、ふふふふふふ」

 

 なんか、さっきとはうってかわって、紫がすごく微笑ましい目で私を見てくる。

 なんだよ、確かに恥ずかしいこと言ったのかもしれないけど、それが何だってんだよ!

 私はただ霊夢の隣に……? 隣に、って!?

 

「男勝りな性格とは思ってたけど、まさか魔理沙がそういう趣味をねぇ…」

「なっ……ち、違っ、そういう意味じゃなくて! 私はただ、純粋にライバルとして…」

「はいはい、わかってるから。 魔理沙の気持ちは、よーくわかってるから」

「全然わかってない!! 第一、私にはこー…」

「こー?」

 

 紫がニヤニヤしている。

 ニヤニヤ……。

 ………っ!?

 

「あら? 顔が真っ赤よ、魔理…」

「わ、わ゛あああああああああっ!?」

「ちょっ!?」

 

 ぅぅぅ、違う違う違う違う、何も考えるな私!

 外の空気を吸え、速く、もっと速く飛んで余計なことは全部忘れろ!!

 ……くそっ、くそっくそっくそっ、もう紫なんて大っ嫌いだ。

 紫のばーか! 紫のバーカ! 紫のバー化! 紫の婆…

 

「――――っ!?」

 

 な、なんかわからないけど、凄く寒気がしたからこの辺で勘弁してやるぜ!

 もう何でもいい、くだらないことで悩むのなんかヤメだ。

 紫に言われたことなんて、知ったこっちゃない。

 さっさと霊夢に追いついて、こんな異変くらい私たちだけで解決してやるさ!!

 

 

 

 


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